F1のシートはわずか20席しかないため、その争奪戦は実に熾烈だ。1950年にイギリスのシルバーストンでF1世界選手権の最初のレース、ヨーロッパGPが行なわれて以来、『我こそはF1ドライバーだ』と名乗ることができるのは、776人に過ぎない。
このシートを奪うためには、もちろんパフォーマンスは重要だ。しかしそれだけで確実にシートを確保できるとは言えない。いくら才能があっても、ドライブに集中できるようにしてくれる適切な人材、適切な環境を作ることは、非常に重要である。
■角田裕毅が、個人マネージャーとしてマリオ宮川氏と契約した理由。そして”同級生マネージャー”平松氏へ見せた感謝の気持ち
今日のF1ドライバーの大半は、ドライビングに集中し、パフォーマンスに100%集中できるよう、ドライビング以外の様々なことをこなしてくれるマネジメントチームを組織している。
ヴァージンやマルシャのF1チームでCEOを務めたグレアム・ロードンは、元レーシングドライバーのマーク・ハインズとともにイコールズ・マネジメントを運営しており、ふたりでルイス・ハミルトンや周冠宇をサポートしている。
ロードン氏は、周をマネジメントするにあたっては、できる限りドライブに集中できるよう、それ以外のことをマネジメントチームで担うようにしていると明かす。
「我々が採用しているアプローチは、いわゆる360度アプローチすることだ」
そうロードン氏は語る。
「それはドライバーがレーシングカーをドライブするのを妨げる可能性があるあらゆることを管理するということを意味する。つまり移動、契約交渉、スポンサーシップ、理学療法、健康と食事、税金の処理などだ」
「我々はこれら全ての専門家というわけではない。だから、信頼できるサプライヤーだったり、それらの分野での経験を持っている人たちと協力することになる。なぜならドライバーが人生におけるビジネスの構造のせいでストレスを抱え、それをコントロールできなければパフォーマンスが損なわれるというシナリオに陥る可能性があるからだ」
「一方でマネジメントの全体的な考え方は、アスリートがパフォーマンスを発揮できる環境を作るということにある」
「マークはルイスでそれを開拓した。我々は周についても同じアプローチを採ろうとしている。ドライバーのなかには、契約交渉のためだけにマネージャーを雇う人もいるかもしれない。でも、我々のアプローチは異なるため、ごく少数のドライバーとしか仕事をしない」
ロードン氏は、ドライバーはコース以外の自由時間をどう過ごすかを理解するのは非常に重要であり、それが契約条件に大きく影響する可能性があることを理解していると説明する。
「一部のマネジメント会社は、契約ドライバーを多数抱えており、その場合は知識を買うことになる。でもそれではドライバーの能力を最大限に引き出せない可能性がある。若いドライバーが直面する課題の一部は、ごく一般的なものだ。これまでに見たこともないモノもある。そのため特にF1における契約に関しては、全てを調整することが重要だ」
「ちょっとしたこと……例えばドライバーがある関係者と一緒にいる時、あるいはそうでない時、どれだけ良いパフォーマンスを発揮できるかは分かっている。ドライバーの契約には、そういったことも反映する必要があるんだ。そうしないと、ドライバーの祖父にパスを手配するかどうかで、チームと永遠に争うことになるかもしれない」
「もうひとつの典型的なケースは、チームとスポンサー活動をする日数を交渉した後、個人スポンサーとしての活動日数に不均衡がある場合だ」
「通常ドライバーのスポンサーは、レースの状況と個人的な状況とに分かれているものだ。ドライバーがレーシングスーツを着て、ヘルメットを被り、メカニックと一緒にいる時はまさにレースに関する状況だ。自宅で猫と過ごして、コーヒーを飲んでいる状況とは全く異なる。しかし点と点がつながっていると、個人的にスポンサー契約を交わした場合、活動を履行するための日数が足りない場合がある」
各ドライバーのマネージャーは誰なのか?
■マックス・フェルスタッペン:レイモンド・フェルミューレン(マネージャー)
2015年にトロロッソからF1デビューした当時、フェルスタッペンはわずか17歳だった。フェルミューレンは以前、フェルスタッペンの父であるヨスのマネジメントを務めていたこともある。そのため、フェルミューレンが息子マックスも担当するのは、当然のことだった。フェルミューレンは日々の業務でフェルスタッペンのビジネスを運営する責任を負っており、メモ帳に書かれた「やることリスト」に取り組んでいる。そして全ての決定はヨス・フェルスタッペン夫妻に提示され、最終決定権はマックスが握っている。
■セルジオ・ペレス:ジュリアン・ヤコビ(エージェント)、ルイス・アルベルト・アギーレ(マネージャー)
ペレスはふたつのアプローチをとっている。ヤコビは経験豊富な人物で、かつてアイルトン・セナやアラン・プロスト、ミハエル・シューマッハー、ジャッキー・スチュワート、デビッド・クルサードなど、大物たちのキャリアを支えてきた。一方元スポーツジャーナリストのアギーレは、日々ペレスのマネージャーを務め、ペレスに同行している。
■ルイス・ハミルトン:マーク・ハインズ(マネージャー)
ハインズはハミルトンのプロジェクト44で働いており、日常のマネージャーを務めてる。ハミルトンには、レース以外のPRを担当する小さなチームと、契約をマネジメントする弁護士もいる。
■ジョージ・ラッセル:ハリー・ソーデン(マネジメント)
ラッセルは、メルセデスの育成出身であり、今もメルセデスの傘下にいる数少ない存在だ。しかし契約交渉は、インフィニティ・スポーツ・マネジメントのディレクターであり、ラッセルと10年以上共に仕事をしてきたソーデンが担当している。
■オスカー・ピアストリ:ジャム・マネジメント(マネジメントチーム)
ジャム・マネジメントは、ピアストリのキャリアを支えるジェイソン・アレン、アン&マーク・ウェーバーの3人組を表している。かつてレッドブルなどで活躍した元F1ドライバーであるウェーバーとその妻であるアンは、長年F1で働いており、アレンは組織を構築し、成長させるという点で20年以上の経験がある。
■ランド・ノリス:ADDマネジメント(マネジメントチーム)
ノリスはカートやF1を通じて、マーク・ベリーマンやフレイザー・シェイダーと何年も一緒に仕事をしてきた。ふたりとも、マネージャーになる前にはカートのドライバーだったことがある。ベリーマンはノリスの近くにいるべく、ほとんどのレースに帯同。マクラーレンとドライバーの間の仲介役も務めている。
■シャルル・ルクレール:オールロード・マネジメント(マネジメントチーム)
ルクレールのマネジメントチームは、基本的にはニコラス・トッドひとりで構成されている。元フェラーリF1チームの代表であり、その後FIAの会長も務めたジャン・トッドの息子がこのニコラスだ。ニコラスはこの他、ダニール・クビアトやフェリペ・マッサ、パストール・マルドナドのマネジメントも務めている。
■カルロス・サインツJr.:カルロス・オノロ・サインツ(マネージャー)
サインツJr.はF1に関するサポート役を身近なところに置いておきたいと考えており、従兄弟をマネージャーとして起用している。そして父カルロス・サインツを相談役として頼っている。まさに”サインツ家”一丸となった仕事だ。
■フェルナンド・アロンソ:フラビオ・ブリアトーレ(マネージャー)
アロンソは親しい友人であるアルベルト・レスクロサと、アルベルト・フェルナンデスとともに、自身のマネジメント会社A14マネジメントを立ち上げた。しかし自身のマネジメントに関しては、ブリアトーレに任せている。そのブリアトーレは、今季途中からアルピーヌのエクゼクティブ・アドバイザーに就任している。
■ランス・ストロール:スティーブ・オコナー、メル・ホッペンハイム(マネジメントチーム)
父親が所有しているチームに所属している限り、エージェントの必要性はほどんどない。しかしストロールには、戦略アドバイザーとして働くチームが存在する。
■ニコ・ヒュルケンベルグ:ラウル・スペングラー(マネージャー)
ヒュルケンベルグはかつてミハエル・シューマッハーのマネージャーを務めていたウィリー・ウェーバーのサポートを受けていた。しかし両者は2011年に袂を分ち、自らマネジメントを行なうようになった。しかし2018年3月からはスペングラーがマネージャーに就任。このスペングラーは、サーファーのセバスチャン・シュトイトナーのメディアコミュニケーションを担当していた。
■ケビン・マグヌッセン:本人
マグヌッセンは、かつてドルテ・リース・マドセンをマネージャーに起用していた。しかし決別。それ以来、自分自身でキャリアをマネジメントするようになった。今季限りでハースのシートを失うことになったマグヌッセンは、将来のシートを自分自身の力で見つけなければならないということになる。
■ダニエル・リカルド:CAA(エージェント)、ブレイク・フレンド(マネージャー)
他のドライバーと同じように、リカルドも組織を分割している。世界的なタレントエージェンシーであるCAAが、彼の商業的な部分をマネジメントし、フレンドが個人マネージャーを務める。リカルドの商業的な事業は、全ドライバーの中でも最も規模が大きいかもしれない。
■角田裕毅:エゴン・マネジメント、マリオ宮川&ルイス・アルバレス(マネジメントチーム)
角田をマネジメントしているのはレッドブルやホンダだと考えている人が多いだろうが、彼には交渉などを手助けしてくれるチームが存在する。
角田の個人マネジメント会社であるエゴン・マネジメントは、パーソナル・アシスタントの平松雄大が率いている。この平松は角田の中学時代からの同級生であり、今はイタリアで角田と生活を共にし、日々のサポートを行なっている人物だ。同社はトラックサイドと商業プロジェクトの両方で全体的な運営をサポート。日々の移動から財務/税務の管理、さらにはホンダ/HRCやレッドブル/VCARB、外部の請負業者やサプライヤーとの法的契約の処理などを手掛けている。
マリオ宮川はかつてはジャン・アレジや小林可夢偉などのマネジメントを担当し、サッカーチーム”ユベントス”のマネジメントにも関わったことがある人物で、COMPACT.SPAの一員。2023年から、角田のマネジメントを担当することになった。ここに今季からルイス・アルバレスが加わり、トラックサイド関連のマネジメントを強化。エゴンの契約交渉担当者と共に、マネジメントチームの構造を作り上げた。
■バルテリ・ボッタス:ディディエ・コトン(マネージャー)
ボッタスは、過去にミカ・ハッキネンやオリビエ・パニスらをマネジメントしたエース・マネジメント・グループのサポートを受けている。彼らはチーム代表や主要なスポンサーなどと、重要な関係を築いている。
■周冠宇:グレアム・ロードン&マーク・ハインズ(マネジメントチーム)
ロードンとハインズは、周のキャリアのあらゆる側面をマネジメント。周がドライブに集中できるようにしている。ふたりはイコールズ・マネジメントの一員であり、F1での長い経歴を有している。
■ローガン・サージェント:ゲイリー・キャット(マネージャー)
サージェントは、ラッセルのアドバイザーでもあるインフィニティ・スポーツ・マネジメントで働くキャットのサポートを受けている。キャットはカートで活躍した後にマネジメント会社を設立。現在に至っている。
■アレクサンダー・アルボン:ジャック・ヘックストール-スミス(マネージャー)
アルボンはグリップ・スポーツ・マネジメントに、マネジメントチームの役割を託した。ヘックストール-スミスは、アルボンがレッドブルに在籍していた時からシニア・コミュニケーション・マネージャーを務め、現在でも同じような役割を果たしている。
■エステバン・オコン:グヴェン・ラグルー(マネージャー)
オコンはメルセデスの若手ドライバープログラムを運営しているラグルーがマネジメントしている。ラグルーは若手ドライバーを発掘するという手腕にも優れている。
■ピエール・ガスリー:ギヨーム・ル・ゴフ(マネージャー)
ガスリーはグリッド・エージェンシーのル・ゴフがマネジメントを担当する。ル・ゴフはモータースポーツ界で長いキャリアを持っており、マネージャー業を始める前には、レースエンジニアを務めていたこともある。
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