スポーツモデルの代名詞といえるグレード名だった
かつてトヨタが「名ばかりのGT達は、道を開ける」というキャッチコピーを掲げたことがあった。それは1979年にスポーツクーペである「セリカ」がDOHCエンジンを搭載した際に、ライバルの日産スカイラインのGTグレードのエンジンがSOHCだったことを揶揄するものとして、いまも語り継がれている。そして、当時はどの自動車メーカーもスポーティグレードにGTと名付けていたからこそ「GT達」という表現も通用した。
【これぞ名車の証し】車名ではなく「型式」で愛されたクルマたち
あれから40余年、いまトヨタにはGTという名前のグレードは実質的に存在しない(カタログ上は86にGTグレードが用意されているが)。一方で、国産車でシンプルにGTというグレード名を掲げているのはスカイラインとスバル・レヴォーグだけだったりする。それでも、それぞれの最速グレードにはスカイラインでは「400R」、レヴォーグでは「STI Sport」という名前が与えられており、GTという名前に特別感はない。むしろ廉価グレードの名前だったりするのだ。
ほかに国産車でGTというアルファベットをグレード名に使っているモデルとしては日産フーガ(370GT、250GT)くらいしか思い浮かばない。かつてはマツダRX-7や三菱ランサーエボリューションにもGTという名前のグレードが存在していたこともあったが、まさに絶滅危惧種となっている。
一方で、輸入車ではGTというグレード名を見かけることが多いように思えるが、現在のニュースで見かける「GT」という文字の後ろには「3」や「4」といった数字がつくことがほとんどだ。ご存知のように「GT3」、「GT4」というのはFIAのレギュレーションに合致した市販レーシングカーのことである。あくまでもカテゴリーを示すもので、なんらかの意味を込めたグレード名というわけではない。
そもそも、日本車に「GT」というグレード名が多くみられた時代のGTが意味するのは「グランドツーリング」であり、サーキットを速く走るというよりは、ロングドライブを快適に過ごすことができるという意味合いも持っていた。その象徴といえるのが1960年代~80年代のスカイラインGTであり、1990年代のレガシィGTであるだろう。
有名なドライビングシミュレーターの影響も少なからずある!?
しかし、徐々にGTにグランドツーリングというイメージが消えていったのは、1997年に誕生したプレイステーションのソフト「GT(グランツーリスモ)」シリーズの影響も無視できないのではないだろうか。
ドライビング&カーライフシミュレーターとして、リアルなスポーツドライビングを楽しめる「GT」シリーズは、実車からサンプリングした排気音などリアリティにこだわった作りで、多くのマニアを魅了した。そして「GT」シリーズの人気が高まるにつれ、クルマ好きのなかで「GT」といえば、このプレイステーションのソフトを指すようになっていく。
もちろん、タイトルの元ネタとった「グランツーリスモ」という言葉には、スポーティなハンドリングとロングツーリング性能を併せ持つハイパフォーマンスカーという意味があり、そこから名前が付けられたことは明らかだが、GTシリーズが売れていくなかで、その言葉にはレース(サーキット走行)のイメージが強くなっていったのは否めない。
クルマの名前やグレード名は、多くのマーケット調査から決められている。そして2000年代から「GT」という響きには、ドライビング&カーライフシミュレーターのイメージが強くなっていった。そのため、伝統的にGTという名前を採用しているクルマを除くと、新たにGTという名前をつけるのは得策ではないと考えたとしても、それは納得できる。
というわけで、伝統的にGTというグレード名を用意してきた日産スカイライン、そしてGTグレードで一世を風靡したレガシィの後継であるレヴォーグくらいにしか、そのアルファベットは残っていないという状況になってしまったのだ。
ドライビングシミュレーターの「グランツーリスモ」が、日本車のグレード名から「GT」を減らしてしまったという主張は荒唐無稽かもしれないが、時系列で考えるとまったく関係ないとも言い切れない気もするのだが、いかがだろうか。
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