オートポリスで行われた2023スーパーGT第7戦『AUTOPOLIS GT450km RACE』の決勝レース。GT500クラスは最終戦でのチャンピオンを優位に進めるために、上位ランカーたちによる白熱のバトルが繰り広げられ、12番手スタートのau TOM’S GR Supraが見事な逆転優勝を飾った。
今回は随所でオーバーテイクが見られるレース展開となったなか、レース終盤に一際注目を集める走りをしていたのが、36号車の宮田莉朋だった。宮田は3号車Niterra MOTUL Zの高星明誠、16号車ARTA MUGEN NSX-GTの大津弘樹とチャンピオンを争うライバルとの直接対決を制し、相方の坪井翔と共に今季2勝目を飾った。
高速100Rで2台抜き。ZENT立川が魅せたキレキレのオーバーテイクショー「最後のオートポリス、スッキリと終えられました」
終盤まで勢いある走りを維持していた宮田。ただ、バトルになると“ワンチャンスの見極め”が重要になったと振り返った。
■「どうやって裏をかくか、そのチャンスがいつ来るかを考えていた」36号車au TOM'S GR Supra宮田莉朋
スタートを務めた坪井が1スティント目を34周目まで引っ張り、最初のピットストップで宮田に交代。2回目のピットストップを終えたて6番手で戦列に復帰すると、フレッシュタイヤでのペースの良さも活かし、ポジションを上げていった。
70周目にZENT CERUMO GR Supraを抜いて3番手に浮上した宮田は、チャンピオン争いで何としても前に出ておきたい3号車の高星とのバトルに発展していく。
「3号車は燃料リストリクターが入っている割にホームストレートが速くて、それで追い抜くのは難しかったんですけど、クルマのパフォーマンス的には僕たちの方が高そうなイメージがコーナー区間で見られていたので、GT300のトラフィックなど何かチャンスが来れば追い抜くことができるかなと、落ち着いて見れていました。そのチャンスをいつ作れるかというのをうかがっていた感じですね」と宮田。
何度か並びかけるシーンはあったが「無理して当たるのはもったいないと思っていましたし、みんなプロドライバーで賢いので、どこで押さえれば抜かれないというのも分かっていたと思います。それに対して、どうやって裏をかくというか、違った引き出しを使えるかというのを考えていました」と、宮田はリスクを最小限にして抜くチャンスを冷静に探っていた。
そしてそのチャンスが到来したのが、77周目の1コーナーから第1ヘアピン(日立Astemoコーナー)だった。36号車au宮田は左コーナーが連続する4・5コーナーで思い切りアウトから3号車Niterra高星に並びかけ、第1ヘアピンでインからオーバーテイクを決めた。
一見、大胆な仕掛け方に見えたが「GT300のトラフィックを処理している時に、4・5コーナーのアウト側が使えるなというのは分かっていて、そこで並んでいって、その勢いで第1ヘアピンのインに入っていれば絶対に抜けるという感覚はありました。ただ、そこの隙をどう突くかというのが難しかったところですね」と宮田。目論見通りのパターンに持ち込み、2番手に浮上した。
一方、抜かれた高星は「(バトルをしていて)単純に走っているパフォーマンスで違いがありました。もちろん36号車の前でゴールしたかったですし、その気持ちが強かったですけど、自分たちが3位でゴールになれると思っていなかったので、そこは自分たちのベストは尽くせたと思います」とコメント。ランキング首位の座を奪われたのは悔しい様子だったものの、3位でゴールできたことは、彼らにとってもポジティブな結果だったようだ。
■「仕掛けられる距離感だと思っていなかったし、インの締め方が甘かった」16号車ARTA MUGEN NSX-GT大津弘樹
これで2番手に浮上した宮田は、すぐさまトップの16号車ARTA大津に接近。「16号車に追いつけば、抜くチャンスはあるかなとは思っていました。ただ、追いつけたとしても、オートポリスは抜きづらいコースなので、どこでチャンスを作れるかがポイントでした」と宮田。高星の時と同様に、一筋縄で行かないことは重々承知していた。
これに対して逃げる側の大津は、ソフト側のタイヤを選んでいたこともあり、ピックアップに加えて熱ダレも起きていたとのこと。それでも「とにかく抜かれたくなくて、あれこれ考えずに必死に守っていた感じでした」と、当時の心境を振り返る。
一進一退の攻防が続いた中で決め手となったのが、87周目に入るメインストレートだ。ちょうど最終コーナーの立ち上がりでGT300に引っかかった大津を見逃さず、スリップストリームに入った宮田。並びかける素振りを見せるが、「思いの外、16号車のストレートが速いということは分かっていましたし、(1コーナーで)イン側を押さえられたら抜くのは無理というのは分かっていました。自分たちはコーナーでのパフォーマンスが高いことはわかっていたので、1コーナーから第2へアピンまでがチャンスかなと考えていました」と、冷静に状況を見極め、直後の第2ヘアピンでインからのオーバーテイクに成功した。
それまでは細心の注意を払って宮田の猛攻を凌いでいた大津だが、第2ヘアピンではわずかに隙が出た模様。「来られない距離感だと思ったのと、ちょっとインの締め方も甘かったのかなと……振り返れば、やりようはいろいろあったと思います」と悔しい表情で語った。
これに対して宮田は「ブレーキで自信を持って飛び込めていましたし、そこが強みだと思っていたので、あとは『一発でいつ仕留めるか?』を考えていました」と、チャンスを狙い続けていたという。
12番手スタートからトップに躍り出た宮田。あとはペースの良さを活かしてゴールまでマシンを運ぶだけかと思われたが、実際には楽な状態ではなく「追い上げている時から燃費走行をしていました」とのこと。
「燃費とラップタイムを両立させないといけないスティントでしたけど、気をつけていてもガス欠は起きることなので、最後の2周くらいは完全に燃費走行に振っていました」と、不安要素を拭いきれないままチェッカーの瞬間を迎えたという。
今季2勝目を飾り、パルクフェルメで相方の坪井と喜びを分かち合った宮田。「いろいろな意味で今回は自分にとっても自信につながるレースになったと思いますし、それを結果に繋げられたレースだったと思います」と、いつになく自身のレース運びに胸を張っている様子だった。
一方、白熱のトップ争いに敗れた大津は「今年はペナルティやミスはすごくあったのですけど、チームは今回完璧な仕事をしてくれたと思います。完璧なレース展開だったからこそ、もっとこうしたいなという部分も出てきました。次につながるレースでした」と前向きに捉えようとしていた。
とは言っても、まだまだ第2ヘアピンでのバトルでは悔いが残っている様子。「自分自身も詰めが甘かったなとすごく感じでいます。そこが許せないですね……」と、悔しさのあまりか、大津は目頭を熱くさせていた。
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