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進化するライバルへのフェルスタッペンの焦り。前代未聞76周ロングランでのドライバーの役割【中野信治のF1分析/第8戦】

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進化するライバルへのフェルスタッペンの焦り。前代未聞76周ロングランでのドライバーの役割【中野信治のF1分析/第8戦】

モナコのモンテカルロ市街地コースを舞台に行われた2024年第8戦モナコGPは、シャルル・ルクレール(フェラーリ)がポール・トゥ・ウインで、2022年第11戦オーストリアGP以来2年ぶりのキャリア通算6勝目、そして悲願の母国GP初優勝を飾りました。

今回はレッドブルの失速、我慢勝負となった決勝の鍵となったタイヤの持たせ方について、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。

ヨス・フェルスタッペン、モナコでの苦戦を受けてレッドブルF1は「もう少しレースに集中すべき」と主張

☆  ☆  ☆  ☆  ☆

ルクレールの母国初優勝が実現した今回のモナコGPではレッドブルの苦戦が際立ちました。DAZNでの解説の前にレッドブルのモナコでの走行データを見る機会がありましたが、ステアリングの舵角が大きく、クルマがあまり曲がっていないという印象を抱きました。モナコはバンピーな路面かつ小さなコーナーが多いため、いかにクルマを曲げていくかがタイムを刻む際に重要になります。

レッドブルのマシンは元々ステアリングの舵角が大きい車両でしたが、今回のモナコでも曲がらないクルマを強引に曲げていったという感じに見えました。今季は絶対的なマシンポテンシャルのアドバンテージがないなか、これまでのレースではマックス・フェルスタッペン(レッドブル)の腕でなんとか勝利を掴んでいたレッドブルですが、モナコではフェルスタッペンの技すらも効かないほど、決まっていないように見えました。

ターンインからクルマが曲がらないとなると、曲がり切っていない状況でスロットルを踏み始めることになるため、コーナーの出口でクルマの挙動が安定しません。それを証明するかのように、レッドブルがモナコで速さを見せたのは低速コーナーの多いセクター2、セクター3ではなく、比較的高速区間(ターン3~4)があるセクター1でした。

ただ、今回のレッドブルの苦戦は、レッドブルが調子を崩したことが主因というよりも、フェラーリやマクラーレンといったライバル勢がスピードを増し、周囲のマシンポテンシャルの上がり幅の方が大きかったために、より大苦戦したかのように見えたのだと感じます。レッドブルはグランドエフェクトカー規定になって以降、車体下面に空気を安定的に取り入れようと、ピッチング(減速時、加速時において車体前後が上下動すること)を抑えるべく、アンチダイブ(ブレーキング時の沈み込みを防ぐ効果)をすごく効かせたサスペンション・ジオメトリーでクルマを作ってきていました。

フェルスタッペンは予選後に「サスペンションとダンピングのないゴーカートで走っているように感じる」と口にしていましたが、私も『空気を安定的に取り入れることができ車体は安定はするものの、メカニカルグリップは薄く、足の硬いクルマ』という印象でした。とはいえ、昨年のマシンからポテンシャルが急に悪くなったというわけではなく、やはりライバル勢の進化、そして予選でのミス(ラストアタックに入った直後、ターン1のガードレールにわずかに接触し、アタックの機会を失ったこと)も響いたことが今回の決勝の6位という結果に繋がったのだと感じます。

コース幅も狭いモナコは、予選順位でレースの80パーセントが決まってしまうほど、オーバーテイクが難しいコースです。予選Q3でのフェルスタッペンのミスに関しても、ライバル勢が進化していることへの焦りが出たのではないかとも思います。

先述のとおり、レッドブルRB20が速さを見せたのはセクター1です。自分たちの持つ強みを、ポールポジションの決まるQ3の最終アタックで、最大限に活かそうと試みた末の接触だったと考えると、やはり焦りの思いもあったのではないかなと。ただ。もしフェルスタッペンが、Q3でガードレールへ接触しなかったとしても、今回のフェラーリ、マクラーレンの走りを見るに、ポールポジションは難しかったと思います。

ストリートサーキットが得意なフェラーリはエミリア・ロマーニャGPで投入したアップデートの効果も背中を押してか、うまくクルマをまとめてきました。マクラーレンもアップデートがよく効いていたようで、特にここモナコではその効果が如実に現れていたように感じます。データを見ても、マクラーレンのクルマが一番自然に走ることができている、そういった印象を抱きました。それだけに、フェルスタッペンの焦りも納得できますね。

■タイヤの持たせ方とタイヤをスクラブして使用する意味

決勝は、オープニングラップでの赤旗により、周回数3周目から再開を迎えました。F1の決勝レースでは、異なるコンパウンドのタイヤを履くことが義務付けられていますが、赤旗導入中にタイヤを交換した場合でも、義務を消化したということになるため、ほとんどのドライバーが赤旗中にタイヤを交換しました。スタート時にミディアムタイヤを履き、赤旗中にハードタイヤに履き替えたドライバーの多くが76周を同じタイヤで走るという作戦を取ったため、かつてない我慢比べのタイヤ温存レースとなりました。

このような状況下でドライバーがやることは、いかにタイヤを最後まで持たせるかを考えて、ドライビングに反映させるという至極シンプルものです。当然、連続で76周を1セットタイヤで走り切るということは、タイヤサプライヤーであるピレリの想定を越えた未知の領域です。

タイヤのゴムがなくなるまでのラップ数が見えないという状況なだけに、ドライバーはとにかくクルマをスライドさせない、ブレーキロックさせない、タイヤを横方向に使わずに、縦に使うといった事項を守ることに集中しなかればならず、その結果が大きくペースを落とす走りでした。

そういった走りであっても、オーバーテイクができないのがモナコであり、優勝したルクレールはうまくやり切ったと感じます。2位で今季初表彰台となったオスカー・ピアストリ(マクラーレン)は、ルクレールとの間合いを開けることで自分のタイヤを守り、時には少し先行するルクレールに近づくことで、冷静に相手のミスを誘うようなシーンもありました。レースペースこそ遅く、オーバーテイクも少ないレースでしたが、見えない心理戦や駆け引きという部分は数多く展開され、個人的に楽しめました。

70周以上、1セットのタイヤで走り切ることができた要因のひとつに、モナコの路面のミュー(摩擦係数)の低さ、タイヤへの攻撃性の少なさがあります。タイヤに高い負荷がかかる高速コーナーがないため、タイヤをスライドさせなければタイヤは基本的には長持ちします。

また、タイヤを長持ちさせるべく、もうひとつできることがあります。たとえば、今回の決勝でミディアムタイヤスタートだった(角田)裕毅は赤旗後にハードタイヤに交換しました。このハードタイヤは新品ではなく、金曜日のフリー走行の際に1周だけ走行したスクラブ(皮剥き)済のタイヤでした。実は、新品タイヤよりもスクラブしたタイヤの方が長持ちすると言われています。

ピットでのタイヤ交換を終えた直後、履き替えたタイヤの内圧は低い状態です。そこから、ピットアウト後のアウトラップで一気に内圧が高まる状況となると、それはタイヤに一気に負荷をかけることになります。そこで、ピットストップの際に新品ではなくタイヤのトレッド表面をスクラブしたタイヤを履くと、一度熱の入ったタイヤのためコンパウンドが硬化し、タイヤへの負荷のかかり方が減る“可能性”がある、という理由から、F1だけではなくさまざまなレースカテゴリーで見られる動きだったりします。

ただ、おそらくF1ドライバー自身の感覚、さらにいえばピレリのエンジニアたちも、「スクラブした方がいいだろう」とは思いつつも、スクラブした方が絶対的に長持ちするという確証は持っていないと思います。この部分は、各チームのタイヤに対する考え方や、タイヤ戦略の組み立てにおいて鍵となる部分ですので、私も興味深く見ています。

アストンマーティン含む勢力図の見極めは第10戦スペインGP

今回も裕毅は予選、決勝といい走りを見せてくれました。今の裕毅は安定していますし、安心して観ていられますね。ランキング9位のフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)が今回ノーポイントに終わり、裕毅とアロンソのポイント差は14点にまで縮まりました。

少し前までレッドブル、フェラーリ、マクラーレン、メルセデスとともに5強に数えられたアストンマーティンですが、昨年のモナコでフロントロウを獲得したアロンソまでもが今年のQ1で敗退という結果となりました。予選、レースの走りを振り返ると、アストンマーティンとRBは、マシンのポテンシャルという部分ではほぼ互角なのではないかと感じます。

サーキットによってこの構図がどのように変わるかというところは未知数ですが、一発の速さ、レースでのタイヤのデグラデーション(性能劣化)も含めたパフォーマンス全体で、今は五分五分に近いところまで来ているかと。あとは、それぞれのチームが今後どんなネタ(アップデート)を持ってくるかが鍵になりそうです。アップデート次第ではRBがアストンマーティンを逆転する可能性もゼロではないと感じます。

また、モナコGPではアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)、ピエール・ガスリー(アルピーヌ)が今季初入賞を果たしました。ウイリアムズとアルピーヌも、サーキットによってはRBとのポテンシャル差を縮めてくるでしょうけど、モナコはマシンポテンシャルの差が出にくいコースでもあります。1周が短く、高速コーナーもほとんどないので、空力も含めてマシンの差が出にくい。その分、ドライバーの能力でなんとかなってしまう、という部分があるのもモナコだったりします。

そのため、アルボンとガスリーの入賞は、ドライバーの腕という部分でマシンポテンシャル差を跳ね除けた部分は大いにあると思います。実際に各チームのマシンポテンシャルがどのような序列となっているのかを評価するのは、高速コーナーもあるスペインGPの舞台カタロニア・サーキットでのレースを見るまでは時期尚早かなとは思います。

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

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みんなのコメント

2件
  • ccx********
    見てる方としては少しはマックスが焦るくらいの展開の方が面白いです。
  • m_s********
    プロドライバーの目線で語られるとRBの不振の原因がものすごく納得できた。
    散々な評価だった今年のモナコGPだったけど、個人的には「予選8割、決勝2割」で楽しんでいるので、そこまでつまらないとも思わなかったですけどね。
    しかし、1枚目の写真の壁すれすれで走るマックス。ここまで限界を極められる腕があの走りを支えているのでしょうね。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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