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消火できないってマジか!?? EVの火災が深刻な理由と対処方法

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消火できないってマジか!?? EVの火災が深刻な理由と対処方法

 ここ数年、海外メーカーのバッテリーEVにおいて、リチウムイオン電池に起因する火災事故が散発しています。

 2021年4月には、北米でテスラの「モデルS」が木に衝突して炎上したほか、同8月にはフォルクスワーゲンの「ID.3」が充電後に発火、GMの「Bolt EV」も充電中に発火。

消火できないってマジか!?? EVの火災が深刻な理由と対処方法

 バッテリーEVに使われているリチウムイオン電池は、発熱・発火すると消火が難しく、最悪の場合は大火災に繋がる恐れがあります。「モデルS」の事例も、鎮火までになんと4時間も要したそう。

 なぜバッテリーEVの火災は消えにくいのか。リチウムイオン電池の発熱・発火メカニズムと、万一そのような不具合に遭遇したときの対処法について、ご紹介します。

文:Mr.ソラン、エムスリープロダクション
アイキャッチ写真:Adobe Stock_benjaminnolte
写真:NISSAN、TOYOTA、HONDA、MAZDA、MITSUBISHI、SUBARU、HYUNDAI、BMW、BENZ、Audi、STELLANTIS、JAGUAR

容易に高電圧を得られるが、高い安全性が要求される

 リチウムイオン電池は、正極にリチウム系材料、負極にカーボン系材料、電解質としてリチウムイオンを含む電解液、正極と負極の間には、リチウムイオンの行き来を可能にしながらも、両極間を分離してショートを防ぐセパレーターがあります。充電や放電は、この正極と負極の間をリチウムイオンが移動することによって行われます。

 充電器を接続して電流を流すと、正極にあるリチウムイオンが電解液を経由して負極に移動。その結果、正極と負極間に電位差が生じて電池に電気エネルギーが充電されます。一方の放電では、電気エネルギーを必要とするモーターなどの負荷が接続されて、放電回路が形成。負極にあったリチウムイオンが正極に向かい、電流が流れます。

 リチウムイオンの化学的性質は非常に活発なので、重量当たりのエネルギー密度は鉛電池の5倍以上、ニッケル水素電池の2倍程度あります。容易に高電圧が得られるので、バッテリーEVやプラグインハイブリッド車のほとんどが、リチウムイオン電池を駆動バッテリーとして採用していますが、鉛電池やニッケル水素電池で使われている電解液が無機系で不燃性なのに対して、リチウムイオン電池は可燃性の有機溶媒を使っているため、使用に際しては高い安全対策が要求されます。

正極と負極、電解液で構成されるお弁当1個分サイズの単一ユニットを電池セル、セルを積み重ねてまとめて重箱サイズになった姿を電池モジュール、実際に、クルマに搭載される集合体は電池パックと呼ばれる

発熱・発火はセパレーターの損傷から

 リチウムイオン電池の発熱や発火が起こるメカニズムには、物理的な要因と、電気的な要因の2つがあります。

・物理的な要因
 正極と負極を分離しているセパレーターが何らかの物理的要因で破れてショートすると、短絡した部分に大電流が流れて発熱。これを発端にして、正極・負極の活物質の熱分解や電解液との反応など、様々な発熱反応が誘発されて、最悪の場合には発火や熱暴走にまで進展します。物理的な要因となるのは、生産時の金属粉などの異物混入や衝撃による変形、鋭利なものによる損傷などです。クルマの衝突事故などで、車載バッテリーに致命的な損傷が及ぶと発火する理由がこれです。

・電気的な要因
 バッテリーの過充電および過放電も発火の原因となります。特に過充電が起こると、正極の電位が上昇し、電解液が酸化分解することで発熱。この発熱により、セパレーターが焼損してショートが発生、その後は物理的要因と同様に発熱反応が加速され、発火や熱暴走に至るのです。

唯一確実な消火方法は「丸ごと水槽に沈める」

 一般の火災では、酸素供給を断つことと冷却することが有効ですが、リチウムイオン電池では、酸素供給を断つことが有効ではありません。なぜなら、リチウムイオン電池は発熱すると、電極の活物質が熱分解して酸素を放出するからです。

 さらに消火を難しくしているのは、鎮火しているように見えても、電池内の燃焼成分を完全に消失させることができないこと。一旦鎮火しても、電池内にはエネルギーが残存し、再び発熱反応を起こして再燃することがよくあります。鎮火した数時間後や数日後に再び燃え出すことが、珍しいことではないのです。

 このように連鎖的な自己発熱で火災が起こるため、普通の消火器で対処するのは難しく、安全に消火するには大量の水でバッテリバックを冷却するほか手がない、のが実情です。

 もしバッテリーの発熱が比較的軽度と判断されれば、専門の技術者が部分的に発熱しているセルを取り除き、それを丸ごと水槽に浸けて冷却することで対応可能ですが、最も安全なのは、水を貯めたコンテナなどプールにクルマごと沈めて冷却するという方法。実際に、欧州では多くのケースでこの方法が採用されています。

危険なので絶対に自ら消火活動はしないこと

 バッテリーEVやプラグインハイブリッド車のリチウムイオン電池の温度が過昇温すると、一般的には走行中は警告灯が点灯して、電池の負荷を減らすために出力制限をします。この場合、すぐに安全な場所に停車し、もしバッテリー付近から焦げくさい臭いや発煙の兆候があれば、すぐにクルマから離れて消防に対応を依頼し、同時にディーラーにも連絡してください。充電中や駐車中に起こった場合も、同様です。

 自分で消火しようとせず、まず車両から離れること。初期状態かつ電気火災用の消火器があれば、一定の効果があるかもしれませんが、それ以外の状況で、個人でできる消火活動はなく、不適切な消火作業は、非常に危険なため絶対に行ってはいけません。

 また、事故等でバッテリバックが損傷した可能性がある場合は、必ずディーラーで点検してもらってください。その時は問題なくても、バッテリーが高温化した際に、発火や熱暴走が起こる可能性があります。

火災事故発生頻度は低い

 ただ、だからといってバッテリーEVが危険というわけではなく、何十リッターという可燃物のガソリンを積んでいるガソリン車の方が危険だという見方もあります。実際に、バッテリーEVの火災事故の発生頻度は、同一走行距離でみるとガソリン・ディーゼル車の約1/10という報告もあります。

 ただ、本稿でご紹介したように、リチウムイオン電池は一旦発火すると甚大な被害をもたらす可能性があります。メーカーにとっては、リチウムイオン電池のコスト低減が直近の課題でしょうが、安全性の向上にも注力してほしいですね。

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みんなのコメント

67件
  • 真面目に安全性を高くする為に、専用電池を開発したリーフがあまり売れず、雑な作りのテスラを先進的で高性能と有難がる人が多かったので電気自動車の安全性は2の次になってしまったような気がします。
    リーフは、東日本大震災で津波に流されても発火事故0の安全性を誇っていたのにこういった点があまり評価されなかったのが残念です。
  • ヒュンダイも何台か火を吹いていたぞ。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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