フォルクスワーゲンは2022年3月11日、バッテリーEVの「ID.Buzz(アイディ.バズ)」と「ID.Buzz Cargo(アイディ.バズ カーゴ)」を初公開した。まずは欧州で今秋に発売される予定だという。
本国ドイツでは、「Bulli(ブリー)」の愛称で親しまれた、フォルクスワーゲンタイプ2(ワーゲンバス)を想起させるスタイリングとカラーリングのID.BuzzとID.Buzz Cargo。現時点で分かっている情報とともに、フォルクスワーゲンがID.Buzzで目指す将来についても考察しよう。
これほしい!! ニューレトロこそEVの王道! VWのID.Buzzが大ヒットする可能性
文:立花義人、エムスリープロダクション
写真:フォルクスワーゲン
若者に愛され、大ヒットしたタイプ2(ワーゲンバス)
タイプ2(ワーゲンバス)は、フォルクスワーゲンの大ヒット小型乗用車「タイプ1(ビートル)」をベースにしたワンボックス型の商用モデル。初代(T1)は1950年に登場した。タイプ1と同様にRRレイアウト、そして丈夫なメカニズムと扱いやすいボディサイズで、北米をはじめ世界各国で人気となった。
1960年代から70年代にかけて、ドイツでは個人旅行がブームとなったことから、1967年に登場したタイプ2の第二世代(T2)はキャンパーとしても人気に。また、アメリカ西海岸ではヒッピームーヴメントが起こり、タイプ2はそのアイコン的存在となった。もともと商用バンという出自を持つモデルではあったが、ワンボックスバンの多用途性とアイコニックなデザインが、欧州でも北米でも、自由と自然を愛する若者たちの心に刺さったのだろう。
その後タイプ2はT3、FF化されたT4とモデルチェンジを重ね、現行型は2021年に登場したT7(日本未導入)となる。ボディサイズはアルファードやエルグランドを超えるほど大きくなったが、現在でもマルチパーパスカーとして活躍している。
初代タイプ2(T1)。アイコニックなデザインとミニバンならではのパッケージ、信頼性の高いメカニズムで世界的な人気を得た
「往年の名車復活」というより「優秀なBEV」
ID.Buzzのデザインには、大きなVWマークやポップなツートーンカラーなど、タイプ2のT1やT2をイメージさせるディテールもあるが、ヘッドライト周りやリアコンビネーションランプ、短いオーバーハングを含めた全体的な印象など、全く異なる部分も多い。
ポップなカラーリングはこのカテゴリーにしては斬新ではあるが、パイクカー的な要素はあまり感じられない。特にインテリアは最新のデジタル世代に対応したモダンな仕上がりだ。
全長は4,712mmとアルファードより200mm程度短いにもかかわらず、ホイールベースは2,988mmとほとんど同じ。バッテリーEVの利点である、レイアウトの自由度を生かした高効率パッケージングのおかげだ。乗用モデルの乗車定員は5名(将来的にはバリエーションが増えるだろう)で、後席を使用した状態での荷室容量は1,121L、2列目シートを折りたたむと2,205Lの容量を確保できる。
注目のパワートレインであるが、バッテリー容量は77kWhで、駆動用モーターは最高出力150kW(203ps)で、後輪駆動。空気抵抗係数Cd値は0.285(ID.Buzz)と、このボディ形状ながら乗用車並の空気抵抗であることは、バッテリーEVであるID.Buzzにとって重要な、航続距離にもいい影響を与えるだろう。
充電については、DC急速充電ステーションのCCSプラグコネクターを使用した場合、約30分でバッテリーを5%から80%まで充電することができるとのこと。また、ID.Buzzに蓄えられた電力を家庭で使用することができるV2Hにも対応している。
ID.Buzzのメカニズムやボディサイズ、デザインから総合的に考えると、単に往年のワーゲンバスを鳴り物入りで復活させようという雰囲気ではなさそうだ。実は、ID.Buzz投入には、フォルクスワーゲンのとある「思惑」がある。
ID.Buzz投入は単なる「新モデル」の登場ではない
フォルクスワーゲンの乗用車ブランド取締役会会長のラルフ ブラントシュテッターは、ID.Buzzについて次のように述べている。「1950年代、フォルクスワーゲンBulli(タイプ2)は自動車の世界に、自由、独立心、エモーショナルな感情といった、まったく新しい感覚をもたらしました。ID.Buzzは、このライフスタイルを、現代へと移植します。ゼロエミッション、サステナブル、完全なネットワーク機能を特徴とするこのクルマは、自動運転という次の大きな扉を開くモデルでもあります。」
タイプ2登場当時、タイプ2が持つ多様性は、(時代背景も手伝った側面はあるが)世の中に、自由や独立心といった変化を支え、そのアイコン的存在として受け入れられた。ID.Buzzはカーボンニュートラルを見据えた現代のクルマ社会の変化と、それを取り巻く人々の暮らしにおける新たなアイコンを目指し、登場した、という内容だ。全くのニューカマーで登場させるより、往年の名車に抱くイメージを重ねた方が、こうしたメッセージを伝えやすいだろう。
ID.Buzzはさらに、将来的に自律型モビリティによるライドプーリング(オンデマンド方式で、複数の人が共同で車両を利用する移動サービス)などにも活用する予定だという。ID.Buzzは一台の新しいパーソナルカーとして出現するのではなく、このカテゴリーが将来担うことになる役割を象徴するモデルにしたいということだ。
◆ ◆ ◆
往年のタイプ2の素朴な雰囲気や味わいを求める人にとっては「ちょっと違う」クルマかもしれないが、ミニバンカテゴリーの変化を象徴する一台になり得るという意味では、大いにインパクトのある一台。
今の若者たちには「映え」そうな、ID.Buzzのニューレトロな装いは、ここ日本でも大いに話題に上がる可能性は高い。日本導入に関しては現時点不明だが、今後が楽しみなモデルだ。
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