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今や貴重な1台──新型マセラティ・グラントゥーリズモ試乗記

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今や貴重な1台──新型マセラティ・グラントゥーリズモ試乗記

フルモデルチェンジしたマセラティの新型「グラントゥーリズモ」に小川フミオが試乗した。今や希少な2ドア・4人乗り、大型GTの魅力に迫る!

1960年代のイタリアのスポーツカーのまんま

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過去の遺物か、残すべき遺産か……クルマ好きには”いまのうちに乗っておいたほうがイイ”と、勧めたくなるのが、マセラティの新型クーペ「グラントゥーリズモ」だ。

2022年10月に本国で発表され、日本では2023年4月から受注が開始された新型グラントゥーリズモ。今回、550psの最高出力を謳う「トロフェオ」に乗って「こりゃいいわ!」と、感心させられた。

マセラティ・グラントゥーリズモは初代が2007年に登場。2940mmのロングホイールベースを持ってはいるけれど、ボディは流麗な2ドア。クーペが登場したのち、スパイダーが追加された。

初代の魅力をひとことでいうと、運転の楽しさだった。4.2リッターV型8気筒エンジンに、オートマチック変速機という組合せでも、ドライブした感覚はピュアなスポーツカーという感じ。

とくに「MC」なるスポーツ仕様は、シャープなステアリングと、路面に張り付いたようなサスペンションが特徴。サーキットで乗ると「すばらしい!」と、思わず声が出てしまうモデルだった。

新型グラントゥーリズモにおける「トロフェオ」は、おなじ3リッターV型6気筒ツインターボエンジン「ネットゥーノ」を搭載する「モデナ」の上に位置する。

エンジンのチューニングが異なっていて、モデナが360kW(490馬力)を発生するのに対して、405kW(550馬力)を発生。トロフェオの660Nmの最大トルクは、8段オートマチック変速機を介して前後の車輪に分配される。

このクルマのよさは……もちろん、あれこれと沢山挙げることができる。スタイリングはオールドスクールだけれど、いまの時代にここまでロングノーズでショートデッキのプロポーションは貴重だ。

しかもフェンダーは峰になって盛り上がっている。運転席からボンネットに目をやると、フロントのタイヤを覆うように盛り上がったフェンダーのふくらみがよく見える。1960年代のイタリアのスポーツカーのまんま。分かってやってるな、マセラティ。

まさにグラントゥーリズモの名にふさわしいドライブフィールは、いい意味で二面性を感じさせる。ひとつは(公道だといまひとつわからないけれど)パワフルなピュアスポーツなるキャラクター。F1由来の設計技術による燃焼室を持つV6エンジンはさっと上の回転までまわり、一気呵成というような加速を見せる。

ハンドルは安定していて、直進安定性は高く、まさに矢のような直進性で、周囲のクルマを一気に置き去りする感覚は、このクルマのオーナーへの大いなる報酬であると思う。

いっぽう、ゆっくり走るのもまた気持ちがいい。スポーツカー的キャラクターは、ハンドルのスポークにそなわったドライブモードセレクターで「スポーツ」か「コルサ(レース)」を選んだとき。

小さなダイヤルをまわして「コンフォート」か「エコ」を選ぶと、エンジン回転が低めになり、同時にアクセルペダルを踏み込んでも排気音は抑えられる。

「コンフォート」か「エコ」でもって、ゆたかなトルクに乗っかって走っていく感覚が、私はとても気に入った。ハンドルのスピードが少しゆるやかになるのもマッチングがよく、ゆったりした気分で走れる。

すぐ連想するのは、海岸線とか、大きなカーブが続く山道だ。あえてウインドウは下げて風を車内に取りこみながらドライブすると、どこまでも走っていきたくなりそうだ。まさにグラントゥーリズモの名にふさわしいと感じられる。

シート表皮は、MC20(2020年)で最初に採用された、独自デザインの2層のもの。もっとも上の層はヘリンボーンのパターンにレザーカットされ、下の層を見せるという凝ったデザイン。クッションは独特で、座り心地は最高。硬くもなく、柔らかくもなく。ドライバーの体圧分布がよく計算されているかんじで、長い時間座っていても疲れないだろう。

グラントゥーリズモは2プラス2なので、後席にもヘッドレストレイント付きのりっぱなシートがそなわる。ただし、レッグルームはごく限られていて、おとなが長時間というのはむずかしいだろう。ただし、そこに荷物が置けるのはたいへん便利だ。

長距離ドライブも楽しそうだなぁ、と、思ったもうひとつの理由は、イタリアの「ソナスファベール」社とともに開発した360度サラウンドオーディオ。音域がとても広くて、なかなかニュアンスに富んだ音楽再生が楽しめる。ハリー・スタイルズのあの低音もしっかり再生されていた。

エンジン、ハンドリング、音楽など、乗ることを楽しむという、本来のスポーツカーの目的が、かなり十全に近いかたちで実現している。これからこんなクルマは出てこないんじゃないか……そう考えるとグランツーリズモ・トロフェオ、じつに貴重な1台だ。

文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)

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