驚くことに、現在日産が販売しているSUVのラインナップは全て「電動車」です。すなわちタイヤへ伝わるパワーのすべてが、電気モーターから供給されているということです。今回は日産が販売するSUV「キックス」「エクストレイル」「アリア」のすべてを試乗、さらにそのすべてが四輪駆動モデルという絶好の比較試乗が実現しました。3台を乗り比べて感じた「安心感」の高い日産の四輪駆動システムの実力をお伝えします。
「e-POWERの4WD」と「e-4ORCE」の違い
四輪駆動(4WD)と聞くと、名前のとおりすべてのタイヤに動力が伝わることを示します。日産のSUVで言うところの4WDは、すべて電気モーターによって四輪を駆動しています。電気を用いるおかげで、より緻密に細かい制御を行うことができるメリットがあります。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
が、その4WDシステムにおいてキックスでは「e-POWER 4WD」と名付けられ、エクストレイルとアリアには「e-4ORCE」という異なった名前が与えられています。いずれも電気モーターを用いた四輪駆動モデルであることに変わりありませんが、両者にはどんな違いがあるのでしょうか。
まず「e-POWER 4WD」は、四輪それぞれに力を伝える役割を担う者(ECU)と、四輪それぞれのブレーキを作動させる者が別々に用意されています。すなわち駆動力制御とブレーキ制御の指令は別々のECUによって行われているということです。
これまで日産が培ってきたメカニカル4WDの基本システムを流用しながら、一方で日産がリーフを世に送り出して以降力を注いできた電動技術を活かして、それらを融合することでこれまでの4WDシステムよりも駆動伝達を早く細かく行うことができるようになったことが、この「e-POWER 4WD」の肝と言えます。
そして「e-4ORCE」は、「e-POWER 4WD」で学んだ電動駆動制御の技術をさらに進化させて、駆動力制御とブレーキ制御の指令を同じECUから統合制御することを可能にした4WDシステムです。
つまりドライバーの操作によってクルマが「こう動きたい」と判断すれば、その目標に応じて駆動とブレーキの制御を同時に行うことができるため、車両の安定した挙動やコーナリング性能をさらに高い次元で実現しています。
まずはキックス e-POWER 4WDから試乗スタート
こうした違いを踏まえて、まずはキックスのe-POWER 4WDから試乗を始めます。キックスは2020年6月に登場した日産SUVラインナップでもっともコンパクトなモデルです。登場から4年が経ちますが、すでに一度大幅な改良が加えられています。
具体的には、2022年7月にパワートレーンが第二世代のe-POWER(現行ノートが採用する最新のe-POWERエンジン)へ変更され、動的質感の底上げが図られました。そしてこの改良の際に、待望の4WDが設定されたという経緯があります。
今回の試乗コンディションは、前の晩に降っていた雪が溶けてウエット状態、ところどころみぞれが残っているというもの。走り始めてすぐに、まずは第二世代となったe-POWERエンジンの静粛性の高さを感じました。
そして加速を続けていくと気がつくのが、姿勢変化の少なさです。電動車はトルクレスポンスに優れる特性があるため、モデルによっては意図しない急加速や強い回生ブレーキなどで頭がガクッと揺すられることがあります。
が、キックスでは加減速時の車両姿勢が極めて「自然」で、乗員の身体が安定している感覚を覚えました。さらに山坂道を進んでいくと、軽いステアリングフィールにもかかわらず車両の動きはいつまでもフラットで、いわゆるオンザレール感が味わえました。なにより、ウエット状態の路面において「安心感」がとても高いことに驚きました。
ただしこのキックス、日本では2020年に登場していますが、実はワールドワイドで見れば現行モデルの登場は2016年のブラジルでのワールドプレミアまで遡ります。すなわち、その装いに正直「古さ」を覚えてしまうことは否めません。
2022年の日本仕様の改良では、おもにインテリアデザインが見直され、センターコンソールは現行ノートに近い雰囲気になりましたが、それでも最新モデルと比べてしまうと・・・という印象は残ってしまいます。
が、その乗り味は極めて洗練されていました。現行ノートと同様の最新パワートレーンがおごられていること、そしてe-POWER 4WDがもたらすフラットな走行姿勢が「電動車」と「安心感」を強く意識することができます。
国産コンパクトSUV市場の中でも、電動感の強さ、すなわちガソリン車から乗り換えた時に感じられる新鮮さは随一ではないでしょうか。ちなみに車両価格は2WDが299万8600円から、4WDが326万1500円からと、ハイブリッド専用車としてはかなり競争的といえます。
続いて大本命(?)のエクストレイル e-4ORCEに試乗
続いて試乗したのは、エクストレイル e-4ORCEです。グレードは、オーテックによって内外装が専用に仕立てられた仕様で、20インチアルミホイールを装着したスポーティなモデルです。
数ある国産SUVの中でもエクストレイルは日産を代表するロングセラー商品ということもあり、その走りには期待が高まるばかりです。
2022年にデビューした現行エクストレイルのパワートレーンは非常に凝っているもので、1.5L直3ターボエンジンという小さいユニットながら、VCターボと呼ばれる圧縮比を変化させることのできる高効率エンジンを国内の日産車で唯一採用しています。
ただし、エクストレイルも前述のとおり「電動車」のため、この日産自慢のエンジンはあくまでバッテリーへの発電に徹しており、駆動はモーターによって行われます。
試乗を始めてすぐに、当然ながらキックスとの車格の違いを明確に感じました。
いわゆる高級車然としたゆったり感ある乗り心地、エンジンの静粛性の高さなど、キックスも良いクルマだと思ったけれどやはりデキが全然違う! と思わせられます。これでエクストレイルでは最大となる20インチの大径ホイールを履いている、というから驚きです。
さて肝心のe-4ORCEの仕上がりですが、これがビックリ。ワインディング路でカーブが連続する場面において、1.8トン超えの重量級ボディを軽々と動かしてくれるのです。「ひらひら」という表現が相応しいような印象です。
それでいて、車体の姿勢は極めてフラットでまるでミズスマシのように走ってくれます。これはひとえに、e-4ORCEによるレスポンスに優れた制御がこうした動きを実現してくれていると感じました。
さらにエクストレイルで路面に雪の残った「悪路」を走りました。ここでドライブモードを「スノー」に切り替えます。すると「グッ、グッ」と路面を捉えながら、着実に前進してくれました。
このスノーモードですが、前後の駆動力配分を最適化するだけでなく加速力までコントロールしてくれる優れもので、e-4ORCEの頼もしい走りをより実感することができました。
正常路の凹凸を乗り越えたときに生じるショックを時より正直に乗員に伝えてくることは玉に瑕ですが、このウエット路面や雪道・砂利道などでの「安心感」ある走行性能はとても魅力に感じました。
試乗車はオーテック仕様の中でも最上級グレードだったこともあり、車両価格は532万9500円と決して安くはありません。が、エクストレイル e-4ORCEは375万9800円から用意されていますので、キックスとの価格差は50万円ほどになります。個人的には価格差以上の価値が十分に備わっていると感じました。
最後に驚きのアリア e-4ORCEに試乗。これは忘れられない乗り味!
さて最後に試乗したのは、3台で唯一の完全電気自動車(BEV)のアリア e-4ORCEです。試乗車は、2021年6月に受注を開始した初期モデルの最上級グレード「B9 e-4ORCEリミテッド」です。
長らくオーダーの止まっていたアリアですが、2024年3月8日にアリアの受注が再開されました。リミテッドはすでに販売を終えており、現在のラインナップ構成でいえば「B9 e-4ORCE プレミア」相当のモデルとなります。
試乗を開始して、最初の交差点で信号が赤だったのでアクセルペダルを離して回生ブレーキによる減速が開始した瞬間! まったく車体が前に傾きません。むしろ誰かにボディを後ろに引っ張られているような印象で減速していきます。この感覚には非常に驚きました。
さらにアクセルペダルを踏んでも車体が後ろに傾くこともなく、まさにフラットそのもの。e-4ORCEによる姿勢制御をエクストレイルよりも強烈に感じました。
さらにワインディング路でハンドルを操舵していくと2.2トン超えの重さを感じさせない動きで曲がっていきます。ただしエクストレイルで感じた「軽快さ」は感じられず、こちらはトロッとしたイメージで、フラッグシップに相応しい「味付け」がされている印象でした。
この驚きの乗り味について、日産のEV技術開発本部のエキスパートリーダーを務める平工良三氏にその感動を伝えると「ありがとうございます。フラットを保つ姿勢制御こそ我々が目指してきた乗り味です。ですがドライブモードを『スノー』で走っていただくと、よりその世界観にあった走り味になります。個人的には、このモードを「コンフォート」という名前にしたかったぐらいです」と語ってくれました。
なんと。ドライブモードに用意された「スノー」は当然エクストレイルのそれと同じ要領で、駆動力配分に加えて加速力も雪道に適したコントロールをしてくれるというものです。
が、雪道に適するように、というのはすなわち急な加減速をしないでようにクルマを制御してくれるという意味で、これが正常路でもその恩恵を享受できるというのです。
続けて平工氏は「e-4ORCEは従来の4WDモデルとは考え方が異なります。つまり、私たちはこのe-4ORCEをシティユーザーに対しても是非乗っていただきたいと思っています」と語りました。
4つのタイヤを制御することでどんな「路面」でも頼もしく走ってくれるという4WDの特性は、e-4ORCEの技術によってどんな「場面」でも安心して走れるように進化したのだと感じました。
アリア e-4ORCEの車両価格は719万5100円からと、キックスの倍以上のプライスタグをつけています。ですが、その価格に相応しい驚きの乗り味をアリアは備えていたと思います。
当然、価格が高くなるほどに市場の要求も高くなりますし、高すぎる! と思われてショッピングカートから外れてしまうことも十分にあり得ますが、これを手にした人(できる人)は羨ましい限りと思うほど素晴らしい仕上がりだったと感じました。
日産のSUVラインナップは魅力的すぎる?と感じた3台の比較試乗
さて、今回は日産が現在発売しているSUVのフルラインナップ試乗をお届けしました。電動技術をいち早く採り入れ、誰よりも率先して電動化時代を進んできた日産は、やはり電気を使った技術に関して抜きん出ていると思います。
3台を順番に乗り比べると当然アリアの完成度に驚くわけですが、キックスの電動感ある走りは痛快でしたし、エクストレイルのe-4ORCEの恩恵を感じられる軽快さは、まるでBEVのような走り味でした。
三者三様でいずれも「安心感」と「電動感」を強く意識させられるものでした。すなわち、どれを選んだとしても、その走りにおける満足度は非常に高いものであることは間違いなさそうです。(写真:佐藤正巳)
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みんなのコメント
エクストレイルは1.5L発電用エンジン搭載車、
アクア1.5LHV車、
アクア1.5LHVシステムをハリアーに搭載して販売は出来ない何故なら出力不足は否めない。
1.5L発電用エンジンだか3.5Lクラスのトルクを得
更に静粛性、低振動、全域モ―タ―駆動がもたらす緻密な制御は他社HVは真似出来ない。
他社HV2.5L.エクストレイル1.5Lの違いは、
自動車税年間1万円の差は1.000km走行可能。
何せ7年も前の新興国向けチープカーだから
早いとこ新シャシー使ってモデルチェンジすべきでしょうね
キャシュカイをそのまま入れても良いと思うのだが