■レクサス「RZ」発売に合わせ、ユーザーの不安払拭へ
EV(電気自動車)がさらに普及するには充電インフラの普及が不可欠で、これは自動車メーカーやディーラー、そしてユーザーのそれぞれが十分に認識していることです。
なかでも「経路充電」のあり方については、さまざまな側面からより深く考えていく必要があると思います。
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直近のニュースでは、レクサスが2023年3月30日にEV「RZ450e」を発売したのと同時に、バッテリーEVオーナー向けに「LEXUS Electrified Program」の詳細を公表しました。
それによると、「お客様の不安払拭」という目的として、EVや充電インフラに精通したコンシェルジュを各地域に配置したり、24時間365日対応可能なオーナーズデスクをオープンしました。
「お客様の不安払拭」とは、表現を変えると、EVに対する不安を持っているユーザーが現状では少なくないともいえるでしょう。
レクサスは、全国183店舗のレクサス店に出力50kW以上の急速充電器を新設すると同時に、レクサスのEVオーナー向けに同ブランドオリジナルの定置型の普通充電器本体と基礎工事部分の費用を負担するという内容です。
また、商業施設などに出力150kW以上の急速充電器を設置し、専用アプリを通じて急速充電器の事前予約や充電状況を把握できる仕組みを作るほか、車載カーナビ上には充電スポットに誘導するようなプログラムも拡充します。
このようにレクサスが新サービスを開始しましたが、道路管理者も独自に急速充電器の整備を加速させています。
東日本高速道路(NEXCO東日本)、中日本高速道路(NEXCO中日本)、西日本高速道路(NEXCO西日本)と、充電サービス大手のe-Mobility Powerは、2022年度末時点での充電口数の511口(くち)を2025年度末までに約1100口と現状から倍増する計画を発表しました。
さらに、これまでETC2.0で適用してきた、サービスエリア(SA)間の距離が長く高速道路上でガソリン給油ができず困ったユーザーが一旦高速道路から流出して給油し、指定時間内に再び高速道路に戻った場合、高速道路から流出していない場合と同じ料金設定としている方式を、充電に対しても2024年度から順次適用することを明らかにしています。
このように、ディーラーや高速道路SAに急速充電器の数を増やし、また充電器の出力を上げる目的とは何なのでしょうか。これを考えるうえで、2つの観点が必要だと思います。
第一の観点は充電の使用方法です。これには大きく分けて、「基礎充電」、「目的地充電」、そして「経路充電」の3つがあります。
基礎充電は、自宅や事業所を起点・終点とする日常的な移動に対する充電です。一般ユーザーや事業用車両の場合、住居地や事業所周辺での移動距離は、遠出をしなければ1日あたり数十km程度であることが多いため、わざわざ屋外で充電しなくても電欠の恐れは少ないはずです。
つぎに、目的地充電は、遠出をした先のホテルや旅館、またはゴルフ場など、駐車時間が朝か夕方、または一晩などと長い場合の充電のことをいい、経路充電は、高速道路などを使う長距離移動の途中で充電することを指します。
第二の観点は充電方式です。現在日本で使われている充電機器は、交流出力の「EVコンセント」や普通充電器、そして直流出力の急速充電器の3つに大別されます。また、出力の低い急速充電器を中速充電器と呼ぶこともあります。
■長距離運転時に必要な経路充電が課題となる?
では、充電の使用方法と充電方式という2つの観点を重ねてみます。
基礎充電と目的地充電は、EVコンセントまたは普通充電で十分対応できるはずです。例えば、日産の軽EV「サクラ」の電池容量は20kWhですので、EVコンセントの3.2kWで充電すると、単純計算ではほとんど空の状態から7時間程度で満充電になるでしょう。
なお、日産はEVコンセント(日産の表記は「普通充電コンセント」)では、車両側の充電能力は2.9kWと記載されています。
また、レクサス「RZ450e」やトヨタ「bZ4X」/スバル「ソルテラ」の電池容量はともに71.4kWhですので、出力6kWの普通充電では12時間程度で満充電になる計算です。
問題なのは、やはり経路充電でしょう。経路とはその名の通り、目的地に向かう移動の途中なので、できるだけ早く充電を終えることが目的となり、必然的に急速充電器が必要になります。
もっとも多く利用されているのは高速道路のSA/PA、または日産ディーラーに設置されている急速充電器(日産車以外も24時間利用可能)というのが経路充電の実状です。
そのうえで急速充電の課題は、近年登場しているEVの電池容量が大型化していることです。
欧米のプレミアムモデルでは満充電での航続距離が長距離化していることもあり、90kWhから100kWhなどの大容量タイプを採用しているケースが珍しくありません。電池容量が大きくなれば、同じ出力で充電しても充電時間が長くなるのは当然です。
例えば、レクサスディーラーがこれから順次配備する三相交流電源で入力し直流出力50kWだと、急速充電の基本ルールである1回30分ルールで、50kW×0.5時間(h)=25kWhが単純計算での充電量になります。そのため、RZ450e(71.4kWh)では出力50kW急速充電で30分間を3回分しないと、ほぼゼロの状態から満充電になりません。
ただし、リチウムイオン電池の特性、安全性、劣化に対する考慮などから、電池に大きな負荷がかかる急速充電ではEVそれぞれの電池容量の80%を超えたあたりから電流を一気に絞り、出力を抑制する制御がはたらきます。交流出力3kWから6kW程度の普通充電では、このような制御はとくに強調されていません。
こうしたことから、レクサスを含めて自動車メーカー各社は「EV充電の基本は自宅での普通充電」という、基礎充電を重視した考え方の周知を進めているところです。
一方で、経路充電については急速充電が主流であるため、ユーザーが時間的に十分な余裕を持った計画を基に移動することが重要です。
そのうえで、経路充電をより効率的に行えるようにする方法としては、急速充電器のさらなる高出力化が考えられます。ただし、現行の法規制では、最大電圧は450Vであるため、大電流に対応する充電ケーブルへの対応で難しい点があります。
とくに発熱に対応するため、ケーブル内を液体で冷却する方法がありますが、そうなるとケーブルがかなり太くなりユーザーは取り回しが大変です。そのため、急速充電器メーカー各社の関係者は「当面は一時的にブーストモードで電流量を増やして最大150kWとするモデルが国内では最上級になる」という見解を示しています。
さらには、急速充電器の設置事業者にとっては、超高出力型急速充電器は導入コストと電気代もかなり高くなることで、事業性を維持することも大変です。
そのほかの充電関連技術では、走行中に一定区間でパンタグラフなどの機器を使う「接触充電」や、電磁誘導による「非接触充電」の研究開発が地道に進んでいるものの、国内での量産の見通しが立っていないのがEVの充電インフラの現状なのです。
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