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乗り手を選ぶ刺激的な“ゴーカート” ──新型ミニ ジョン クーパー ワークスクラブマン試乗記

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乗り手を選ぶ刺激的な“ゴーカート” ──新型ミニ ジョン クーパー ワークスクラブマン試乗記

ミニは個性のカタマリだ。コンパクトなサイズ、丸目ヘッドライトに“四角丸い”ボディを組み合わせたデザイン、そしてゴーカート・フィーリングを標榜する俊敏な走りなどが、ミニの個性である。

とはいえ、ミニがBMW傘下に入ってまもなく20年。当時生まれた子供もそろそろ成人しようか、という時代である。それだけに、ミニの立ち位置に微妙な変化が生まれたのも当然といえる。

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オリジナルのミニは1959年に販売開始された。an.niedermeyerもうひとつ、ミニのクルマ作りに影響を与えているのが、親会社というべきBMWの存在だ。2001年にいわゆる“ニュー・ミニ”が誕生した当時、BMWは後輪駆動モデルもしくは後輪駆動ベースの4WDモデルだけを作る自動車メーカーだった。

裏を返せば、その時点でのミニは、BMWとは直接関係ない専用プラットフォームを使っていたのである。

新生ミニは2001年に登場。オリジナルとおなじく駆動方式はFWD(前輪駆動)。それが2010年代の半ばを迎え、BMWも前輪駆動モデルをラインナップにくわわるようになった。このため、3代目以降のミニ(クラブマンは2代目以降)はBMWとプラットフォームを共用する方向に方針があらためられる。これがミニの走りにも見逃せない影響を与えた、と、私は捉えていた。

1959年に誕生したオリジナルのミニは、スペース効率や機敏な走りなどを優先し、ラバーコーン・サスペンションを採用していた。このためタイヤが上下できる長さ(サスペンション・ストローク)が必然的に短くなり、これがゴーカート・フィーリングを生み出す要因だった。

オリジナルのミニは、ラリーでも活躍した。いっぽう、21世紀を迎えて登場した“ニュー・ミニ”はラバーコーンが採用されず、一般的なコイルスプリングが使われたが、それでも往年の味を再現するため、サスペンション・ストロークは敢えて短めに設定された。というか、少なくともそう感じさせる乗り味に仕上げられていた。ゴーカート・フィーリングの現代的解釈といっていいだろう。

ところが、前述のとおり2010年代半ばの第3世代ミニからはBMWとプラットフォームを共用するようになる。当然、BMWはサスペンション・ストロークを常識的な長さに設定した。それでもミニだけはストロークを短いままにするという選択肢もあったはずであるが、ゆったりとしたサスペンション・ストロークのほうが快適な乗り心地を作り出すうえで有利なのは当然のこと。結果、3代目ミニは、これまでよりストローク感に余裕のあるゆったりとした乗り心地を手に入れたのである。

初代ミニ(手前)と現行ミニ(奥)。写真の現行ミニは、オリジナル・ミニの登場60周年を記念した特別限定モデルだ。Richard_Newtonブレーキ・トルク・ベクタリングを搭載する意味でも、この方向性はいわゆる“ゴーカート・フィーリング”と相反するもの。とりわけ、カタログモデル中もっともスポーティなグレードのジョン クーパー ワークス(JCW)にとっては深刻な問題だった。

そこで3代目ミニのJCWはブレーキ・トルク・ベクタリングによって俊敏なハンドリングを手に入れようとしたのでは? というのが、私なりの分析だった。

【主要諸元(ジョン クーパー ワークス クラブマン ALL4 オートマティック:海外仕様)】全長×全幅×全高:4266mm×1800mm×1441mm、ホイールベース:2670mm、車両重量:1550kg、乗車定員:5名、エンジン:1998cc直列4気筒DOHCターボ(306ps/5000~6250rpm、450Nm/1750~4500rpm)、トランスミッション:8AT、駆動方式:4WD、タイヤサイズ:225/40ZR18、価格:-。www.guenterschmied.comブレーキ・トルク・ベクタリングの原理は、ブルドーザーに使われる無限軌道(いわゆる“キャタピラー”)をイメージするとわかりやすい。無限軌道にステアリングはなく、左右の駆動力に差をつけ、進行方向を変えている。これとおなじように、もしもコーナリング中にクルマの内側だけブレーキをかければ、クルマはより強く内側に曲がろうとする。これがブレーキ・トルク・ベクタリングの原理だ。

しかし、私たちが慣れ親しんだステアリングによる操舵とは原理が異なるため、味付け次第では違和感を覚える可能性があるのも宿命といえる。

ボディは4266mm×1800mm×1441mm。www.guenterschmied.com初めて3代目ミニのJCWに試乗したとき、ブレーキ・トルク・ベクタリングの効き方に、私はうまく馴染めなかったが、今回、マイナーチェンジを受けた新型ミニ JCW クラブマンは違和感が一掃され、とてもナチュラルなハンドリングを手に入れていたのだ。

最高出力は300psオーバーへ試乗会の会場は、ドイツ・フランクフルトの一般道。走り始めてすぐに、乗り心地がJCWらしいソリッドなものであることを思い知らされる。路面のちょっとした段差でもドンッ、ドンッと揺さぶられるが、不思議と不快に思わないのはそこに安っぽい振動が伴わず、良質なダンパーにより滑らかな動きに変換されているからだろう。

ハンドリングはブレーキ・トルク・ベクタリングの存在をほとんど感じさせないものの、相変わらず手首のちょっとした動きを見逃さないほどクイック。サスペンション・スプリングを硬めに設定しているほか、キャンバーやトウといったサスペンション・アラインメント(平たくいえばタイヤの向き)に工夫をくわえ、俊敏なステアリング・レスポンスを確保したらしい。これだったら従来からのミニ・ファンにも納得してもらえそうだ。

ミニ JCW クラブマンの最高速度は250km/h。8ATのシフトレバーは細身。www.guenterschmied.comただ、ちょっとしたクセも見受けられた。たとえば上り坂のコーナーでスロットルペダルを途中で踏み増せば、ハンドリングはアンダーステアといって走行の軌跡が外側に移動するのが一般的であるが、新型ミニ JCW クラブマンは反対に軽いオーバーステア傾向を示す。つまりコーナーの内側を目指そうとするのだ。

もっとも、その量は決して大きくないし、オーバーステアに移行する過程もおだやかだから心配は無用。それどころか、慣れればスロットルペダルの踏み加減で走行ラインを微調整する強力な武器にもなってくれるだろう。

新しいミニ JCW クラブマンが搭載するエンジンは1998cc直列4気筒DOHCターボ(306ps/5000~6250rpm、450Nm/1750~4500rpm)。www.guenterschmied.comインテリアはJCW専用デザインのパーツが多数備わる。www.guenterschmied.com純正インフォテインメント・システムは専用アプリケーションとの連携機能がくわわった。www.guenterschmied.comエンジンはマイナーチェンジ前の231ps/350Nmから306ps/450Nmへ大幅にパフォーマンスアップした。これを最初に聞いたとき、排気量が変わったとか、過給方法が根本的に見直されたとか、大幅な変更を予想したものの、実際は過給圧を上げ、圧縮比を落として実現したという。

通常、この手法は燃費が悪くなるうえにスロットル・ペダルを踏んでもすぐには反応しない“ドッカン・ターボ”になりがちであるが、新型ミニは低速域から力強く、しかもレスポンスは良好。おまけに最新のエミッション規制にも対応しているというから、まるでキツネにつままれたような気分になる。

シートはJCW専用デザイン。ヘッドレスト一体型のバケットタイプである。www.guenterschmied.comリアシート専用のエアコン吹き出し口とUSB端子もある。ラゲッジルーム容量は通常時360リッター。リアシートをすべて格納すると1250リッターまで拡大する。www.guenterschmied.comそれだけでなく、高回転域まできっちりとまわり、そんなときには乾いた快音とスムーズな回転フィールまで伝えてドライバーの快感神経をくすぐってくれる。本当に驚くべきエンジンだ。

人工的な味付けを省きながら往年の走りを再現した新型ミニ JCW クラブマンは、古くからのミニ・ファンにも「とびきりスパイシーなホットハッチが欲しい」という向きにも受け入れてもらえるだろう。

静止状態から100km/hまでに要する時間は4.9秒。ただし、あらゆる意味でクルマが発する刺激が強いので、乗り手にもそれなりの覚悟というか、ミニの発する刺激に負けないくらいエネルギッシュであることが求められるような気がする。しかし、それもまたミニの個性のひとつ。

つまり、この世界観に馴染めるかどうかで好き嫌いがはっきりと分かれるコンパクト・プレミアムカーがミニなのである。

文・大谷達也

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