■まさかのワールドプレミア4日後に世界最速試乗!
トヨタのタイ法人であるタイトヨタの創立60周年記念式典でサプライズ発表された1台が「ハイラックスREVO BEVコンセプト」になります。
商用車ベースの電気自動車(BEV)ですが、どのような特徴があるのでしょうか。
【画像】こりゃ速い! 初公開された新型「ハイラックスEV」の内外装を実車を見る!(31枚)
正式発売は1年以上先と現時点ではコンセプトレベルと思いきや、開発を担当したトヨタ ダイハツ エンジニアリング&マニュファクチャリングの社長兼エグゼクティブチーフエンジニアの小西良樹氏は「完成度は95%、つまり量産直前のクオリティを持つモデルです」といいます。
その証拠に、その週末にブリラム県にあるチャーン・インターナショナル・サーキットで開催された「IDEMITSU 1500 SUPER ENDURANCE 2022」のイベント会場でメディア向けにデモ走行が実施されました。
その風景を「いいなぁ……」と指をくわえて見ていると、ハイラックスの開発を担当するCVカンパニーのプレジデントである中嶋裕樹氏が「それならば、試してみますか??」という嬉しいお誘いが。お言葉に甘えて世界初の詳細なインプレッションです。
ベースとなるのは「IMV I」と呼ばれるシングルキャブの後輪駆動モデルになります。
エクステリアは特徴的なヘキサゴングリルから小さめの開口部を持ったグリルレス風のデザインへと変更されたフロント周りと大径化されたタイヤ(ダンロップ・グラントレック:265/50R20)と専用アルミホイール(光輝タイプ)。
インテリアはシンプルなアナログ式からフル液晶メーターとシフトレバーからシフトダイヤル(bZ4Xと同じデザイン)。
レバー式から電子式に変更されたパーキングブレーキがレイアウトされるセンターコンソール周りとベース車からの変更点は僅かですが、明らかに「ベースのハイラックスとはちょっと違うよね!!」と感じさせるオーラを持っています。
個人的にはハイラックスの質実剛健さとBEVの先進性が「違和感のない違和感」で融合されていると感じました。
メカニズムはどうでしょうか。
ボンネットを開けると補器類のみで、駆動用モーター(bZ4XのFFモデル用:150kW/260Nm)はベース車のリアアクスル付近に搭載されています。
ただ、ベース車と同じ車軸式のサスペンションでこれをやるとバネ下重量が大幅に増加してしまうため、リアサスはド・ディオン式に変更されています。
ド・ディオン式とは「デフを車体側に固定してサスペンションだけを動かす」という考え方は独立式に近いですが、左右のハブは車軸で繋がれているため車軸式に分類されます。
ちなみに一般的にはリーフスプリングを用いたモデルで「eアクスル」をバネ上に搭載となると、必然的にこの形式になるといい、三菱「i-MiEV/ミニキャブMiEV」もド・ディオン式です。
開発を担当したリージョナル・チーフエンジニアのJurachant Jungusuk Ph.D氏に話を聞くと「開発初期は車軸式や独立式もトライしましたが、ハイラックスにふさわしい走行性能/積載性能のバランスが取れませんでした。そこでトヨタ初となるド・ディオン式を新規に開発しました」と教えてくれました。
バッテリーはフレームの間にレイアウトされていますが、フレーム構造を活かしたままということで「カセット式」と呼ばれるブラケットを介して搭載。
バッテリーの容量は公表されていませんが、試乗前にメーター内に表示される残り航続距離を見ると206kmと表示されていました。
ちなみに筆者の試乗前に何度も全開走行のデモをしていたので、それを踏まえると恐らく航続距離は250kmから300kmくらいじゃないでしょうか。
試乗時間は短いので、いきなりアクセル全開です。
積載ゼロで空荷状態ですがホイールスピンすることなくスーッと滑らかに加速をしていきます。
BEVの強みであるアクセル操作に対する応答性の良さはいわずもがな、加速力はbZ4XのFFモデルより強めで「おっ、速いね!!」と感じるレベルですが、体感的にはモリモリと湧き出る力強さというよりも、穏やかだけどヌメーっとした粘りのあるトルク感が印象的でした。
例えとして正しいか解りませんが、静かで滑らかな大排気量NAディーゼルのような特性かなと。
ゆっくり走らせているときのアクセルコントロールは操作に忠実ですが加速の立ち上がりは穏やかなので、悪路などでの微速でのコントロールも楽じゃないかなと予想できます。
比較用に2.4リッターターボ(150ps/400Nm)+6速ATモデルにも試乗させてもらいました。
恐らくそれだけ乗れば十分満足な性能を持っていますが、乗り比べてしまうとアクセルを踏んでからの「ヨッコラショ」と1テンポ遅れて動きだす感覚やピーキーな過給特性などは気になってしまいました。
■ピックアップトラックというよりSUVに近い乗り心地?
ハイラックスレボBEVのフットワークにも驚きです。
ステア系は油圧式から電動式に変更。操舵力は油圧式よりかなり軽めの設定ですが、直進時の座りの良さや操舵した際の応答性/正確性の良さは別格。
手アンダーも出にくいので、これは是非ともベース車にも採用してほしいアイテムです。
ハンドリングは良くいえばワイルド、悪くいえば荒々しさがあるベース車とは別格で、ワークホースにしておくのはちょっと勿体ないと思ってしまったくらい洗練されています。
バッテリーを床下搭載により低重心化や前後バランスの適正化が効いているようで、空荷にも関わらず商用車特有のリアが跳ねて落ち着かない印象はないのはもちろん旋回時の車両の姿勢も安定しており、前のめりでフロントタイヤに依存した走りではなく4輪で上手に曲がっているのがよく解ります。
車両重量はかなり重いはずですが、乗っていると軽快な上に無駄な動きが出ないのでピックアップトラックであることを忘れる一体感です。
乗り心地も凹凸判定機のような突っ張った印象がなく足がよく動いている印象で、20インチタイヤ&ホイールを履いていることを考えればレベルは高くピックアップトラックよりもSUVに近い印象でした。
クルマとしての完成度の高さはもちろん、トヨタのBEVに対する“本気度”が少し見えたようにと感じました。
ハイラックスのBEV化はメインマーケットであるタイの電動化事情に対応するためには欠かせない存在というのが大きなミッションですが、筆者はそれだけではないと分析しています。
ハイラックスはタイの国民車であると同時に世界で発売されるグローバルモデルになります。
ランドクルーザーほどではありませんが、ワークホースとして世界中のあらゆる地域・道で使われることを想定したクルマ作りがおこなわれており、それが高い評価を得ています。
そんなハイラックスの名を冠したBEVを世に出す本質は「命を支えるBEV」に向けた挑戦がスタートした解釈しています。
その一つがワークホースとして絶対に譲れないフレーム構造を活かしながらBEV化させたことでしょう。
つまり、信頼性/堅牢性と電動化の融合というわけです。
もちろん、現時点では航続距離や価格の問題がありますが、個人的にはトヨタのBEV戦略が“全方位”であることを明確にする重要な役割を担った1台だと思っています。
現時点では乗用ではなく商用、それも近距離の小口配送を想定ということで、まずはシングルキャブの後輪駆動モデルから展開がスタートするようですが、技術的にはキングキャブやダブルキャブも可能。
さらにフロントにモーターをプラスした4WDモデルも検討されているといいます。
ちなみにタイのユーザーには平日は渋滞を避けるためにバイク移動、休日に趣味のクルマとしてハイラックスを楽しむというカーライフをしている人も多いと聞いているので、今後の展開によっては大きく“化ける”可能性も大です。
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