EVが勢力を拡大しつつある現在においても、まだまだ大多数のクルマに燃料として使用されるガソリン。
そんなガソリンだが、実は種類を間違えて給油してしまうというトラブルが意外に多いのだとか。セルフスタンドで給油できるレギュラーガソリンとハイオクガソリン、そして軽油にはどんな違いがあるのか? 今回はガソリンについての知識をおさらいしていこう。
ホントにあるんです「軽自動車に軽油入れちゃった!?」ガソリンのこと、ちゃんと知ってますか?
文/長谷川 敦、写真/マツダ、メルセデス・ベンツ、写真AC、Newspress UK、Newspress USA
そもそもガソリンとは何なのか?
原油を精製することによってさまざまな種類の燃料が作られる。ガソリンは沸点35~180℃で留出された成分が利用され、軽油はさらに高い温度で留出したもの
現時点でクルマの燃料として最もポピュラーなガソリンは、原油を精製して作り出される石油製品の一種だ。採掘された原油は製油所で加熱されて蒸溜所に送られるが、ここで沸点の違いによって各製品に分けられる。
ガソリンの沸点は約35~180℃で、170~250℃は灯油、240~350℃は軽油に留出される。つまりガソリンと軽油は同じ石油製品であっても違うものとして扱われる。ちなみに沸点350℃以上の残油は重油やアスファルトに使用される。
沸点が低いことから引火性は高いのがガソリンの特徴であり、クルマのエンジンに使用した際のパワーが引き出しやすくなる。対する軽油は圧縮された際の着火性が高く、これが高圧縮で爆発を行うディーゼルエンジンとの相性の良さにつながっている。
レギュラーとハイオクの違いとは?
一般的なガソリンスタンドでは、レギュラー&ハイオクガソリンと軽油、灯油が販売されていることが多い。このなかでは灯油以外がクルマの燃料に用いられる
ガソリンと軽油が異なるものであることはわかってもらえたと思う。では、レギュラーガソリンとハイオクガソリンは何が違うのだろうか?
その違いは「オクタン価」にある。オクタン価とは、異常燃焼によるノッキングの発生度合いを示す数値で、オクタン価が高いほどノッキングは起きにくくなる。ただしガソリンのオクタン価を高めるためには添加剤を加えるなど製造時のコストがかかり、これがレギュラーとハイオクの価格差となって表れている。
日本工業規格(JIS)では、オクタン価が89以上のものをレギュラー、オクタン価が96以上のものがハイオクとしている。これは日本国内での規定で、ドイツではオクタン価の違いでガソリンは3種類に分けられ、フランスでは日本でレギュラーに相当するガソリンのオクタン価は95となっている。
つまり欧州のほうがガソリンのオクタン価が高い傾向にあり、そのため輸入車の多くが日本国内ではハイオク指定されている。
なぜレギュラーとハイオクを分けるのか?
内燃機関(エンジン)は燃料と空気の混合気を燃焼させて爆発力を得ているが、オクタン価の高いハイオクガソリンはレギュラーに比べて異常燃焼が起こりにくい
ハイオクガソリンはレギュラーに比べて異常燃焼しにくいという特性がある。この特性が生きるのは混合気の圧縮比を高めた時だ。ガソリンエンジンでは、ガソリンと空気を混ぜた混合気を圧縮し、そこで着火して燃焼させる。この圧縮比が高いとエンジンの出力が大きくなるため、スポーツカーや大排気量高級車の圧縮比は高めに設定されている。しかし、圧縮比が高まると異常燃焼のリスクも増えるので、ハイオクガソリンを使ってこれを抑えるというわけ。
圧縮比が低いと得られるパワーも低くなるが、それによってエンジンを構成するパーツの負担は減り、結果としてコストの抑制や長寿命化に貢献する。こうした理由があり、一般車のエンジンはレギュラーガソリンでも異常燃焼を起こしにくい圧縮比に設定されている。
これらのエンジン特性に合わせてレギュラーとハイオクの2種類が用意され、オーナーは自分のクルマに適したガソリンを選んで給油を行う。
よくある? 軽油の勘違い
軽油は軽自動車ではなくディーゼルエンジン用。給油ノズルの色は緑なので、入れ間違いのないよう注意。入れ間違えた際の対処法は次の項目で紹介する
ディーゼルエンジンでは、高圧縮した燃料(混合気)を自動着火させて爆発力を得る。もっとも、近年では効率を重視してあまり圧縮比を高くしないディーゼルエンジンも存在するが、それについてはひとまず置いておこう。
こうしたエンジンの要求に応えられるのが着火性に優れた軽油だ。しかし、この「軽油」という名称がクセモノで、「軽」の文字から軽油を軽自動車用の燃料だと勘違いしている人が意外に多い。
軽自動車はあくまで小型軽量なガソリンエンジン車であり、給油する際にはレギュラー、もしくはハイオクガソリンを選ぶ。スタッフが給油してくれるガソリンスタンドなら大丈夫だが、自分で油種を選ぶセルフスタンドでは、間違った種類の燃料を給油してしまったというミスが発生する可能性が高い。
JAF(日本自動車連盟)が2018年に行った調査では、その年の燃料入れ間違い件数が390もあったとのこと。これはJAFに報告された件数だけなので、実際にはもっと多くの入れ間違いが発生しているものと推測される。
では、燃料を入れ間違ってしまった場合、どんなことが起きるのか?
燃料を入れ間違ったらどうなる? どうする?
セルフ式ガソリンスタンドでは油種の違いを文字と色でハッキリ示している。これなら間違いようはないはずなのだが、それでも「ついうっかり」は起こりうる
■レギュラー指定車にハイオクガソリンを入れてしまった
ガソリンエンジンの場合、レギュラー指定のクルマにハイオクを入れても深刻な問題にはならない。もちろん適正な圧縮比は異なるため、ハイオクによってエンジンのパワーや燃費が向上することはほとんどない。
ハイオクガソリンにはオクタン価を高める添加剤や、燃焼によって生じた燃えカス用の洗浄剤も含まれているが、それでレギュラー指定車のエンジン内部がキレイになるわけではない。つまり、トラブルこそ起きないものの、レギュラーより高額なハイオクガソリンを入れるのは差額分の損をしているとも言える。
なお、現行のスバル レヴォーグはレギュラーガソリン指定車であり、取り扱い説明書にも「ハイオクガソリンを給油した場合、燃費や始動性の悪化が起こることがあり、性能を十分に発揮できません」という記載がある。同車のオーナーは十分に注意してほしい。
■ハイオクガソリン指定車にレギュラーを給油した場合
この場合もすぐに大きなトラブルとなる可能性は低い。しかし、オクタン価の低いガソリンではノッキングを起こしやすくなり、これがエンジンにダメージを与える危険性も皆無ではない。
誤ってハイオク指定車にレギュラーガソリンを入れてもそれを抜き取る必要はないが、不測のトラブルを防ぐ意味もあり、次回からは正しいガソリンを選ぶことを徹底したい。
■ディーゼルエンジン車にガソリンを給油
これは先のレギュラー/ハイオク間違いより深刻な問題を引き起こす。もともと軽油専用に設計されたディーゼルエンジンは、ガソリンを入れても始動はするが、すぐにパワーが出なくなり、アイドリングも不安定になる。最悪の場合エンジンが破損する可能性もあるので、入れ間違いに気づいたらエンジンを始動しないことが重要だ。
■ガソリンエンジン車に軽油を入れると?
こちらも軽油の混ざったガソリンでエンジンを始動すると、パワーが大きく下がって黒い排気ガスが発生し、エンジンが停止してしまうケースもある。この状態で無理に走行すると、やはりエンジンが壊れる可能性もあるので注意してほしい。
燃料間違い時の対処法
ガソリンエンジン車に軽油を入れた、またはディーゼルエンジン車にガソリンを入れてしまったことにすぐに気がついた場合、エンジンを始動せずに燃料を抜き、その後に正しい燃料を入れれば大きな問題は起きない。
ガソリンスタンドで入れ間違いに気づいたら、その場でスタンドのスタッフを呼んで対処してもらおう。給油待ちのクルマの邪魔にならない場所に自分のクルマを移動し、燃料を入れ替えればトラブルを防げる。
走行中に入れ間違いを思い出した時は、速やかに安全な場所にクルマを停め、JAFや契約している保険会社などのサービスを呼んで燃料を入れ替える。この場合、その場で入れ替えができるとかぎらず、ガソリンスタンドなどにレッカー移動というケースも考えられる。
JAFを頼んだ場合、自身がJAFの非会員ならレッカー移動は有料になる。一般道では15kmまで1万3130円となっているので、それ相応の出費は覚悟しなくてはならない。
セルフ給油スタンドがメジャーになった現在、油種の選択は利用者に委ねられている。日本国内のガソリンスタンドでは給油ノズルの色が油種によって分けられていて、レギュラーは赤でハイオクは黄色、軽油は緑なので、これを忘れないようにすること。
もちろん、人間だからどうしてもミスしてしまうことはある。そんな時も慌てず対処すれば、大切な愛車のエンジンを故障から守れるはずだ。
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