■往年のコンパクトFRスポーツを振り返る
トヨタとスバルは2021年4月5日に、FRスポーツカーである新型「GR 86」並びに新型「BRZ」を発表。「86」は車名がGR 86に改められて世界初公開され、新型BRZは日本仕様が公開されました。
今では世界的にも激減してしまったコンパクトFRスポーツの両車が刷新されたことは、国内外で大きなニュースとして話題となっています。
かつて、比較的コンパクトなサイズのFRスポーツカーは数多く存在していましたが、近年はニーズの変化から人気が低迷し、激減してしまいました。
そこで、絶版となってしまったコンパクトFRスポーツを、5車種ピックアップして紹介します。
●日産「S15型 シルビア」
1965年に誕生した日産「シルビア」は、2002年に生産を終えた7代目の「S15型」まで歴代モデルはすべてコンパクトなFRスポーツカーというコンセプトを貫いたモデルです。
初代は国産スペシャリティカーの草分け的存在で、多くの製造工程が手作業だったこともあり、あまりにも高額なモデルでしたが、1975年に登場した2代目からは若者でも手が届く量産車へと生まれ変わりました。
その後、3代目からはターボエンジンやDOHCによって高性能化され、1988年に発売された5代目の「S13型」は美しいボディにハイパワーなエンジンを組み合わせたことによって、大ヒットを記録。
この5代目のイメージを踏襲して、1999年に7代目シルビアが登場しました。
ボディはS13型以降で共通の2ドアクーペのみで、全長4445mm×全幅1695mm×全高1285mmと3ナンバーサイズだった6代目からダウンサイジングされ、再び5ナンバーサイズに戻されたことが大きなトピックスです。
また、フロントフェイスを一新し、ボディラインもエッジの効いたフォルムとすることで、シャープな印象を取り戻しました。
さらに車両重量も20kgほど軽量化され、エンジンは6代目と同型の2リッター直列4気筒ターボ「SR20DET型」ですが最高出力は220馬力から250馬力へとパワーアップし、新たに採用された6速MTと相まってFRスポーツとして走りの実力も向上。
しかし、S15型は排出ガス規制強化などの対応が困難なことから、発売からわずか3年7か月後の2002年に生産終了となり、現在まで後継モデルはありません。
●マツダ「RX-8」
1967年に誕生したマツダ「コスモスポーツ」以来、ロータリーエンジンは同社を代表する高性能エンジンとして歴代のスポーツモデルに搭載されましたが、最後のロータリーエンジン搭載車となったのが2003年に発売された「RX-8」です。
RX-8は生粋のFRスポーツカーである「RX-7」の実質的な後継車として開発されたモデルで、流麗なフォルムながら観音開きの4ドアを採用し、室内の居住空間を十分に確保した4シーターという、実用性も考慮されたユニークなレイアウトを採用。
搭載されたエンジンは、新開発の654cc×2ローター自然吸気ロータリーの「13B型」で、トランスミッションは6速MT、5速MT、4速AT(後に6速ATが追加)を設定し、トップグレードの「TYPE-S」6速MT車では最高出力250馬力を誇りました。
また、足まわりはフロントにダブルウイッシュボーン、リアにマルチリンクを採用し、FR車では理想的な前後重量配分「50:50」を実現するなど、高い運動性能を発揮します。
その後、RX-8は改良を続け進化していきましたが2012年に生産を終了。マツダのFRスポーツカーは「ロードスター」に一本化されて現在も継承されています。
●ホンダ「S2000」
ホンダは1980年代から1990年代にかけて、オートバイの開発やF1参戦によって培われた技術によって高回転・高出力な自然吸気エンジンを得意とする、「エンジン屋」というイメージが確立していました。
その集大成ともいえる高性能自然吸気エンジンを搭載し、「S800」以来となる29年ぶりのFR車としてデビューしたのが、1999年に発売されたオープンスポーツカーの「S2000」です。
S2000はホンダ創立50周年を祝うメモリアルカーとして開発され、最高出力250馬力を8300rpmで発揮する2リッター直列4気筒自然吸気VTECエンジン「F20C型」を搭載。トランスミッションは6速MTのみとされました。
レブリミットは9000rpmとされ、排気量1リッターあたりの出力は125馬力と、市販車のエンジンとしては驚異的な高回転・高出力を実現。
2005年のマイナーチェンジでエンジンは2.2リッターに排気量がアップされ、前期モデルほどの高回転型エンジンではなくなりましたが、扱いやすさを向上したことはポジティブな要素でした。
ボディはFRスポーツカーの王道であるロングノーズ・ショートデッキのフォルムで、コンセプトモデルだった「SSM」のデザインエッセンスを取り入れたシャープな印象のフロントフェイスを採用。
当然ながらシャシも新開発され、足まわりには前後ダブルウイッシュボーンが奢られ、1.2トン強の軽量な車体と相まって、優れた運動性能を発揮しました。
S2000はピュアFRスポーツカーとして国内外の走り好きを魅了しましたが、販売台数の低迷から2009年に一代限りで生産を終了。後継車はなくホンダのFR車もS2000以降は存在していません。
■日欧合作のモデルに、大排気量FRクーペとは
●アバルト「124スパイダー」
2013年にフィアットグループとマツダが提携契約を締結し、2016年にマツダ「ロードスター」をベースにしたオープンライトウェイト・スポーツカーの、フィアット「124スパイダー」が発売されました。
さらに同年、この124スパイダーをベースにチューンナップした高性能バージョンのアバルト「124スパイダー」が登場。
エンジンはロードスターが132馬力の1.5リッター自然吸気(「RF」は2リッター)なのに対して、アバルト 124スパイダーはフィアット製の最高出力170馬力を誇る1.4リッター直列4気筒SOHCターボを搭載し、トランスミッションは6速MTと6速ATが設定されました。
1130kg(MT車)という軽量な車体に170馬力のエンジンを組み合わせ、パワーウェイトレシオは約6.65kg/psと、アバルトを名乗るにふさわしい値を実現しています。
内装は基本的にロードスターと共通で、右ハンドルのみが設定されウインカーレバーも右です。
外観は1972年発売の初代124スパイダーをオマージュしたフロントフェイスに、リアのデザインもロードスターから変更されました。
また、足まわりには専用セッティングのビルシュタイン製ダンパーやブレンボ製ブレーキキャリパーが奢られ、高い運動性能を発揮。
しかし、2020年にベースのフィアット 124スパイダーとともにアバルトモデルも生産を終了しました。
ちなみに、日本で正規に販売されたアバルト 124スパイダーは、マツダが広島の工場で製造する国産車という扱いでした。
●BMW「Mロードスター/Mクーペ」
1989年にマツダからユーノス「ロードスター」が発売されたことにより、失われていたコンパクトなオープン2シーター車の人気が再燃し、国内外の各メーカーはマツダに追従するようにオープン2シーター車を次々と発売しました。
そのなかの1台が1996年に発売されたBMW「Z3」です。初期の日本向けモデルは5ナンバーサイズに収まるボディに1.9リッターエンジンを搭載したコンパクトな車体のモデルであり、高い人気を獲得。
外観はロングノーズ・ショートデッキの古典的なFRスポーツカーのフォルムで、コンパクトながらも抑揚のあるグラマラスなボディを採用しています。
1998年に追加された「Z3ロードスター2.8」では3ナンバーサイズのワイドボディに変わったのと同時に、「Z3クーペ2.8」というルーフとリアのキャビンを追加したかたちのクーペボディが設定されました。
さらに「3シリーズ」の高性能モデルである「E36型 M3」に搭載された、321馬力を発揮する3.2リッター直列6気筒エンジン(S50ユニット)を移植した「Mロードスター/Mクーペ」が登場。その後エンジンは、「E46型 M3」に搭載した325馬力を発揮する3.2リッター直列6気筒エンジン(S54ユニット)に換装されました。
外観はさらにワイドになったフェンダーによって、迫力あるフォルムを実現しています。
内装はZ3に準じていましたが、センターコンソールに3つのメーターが追加され、随所にメッキの加飾をおこなうことでクラシカルな雰囲気のスポーツカーを演出しています。
2002年にZ3シリーズは一代限りで後継車の「Z4」にバトンタッチ。ボディサイズが拡大されてGTカー的なモデルへと変貌を遂げました。なお、現行モデルのZ4は3代目で、トヨタ「スープラ」とエンジンやトランスミッション、シャシを共有しています。
※ ※ ※
繰り返しになりますが、新型GR 86と新型BRZは今では貴重な存在のコンパクトなFRスポーツカーです。
現在、FRのスポーツカーというと高額かつ大型なモデルは生き残っていますが、GR 86やBRZと同等のモデルはロードスターくらいで、新型の登場は朗報といえるでしょう。
しかし、2ドアクーペのニーズは限られているのも事実で、世界的にもヒットするのは難しい状況です。
なんとか、この新しいFRスポーツカーを大事にしていかなければなりません。
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