「クルマがあることは社会貢献になる?」
すこし飛躍した言い方をすればそういう可能性すらCREW(クルー)はもっているのかもしれません。
自動車大国といえど…ドイツでも深刻化する「若者のクルマ離れ」
「クルマ離れ」に対するアンチテーゼ
シェアリングエコノミー。最近とてもよく耳にする言葉です。今さまざまな分野で新たな取り組みが始まっています。それは自動車の分野も例外ではありません。その多くが「クルマ離れ」に対するアンチテーゼ、あるいは動機を見出すものが多いように感じます。成果主義の給与体系や、終身雇用ではない、実に多様化した労働環境なども少なからず影響しているのではないかと思いますが、多くの人々の収入の減少、そして、かつてはウェイトの大きくはなかった通信手段のコストなどの増大によって、かつてほど気軽に所有することは難しい要因が増えているのは確かでしょう。
しかしながら、はたしてそうでしょうか?もちろん、今までのクルマとのかかわり方をサポートする仕組みもあると思います。けれどもなかには、新たな、そしていまだかつて誰も考えつかなかった使い方でクルマの新しい価値を創出し、クルマ利用を後押しするような仕組みも多く出てきています。
新しいモビリティプラットフォームCREW
先日都内で新しいモビリティプラットフォームCREWの発表会がありました。これもまさにそんな価値を持った仕組みで、既存の交通手段では網羅できない、しかしながら事業として創出することが困難なさまざまな場面での「アシの確保」を大都市でも過疎の地域でも、介護、観光=地方創生、地域間格差の是正、ひいては地域間での往来の障壁を力強く低くする、そんな可能性を秘めている。そんな風に感じたのでした。
株式会社Azitは代表の吉兼周優(よしかねひろまさ)氏が慶応大学在学中に起業した会社で、ここが今、さまざまなテストケースを経て徐々に進めているモビリティプラットフォームサービスがCREWです。
たとえば、クルマを持っていない人がどこか同じ方向へ行く人のクルマに乗せてもらえないだろうか、という時に、このCREWを用いて探すことができるのです。クルマに乗って移動したい人を「ライダー」といい、空席のあるクルマを運転する人は「ドライバー」と、システム上分類していますが、この需要に合わせてマッチングさせる仕組みがこのCREWなのです。
CREWの仕組みとは?
ここで、「これはタクシーと一緒なの?」と思うかもしれませんが、そうではありません。クルマで人を運ぶことを専門の事業にしているわけではないのです。そんなことを、許可も受けていない人が勝手にやっていいのか…これはまったく問題ないのです。同じ方向に行く人のクルマに乗って、燃料代高速代といった経費の負担、そしてマッチングしたシステム利用料金、それに一緒にドライブしたときの対応や移動時間がとても有意義だったと感じたら、任意で「謝礼」を支払うことができるという仕組みだからです。
料金を設定したり、ユーザーが対価を支払うということがあると、それは有償運送と定義されます。このサービスはこれではありません。そして、ライドシェアがすでに概念として国土交通省の整理のなかには存在しますが、これはそれにも類さないものという認識とのこと。お役所の用語としては「相乗りマッチングサービス」というくくりであり、新しい領域なのです。だからこそ、今後の展開はかなり慎重なようです。たとえば、現在のところサービスをスタートしたのは都内の一部からで、他の交通手段に影響のないように、終電過ぎ当たりの時間帯で「機能補完」する形でのトライアルを進めているそうです。
実証実験で価値を証明
この夏には与論島での実証実験も行っています。年々増加する観光客に対して、タクシーの台数は限られ増やすことも難しいなか、島にあるクルマでそういう機能の補完をする。タクシーの営業時間の前から観光客を朝日のきれいなスポットへ送迎したりと、いろいろな効果が見えたとの報告もありました。タクシー会社への配慮もあって時間帯を区切ってのトライアルだったようですが、タクシー会社からもむしろ理解が得られたそうです。
台風の影響で客足が伸びなかったところもあり、もくろんでいたほどはマッチングが成立しなかったとの報告もありましたが、これはすなわち、タクシーの台数の増強などビジネスベースの拡大が難しいという証明でもあったわけで、そこで、ドライバーが連れて行ってあげる。それに対する、コストの負担と、気持ちがあれば謝礼も支払える。そんな「CREW」の価値を証明した結果だったともいえるのではないか。そんな風に発表を聞いて思ったほどです。
これはクルマを使った互助
ベースが「互助」の精神。これはクルマを使った互助なのです。
「クルマを持っていたら誰かの助けになる。それに対して謝意を表明することができる。」
純粋に素敵なことだなあと思った発表会でした。所有コストのサポート、開いてる時間貸出すといった、所有者オリエンテッドのサービスというよりは、「クルマがあれば便利なのになあ…」と思ったところにクルマが現れる仕組み。クルマユーザーが「クルマがあってよかった」と自発的に気づく。所有かシェアかレンタルかという選択肢ではなく、そこにクルマがあることに社会的意味を持たせる仕組み。
クルマが変わるのではなくクルマの使い方が変わっていく。とても画期的な仕組みのように私は感じました。
CREW(クルー)公式サイト:https://crewcrew.jp/
[ライター・画像/中込健太郎]
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