モータースポーツの「歴史」に焦点を当てる老舗レース雑誌『Racing on』と、モータースポーツの「今」を切り取るオートスポーツwebがコラボしてお届けするweb版『Racing on』では、記憶に残る数々の名レーシングカー、ドライバーなどを紹介していきます。今回のテーマは、2006年のスーパーGT GT300クラスを戦った『紫電 MC/RT16』です。
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2024年にシリーズ本格スタートから30周年を迎えたスーパーGT。その30年の歴史を遡っていくと、前身である全日本GT選手権(JGTC)時代を含め、異彩を放っていた参戦車両がいくつか挙げられる。
そのなかでも2002年のGT300クラスに登場した『ヴィーマックRD320R』や2003年にデビューした『ARTAガライヤ』は、“ロードゴーイングカーが1台、法規に則して登録されていればGTカーとして認める”という規定を存分に利用したプロトタイプカー的な純レーシングカーの参戦劇として当時話題を呼んだ。
今回紹介する『紫電 MC/RT16(紫電)』は、前述の規定を基に生まれたレーシングカーの最後発であり究極の1台として、ガライヤの登場から3年後の2006年よりスーパーGTを戦い始めたマシンだ。
紫電は、同車のドライバーも務めた高橋一穂が「自分が納得できるカッコいいクルマ」で戦いたいという思いに加え、ル・マン24時間レースに参戦していた『ベントレー・スピード8』に似たスタイルのマシンを作ろうと画策。高橋はムーンクラフトの由良拓也へ依頼し、マシン制作が始まった。
由良は、アメリカのライリー・テクノロジーズが販売していたデイトナプロトタイプカーである“Mk.XI”というシャシーに目をつけた。そして、トヨタ・セルシオに載っていたV型8気筒NAエンジンの“1UZ-FE”をこのシャシーに搭載して車両を仕立てようとした。
1UZ-FEの採用は、のちのロードゴーイングカー化を見据えたことでもあったものの、結局、紫電はロードカーの登録はされることなく特例の一台として参戦することとなった。
Mk.XIに話を戻すと、実はこのシャシー、そのままではGT300クラスのレギュレーションに合致しないことが判明したため、ムーンクラフトではMk.XIをベースにしたオリジナルシャシーを設計。その図面をライリー・テクノロジーズに渡して、Mk.XIに大幅にモディファイが加えられた。新シャシーに纏わせるボディカウルも前に述べたベントレー・スピード8をイメージしたデザインでムーンクラフトが制作した。
こうして完成した紫電は、2006年初頭にシェイクダウンを行ったのち、同年のスーパーGT GT300クラスを戦いはじめた。すると鈴鹿サーキットで開催された開幕戦において、高橋と加藤寛規のドライブによっていきなり6位でフィニッシュを果たした。デビュー戦の好結果によって、性能調整が課せられていくことになったものの、第8戦のオートポリスラウンドにおいて、ポール・トゥ・ウインで初優勝を達成した。
この勝ち星でドライバーズランキングトップに立った紫電は、最終戦の富士スピードウェイ戦でもチャンピオンを争ったが、惜しくもトップと同点の2位に終わり、デビューイヤーでの王座獲得とはならなかった。
初年度からチャンピオン争いを繰り広げ、期待通りのポテンシャルを発揮した紫電は、翌2007年以降もGT300クラスのトップランカーとして戦いを続けていくことになるのである。
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