今でもホイールにスポークとキャストが使われる訳
【Q&A】バイクはけっこう左右非対称!? なぜ真っ直ぐ走れるの??【バイクトリビア002】
競技用のモトクロッサーやエンデューロマシンはもちろん、公道用の市販オフロードバイクも、いかにも軽そうなスポークホイールを履いている。ところがオンロード車でスポークホイールを履くのは、旧車を除けばごく一部のネオレトロ系だけで、ほとんどがキャストホイール。ということは、スポークよりキャストの方が軽いのか? それならオフロード車はなぜスポーク? 一体どっちの方が軽いんだろう??
●文:伊藤康司 ●写真:カワサキ、ホンダ
市販バイクの登場以来、スポークホイールは健在
バイクのホイールといえば、いまどきのロードスポーツ車は総じてアルミのキャストホイールを履き、ワイヤースポークホイールはオフロードバイクとクラシカルなスタイルの一部のネオレトロ系くらい。スポークホイールはいかにも軽そうに見えるし、軽さが身上のモトクロッサーやエンデューロマシンも実際に履いているのだから、さぞかし軽いのだろう。とはいえ本当に軽いのならば、なぜロードスポーツ車に履かないのか? いわゆる「バネ下荷重」が軽くなって、ハンドリングも良くなるハズなのに……。
というワケで、スポークホイールとキャストホイール、いったいどちらが軽いのだろう?
まずはホイールの歴史をみてみよう!
そもそもホイール(車輪)の起源を辿れば最初は木製で、耐久性を高めるために外周に鉄板を貼ったモノも登場した。じつは世界初の内燃機関を積んだダイムラー社の二輪車(1885年)も、この鉄板巻き木製ホイールだった。
しかし1900年代に販売され始めたハーレーダビッドソンやトライアンフのバイクは、すでに空気入りのゴム製タイヤを履くワイヤースポークホイールだった。それから約70年間、バイクはワイヤースポークホイールを履き続けた。
そして現在主流のキャストホイールが誕生したのは1970年代の初頭。最初はカスタムパーツとして登場し、市販バイクが標準装備したのは70年代中頃からで、当時の国産車の中には同じ車種でスポークホイールとキャストホイールのモデルを併売しているバイクもあった。
そこで問題の重量だが、上記のような同じ車種で比べると、確実にスポークホイールの方が軽量だった。初期のキャストホイールは重い上に、バイク用のチューブレスタイヤが存在しなかったためにスポークホイール同様にチューブも必要。じつは最初のキャストホイールは、あくまでルックス優先のパーツだったのだ。
長きに渡って活躍するスポークホイール【カワサキ メグロK3】
―― 市販バイクが登場した1900年代初頭から使われるワイヤースポークホイール。かつての市販バイクは、リム部分はスチール製が主流だったが、最近はロード/オフロードモデルを問わず、ほとんどがアルミリムになり従来より軽量になった。写真はカワサキのMEGURO K3で、アルミリムのスポークホイールを装備する。 [写真タップで拡大]
どんどん軽量化したキャストホイール
1980年代になると、キャストホイールの増加に合わせるようにチューブレス化が進んだ。また、80年代後半にはバイク用タイヤがバイアス構造からラジアル構造に進化し、大排気量・大パワーのバイクタイヤは、構造や強度の面でバイアスよりラジアルの方が軽量になっていた。もちろん市販車のアルミ製キャストホイールも進化したので、この頃にはロードスポーツ車で同サイズのホイール(タイヤ)なら、スポークよりキャストホイールの方が軽くなっていた。
また、釘などの異物が刺さってパンクした際は、スポークホイールのチューブ式だと一気に空気が抜けてしまうが、キャストホイールのチューブレスなら空気が徐々にユックリと抜けていくため、安全性やリカバリーにも有利。
そして時代を追うごとにバイクの高出力化や、コーナリング時のグリップ力を高めるためにタイヤがワイド化し、ホイールにも高い剛性が求められるようになると、スポーツ性を優先したモデルがスポークホイールを履くことはなくなった。そのため近代では「スポークとキャスト、どっちが軽い?」と単純に比較することができなくなったともいえる。
ロードスポーツ車はキャストホイールが主流【カワサキ Z900RS】
―― 構造や製法などの進化により、80年代中盤以降は同サイズのスポークホイールよりキャストホイールの方が軽量になっている。現在は様々なデザインのキャストホイールが存在。写真のカワサキZ900RSは、ワイヤースポークをイメージさせるようなホイールを履く。 [写真タップで拡大]
ワイドリムでも驚くほど軽量!【カワサキ ニンジャZX-10R】
―― 近年のスーパースポーツ系はハイグリップのワイドタイヤを履くため、ホイールもかなり幅広だが、単体で手に持つと驚くほど軽量。鋳造製法の進化や、強度や剛性を高度に分析した優れた設計によるものだ。また限定モデル等では、さらに軽量な鍛造製法のFORGED(フォージド)ホイールを装備する車両もある。市販バイクは鋳造(キャスト)、鍛造(フォージド)共に素材はアルミニウムが主流だが、MotoGPを頂点とする本格レースでは、さらに軽さを追求したマグネシウム合金製の鍛造ホイールを履いている。 [写真タップで拡大]
求める性能が異なるオフロード車はスポークホイールが主流
とはいえオフロード車は、現在もスポークホイールが主流。これはジャンプや着地した時などにスポークホイールの方が衝撃吸収性に優れるから。バンク時の剛性などもオンロードとダート走行では求めるモノが異なるし、大排気量のアドベンチャーモデルを除けばブレーキもオンロード車のような制動力は求められないのでハブもコンパクトで軽量だ。
ちなみにスポークホイールの場合は基本的にタイヤチューブが必要だが、近年は大型アドベンチャー系を主体にチューブレスタイヤの装着が可能な「クロススポーク」など、チューブを必要としないスポークホイールも存在する。
衝撃吸収性と軽さを追求するオフロード車【カワサキ KLX230 S】
―― スポークホイールはジャンプ後の着地時の衝撃をしっかり吸収。フルバンク時の剛性などはオンロードと異なり、タイヤ幅(リム幅)が狭く、ブレーキもオンロードスポーツのような制動力は求められないためシンプルで、ハブは非常にコンパクトでかなり軽量。写真はレーサーと同時開発された本格オフロードのカワサキKLX230S [写真タップで拡大]
チューブレスタイヤを履けるスポークホイール【ホンダCRF1100L アフリカツイン アドベンチャースポーツ ES 〈DCT〉】
―― 一般的なスポークホイールはリムの中央をスポークが貫通するため、タイヤ内の空気が漏れないようにチューブが必要。ダート走行時にグリップ力を高めるために空気圧を下げる時などはチューブ仕様は有利だが、異物が刺さった時は空気が一気に抜けてパンクしてしまう。そこでスポークをリムの端に通してチューブレスタイヤを履けるようにしたのがクロススポークで、BMWのGSシリーズや写真のホンダCRF1100Lといったアドベンチャー系が採用する。他にもリムの内側にスポークを引っ掛けるリブを設けたタイプ(スズキのVストローム1050XTや、ヤマハのセロー250の後輪)なども存在する [写真タップで拡大]
機能だけではなく、趣味のバイクはルックスも重要
というわけで、現在はスポークホイールとキャストホイールは使用するシチュエーションで必要な機能・性能で選ぶもので、重量で選択するケースは基本的に無い、といって良いだろう。
なので、スポークホイールを履いている現代のロードスポーツ車は「機能よりルックス優先」というコトになるが、これも趣味の乗り物としては大事なところ。このあたりは1970年代の、登場したばかりのキャストホイールに通じモノを感じる。
ちなみに軽量、という視点から見るとカスタムシーンではキャストやスポークだけでなく、カーボン製のホイールなども登場している。このあたりはまた別の機会にお届けしよう!
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