下請法の運用基準見直し
4月1日、公正取引委員会により下請代金支払遅延等防止法(下請法)の、運用基準改正(案)が公表された。ここ最近は日増しに人件費や燃料コストが上昇しており、コスト上昇分に対する価格転嫁のルールを明確にして、適切に価格転嫁できるようにする狙いがある。
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下請法に関する運用基準では、親事業者による買いたたきが禁止されている。また、買いたたきとは、
「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」
とある。しかし、改正前は通常支払われる対価を把握できないか困難な場合は、
「従前の給付に係る単価で計算された対価を通常の対価として取り扱う」
とあり、この部分を都合よく解釈すれば、コスト上昇分を転嫁しなくてもよいととれなくもなかった。
今回の改正案ではこの部分が改められた(公正取引委員会の資料より)。
・従前の給付に係る単価で計算された対価に比し著しく低い請負代金の額
・当該給付に係る主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、(中略)経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請け代金の額
この改正により、人件費やエネルギーコスト上昇分の反映を拒否した場合は
「買いたたき」
となり、下請法違反となる可能性がある。
背景には依然として存在する「買いたたき」
下請法運用基準の見直しの背景には、依然として買いたたきが存在しているからだ。
公正取引委員会は、3月7日には日産自動車を下請法違反(不当な下請代金の減額)で勧告し、3月15日にはダイハツ工業など10社を価格転嫁要請に応じなかったとして公表している。もちろん、公正取引委員会が公表した事例は、買いたたきの一部にすぎないというのはいうまでもない。4月上旬に公表された中小企業白書・小規模企業白書概要(案)では、
「価格交渉が可能な取引環境が醸成されつつあるが、コスト増加分を十分に転嫁できておらず、転嫁率向上のための取組強化が課題」
と指摘している(中小企業庁の資料より)。
2023年9月に実施された価格交渉促進月間のフォローアップ調査結果では、価格転嫁が進んでいる業界とそうでない業界がはっきりみてとれる。ここで、コスト増に対する転嫁率の上位3位と、下位3位をみてみよう。
1位:化学59.7%
2位:食品製造53.7%
3位:電機・情報通信機器53.4%
25位:通信32.6%
26位:放送コンテンツ26.9%
27位:トラック運送24.2%
コスト増に対する転嫁率の全業種平均は45.7%だ。日本全体では、コストの増加による価格転嫁を受け入れられているのは半分にも満たない。特にトラック運送業会は、その他を除く27業種中、24.2%と
「最下位」
であり、物流業界においては価格転嫁が進んでいないことがわかる。また、トラック運送業界に対する下請Gメンヒアリング等では、
・発注企業に価格交渉を申し込むも相場価格が上昇していないという理由で価格を据え置かれた
・コロナ禍前に労務費がわずかに値上げされたが、以降は据え置かれている。価格交渉を申し入れたが応じてもらえない
・発注企業に労務費の値上げを要求しても「要求してくるのはあなただけだ」と返答される。さらには、競合があることにつけこみ「この価格でいいなら発注する」と通告された
と、生々しい実態があきらかにされている。
勧告・指導や軽微な罰金
下請法に違反すると、次のようなペナルティーがある。
・公正取引委員会による勧告/指導
・場合により50万円以下の罰金
・公正取引委員会による違反企業の公表
公正取引委員会による勧告・指導では、不当に減額した代金の支払いや、遅延利息も含めて遅延した代金を支払うように勧告されることもある。
また、50万円以下の罰金は、親事業者が必要な書類を交付していなかった場合や、公正取引委員会による検査を拒んだ場合などに科せられるが、微々たる額にすぎないといっていいだろう。
公正取引委員会による違反企業の公表は、大企業であれば報道発表された際に世間的なダメージを受けると思われるが、公表されるのは氷山の一角であり、かつ抜本的・恒久的な改善に向けて効果があるのか未知数だ。
促進すべき価格転嫁
下請法は、公正取引委員会による勧告・指導が中心であるが、そもそも法的効力を持たない。指導よりワンランク上の勧告ですら、行政が一定の行政目的の実現のために、特定の者にある行為をするように求めるなどする行政指導にすぎない。
やはり直接的な痛みがともなわなければ、現状が維持されるだけではないだろうか。
物流業界における買いたたきや不当な役務の強要は、日本だけでなく世界的な課題だ。例えばスペインでは、トラックドライバーに対して荷物の積み下ろしといった不当な役務を強要した場合は罰金が科せられている。罰金額は、
・初犯:4001~6000ユーロ(約70~100万円)
・12か月以内に再犯した場合:6001~18000ユーロ(約100~300万円)
となる。日本では、2023年7月に“トラックGメン”を創設し、親事業者による
・運賃や料金の不当な据え置き
・無理な運送依頼
・長時間の荷待ち
などの違反行為に対する是正・指導を行っている。しかしながら罰則はなく、要請に従わなかった場合に勧告・公表される程度である。
2024年1月に、国土交通省は要請後もなお違反行為をしているとして、
・王子マテリア(東京都中央区。王子グループに属する製紙会社)
・ヤマト運輸(同)
に対し勧告・公表を行ったのは記憶に新しい。このことからも、大企業ですら行政による要請ぐらいでは従わないのが現実といえよう。
性善説に基づくのではなく、高額な罰金をちらつかせてでも下請法を順守させる時にきているのかもしれない。
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運賃が適正になっても経営者の懐に入りドライバーの給料には反映されません。
トラックを擦った擦ったレベルで数十万の修理代をドライバーから取ったりする経営者も多い。