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スーパーGT第4戦 タイ チャーン国際サーキット SUBARU BRZ GT300に何が起きたのか?無念のリタイヤとその理由

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スーパーGT第4戦 タイ チャーン国際サーキット SUBARU BRZ GT300に何が起きたのか?無念のリタイヤとその理由

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SUBARU BRZ GT300はスーパーGT第4戦が行なわれるタイ・ブリーラムのチャーン国際サーキットに向け、さまざまな熱対策を施していた。日本の夏のような湿度も高く気温の高いことへの対応として、主催のGTAからも、熱対策へのレギュレーション緩和があり、通常は変更が認められない箇所もタイ戦以降の夏のレースに限って変更が許可されている。では具体的に何を変更したのか見てみよう。<レポート:編集部>

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まずは、タイ用に変更した個所をSTI渋谷総監督に聞いてみた。エンジンに関しては、第2戦で使った富士用のエンジンをオーバーホールし、ピストン、ピストンリングをはじめ、消耗品類など多くの部品が新品になっている。制御に関しては従来どおりで、開催週に発表される大気圧に対しての過給圧制御を行なうレベルだという。ちなみに、第4戦は985hpaだったのでおおむね規定値の97%で制御されることになる。

大きな変更点としては、熱対策のためのボンネット形状変更と大型ラジエターの搭載だという。フロントから侵入する空気がエンジンルーム内に入り、ボンネットに刻まれたスリットから排出される。今回変更したのは、このスリットを拡大する変更だ。通常のレギュレーションでは、スリットからエンジン本体が見えるような大きさは禁止されているが、開口部を広くすることが許可されている。

この形状変更はもちろん、熱対策なのだが、空力への影響も大きく、シーズン当初から抱える低ドラッグ、高ダウンフォースのバランスポイントが変わってしまうことだ。前戦の鈴鹿では3位表彰台を獲得し、トップスピードもコーナリングもかなり高いレベルでバランスが取れてきた手応えがあったが、このボンネット形状の変更でそのバランスが変わるのだという。さらにラジエターの大型化など重量バランスも異なってきていることも少なからず影響しているはずだ。

そして、スーパーGTの難しさの一つでもあるのが、走行テストができないことだ。鈴鹿を終えてから今回のタイまでマシンは走ることは禁止されている。したがって、ボンネット形状の変更による影響がシミュレーションによる検証だけになる。

事前の検証では、このボンネット形状の変更はフロントのダウンフォースが増える方向ということであり、そこに合わせるようにリヤウイングの角度も調整している。だが、現在できる限りのシミュレーションによる精緻な結果を導きだしたとしても、そこには、ドライバーのフィーリングが存在せず、データだけでの判断になってしまう。実際の走行ができるのはレースが始まる土曜日の午前中まで待たなければならず、さらに、その日の午後には予選が開始されるという厳しいものなのだ。

さらに言うと、事前に予備として準備する必要がある部品のうち、ダンパーやスプリングの慣らしやブレーキローターの焼き入れといった作業もこの土曜の公式練習のタイミングで行なうことになる。通常公式テストが設定されるが、タイ戦に関しては設定されていない。したがって、レースの予測を基本として準備していくことになる。ちなみに、次戦の富士までの間も同様に走行テストの枠はゼロである。

■問題は4輪のグリップ感の薄さ

その土曜の午前中は、変更された空力がドライバーにとって、そしてタイム的にどうか、という確認のほかに、本番に向けてのタイヤの選択、予備部品の準備など必要なタスクが山積している。だからタイヤテストをしているときにブレーキローターの焼き入れをするということも難しく、ひとつずつ課題をクリアしていくことになるのだ。もちろん、やり方は各チームごとに考え方や、手段も異なっている。


例えばブレーキローターが新品だとすれば、一旦焼き入れをしておく必要がある。400℃まで温度あげ、そこから冷やす、という作業ができるのは、マシンでの実走行以外に方法はない。そうした焼き入れ作業中は当然タイムアタックはできないし、タイヤのグリップチャックなども厳しくなる、というわけで、ひとつずつタスクをクリアしていくと、土曜日午前中に行なわれる1時間45分の公式練習はあっという間なのだ。

そして、新ボンネットでの印象は、リヤの接地感、フロントのアンダーステアなどの課題が上がってきた。いずれも車高の微調整やダンパーの減衰調整、リヤウイングの角度変化、そして床下のヴァーチカルフィンの形状、角度、個数変更などで、調整していくことになった。

そうした状態で予選が開始され、この時は運がいいのかアンラッキーなのか、突然のスコールでQ1はウエットタイヤでの予選になった。もともと路面温度が高かったことと、スコールの時間が短かったこともあり、レコードラインは、周回を重ねるごとに乾き、各車タイムアップしていく。したがってBRZ GT300は時間ギリギリまでタイムアタックを繰り返すことになり(ドライバーは井口卓人選手)、無事10位でQ1を通過した。

続くQ2は一転してドライとなり、ソフトタイプのスリックでタイムアタックをし8位を獲得した(ドライバーは山内英輝選手)。このソフトタイプは、高温を見据えたタイヤであるため、ソフトとは言ってもある程度の距離は持つ計算になっているタイヤだ。接地荷重や荷重のかかり方を考えて、ソフトを選択したということだ。そして、結果的としては、予選後の再車検で2台のマシンが失格になり、繰り上げの6位からの決勝スタートということになった。

予選を終え、ドライバーからは、主に4輪のグリップ感が薄いというコメントがあったという。そのため、再調整は車高の変更と、空力によるグリップアップという方法で、リヤウイングの角度調整などで対応するということだ。

■マシンを速くするとは、これほどまでに難しいことなのか


そして、決勝レースだが、結果はご存知のようにリタイヤだったが、ツキがなかったことも事実だろう。SUBARU BRZ GT300 は2年連続リタイヤしており、今年こそは!と意気込んできたわけだが、スタート直後に32号車からのプッシングにあい、リヤ・ディフューザーを破損する不運があった。

この状態になるとマシン挙動は不安定になりやすく、ドライバーの山内英輝選手は、スピンモードを何度か感じていたという。そこをコントロールしながらのレースだったわけで、次第にマシンはラップタイムを落とすことになる。さらに、タイヤ無交換作戦を取るチームが多くいることを予測すれば、タイヤに負担はかけられないわけで、かなり、難しいドライビングを強いられていたわけだ。

そして19周目の1コーナー出口で、10号車が斜め後ろから衝突してきて、なす術なく山内選手はスピンを回避できなかった。すぐにコースに復帰したものの、今度は駆動系かエンジンからか、異音が発生したので、クラッチを切ったところエンジンは停止してしまったという。

マシンはコースオフし、ラフに止めてみるとエンジンオイルらしきオイルが大量に漏れていたということで、ここでリタイヤすることになった。

この原稿を書いている段階ではこのマシントラブルは何か?が不明で、マシンは日本に向けて海上輸送されている最中だ。壊れたと思われるエンジンも搭載したままなので、これから解明されていくのだが、山内選手の印象では富士で壊れたときと似ているので、おそらくエンジンのブロックとかが割れているのではないか?ということだった。

32号車、10号車との接触は、いずれもレーシングアクシデントとして片づけられるのか不明だが、ツキがなかった、という印象だ。強いチーム、マシンには運も味方するとは言うものの、3年連続のリタイヤ、そして、今季のマシントラブルの多さはドライバーはもちろん、エンジニア自身もそして、ファンもストレスがたまるものだ。しかし、苦しめば苦しむほど、道が開けたときの歓びも大きいわけで、ここは次戦の富士に期待したい。やや、苦手な富士ではあるが、ここを得意なコースと言わせるのが、今季のある意味狙いであるわけだから、活躍を見たいものだ。

そして、次戦の富士ではさらなる空力改良にトライすると渋谷総監督が発言しているのだ。やはり、開幕当初、フロントフェンダーの後端部をスラントさせた空力デザインで風洞試験をし、狙いの数値には達していた。だが、フロントのグリップ、接地荷重のかかり方、そしてアンダーステアといった症状があることから、フロントフェンダー後端部のスラント形状を変更し、17年仕様と同等のフラットな形状としているのが、現状である。

そのため、渋谷総監督としては、トライ&エラーを繰り返してはいるが、毎レースごとにある程度の解は出しているわけで、そこには状況に応じた手法が構築できている。であれば、当初の狙いの空力デザインとしながらも、これまでの経験を活かし、対処できるはずだ。そうなれば、さらなるトップスピードの向上とダウンフォースの確保、そして低ドラッグという理想のカタチに近づけられるのではないか?という夢が膨らんできたということだろう。

次戦の富士、どんなカウルデザインを見せてくれるのか、楽しみになってきた。

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