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日産の“歴史”と“ロマン”が詰まった1台──新型スカイラインNISMO試乗記

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日産の“歴史”と“ロマン”が詰まった1台──新型スカイラインNISMO試乗記

日産の現行「スカイライン」に設定された特別な「NISMO」は、感動の連続だった! クローズドコースで試乗した今尾直樹がレポートする。

「これはいい!」

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日本車のなかでも神話と伝説に彩られているスカイライン。そのスカイラインに新たな伝説が加わる。NISMOバージョンが限定で、2モデル登場することが8月8日に発表になったのだ。

いずれも現行スカイラインの旗艦、「400R」をベースに日産ワークスのNISMOがエンジンのパワーを15ps、トルクを75Nm引き上げ、トランスミッション、足まわり、エアロダイナミクスに至るまで手を入れた特別仕様車で、まずはこのうちのスカイラインNISMOが9月上旬に限定1000台発売される。

もうひとつのスカイラインNISMOリミテッドは、エンジンを手組みするなど、さらに磨きをかけたスペシャルで、こちらはわずか100台の限定だ。発売は来年、2024年夏。1964年、第2回日本グランプリ制覇のためにつくられた初代スカイラインGT(S54系)の60周年記念、という意味も込められている。

完売必至。興味のある方はお近くの日産ディーラーに駆け込まれることをオススメしたい。こんなの読んでいる場合ぢゃない。価格はスカイラインNISMOがおよそ800万円。標準の400Rより200万円ほど高いものの、その価値は十二分にある。

筆者がそう断言するのは、7月上旬、神奈川県追浜にある日産の試験路「グランドライブ」で開かれた事前取材会に参加し、ごく限られた場所と時間ながら、試乗しているからだ。

「これはいい!」

ベースの400Rよりも洗練され、より引き締まり、より気持ちよくなっている。開発コンセプトの“ザ・スカイラインGT”に見事に仕上がっているし、現行GT-Rをもうちょっとソフトにした、その4ドアバージョン、という趣きもちょっとある。

S54系初代スカイラインGTへのオマージュ今回の取材会はNISMO商品戦略・企画部チーフプロダクトスペシャリストの饗庭貴博(あいば・たかひろ)氏の商品企画概要の説明から始まった。

「最初に1枚の写真を。この写真は1966年にプリンス自動車が開発したR380というレーシングカーです。この前に並んでいるのが当時の開発メンバーなんですけれども、このなかにスカイラインの生みの親である櫻井さんがいます。この右の2番目のひとが、じつは私の父ということで、意外にもご縁があったと……。ではすいません、本題に入らせてもらいます。スカイラインの歴史をみなさんとおさらいしてみたいと思います」

プリンスR380の前に並んだ開発スタッフ数人のモノクロ写真のなかに父親がいた!? 父子鷹は「巨人の星」の星一徹と飛雄馬以前のむかしからニッポンのロマン。長編叙事詩である。スカイラインのファンなら、このエピソードだけでも感涙ではあるまいか。

ただし、今回のスカイラインNISMOは、R380のエンジンを改良して載せた3代目ハコスカではなく、その前の世代のS54系初代スカイラインGT、日産で初めてGTの名前を冠したモデルへのオマージュだとされる

さらに「P901活動が私の原点」という担当エンジニアによる技術説明に筆者は興奮した。

P901活動! それは「1990年に日産車が世界一の走りになっていること」を目標とする、1980年代後半に日産シャシー設計部が中心になって展開した社内活動である。このプロジェクトからFWDではP10「プリメーラ」、RWDではR32スカイラインが生まれた。あの頃の日産は元気だった。

もうひとつ、P901活動は大きな副産物をもたらした。それは車両評価技術を向上させたことだ。世界一のクルマを目指すには世界一過酷なサーキットで、過酷な実験をしていかなければならない。そこで、3人の評価ドライバーが育成された。3人とも60歳を過ぎて日産には残っていない。そのなかのひとりが、オーラNISMOに続いて、スカイラインNISMOのチューニングを担っている「匠ドライバー」の神山幸雄さんなのである。

神山さんはR35GT-Rの開発ドライバーのひとりでもあり、余談ながら筆者は2008年頃だと思うけれど、ニュルブルクリンクで神山さんが駆るGT-Rの助手席に乗せてもらい、超高速の世界を驚くべき安心感と安定感でもって堪能させていただいたことを思い出した。

軽自動車およそ1台分のトルク・アップさて、今回のスカイラインNISMOは、北海道の陸別にある、ヨーロッパのアップダウンを模した全長1.4kmちょっとのテストコースで、400Rより2秒速いという。35秒のコースで2秒の短縮だから、そうとう速い。

そのスカイラインNISMO、400Rをベースにどんな改良が具体的に施されているのかというと、まずはエンジンである。新型フェアレディZとも共通のVR30DDTT、2997ccのV6ツインターボは、電子制御のマップを書き換えることで、最高出力が405psから420psに、最大トルクは475Nmから550Nmに増強されている。

ちなみにこのエンジン、1990年代にグループCカーのV8ツイン・ターボや、GT500のRB26ツイン・ターボ、さらにその後のVQ30などを送り出してきた同じ施設で、これらを担当した同じひとが開発している。というから、日産ファンはこれまた感涙……かもしれない。

チューニングの狙いは3000~5000rpmの実用域におけるトルクアップにある。トルクがあれば、東名高速の大井松田、あるいは中央自動車道の談合坂あたりの登坂車線でも、変速することなく楽々追い越しができる。変速しなければ、変速時のギクシャクがなくなり、その分、疲れなくなったりもする。最近の電動車はまさにそうなっており、究極のグランドツーリングカーを目指すにあたっての開発のヒントになったというから興味深い。軽自動車およそ1台分のトルクアップはもちろん、加速性能のアップを意味してもいる。

増強されたパワーとトルクを受け止める7速ATは、スポーツとスポーツ+(プラス)モードにおける変速スケジュールを書き換えている。

レスポンスを鋭くするべく、高回転をキープするよう仕立て直しているのだ。

トルク・アップした後輪駆動車。ということで、リヤタイヤのトレッドが20mm広げられている。400Rのタイヤサイズは前後245/40の19インチ。これに対して、フロントはそのままに、リヤを265/35とし、前後異サイズとしている。タイヤは銘柄こそGT-R NISMOとも共通のダンロップSPスポーツMAXXだけれど、中身は専用開発である。400Rが標準装着するランフラットではなく、ふつうのスポーツラジアルを採用し、バネ下を軽くし、タイヤのたわみに柔軟性を持たせ、GTらしい乗り味を目指している。コンパウンドと構造は匠ドライバーの神山さんがチューン。結果的にウェット性能とのバランスもよくなっているという。

専用のアルミホイールはエンケイ製で、リム幅を400R比、フロントは0.5インチ、リヤは1インチずつ広げている。「オーラNISMO」から取り入れている手法で、こうすることにより横方の踏ん張りが効き、操舵初期の応答性がよくなる。重量増もやむなしのところだけれど、車両重量は極力増やさないという方針のもと、エンケイ独自のMAT工法という成形技術によって、一般の鋳造に較べ7%程度の軽量化を達成している。

サスペンションについては、400R自体かなりスポーティということもあり、ベースを最大限活かしている。フロントはおよそ4%、リアはスタビライザーのみ44%、ばね定数を上げているだけである。ステアバイワイアのDAS(ダイレクト・アダプティブ・ステアリング)と電子制御ショックアブソーバーは400Rのそれらを流用している。

400Rの乗り心地よりも全体にファームで、ロールも穏やかになっている。でも、どこか繊細で優しい、という印象はこのようなサスペンションのチューンと、フツウのラジアル・タイヤの採用が効いているのだ。

「スカイラインGTの集大成」オプションのレカロ・シートは、ホールド性、姿勢保持性に加えて、長時間座っていても、お尻が痛くならないように座面の部材を増やして、体圧の分散をよくしている。このシート、60万円弱という高価なものだけれど、装着するともうひとつ、よいことがある。

スカイラインNISMOは最終的に車重1760kgと400Rと同一に仕上がっており、リヤシートも含むレカロを選ぶと、20kg軽くなるのだ。オヤジのロマンのなかにレカロは必須である。

スカイラインNISMOリミテッドはこのレカロを標準装備する。前述したようにエンジンはR35GT-RのVR38DETTと同じ横浜工場の“匠ライン”で熟練職人により手組みされる。これによりバルブクリアランスを±20ミクロンという高い精度で仕上げ、性能のバラつきを極限まで低減する。

外観は、職人貼り込みによって実現したというフロントフードの専用デカールで判別できる。価格は948万円。そこに込められたオヤジたちの膨大なロマンを思えば高すぎることはない。むしろ遠くなりすぎたGT-Rよりも身近なロマンといえるかもしれない。

事前説明会ではスカイラインNISMOを「スカイラインGTの集大成」と表現していた。

これはガソリンエンジンのスカイラインの終わりを意味するのか?

そう確認したところ、「あくまで現時点での集大成」という回答だった。そうはいっても、これが最後の集大成になったとしても不思議ではない。

スカイライン・ロマンよ、永遠なれ。

文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)

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