初出場での優勝、虎視眈々と
モータースポーツで初めての足跡を残すには最高の舞台だろう。競技用モータースポーツとはまったく無縁だったルーマニアの低価格車ブランド、ダチアが、3台のマシンをダカール・ラリーにエントリーさせ、壮大で過酷なレースに真っ向から挑む。
【画像】新参戦でどこまでやれる? 日産エンジン搭載の新型ラリーマシン【ダチア・サンドライダーを写真で見る】 全19枚
ダカール・ラリーは、その名称とはあまり関係のないサウジアラビアの砂漠で6回目の開催を迎える。1月3日から17日までの2週間にわたって行われるこのラリーで最も注目すべきポイントは、ルノー傘下のダチアが、二輪車やトラックなど計340台のエントリーに名を連ねていることだけではない。実は、優勝のチャンスがあるのだ。
なぜなら、ダチアが初のモータースポーツ活動のパートナーとして、英国のプロドライブ社と提携するという極めて賢明な決断を下したからだ。世界屈指のスペシャリストであるプロドライブ社は、ダカールでの優勝経験はまだないが、昨年1月に世界ラリー選手権でセバスチャン・ローブが3位表彰台を獲得したハンターT1+からわかるように、ラリーについても多少の心得があることは確かだ。
ローブは、かつてのエクストリームEのパートナーであるクリスティーナ・グティエレスと、ダカール・ラリーで5度の優勝経験を持つナセル・アルアティヤとともに、ダチアのハンドルを握る。控え目に言っても、なかなかの布陣だ。
だから、希望もあるし、楽観的になる余地もある。しかし、プロドライブ社のベテランエンジニアたちは、軽率な予測を立てるほど愚かではない。ダカールを制覇するには、3台の新型ダチア・サンドライダーがプロローグと12のステージを走破しなければならない。その中には、48時間続くいわゆる「クロノ」や、「マラソン」と呼ばれるステージも含まれている。そして、まさにその名が示す通り、「エンプティクォーター」と呼ばれる無人の砂漠地帯から無傷で生還しなければならない。
スタート地点のサウジ南西部ビシャから、東部シュバイタのゴールまでの総走行距離は7700kmで、そのうち競技区間は5100kmである。 途方もない距離だ。
しかし、なぜダチアがこんなことに挑戦するのか? その答えを探るために、AUTOCARは英国バンベリーにあるプロドライブの本社を訪ねた。
日産の3.0L V6エンジンを搭載
ダチアUKのブランドディレクターであるルーク・ブロード氏によると、参戦理由は簡単に言えば「クールだから」だという。
また、予算重視のユーザー向けの頑丈なアウトドア車という新しいブランド戦略を採用し、「人間的冒険」という理念を掲げるダチアにとって、壮大なラリーは最適と言える。
「目標は勝利すること」とブロード氏は言う。「しかし、同時に、市販車に影響を与える革新技術を開発するための屋外試験場でもあり、持続可能燃料の実験でもある」
その目的のため、サンドライダーはサウジアラムコ社が供給する合成燃料で走る。サンドライダーは特注のデザインで、ダチアの真骨頂であると技術責任者のフィリップ・ドゥナビン氏は語る。デザイナーがコンセプトとスタイリングに携わり、プロドライブ社とのコラボレーションはスムーズに進んだという。
サンドライダーは頑丈な鋼管シャシーを中心に設計されており、カーボンファイバー製ボディと日産の3.0L V6エンジンを載せ、特注の4×4トランスミッションを介して、BFグッドリッチ製オールテレーンタイヤを駆動する。
車両全体を見渡すと、リアのダブルスプリングとショックアブソーバーの並列配置が目立つが、これが合理的なアドバンテージを与えている。「ダンパーシステムが2つあれば、片方を失ってもクルマを走らせる手段が残っている」と、ドゥナビン氏は言う。
コックピットの後方にある大型ダクトに収納されたスペアホイールは、素早く取り外すことができる。ステージ上ではドライバーとナビゲーターは自分たちだけで作業を行わなければならないため、プロドライブ社はドライバーたちにあらゆる修理方法を徹底的に教え込んだ。
チームメンバーが物理的に彼らを手助けすることは禁じられている。それでも、サポートは常に手の届くところにある。3台のサンドライダーは、技術的バックアップとして参加するT5レーストラックに、約40~50分間隔で追いかけられることになる。
チーム一丸となって挑む過酷なラリー
エアコン完備のキャビン内は、予想通り狭い。油圧式のサイドブレーキと頑丈な機械式のシフトレバーがある。ナビゲーターは2枚のタブレット端末を操作し、ドライバーは視線の先にある小型スクリーンで方向を確認する。ラリーレイドはWRCとは異なり、ドライバーが詳細なペースノートを聞くことはない。なぜなら、彼らの行く先に道路はないからだ……。
「全体的なパッケージが非常にコンパクトで、それが最高のパフォーマンスをもたらしている。重量の大半はホイールベース内に収まっている。目立たない部分こそが重要だ。重心を下げ、重量をホイール間に保つことで、クルマを扱いやすくしているのだ」とドゥナビン氏は説明する。
ダカール・ラリーはドライバーだけでなく、チーム全体にも厳しい。チームは自立していなければならない。「主催者は野営地に食料、シャワー、トイレを用意する。それ以外は自分たちで用意する」とチーフ・テクニシャンのアラン・マクギネス氏は言う。
筆者は1人用のテントを見せていただいた。そのうちのいくつかはサービストラックの上に取り付けられており、見た目に反して快適なようだ。
サンドライダーの開発プロジェクトは完璧なスタートを切った。2023年前半に構想され、昨年の春に発表された後、夏季も絶え間なくテストが行われた。
10月の5日間のモロッコ・ラリーは、ダカールの伝統的なウォームアップイベントであるが、アルアティヤとローブが1位と2位を独占した。
ドゥナビン氏は、サンドライダーを誇らしげに見つめている。「ダカールで優勝できたら、もっと愛着が湧くだろう。耐久レースに少し似ている。ル・マン24時間レースとダカールでの優勝は同じようなものだ」
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みんなのコメント
プロドライブのダカール優勝経験がないのは確かですが、ラリーではSUBARUのマシンを供給し、WRCで総合優勝を果たした実績があります。
なので、ラリーではなく、ラリーレイドでの実績はまだ足りないと言うところですかね。
負ければ、「あの車はセカンドブランドだから」と
VWもラリーにはSEATやシュコダで参戦