現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > ロールス・ロイス・ファントムV ジェームズ・ヤング(2) 優雅で機能的 105年の歴史の貴重な遺作

ここから本文です

ロールス・ロイス・ファントムV ジェームズ・ヤング(2) 優雅で機能的 105年の歴史の貴重な遺作

掲載 2
ロールス・ロイス・ファントムV ジェームズ・ヤング(2) 優雅で機能的 105年の歴史の貴重な遺作

馬車用ボディで創業したジェームズ・ヤング

英国のコーチビルダー、ジェームズ・ヤング社は、多くの同業者のように馬車用のボディ製造で事業をスタート。軽量なブロムリー・ブロアムという仕様で、優れた定評を築いている。

【画像】優雅で機能的 ロールス・ロイス・ファントム 現行型と最新EVのスペクターも 全135枚

自動車のボディ製造へ乗り出したのは、1908年。英国のメーカー、ウーズレーのシャシーへ載せられた。第一次大戦が始まると商用車のシャシー製造へ注力し、その後は自動車メーカーのサンビームとタルボのため、ボディを量産した。

技術開発に熱心で、走行中の共鳴を防ぐ内装のヘッドライナーは、コーチビルド・ボディとして初採用している。サイドのスライドドアでは、特許を取得。後にフォルクスワーゲンが権利を購入し、コンビに採用されている。

1937年には、カーディーラーのジャック・バークレー・グループの傘下へ。アルファ・ロメオなど欧州メーカーの高級ボディを製造していたが、それを期にロールス・ロイスのみへ提供ブランドは絞られた。

第二次大戦後の従業員は120名。年間に60台前後のコーチビルド・ボディを生産し、6割は海外へ輸出された。1940年代から1950年代には、HJ.マリナー社に次ぐ規模へ成長を遂げていた。

しかし、量産車は徐々にシャシーとボディが一体のモノコック構造が主流に。新技術への対応で、ジェームズ・ヤング社は苦労することになる。

ロールス・ロイスとベントレーも、シルバークラウドとSシリーズを最後にセパレートシャシーを終了。伝統的なコーチビルド・ボディの開発は、困難なものになった。

105年に及んだ歴史 最後のボディの1つ

ジェームス・ヤング社は、2ドアのシルバーシャドウとベントレーT1を遺作として生み出し、1968年に事業を終了。105年に及んだ歴史へ幕を閉じた。熟練の職人は解雇され、多くが牛乳配達や郵便配達などの仕事へ就いたという。

今回ご紹介するのは、PV16型のファントムV。廃業する直前、1968年に初代オーナーだった実業家に納車されている。同社最後のボディの1つであることは、間違いない。

フーパー社風のクオーターウインドウを備えており、製造数は5台のみ。ミッドナイト・ブルーの塗装に、ベージュのレザー内装で仕立てられ、取り扱ったディーラーはジャック・バークレー社。当初は858 HUWのナンバーで登録された。

10年後、エンジンが換装された時点での走行距離は約14万5000km。現役で使用されてきたことがわかる。1980年代初頭からは、ロンドン西部のノッティングヒルに住む人物が所有し、1988年に映画監督のコリン・クラーク氏が購入している。

1989年に不動産業者が買い取り、1993年には香港へ。そのオーナーは4万5000ポンドを投じて、ボディの上半分を再塗装し、化粧トリムはリフレッシュ。デュアルエアコンが追加された。

現在の所有者は、とあるビジネスマン。クラシックカー・ディーラーのクラシック・オートモービルズ・ワールドワイド社によって、新たな後継者が募られている。

不安なく軽やかに流れていく巨大なボディ

筆者は幸運にも、少しの時間運転させていただいた。ボディは巨大だが、扱いにくくは感じられなかった。美しいスタイリングの仕上げは細部まで見事で、ドア開口部の境目は近寄らない限り見えないほど。

6.2L V8エンジンはシャープに回り、動力性能に不足はない。アクセルペダルへの反応は滑らかで、110km/hまで加速しても、回転数を問わず力強い。

ステアリングの反応には締まりがあり、操縦系のすべてに適度な重み付けがある。自慢のエアコンは良く利く。パワーウインドウやリアシート側を仕切るデバイダーも、静かにスルスルと動く。

同時代のシルバークラウドより全幅があるとはいえ、運転席からの視界は広く、すぐに前後左右の感覚を掴める。6m以上ある全長も、不思議と問題には感じられない。グレートブリテン島の広くはない田舎道を、不安なく軽やかに流れていく。

ドラムブレーキは、サーボが弱くなる低速域では強めにペダルを踏む必要があるものの、ある程度の速度なら頼もしい制動力を発揮する。前後のバランスも良く、漸進的に効く。

ロールス・ロイス社製の4速オートマティックは、至ってシームレスに次のギアを選ぶ。すべてがスムーズで、ドラマチックさは薄い。

優雅で実際に機能的 世界最高のリムジン

路肩へ停め、広いリアシートへ座り直す。その空間は、まさに走る応接間。あるいは、役員のオフィス。

太いリアピラーが、マリナー・パークウォード・ボディにはないプライベート感を生み出す。背もたれへ寄りかかれば、殆ど外からの視線は気にならなくなる。

ラム・ウールが贅沢に用いられたカーペットが敷かれ、目の前には補助席。インテリアの一部へ、ラジオが美しく埋め込まれている。サイドウインドウやデバイダーのスイッチも、同じく巧妙にレイアウトされている。

数10年前と異なり、通信手段の進化で、余程の実業家でも現地へ実際に足を運ぶ必要性は低くなった。それでも、1分1秒を争うような人のための移動オフィスとして、ファントムVは2024年でも活躍できそうに思える。

取り引きに疲れたら、運転を楽しむのも悪くない。これほどまでに優雅で威厳を漂わせつつ、実際に機能的なクラシックカーを、筆者は他に思い浮かべることが難しい。

同時期のシルバークラウドとシルバーシャドウは、少し競合へ劣るところがあったかもしれない。だが、ジェームズ・ヤングのロールス・ロイス・ファントムVは、世界最高のリムジンだったといって過言ではない。その評価は、現代でも的外れではなさそうだ。

協力:クラシック・オートモービルズ・ワールドワイド社

ロールス・ロイス・ファントムV ジェームズ・ヤング(1959~1968年/英国仕様)のスペック

英国価格:9700ポンド(新車時)/20万ポンド(約3800万円/現在)
生産数:196台
全長:6045mm
全幅:2007mm
全高:1765mm
最高速度:162km/h
0-96km/h加速:13.8秒
燃費:4.5km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:2722kg
パワートレイン:V型8気筒6230cc 自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:223ps(予想)
最大トルク:46.9kg-m(予想)
トランスミッション:4速オートマティック(後輪駆動)

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

HRC渡辺社長、フェルスタッペンの4連覇を祝福「ホンダ/HRCとしてサポートし続けてこられたことを誇りに思う」
HRC渡辺社長、フェルスタッペンの4連覇を祝福「ホンダ/HRCとしてサポートし続けてこられたことを誇りに思う」
motorsport.com 日本版
本拠地の欧州で「メルセデス・ベンツのタクシー仕様」シェア急降下! なぜ? 「“ベンツのタクシー”に乗れたらラッキー」な時代が到来するのか
本拠地の欧州で「メルセデス・ベンツのタクシー仕様」シェア急降下! なぜ? 「“ベンツのタクシー”に乗れたらラッキー」な時代が到来するのか
VAGUE
斬新「日本の“フェラーリ”」に大反響! 「約700馬力のV8スゴイ」「日本なのに左ハンしかないんかい」「めちゃ高ッ」の声! 同じクルマが存在しない「J50」がスゴイ!
斬新「日本の“フェラーリ”」に大反響! 「約700馬力のV8スゴイ」「日本なのに左ハンしかないんかい」「めちゃ高ッ」の声! 同じクルマが存在しない「J50」がスゴイ!
くるまのニュース
「銀の皿」に「レジ横のガム&タバコ販売」に1000円以下のメニューと「ザ昭和」がたまらない! トラック野郎を癒し続ける「采女食堂」はぜひ立ち寄るべし【懐かしのドライブイン探訪その5】
「銀の皿」に「レジ横のガム&タバコ販売」に1000円以下のメニューと「ザ昭和」がたまらない! トラック野郎を癒し続ける「采女食堂」はぜひ立ち寄るべし【懐かしのドライブイン探訪その5】
WEB CARTOP
ラッセルが今季3度目のPP獲得。ガスリーと角田裕毅がQ3で健闘見せる【予選レポート/F1第22戦】
ラッセルが今季3度目のPP獲得。ガスリーと角田裕毅がQ3で健闘見せる【予選レポート/F1第22戦】
AUTOSPORT web
F1ラスベガスGPで追い上げ2位のハミルトン「予選がしっかりできれいれば、楽勝だったろうに」
F1ラスベガスGPで追い上げ2位のハミルトン「予選がしっかりできれいれば、楽勝だったろうに」
motorsport.com 日本版
中央道「長大トンネル」の手前にスマートIC開設へ 中山道の観光名所もすぐ近く!
中央道「長大トンネル」の手前にスマートIC開設へ 中山道の観光名所もすぐ近く!
乗りものニュース
ペレス、チームメイトのフェルスタッペンとは対照的に10位が精一杯「レッドブルは最高のチーム。来年は良いマシンが作れるはず」|ラスベガスGP
ペレス、チームメイトのフェルスタッペンとは対照的に10位が精一杯「レッドブルは最高のチーム。来年は良いマシンが作れるはず」|ラスベガスGP
motorsport.com 日本版
「ん、ここ工事してなくない?」 高速道路の車線規制“ムダに長い”場合がある理由とは?
「ん、ここ工事してなくない?」 高速道路の車線規制“ムダに長い”場合がある理由とは?
乗りものニュース
日本専用の新型「“MR”スポーツカー」初公開! 旧車デザイン×「ネットゥーノ」エンジン採用! 600馬力超えの「チェロSE」登場
日本専用の新型「“MR”スポーツカー」初公開! 旧車デザイン×「ネットゥーノ」エンジン採用! 600馬力超えの「チェロSE」登場
くるまのニュース
ピエール・ガスリー、予選3番手から無念マシントラブル脱落に「顔面平手打ちされたみたい」残り2戦にポテンシャルは確信|F1ラスベガスGP
ピエール・ガスリー、予選3番手から無念マシントラブル脱落に「顔面平手打ちされたみたい」残り2戦にポテンシャルは確信|F1ラスベガスGP
motorsport.com 日本版
モーターマガジンMovie 週間視聴回数BEST5 プラス1(2024年11月17日~11月23日)
モーターマガジンMovie 週間視聴回数BEST5 プラス1(2024年11月17日~11月23日)
Webモーターマガジン
F1マシンを脇に歌舞伎……来春鈴鹿のグリッドでも! 日本GPアンバサダーに就任した市川團十郎「息子と歌舞伎の扮装で踊る計画を」
F1マシンを脇に歌舞伎……来春鈴鹿のグリッドでも! 日本GPアンバサダーに就任した市川團十郎「息子と歌舞伎の扮装で踊る計画を」
motorsport.com 日本版
運営ブチギレ!? 一般車が「検問突破」何があった? 国際イベントでありえない"蛮行"発生! ラリージャパン3日目の出来事とは
運営ブチギレ!? 一般車が「検問突破」何があった? 国際イベントでありえない"蛮行"発生! ラリージャパン3日目の出来事とは
くるまのニュース
遂に“冷却機能”も装備! ハイグレード・ワイヤレス充電スマホホルダーの注目作が登場【特選カーアクセサリー名鑑】
遂に“冷却機能”も装備! ハイグレード・ワイヤレス充電スマホホルダーの注目作が登場【特選カーアクセサリー名鑑】
レスポンス
“やっちまった”タナク、僚友ヌービルにWRCタイトル明け渡す痛恨クラッシュは「マジで大惨事」
“やっちまった”タナク、僚友ヌービルにWRCタイトル明け渡す痛恨クラッシュは「マジで大惨事」
motorsport.com 日本版
スバル新型「すごいフォレスター」登場に反響あり! 水平対向エンジン×本格ハイブリッド搭載に「楽しみ!」の声も! 日本発売は一体いつ?
スバル新型「すごいフォレスター」登場に反響あり! 水平対向エンジン×本格ハイブリッド搭載に「楽しみ!」の声も! 日本発売は一体いつ?
くるまのニュース
「えっ、4つのリングのマークじゃない!?」 アウディが新ブランドを立ち上げ なぜ“4リングス”を使わない? 世界最大市場での戦略とは
「えっ、4つのリングのマークじゃない!?」 アウディが新ブランドを立ち上げ なぜ“4リングス”を使わない? 世界最大市場での戦略とは
VAGUE

みんなのコメント

2件
  • hrr********
    加速データはウソっぽいけど、この時代に4速オートマは革新だね
  • nut********
    ロールスじゃなくて でゴメン
    昔見たベントレーのコンバーチブル 濃いワイン?の恐らく2シーター
    ハンチングの高齢男性が真冬にホロを下ろして
    ベントレーの顔つきはこんなだった頃
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

5680.06780.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

1398.08680.0万円

中古車を検索
ファントムの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

5680.06780.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

1398.08680.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村