2017年12月に発表され、すでにアメリカ本国では発売が開始されている新型ジープ・ラングラー。約か10年ぶりにフルモデルチェンジされたが、一見するとあまり変わっていないように見えるが、実際はどうなのだろうか?
その新型ジープ・ラングラーを、カリフォルニア州レイクタホの西にあるオフロードの聖地、「ルビコン・トレイル」で、モータージャーナリスト・塩見智氏が試乗したのでレポートをお届けしよう。
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さらに、20年ぶりにフルモデルチェンジした大人気のジムニー/ジムニーシエラ、40年ぶりにフルモデルチェンジしたメルセデスベンツGクラスと比較してみた。3台とも歴史が長いモデルで、レトロなスタイルという共通する部分を持っている。
さて、どのクルマがよかったのだろうか?
文/塩見 智
写真/FCA、ベストカー編集部
■カリフォルニア州にあるオフロードの聖地、ルビコン・トレイルで試乗
にわかも本物も入り混じってのジムニー祭りが続いているが、そろそろいったん落ち着こうじゃないか。ジムニーは逃げない。この先10年はあのカタチでいてくれるはずだ。
ジムニーに騒ぐのなら、こいつにも大騒ぎしないと理屈が通らない。そう、新型ジープ・ラングラーだ。昨秋のLAショーでお披露目され、あまりに変わっていないのでみな二度見したという新型を、アメリカはカリフォルニア州とネバダ州の境の山奥にあるオフローダーの聖地、ルビコン・トレイルで試乗した。
1840年代後半、カリフォルニアのサクラメント辺りで金を採掘できるらしいという噂が全米中に広まり、皆が西部を目指した。いわゆるゴールドラッシュだ。
その数は1949年にピークに達し、彼らは「49ers(フォーティーナイナーズ)」と呼ばれた。ルビコントレイルはカリフォルニアに到達する直前に必ず越えなくてはならないシエラネバダ山脈にある峠道のこと。ルートのほとんどは大小の岩が横たわり、転がるロックセクションで、どう見てもクルマで通る道路には見えず、本格的な装備でトレッキングするようなルートだ。当時は何日もかけてここを馬車で通ったようだが、にわかには信じられなかった。
ジープといえば老若男女だれてもどんなカタチかを思い浮かべることができるアイコン的アメリカ車だ。1940年にアメリカ軍が国内の自動車メーカーに対し「小型軽量で軽快に走ることができ、牽引能力もある4人乗りの軍用車両」といった条件を提示したところ、2社が手を挙げて開発、そうやって1941年に生まれたのがジープだ。第2次世界大戦中に大量生産され、世界中の戦地で活躍した。戦後、民生版も開発されたほか、三菱自動車をはじめ各国の自動車メーカーがライセンス生産した。
その現代版がジープ・ラングラーだ。ジープブランドは紆余曲折を経て数社を渡り歩いたが、現在はFCAがもつ。現代のラングラーは戦後すぐの進駐軍がガムを投げながら乗り回していたジープに比べれば巨大化したが、ラダーフレームシャシー、前後リジッドアクスル、パートタイム4WDといった高い悪路走破性の鍵を握る約束事は守られている。
ジープ開発陣が伝統的に開発拠点としているのがルビコントレイルだ。ラングラーの中でも最も悪路走破性の高いモデルはルビコンとネーミングされているのはこのため。
つまりジープは軍用車両として開発されたが、同時にアメリカ人にとってはかつて先祖が成功を夢見て命がけで馬車を通したルートを馬なしで走破してしまう進化の象徴のような存在でもあるのかもしれない。
■新型JL型ジープ・ラングラーはどこが進化したのか?
さて、その新型だが、従来通り、丸目に7スロットグリル、四角いボディ、前後オーバーフェンダー、取り外し可能なトップにドアなど、外観はほとんど変わっていない。ただし細かく観察すればけっこう違い、10年ぶりのモデルチェンジと納得できる進化が見てとれる。
空気抵抗削減のためにわずかに湾曲したフロントガラスが採用されたのは現行JK型からだが、新型JL型ではフロントグリルの上半分をわずかに寝かせることで空気抵抗削減を図った。またルーフまわりも前後を絞り込んだデザインとすることで、車両全体で空力性能を約9%向上した。もちろんすべては燃費向上のため。本格オフローダーとて燃費とは無縁でいられない時代になったのだ。
燃費向上の一環として、新型では従来の3.6L、V6DOHCエンジン(最高出力284ps/6400rpm、最大トルク36.0kgm/4800rpm)に加え、ジープ史上初のターボエンジンとなる2L直4DOHCターボエンジン(同268ps/5250rpm、同40.1kgm/3000rpm)が設定された。
同じ目的で変速機が従来の5速ATから一気に8速ATへと進化。また新型はジープ史上おそらく初めてまじめに軽量化に取り組んだモデルだ。エンジンフード、ドア、ウインドシールドフレームなどにアルミが用いられたほか、リアゲートはマグネシウム製に。それでもアンリミテッド(4ドア)で1905kg(3.6L)、1960kg(2L)と絶対的には重いが、JK型に比べ最大で100kg前後軽くなっている。
我々には2種類のエンジンのアンリミテッドと3.6Lの2ドアが割り当てられた。ルビコントレイルは距離はたった22マイル(約35キロ)だが、無数の岩あり、急峻な登坂路に転げ落ちそうな下り坂あり、車幅がギリギリの狭い区間あり、タイヤが隠れる深さのウォーターセクションありと、とてつもなく過酷なルートを延々と走行した。ほとんどの区間で歩くよりもゆっくりと走らせた。一泊二日、携帯の電波は入らなかった。
前述の通り、2H(後輪駆動)、4H(四輪駆動)、4L(四輪駆動のローギア)を手動で選ぶパートタイム方式の4WDシステムやリジッドアクスルにコイルサスの足まわりは従来通り。過酷なオフロードに対する走破性の高さは言葉で説明するより写真を見ていただいたほうが早いが、車輪というのはここまで上下動するのかと驚くはず。このサスストロークの豊富さが接地性を高める。
タイヤが接地してさえいればこっち(ラングラー)のもの。ローギアで実質的に大幅に高められたトルクによってグイグイと岩場を乗り越えていく。両方のエンジンの印象の違いはオンロードでのパワフルさは2Lターボが若干上回り、オフロードでの微妙なスロットルワークに対する順応性は自然吸気の3.6Lが上だった。試乗前には効率一辺倒の時代に大排気量エンジンを残すのはなぜだろうと疑問に思っていたが、オフロード走破のためだと乗ってわかった。
今年登場した新型メルセデスベンツGクラスは前後リジッドアクスルからフロント独立懸架へと大きく変化し、オンロードでの乗り心地を劇的に向上させた。同じく今年登場した新型ジムニーは前後リジッドアクスルを維持しながらラダーフレームにメンバー(梁)を追加し、やはり大幅に乗り心地を改善させた。
その流れでの新型ラングラー登場だったので、こいつもオンロードでの乗り心地が改善されているかな? 改善されているといいな? と期待して試乗したが、そこはそうでもなかった。もちろん不快というわけではないのでOK。乗り心地を最優先するならモノコックのオンデマンド4WDのSUVにでも乗っとけという話だ。
■日本導入は2018年秋を予定!
新型には初のターボエンジン搭載のほかにもうひとつビッグニュースがある。今回は試乗できなかったが、サハラグレードに限ってパートタイム4WDではなくセンターデフを備えるフルタイム4WDが採用されるのだ。ラングラーの根幹にメスを入れる変更であり、JL型からは2種類のラングラーが存在すると思ったほうがよいレベル。ただしフルタイム4WD化によって利便性は間違いなく向上する。ラングラーに万能性を求める人には魅力的な選択肢になるかもしれない。
これまでそうだったように、今回もラングラーはモデルチェンジしてもラングラーだった。変わってほしくない部分は変わらず、燃費向上やインフォテインメント性能の向上など、現代的なアップデートが施された。価格など日本仕様の詳細が発表されるのは2018年秋頃。
当初導入されるのはハードトップのアンリミテッドのみ。エンジンは3.6LV6と2L直4ターボの両方をラインアップする。本国にはMTもあるし、ソフトトップやキャンバストップ付きハードトップなども設定されるが、それらの日本導入は検討中とのこと。多分いつかは入ってくると思う。
■新型ラングラーと、ジムニー、ベンツGクラスを徹底比較
今年はオフローダーの当たり年。本格的なオフローダーが相次いでモデルチェンジした。メルセデスベンツG550(およびAMG G63)、スズキ・ジムニー、そしてジープ・ラングラーアンリミテッド・サハラだ。
いずれも悪路走破において十分な実績と名声を得ているブランドで、同じ4WDでもその辺を走るチャラチャラとしたSUVとはヘビーデューティさの面で似て非なるものだ。これらの基本的な機構や特徴を見比べていこう。
まずは4WDシステムの違いから。Gクラスはセンターデフを備えるフルタイム4WDを採用する。センターデフロックが可能なほか、必要に応じてリアデフとフロントデフもロックすることができる。簡単に言えば、センターデフをロックすれば前後左右のどれか1輪が(空転して)駆動力を失っても残る3輪で走行することが可能。
センターに加えリアデフもロックすれば、前後1輪ずつ計2輪が駆動力を失っても残る2輪で走行が可能。さらにフロントデフもロックすれば、前後左右の4輪がまったく同じ回転数に固定され、3輪が駆動力を失ったとしても残る1輪で走行可能となる。
ただしフロントデフまでロックすると、ステアリングを切ってもほとんど曲がることができない。フロントデフロックはオフロードでの最終的な脱出手段だ。
いっぽうラングラーとジムニーはオンロードではRWDで走行し、必要に応じて手動で4WDに切り替える伝統的なパートタイム4WDを採用する。センターデフは備わらず、4WDにすると常にフルタイム4WD車のセンターデフロック状態となる。
トラクション能力は高いが、その状態で乾いたアスファルトなどミューの高い路面を走行中にステアリングを切ると、左右輪の回転差を吸収できず、タイトコーナーブレーキング現象が発生して車体がガクガクと振動する。(フルタイム4WD車のセンターデフをロック時も同じ)。
ラングラーは今回の国際試乗会で試乗したルビコンというグレードに限ってリアデフロック、フロントデフロックが備わるため、Gクラス同様2~3輪が駆動力を失っても対処できる。
なお今回は試乗できなかったが、新型はサハラというグレードに限りセンターデフが備わるフルタイム4WDがラングラー史上初めて採用される。サハラにはリアデフとフロントデフのロックは備わらない。最も乗用車ライクなラングラーとなるはずだ。
ジムニーにもリアデフとフロントデフのロックは備わらない。したがって、意外にもノーマルのジムニーは前後1輪ずつ計2輪が駆動力を失うと走行不能となるのだ。
正確にはこれまでのジムニーはそうだった。ただし新型はABSシステムを利用し、空転した(駆動力を失った)車輪のみにブレーキをかけ、残る車輪に駆動力を配分するブレーキLSDトラクションコントロールが備わるため、前後1輪ずつ計2輪が駆動力を失っても、ある程度の脱出能力をもつ(リアデフロックしたクルマほどの走破性は望めない)。
Gクラス、ラングラー、ジムニーはいずれも副変速機をもち、通常走行に用いるハイレンジに比べ極端に低いギア比を生み出すローレンジを使うことができる。Gクラスやジムニーは2:1、ラングラーはルビコンが4:1、その他が2.7:1といった減速比をもつ。
つまりGクラスやジムニーはローを使うと2倍、ラングラールビコンは約4倍のトルクを路面に伝えることができる。低速で力強い走行が可能で、オフロードで威力を発揮する。
■悪路走破性は一番高いのはどのクルマ?
三者三様の機構を長々と説明してきたが、悪路走破の基本は複雑なメカの機構や電子制御ではなく、ロードクリアランス(最低地上高)と3アングル(アプローチアングル、ランプブレイクオーバーアングル、デパーチャーアングル)『※ページ後半のスペック表参照』、そしてサスペンションストローク量だ。
これらはどれも4輪の接地性を確保するための性能だ。悪路走破にとって車輪が浮いて空転してしまうことこそ最も避けたい事態。ラングラーの写真を見ればわかるが、まるで顎が外れたかのごとく片側が垂れ下がる前輪はとにもかくにも接地のためだ。接地してさえいれば前へ進むことができる。
3車種はこれら基本性能がすこぶる高いため、圧倒的な悪路走破性を誇る。では3車種のうち最も悪路走破性が高いのはどれか?
機構面ではリアとフロントのデフロックを備えるGクラスとラングラーがジムニーを一歩リードする。だがジムニーのコンパクトさと軽さはGクラスとラングラーが逆立ちしてもかなわない性能といえる。
ジムニーは機構が複雑でない分、故障の要素も少なく、故障しても修理しやすい。この観点からするとジムニー、ラングラー、Gクラスの順となる。
■総合的なナンバー1を決めるのは難しい……
またルビコントレイルのような岩場ではロードクリアランスを確保しやすい前後リジッドのラングラーとジムニーがフロント独立懸架のGクラスを一歩リードすることが予想される。ただし高速安定性や快適性などはGクラスの圧勝。ただし燃費はジムニー。
カスタマイズパーツの豊富さはラングラー……。うーん、それぞれに得意分野があり、総合的なナンバー1を決めるのは難しい。が、この3車種を超える悪路走破性を誇るオフローダーは(ほぼ)存在しない。3車種を脅かすことができる存在があるとしたら、1、2年以内に復活することが決まっているランドローバー・ディフェンダーくらいだろうか。
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