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ホンモノの誘惑 中古で探すアストンDB7/フェラーリF355/ポルシェ911ターボ 前編

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ホンモノの誘惑 中古で探すアストンDB7/フェラーリF355/ポルシェ911ターボ 前編

もくじ

前編
ー ネオヒス・スーパーカーのススメ
ー アストンの救世主
ー 英国紳士のごとき振る舞い
ー 黒いドレスの美女
ー じゃじゃ馬慣らしもまた一興

すばらしきタルガの世界(4) フェラーリF355 vs TVRタスカン

後編
ー カルト的古典
ー スーパーカー界の万能選手
ー 結局どれを選ぶべきなのか?
ー ストレスフリーさに軍配

ネオヒス・スーパーカーのススメ

さしものスーパーカーも、10年落ちともなれば購入費用自体は格安だろう。けれど、それを維持するための経済的負担は新車と同等か、むしろそれ以上だということを忘れてはならない。

刺激的で甘美なマルチシリンダーのサウンドと、100km/hまで5秒とかからない加速力が放つ輝きを失わないためには、それなりの代価が要求されるのだ。

と、きわめて現実的な話から入ってしまったけれど、皆さんの購買意欲に水を差すつもりは毛頭ない。むしろその正反対だ。クラシックと呼ぶには早い程度に古いエキゾティックカーならば安心して日々の足にできるレベルの信頼性をもっている。現在では、800万円級のスーパーカーであれば、購入を真剣に検討する際にそれほど窮地に陥る事態を心配しなくてもよくなっている。  

ここに並んだアストン マーティン、フェラーリ、そしてポルシェの過去の名作3台は、まさにそのことを身をもって示している。驚くほど走行距離が少ないアストンDB7 V12ヴァンテージが、1000万円を切る価格で入手できる。もう少しだけ多い走行距離と高い値札を許容できるなら、あのフェラーリF355のキーでさえ手にすることができる。

そしてもう1台、忘れてはならないのが、タイプ993のポルシェ911ターボだ。オドメーターが刻む距離がそれなりに進んでいても、そもそもポルシェは酷使に耐える設計だから、適切なメンテナンスで新車同様に復活する。

さて、これらはみな価格的にはほぼ同じだ。問題なのは、どれが「ベスト・バイなのか?」ということである。

アストンの救世主

DB7がどれほど成功したかを直感的に理解したいのであれば、この数字を覚えておくといい。アストンが1914年に創業して以来、昨年末までに例のウイングマークを付けたクルマは2万2000台ほど生産された。そのうちの実に7000台あまりがDB7である。絶対的には決して大きい数値ではないが、アストンにとって空前の大ヒット作なのは明白だ。

そして、この成功が当然の結果だったのは、実物を見ればすぐに理解できる。精妙の限りを尽くしたデザイン、特にテールまわりの豪奢な曲面の優美さと魅惑的なラインは筆舌に尽くしがたい。「史上もっとも美しい1台」と呼ぶひとさえいることもすんなりと受け入れられる。  

巨大な6.0ℓV12がスチール製のボンネットの中に押し込まれたとき、このクルマの価値は突如として暴騰した。それまでの、吸気音が苦しげなスーパーチャージド直6エンジンは、取り立てて注目に値しない代物だったが、V12のパワー、サウンド、そして魂を得て、そのキャラクターを豹変させたからだ。

それが大いにウケて、DB7の売り上げは50%も急上昇した。危機的状況にあったアストンがやっと安心してひと息つけたのは、このクルマのおかげである。  

今回、このV12ヴァンテージがスポーツカーディーラーのモールヴァレーに届いたとき、ショップはそのとてつもない状態のよさに沸き返ったという。オドメーターの表示は4万5000kmで、上り調子の真っ盛りといっていい。マニュアルシフトの2000年式で、しかも全整備履歴も付いている。運転席に身を沈めると、まるで工場から出てきたばかりの新車のようだ。

ただし、フォードやマツダから借用してきたスイッチ類のチープさや、カーペットがきちんと固定されていなくて隙間からフロアパンが見えるなど、細かい問題はあった。商品としての最大のネックは、最初のオーナーのセンスを呪いたくなるほど見事に能天気な、オレンジとブルーのインテリアカラーだろう。アストンのアラカルト・オーダーも、こういう使い方をされてはむしろ害悪になる。  

英国紳士のごとき振る舞い

8年落ちのスーパーカーとして見た場合、DB7は優良物件だ。ポルシェ911と同様、このクルマは日常の足として十分に実用に耐える。短距離なら後席に子供を押し込んで移動することもできるし、もちろん荷室として使ってもいい。そして、トランクのサイズもなかなか悪くない。  

V12はほどよく消音されて控えめなうなり声を発し、クラッチとトランスミッションの各ペダルの操作感はアストン マーティン特有の適度に重みの効いた硬いフィールだ。最高出力が420psで最大トルクは55.3kg-mなのだから、走りが鈍重なはずもない。

しかし、期待するほど速くないのも残念ながら事実だ。問題なのは車両重量である。1820kgまで膨れ上がった体躯では、踊るように敏捷なスポーツカーとはお世辞にもいえない。このクルマはむしろGTカーとして接したほうがいい。

スピードに乗せて、V12にご機嫌なサウンドを奏でさせながら、連続する高速コーナーを優雅に抜けていくのだ。

剛性感たっぷりでダイレクトなステアリングを切れば、ブリヂストンのタイヤは十分なグリップを発揮し、重厚かつ安定したターンインを披露する。コーナーでテールスライドに持ち込むことも可能だ。

だが、むしろゆったりと座ってリラックスし、今度の夏のバカンスをどこで過ごすかをのんびり考えているほうが、このクルマにはずっとふさわしい。このクルマはそんなグランドツアラーなのだ。

フェラーリのようなスリルはなく、またポルシェのように呆然とするほど傑出した技術的達成度を備えてもいない。代わりに実に英国車らしい、何物にも動じない威厳を備えた、要するにアストンらしいアストンなのである。

黒いドレスの美女

10年落ちのフェラーリを扱うには、常識を常識だと信じてはいけない。なにしろスロットルのひと踏みだけで、プリマドンナは完全にご機嫌を損ねてしまうことだってあるからだ。そしてそれは、往々にして高くつく。

ただし、このフェラーリF355に関しては、そこまで慎重になる必要はないかもしれない。「現代的フェラーリ」の最初のモデルだからである。

ルカ・ディ・モンテゼーモロの指揮下で開発された最初のモデルだが、彼の呪文によってフェラーリの品質は一気に向上し、所有に伴う困難な約束事は大幅に減少した。おかげで、依然として高額きわまりないランニングコストが伴うにせよ、本当に毎日のアシとして使うことのできる、記念すべき最初のフェラーリとなった。



この左ハンドルの黒いベルリネッタは1997年式のマニュアルシフトで、オドメーターの数値はわずか4万2000kmほどだ。870万円の希望販売価格がなかなか悪くないのは、実際に運転しなくても想像できるF335の魅力を考えればわかるだろう。なんたってフェラーリなのだから。ピニンファリーナのデザインによるスタイリングには強烈な存在感があり、周囲から受ける羨望の眼差しにかけては、ほかのクルマとは役者が違う。  

この極上の個体は、健やかに年月を過ごしてきたように見える。ステルスブラックの塗装にはまだ深い艶があり、キズはまったく見当たらない。

ブラックのキャビンも見たところまったく無傷で、そしてエンジンベイには油染みのカケラもない。さらに、ともにアルミ製の穴あきペダルとむき出しのシフトゲートにも、やはりキズやサビはまったく見られない。

気になるのはダッシュボードのスイッチが、ひとつかふたつではあるが妙な位置にあることくらいだ。

じゃじゃ馬慣らしもまた一興

ステアリングの位置が遠すぎて、快適とは言い難い運転環境であることは乗り込んでみてすぐにわかったが、その程度でこの3.5ℓのチンクヴァルヴォーレ90°V8を始動するのをやめるわけがない。エンジンキーを時計回りに最後までひねる。スターターモーターが一瞬回転したかと思うと、即座にV8がそれに応えて咆哮とともに目を覚ました。なんと素晴らしい響きなのだろうか。スポーティなエグゾーストノートで、場の空気は一気に盛り上がる。  

スペックシートによると、このV8は8200rpmで380psの最高出力を、5800rpmで36.7kg-mの最大トルクを発生する。けれど、この性能を公道上で実感するのは割と大変な作業だ。このサラブレッドは普段は居眠りがちで、覚醒させるには6000rpmまでムチを入れてやらなければならないのだ。

ただし、いったんやる気を出してくれればこっちのもの。ギアチェンジの楽しさは、今やスタンダードになったF1シフトでは決して味わえない滋味にあふれ、そしてあとにした道のりは1kmごとに人生を豊かにしてくれるだろう。  

DB7のあとに乗ると、このクルマを操るには実にデリケートな手順が欠かせず、微妙な入力が勝負の勘どころとなり、そしてミドエンジンのレイアウトとドライバーを補助する手段をなにひとつもたないシャシーが極限の注意深さを要求する気むずかし屋であることに気づく。  

爆発的な加速や安定した巡航では、確かに911ターボにはかなわないかもしれない。だが、このクルマを買おうというひとは全員このクルマのなんたるかを深く理解し、そして愛しているのだと実感できる。世界中のセレブたちがこの浮気で気まぐれできっぷのいいイタリア娘に頭が上がらないのも、まったく無理はない。

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