2050年カーボンニュートラル実現に向けた取り組みが加速する中、モビリティの未来はどう変わるのか。自動運転技術やEVの発展が進む中で、自治体はどのような役割を果たしていくのか。2024年12月に開催された「京都モビリティ会議2024」において、京都府はどのような狙いを持って参加し、どのような成果を得たのか。京都府・西脇隆俊知事に話を伺いました。
【京都府知事独占インタビュー】カーボンニュートラルと自動運転が切り拓く未来「次世代モビリティ社会への展望」
文:ベストカーWeb編集部、写真:寺田鳥五郎、AdobeStock
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京都モビリティ会議2024——京都府が出展した狙いと成果
ーーまずは、京都府として「京都モビリティ会議2024」へ出展した狙いについて教えてください。
京都府・西脇隆俊知事(以下、西脇):「京都モビリティ会議2024」は自動車メーカー、学生、行政が一体となって未来のモビリティを議論し、最新技術の役割や普及状況、それがどんな技術かを広く知らせるイベントでした。
京都府にはモーターのニデック、バッテリーのGSユアサやニチコンなど、カーボンニュートラル関連の産業が集まっています。京都府としてもカーボンニュートラル社会へ向けた取り組み「ZET-valley構想」を進めており、産業界・アカデミア・行政が協力しながら、カーボンニュートラル社会の実現を目指していますが、我々(京都府)の課題として、一般の皆さんにそうした取り組みを知ってもらう機会が必要だと考えていました。そこで、こうしたイベントに参加することで京都府としての取り組みを一般の方へ広くお知らせできると考えて、出展を決めた次第です。
【参考記事】京都府の「EV」と「自動運転」への取り組み【京都モビリティ会議2024/京都府セッション】
イベントでは自動運転EVバスや新技術の展示も行われ、多くの参加者の関心を集めました。トークセッションでも多くの方が足を止めて聞いていただいて、自治体としても非常にいいPRの機会になったと考えています。それから、行政としては自動車メーカーの方々との直接の接点があまりなかったので、今回のイベントで交流の機会をいただけたのはとてもありがたかったです。
2024年12月に実施された「京都モビリティ会議2024」では西脇府知事に開会式とトークセッション[京都府編]にご登壇いただいた
ーー西脇知事ご自身もトークセッションにご登壇いただき、各自動車メーカーの展示も見学しておりましたが、展示内容で印象に残ったものはありますか?
西脇:どのメーカーも興味深かったのですが、個人的には実際に市販されていないモデルを間近で見ることができたのが嬉しかったです。トヨタブースに展示されたMIRAI SportやレクサスブースにあったRZステアバイワイヤ(開発車両)など、見ごたえがありました。またマツダブースで説明を受けた、ロータリーエンジン復活の話も胸が熱くなりました。一度は生産中止になったエンジンが発電用として復活するところなど、技術者の執念が感じられて、ああいうお話はいいですね。
私は会場となった東本願寺の近くで育ったものですから、昔からあのあたりのことを知っておりまして、そういう場所に次世代モビリティの最新技術が集まったことにも感動しました。
京都モビリティ会議2024は、東本願寺門前広場(通称「お東さん広場」)にて開催。各メーカーのブースとともに、自動運転の電気自動車バスなども展示された
2050年カーボンニュートラルに向けた京都府の取り組み
ーー2050年「カーボンニュートラル社会」の実現に向け、自治体として取り組むべきことはどのようなことだと思いますか?
西脇:京都府は、国に先駆けて「2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロ」を目指すことを宣言しています(令和2年(2020年)2月に西脇知事が宣言/日本政府(菅義偉元総理)がカーボンニュートラル宣言をしたのは同年10月)。京都市のほうが少し早かったんですが、京都府もすぐそれに続いて、府と県庁所在都市が揃って宣言したのは全国で京都が最初でした。
その実現に向け、地球温暖化対策条例や対策推進計画の見直し等を進めてまいりました。先ほど述べた「ZET-valley構想」は、こうした目標の達成のために「京都府総合計画」にも明記したものです。現在の状況を見ますと、温室効果ガスの排出量の削減率は、産業部門については順調に推移しているのですが、運輸・家庭部門での削減がなかなか進まず、課題となっています。
京都府が取り組む「ZET-valley」構想。「石油から空気へ、地方が最先端へ、制約から拡張へ」をコンセプトに、「ゼロカーボンものづくりによるゼロカーボンまちづくり(地産地消型社会への転換)」を目指す
ーー運輸・家庭部門ですか。
西脇:運輸分野は一部産業分野と関係しているんですが、宅配の問題など乗り越えなければいけない課題がいろいろあります。これは我々一人ひとりが意識改革をしないと進まないんですよね。
また、より環境に優しい「新技術」の開発ももちろん進めなくてはいけなくて、京都府では、そうした新技術開発の支援や投資拡大を応援しています。
合わせて、「社会実装」の部分、運輸・家庭部門への広がりにも注力する必要があると考えています。持続可能性を考えると、民間企業が利益を出しながら事業化してもらう必要があって、この「技術開発」と「社会実装」は、両輪でやっていかなくてはならないんですね。
ーー大変ですが、やらなきゃいけないですしね。
西脇:そのとおりです。かつて自動車は排ガス規制で「これをそのままやったら会社が潰れてしまうのではないか」という危機も乗り越え、今では当たり前になりましたよね。社会実装って「初期」がすごくハードルが高くて、海のものとも山のものともわからないものを、ユーザーが実際に手に取って触って、試してもらわないといけない。そういう環境、「場」を作ることは行政の仕事のひとつだと思います。
ーー京都府としては具体的にどういう取り組みをしているんでしょうか?
西脇:例えば、「ZET-valley」では、この「技術開発」から「社会実装」までを一連で支援する取組を進めています。まず、オープンイノベーションということで、「人が集まる場」を作ろうとしています。たとえば年に一度、「ZET-summit」という脱炭素技術を軸にした国際カンファレンスを開催していまして、今年度は私も登壇して、リチウムイオン電池を開発された吉野彰さん(旭化成名誉フェロー)と「京都から日本のGAFAを」というテーマで対談させていただきました。
【参考記事】な…なるほど!! ノーベル賞受賞者・吉野彰氏が語る「スタートアップ企業が成功する場所の5つの条件」と「危機感」【京都ZET-summit特別講演】
それから、拠点整備という意味ではJR向日町駅前に「ZET-BASE KYOTO」というインキュベーション施設を開設する予定があります。ここは、オフィスだけでなくビジネスマッチングやセミナーなど交流の場として使っていきたいと考えています。
その上で、こうした交流から生まれた事業の芽の社会実装を進めており、例えば、府内でバッテリーを製造するスタートアップ企業と、BEVのバッテリーをリユースして活用した急速充電器のプロジェクトの完成品を、先日ついに実装することができました。ご存じのとおりBEVの車載バッテリーってリサイクルの時点でも70%くらい性能を維持していて、これをリユースすることでコストも低減するし環境にも優しいわけです。こういう企画も、実際にユーザーの方に手に取っていただける機会を増やして、PRもしていきたいと思います。
自動運転の社会実装に向けた京都府の挑戦
ーー自動運転技術の普及についても、いろいろ施策を打っていると伺いました。
西脇:日本政府は2030年までに自動運転サービスの本格的な普及を掲げていますし、自治体としても早急に社会実装を進めていく必要があります。京都府では、まだレベル2ではありますが、自動運転EVバスの運行実証実験を京田辺市で行うなど、社会実装に向けた取り組みを進めています。
自動運転社会では、複数の(技術レベルの異なる)車両が連携する必要があり、そうなると互いの空間情報を共有しなければなりません。そのうえで、これは「京都モビリティ会議」で一緒に登壇した同志社大学大学院の方のご指摘でもあったように、プライバシーの問題や法整備の必要性もあるんですね。そうしたことを順番に乗り越える必要があります。
ーー法整備や規制緩和、大事ですね。
西脇:行政にまず出来ることというと、ガイドラインを作成することだと思うんです。これは私の以前からの持論なのですが、物事ってルールや枠組み(=ガイドライン)がないと進まないんですよね。「これは守りましょう、あとはそちらでやっていただいて結構ですよ」という枠組みがあったほうが物事って進むんです。自動運転という新しい技術が社会に入ってくる時に、まず行政が枠組みを作ってあげて、その中で企業や研究者の皆さんに開発や進化を進めてもらう。
ーーなるほど。まず規制がないと規制緩和も出来ないですしね。
西脇:そのとおりです。京都府のけいはんな学研都市は、デジタル庁との連携により自動運転車両と配送ロボットの協調運行の実証実験を推進しています。自動運転技術とロボット技術が組み合わさった社会の実現に向けて、技術開発と規制緩和のバランスを取りつつ、早期の社会実装を目指します。
長距離トラックと自動運転は非常に相性がいいとされているが、法規制はまだまだ技術に追いついているとはいえない。運転手不足などもあり、物流部門は早急に整備が必要な分野
ーーそういう大変な時代に、京都府としてメーカーやユーザー、メディアにお願いしたいこと、「ここをやってくれると助かる」みたいなことってありますか?
西脇:いま仰った中で、「メーカー」というのは我々行政と同じく(新技術の)「供給側」ですよね。「ユーザー」の皆さんは「需要側」で、それぞれ役割が異なると思います。また「供給側」でも「メーカーが出来ること」と「行政が出来ること」と「メーカーと行政が一緒になって出来ること」とカテゴリーが3つあると考えています。
ーーおお、すごく整理された気がします。
西脇:メーカーはやはり安心安全を重視するでしょうし、採算性も大切でしょう。行政は先ほど申し上げたとおりルール作りやインフラ整備などの役割があります。それぞれ役割があって、それを進めるためには、これはやはり双方の話し合いが重要になってくるんですね。お互いに困っていることや要望をすり合わせる必要がある。そうなると、このすり合わせ、コミュニケーションが重要になってきます。
また、「需要側」であるユーザーの皆さんも、たとえば新しい技術の中身を詳しく理解することって難しいと思うんですよ。みんなが専門家ではないし、専門家である必要もない。そうなると新しい技術の説明をして、「こういうふうな仕組みで、広がっていくとこういういいことがあります」と説明する役割があります。
この「メーカーと行政のコミュニケーション」や「ユーザーへ向けた新技術の説明」という役割を、メディアの皆さんにお願いしたいと考えています。
ーーとてもよく整理されていて、分かりやすかったです。
西脇:ありがとうございます。新しい技術っていきなりは理解できないし、普及しないですよね。不安があるでしょうし。一方で、自動車って「パーソナルモビリティ」じゃないですか。これが飛行機や電車だったら、仕組みや運転方法をユーザーの皆さんがいちいち理解する必要はないんですが、自動車の場合は違う。一人ひとりがある程度、仕組みや使い方を理解して納得する必要があります。その理解や納得のための不安を取り除くことを、メディアの皆さんにはがんばってもらいたいです。
未来のモビリティ社会——西脇知事の展望
ーー最後に、「2050年のモビリティ社会はどうなっていると思いますか?」という話を、西脇知事ご自身の感想や予想で構わないので伺わせてください。
西脇:私の予想では、自動車というのは先ほど申し上げたとおりパーソナルモビリティですから、人それぞれに、異なる細かいニーズに応える必要があると思っております。たとえば近所の買い物へ行くときに使いやすいモビリティ、家族みんなで遠出するのに適したモビリティ、というように。そんな中でも絶対に必要なのが、高齢者や障がい者でも気軽に移動できるモビリティ。これはさらなる進化が必要だと考えています。それから高速道路を走る物流のトラック。これは自動運転技術が進めばかなり実現が見えてきますが、人手不足や労働規制との兼ね合いもありますから、そうした世の中の動きと合わせて進化してゆくだろうと思います。
ーー高齢者や障がい者などハンディキャップを持つ方々へ向けたクルマと、物流を支えるトラックの進化、なるほど。
西脇:またそういう話とは別にして、「移動時間が楽しく快適になる技術」というのも飛躍的に進むだろうなと思っています。私が若い頃は運転中にユーミンなどを聴いておりましたが、運転中の時間って特別じゃないですか。それがもっと快適に、楽しく、たとえば家族との絆を深める時間になるといいなと考えています。
ーーそれはいい未来ですね。西脇知事の考える2050年のモビリティ社会は、わりと明るく楽しい、と。
西脇:ええ、そこは技術者の皆さんと、我々行政もがんばりますので、ユーザーの皆さんもぜひ明るく楽しい未来を思い描いていただきたいです。
ーー今日はありがとうございました!
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