現在、国内外の自動車メーカーがソフトウェアメーカーなどと共同で次世代の車載OSを開発している。とはいえ、車載OSと聞いて、「ああ、あれね」と理解できる人は少ないと思う。今回はそんなわかりにくい車載OSについて、やさしく解説していきたい。
※本稿は2023年5月のものです
文/鈴木直也、写真/TESLA、ベストカー編集部、Adobe Stock
初出:『ベストカー』2023年6月26日号
iOSとかAndroidなら知ってるけど……クルマにもOSあったの!? 車載OSの謎教えます
■車載OSとはどのような役割を果たすものなのか?
現状のクルマのコンピュータシステムは、全体を統合するようなOSはなく、各システムが通信しあいながら機能している
車載OSを説明する際、よく使われる例えがパソコンやスマホなどのIT機器だ。
「ほら、PCならウィンドウズやマックOS、スマホならアンドロイドとかiOSがあるでしょ? それのクルマ版ですよ」と説明されると、何となく納得してしまう。
でも、これって結構乱暴な説明だよね。ちょっと詳しい人なら「アプリを動かす共通プラットフォームとしてOSがあると便利」といった理解はあるけど、多くの人にはOSなんてブラックボックスと言っていい。
このへんを掘り下げてみると、クルマにおけるコンピュータ利用の歴史が絡んでくる。
クルマに最初にコンピュータが導入されたのは電子制御燃料噴射、つまりエンジンの制御だ。
そこから始まって、電子制御AT、電子制御アンチロックブレーキ(ABS)、SRSエアバッグ、追従クルーズコントロール(ACC)、先進運転支援システム(ADAS)など、建て増し建て増しで、なし崩し的にその利用範囲が拡大していった。
こういった歴史的経緯があるから、クルマのコンピュータシステムはそれぞれ自分専用のマイコン(ECU)を持った、いわば独立王国。全体を統合するようなOSはなく、各システムが通信しあいながら自分の仕事をこなしているのが現状だ。
現在は各ユニットにソフトを組み込みハードとセットで機能させている
こういうアーキテクチャは信頼性確保には都合がいいものの、規模が大きくなりすぎると破綻する。最近のクルマは高級車になると搭載されるマイコンは100個以上とかザラ。
しかも、ADASみたいな高度なシステムは複数のECUの連携が不可欠で、ハードもソフトも「なんとかしないとそろそろ限界だー!」と悲鳴を上げている。
その問題を解消する切り札として、最新の車載OSに期待が集まっているというわけなんだね。
■現行の技術と開発中のOSは何が違うのか?
テスラはすでに車載OSをアップデートすることで機能向上させる方式を採用している
クルマのコンピュータシステムを車載OSで統合すると何が嬉しいかというと、これは圧倒的にメーカーが嬉しい。
ハード面でいえば、各システムごとに分散配置していたマイコン(ECU)を大幅に削減することが可能。実際、テスラはすでに自動運転用とメディアコントロール用の2つにECUを統合している。
ま、そのぶん圧倒的に高性能(=高価)なECUが必須となるから、トータルでどのくらいコストダウンできるかは不明だし、冗長性のない統合ECUでどこまで安全性を担保できるのかも不透明なんだけど、流れとしては確実にECU統合化に向かっていると見て間違いない。
もうひとつ、ぼくはこちらのほうが圧倒的に重要だと思うんだけど、ソフトウェアの生産性が向上する。
OSの重要な役割はハードの違いをソフトで吸収すること。ウィンドウズが搭載されていれば、どんなコンピュータでもエクセルは動く。同じ理屈で、車載OSによってハードウェアを仮想化できれば、車種ごとに異なる制御ソフトを作らなくても済む(かもしれない)。
もうひとつ、ECUのパワーを適切に配分するのもOSの重要な役割。エアバッグの展開や衝突被害軽減ブレーキの作動は、ミリ秒単位のリアルタイム性が要求されるが、パワーウィンドウの作動なんか1秒くらい遅れても全然問題ない。
逆にいえば、ECUを統合化するには効率よく計算能力の振り分けができるOSが必須。車載OSと統合ECUは不可分の存在といってもいいわけですね。
■次世代OSの現状とは? 電動化で差別化が課題に
トヨタのアリーンOSはハードとソフトを分離。アプリ単独で進化可能になる
自動車でコンピュータ利用が始まった当初、最重要テーマだったのは排ガス浄化システム。コンピュータなしで排ガス規制を乗り切ることはできなかった。
やがて、エンジン出力の向上やクルマの運動制御にもコンピュータが使われるようになり、今では安全性向上にも大きく寄与するようになった。
しかし、よく考えてみるとこれはらすべて「走り」に関わる機能だから、自動車メーカーにとっては門外不出の技術であり、他人(他社)が立ち入ることができない領域だったわけだ。ところが、車載OSはこの「壁」を切り崩す可能性がある。
すでに、その兆候はカー・インフォテイメントでは現実のものとなっていて、インパネのセンターディスプレイがアップル・カープレイやアンドロイド・オートに侵食されているのはご存知のとおり。おかげで、低価格車では純正ナビは風前の灯だ。
現在開発中の次世代OS
センターディスプレイの次は、クルマ全体のOSがターゲットになるのは必然。新興EVベンチャーに車載OSとカー・インフォテイメントがセットで供給される日はそう遠くないかもしれない。
自動車メーカーが車載OSの開発を急ぐのは、こういうシナリオに強い危機感を持っているからだ。
とはいっても、既存の自動車メーカーにとって見通しはそれほど明るくない。
現行の内燃機関は、排ガス浄化システムにデリケートな制御が要求されるため、そこで消費されるECUパワーがかなり大きい。これに対して、モーター制御は圧倒的にECU負荷が軽く、パワートレーンでの差別化はエンジン時代より難しくなると予想されている。
となると、残るは駆動力制御やサスペンションの電子制御化などを駆使してヴィークルダイナミクス性能で差をつけるか、通信機能を使ってメーカー独自のコネクティッドサービスを提供するか……、選択肢はそれほど多くない。
■OS覇権争いはあるのか? ヒントはテスラにあり!?
テスラの魅力はハードよりも優れたコネクティッドサービスにある
ここでヒントになるのは、先行するテスラの事例かもしれない。ぼくの見るところ、テスラの魅力はクルマそのものではなく、優れたコネクティッドサービスだ。
例えば、強力な充電ネットワークとクルマに統合された決済システム。OTAで常に最新バージョンが提供される車載ソフト。レベル2ながら新鮮なユーザー体験を提供するオートパイロット。セントリーモード(駐車時の周辺監視)など、気の利いたアクセサリーソフトなどなど……。
一部に「脱法的」という批判はあるものの、コネクティッド機能の活用という点では既存の自動車メーカーに大差をつけるセンスと実行力がある。
テスラは車載OSについては対外的に何もアナウンスしていないが、すでにECUの統合を完了しているということはすでに車載OSが実用段階にあるということ。魅力的な車載ソフトをどんどん開発し、それを効率的に統合するには、優れた車載OSが不可欠といえる。
現状、既存の大手自動車メーカーで車載OSの開発を公表しているのは、トヨタのアリーン、VWグループのQNX、ソニー・ホンダモビリティなどがあるが、テスラほど目立った成果を上げているところは皆無。率直に言って、「勝負はこれから」というのが現状なんじゃないかと思うなぁ。
■次世代OSで期待されるクルマの進化とは?
コネクティッドという面で、スマホとどう差別化するのかが課題
スマホやパソコンのようにソフトウェアのアップデートで機能を更新できる自動車を意味する、ソフトウェア・ディファインド・ヴィークル(SDV)という言葉が、いま自動車業界でバズっている。
こういう新しい言葉でユーザーを煙に巻くのもいい加減にしてほしいけど、意訳すれば「これからのクルマはソフトが勝負だ」ってこと。まぁ言ってる人の気持ちはわかる。
要するに、EV時代にはハードウェアで差別化が難しくなり、新しいユーザー体験を提供しないと勝ち残れない。そこでキモとなるのがソフトウェアってわけだ。
ところが、そこで最強のライバルとして立ちはだかるのが、皆さんが当然のようにお持ちのスマホ。スマホでできること(検索、マップ、ゲーム、決済などなど)がクルマでもできますと言われても、「だったらスマホでいいじゃん」で終了してしまう。
クルマというハードウェアを介さないと実現不可能なソフトウェア体験を、新しい車載OS上で、できればサブスクで提供する。これが、どのメーカーも共通のテーマとなっている。
そこで究極のコンテンツとなるのは、やはりレベル3以上の自動運転機能だろう。
実際、テスラはアメリカでフル・セルフ・ドライビング(FSD)を1万5000ドル(日本円で約205万円)で提供している。FSDはレベル3認定すらない「なんちゃって自動運転」だがユーザーの人気は高い。
スマホに課金してネットフリックスを見るように、ベース車両にユーザーが好みの機能をサブスクで盛りつける。近い将来、SDV時代のクルマはそんな風に楽しむのかもしれませんねぇ。
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みんなのコメント
何を言いたいのか分からない。
最初に見た時、カーナビのOSについて書いた記事かなって思って読んだけど
車載コンピュータの話ね
コンピュータは何でもかんでもOSがあるわけでない
少しコンピュータの事をかじった記者がつまらない記事