1950年にスタートし、2019年には記念すべき1000レース目を迎えたF1世界選手権も、2023年には早くも1100レースを突破。3月に控える2024年の開幕戦バーレーンGPが、1102レース目となる。
そんな長い歴史を誇るF1だが、歴代のレースを振り返ってみると、当然のことながらポールポジション、フロントロウからスタートしたドライバーが優勝するケースが圧倒的に多い。ただ往年のF1ファンの中には、途方もないくらい後方のグリッドから逆転で勝利を勝ち取った、そんなレースの記憶も頭の片隅に残っているはずだ。
■F1史上最高の逆転劇は、どのようにして起こったのか:1983年アメリカ西GP~前編~
では実際、後方のグリッドから優勝したケースは具体的にどのくらいあるのか? 今回はスタート位置順に何回の優勝例があるのかをまとめてみた。
まず、当然最も多いのはポールポジションからの優勝、ポール・トゥ・ウイン。全体の42%を占める470回がポール・トゥ・ウインなのだ。さらに2番グリッドからの優勝は261回、3番グリッドからの優勝は133回となっており、歴史上のF1レースの約8割弱で、トップ3からスタートしたドライバーが勝っていることになる。
下位グリッドからの逆転劇を振り返る前に、まずはポールポジション~10番グリッドまでの優勝回数を以下に列挙する。
ポールポジション:470回
2番グリッド:261回
3番グリッド:133回
4番グリッド:65回
5番グリッド:48回
6番グリッド:41回
7番グリッド:22回
8番グリッド:17回
9番グリッド:5回
10番グリッド:12回
4番グリッド以下となると、その優勝例はぐっと少なくなる。最近の例を挙げると、マックス・フェルスタッペンが史上最年少で初優勝を記録した2016年スペインGPは4番グリッドからの勝利、雨で大荒れの2011年カナダGPで最終ラップに逆転勝利したジェンソン・バトンは7番グリッドからの勝利、アルファタウリで2020年のイタリアGPを制したピエール・ガスリーは10番グリッドからの勝利。この辺りは記憶に新しい。
それでは11番手以降の優勝例を見てみよう。
■11番グリッド:5回
・1971年イタリアGP:ピーター・ゲシン
・1975年スペインGP:ヨッヘン・マス
・1977年アルゼンチンGP:ジョディ・シェクター
・2003年オーストラリアGP:デビッド・クルサード
・2012年ヨーロッパGP:フェルナンド・アロンソ
11番グリッドからの優勝は5例。1971年イタリアGPは、トップ5台が0.61秒以内でチェッカーを受けた、歴史上最も僅差なレースとしても有名。1977年アルゼンチンGPは、ウルフWR01がデビューウインを達成したレースだ。最も新しい例は2012年にバレンシア市街地で行なわれたヨーロッパGP。アクシデントやトラブルが多発した乱戦を当時フェラーリのアロンソが勝ち抜いた。
■12番グリッド:4回
1961年フランスGP:ジャンカルロ・バゲッティ
1962年ベルギーGP:ジム・クラーク
1978年南アフリカGP:ロニー・ピーターソン
1989年ハンガリーGP:ナイジェル・マンセル
12番グリッドからの優勝は4例で、比較的古いレースが並ぶ。1961年フランスGPは、フェラーリのバゲッティが事実上唯一となるF1デビュー戦優勝を果たした歴史的なレースだ。
その他記録上は「F1デビュー戦勝利」となっている例もあるが、それはF1世界選手権の1戦目(誰にとってもデビュー戦)である1950年イギリスGPを制したジュゼッペ・ファリーナと、同年のインディ500を制したジョニー・パーソンズだ(この年からインディ500がF1世界選手権に組み込まれたことで、インディカーのレギュラー選手だったパーソンズにとって形式上“F1デビュー戦”となった)。
直近の例は1989年ハンガリーGPまで遡る。フェラーリのマンセルが、当時のチャンピオンチームであるマクラーレン・ホンダのアラン・プロスト、アイルトン・セナを立て続けにかわしてトップに立ち、最終的に2位のセナ以下に25秒の差をつけるという圧勝劇だった。
■13番グリッド:3回
1957年インディ500:サム・ハンクス
1960年アルゼンチンGP:ブルース・マクラーレン
1990年メキシコGP:アラン・プロスト
前述の通り、F1黎明期にはインディ500もF1世界選手権の一戦として扱われていたため、1957年のインディ500もこのリストに入ってくる。1960年アルゼンチンGPの勝者であるマクラーレンは言わずと知れたマクラーレン・レーシングの創業者で、クーパーで活躍した後自身のチームを立ち上げることになる。1990年メキシコGPでは、当時フェラーリのプロストが猛追を見せ、タイヤトラブルに苦しむマクラーレンのセナを抜いてトップに立ったレースだ。
■14番グリッド:7回
1955年インディ500:ボブ・スウェイカート
1977年オーストリアGP:アラン・ジョーンズ
1996年モナコGP:オリビエ・パニス
1999年ヨーロッパGP:ジョニー・ハーバート
2006年ハンガリーGP:ジェンソン・バトン
2018年ドイツGP:ルイス・ハミルトン
2022年ベルギーGP:マックス・フェルスタッペン
不思議なことに、下位グリッドからの優勝例の中では14番グリッドからの優勝が飛び抜けて多く、F1ファンの記憶に強く残っているであろう直近数十年のレースも数多くある。
1996年モナコGPは、チェッカーを受けられたのがわずか3台(完走扱いを含めても7台)というサバイバルレース。F1で最も追い抜きが難しいと言われるモナコでこのような逆転劇が生まれたのはそのためだ。優勝したのはリジェのパニスで、無限ホンダエンジンの初優勝となった。
1999年ヨーロッパGPも、ニュルブルクリンクの気まぐれな天候に各車が翻弄され、トップに立ったドライバーが次々戦列離脱していくという大混乱のレースで、伏兵スチュワートのハーバートが優勝。2006年のハンガリーGPは、ホンダのバトンが荒れたレースを制し、表彰台で君が代が流れたことから記憶に残っている日本のF1ファンも多いだろう。
直近数年間でも2例。2018年ドイツGPは、突然の雨に足をすくわれたフェラーリのセバスチャン・ベッテルがトップ走行中にコースオフしリタイア。メルセデスのハミルトンに逆転勝利を許したことで、ふたりによるタイトル争いの潮目が大きく変わったレースだ。2022年ベルギーGPでは、レッドブルのフェルスタッペンがパワーユニットエレメントとギヤボックス交換のペナルティで14番グリッドに沈むも、圧倒的な速さでレース前半のうちにトップに立ち、独走でチェッカーを受けた。その圧巻のパフォーマンスは記憶に新しい。
■15番グリッド:1回
2008年シンガポールGP:フェルナンド・アロンソ
15番グリッドからの優勝はわずか1例で、それも曰く付きの勝利。下位グリッドからの優勝例を紹介したF1公式YouTubeの動画でもこのレースは紹介されておらず、まさに“黒歴史”となってしまっている。
悪名高き“クラッシュゲート”として知られる2008年のシンガポールGPは、ルノーのネルソン・ピケJr.がクラッシュしてセーフティカーが出たことでレースの流れが大きく変わった。この恩恵を受けたのがチームメイトのアロンソで、大きく順位を上げて優勝を手にした。しかしその後、ピケJr.のクラッシュはチームの指示による故意のものだったことが明るみとなり、大問題に発展した。
■16番グリッド:2回
1973年南アフリカGP:ジャッキー・スチュワート
1995年ベルギーGP:ミハエル・シューマッハー
16番手からの逆転勝利は2例。1973年のスチュワートはこの年3回しかポールポジションを獲得していないが、南アフリカGPのように決勝で挽回するレースが多く、チャンピオンを獲得してF1を引退している。
1995年ベルギーGPでは、予選上位のドライバーが戦列から消える中、ウイリアムズのデイモン・ヒルとベネトンのシューマッハーの一騎打ちとなったが、トップに立ったシューマッハーが果敢なブロックでヒルを抑えて大逆転勝利。さらにシューマッハーにはそのブロックにより執行猶予付きの1レース出場停止処分が下されるというおまけ付きであった。
■17番グリッド:2回
1982年デトロイトGP:ジョン・ワトソン
2005年日本GP:キミ・ライコネン
17番グリッド以下から優勝したというケースは歴史上わずか5例しかない。その中でも、マクラーレンのライコネンが鈴鹿で鬼神の走りを見せた2005年の日本GPは多くのファンの記憶に残っているだろう。
当時のワンアタック方式の予選の弊害を受け、雨が降ってきたタイミングでアタックをせざるを得なかったライコネンは予選17番手に沈んだ。しかし決勝レースでは猛烈に追い上げ、トップを走るルノーのジャンカルロ・フィジケラに追いついた。最終ラップ、フィジケラを1コーナーでアウトから抜き去ったシーンは今も語り草となっている。
デトロイト市街地での初開催となった1982年デトロイトGPでは、マクラーレンのワトソンが猛追を見せ、前をいくマシンを次々オーバーテイク。ギヤトラブルに苦しむウイリアムズのケケ・ロズベルグを交わしてトップに立ち、優勝を飾った。
■18番グリッド:1回
2000年ドイツGP:ルーベンス・バリチェロ
フェラーリのバリチェロが初優勝を飾った2000年ドイツGPも、劇的なレースであった。トラブルにより雨の強い時間帯でしか予選を走れなかったバリチェロは、18番グリッドと優勝は絶望的な位置からのスタートとなったが、スタート直後の混乱を掻い潜ってポジションをあげ、その後は瞬く間に3番手まで浮上した。
そして残り終盤になってホッケンハイムには雨が降り出したが、局地的な雨だったこともありバリチェロはステイアウトを決断。スタジアムセクションはフルウエットだったが、バリチェロはドライタイヤで耐え切ってトップチェッカー。苦節8年での初勝利だったため、バリチェロは表彰台で大粒の涙を流した。
■19番グリッド:1回
1954年インディ500:ビル・ブコビッチ
こちらも形式上F1世界選手権レースとなっていたインディ500の一戦。ブコビッチは1953年のインディ500も制しているため、記録上はF1で2勝を挙げているということになる。
■22番グリッド:1回
1983年アメリカ西GP:ジョン・ワトソン
現在F1史上最も後方グリッドからの優勝となっているのが、1983年にロングビーチで開催されたアメリカ西GPのワトソンだ。前年にデトロイトで17番手から優勝したばかりだったマクラーレンのワトソンは、ミシュランタイヤが機能せず予選22番手に。チームメイトのニキ・ラウダも同じく23番手に沈んだ。しかし決勝のタイヤ選択はハマり、ワトソンはラウダとのランデブーで次々ポジションを上げた。最終的にワトソンが優勝、ラウダが2位に入り、グリッド20番手台のドライバーによるワンツーフィニッシュという稀に見る珍記録が達成されたのだ。
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