カーマニアの間では「W126(ダブリュー・イチニーロク)」と呼ばれているクルマがある。
1979年から1991年まで販売されたメルセデス ベンツのSクラスで、日本では80年代末期のバブル全盛期に、当時の反社勢力や、けっして上品とは呼びがたい成り上がり者らが傍若無人に乗り回したことで、いちじるしく評判を落としたプレミアムサルーンだ。
だがここ最近になって久々にW126を見かけるたびに、筆者はロックミュージシャンであった故・忌野清志郎の言葉を思い出す。
手元に原典がないため記憶に基づく大意要約とさせていただくが、忌野はこう言った。
「ぜんぜん売れない時代もあったし、カネががっぽがっぽ入った時代もあった。でもオレがやってること自体は、昔も今も何ひとつ変わっちゃいない。自分がやりたいことをやってるだけさ。時代の野郎が、勝手にグルグル回っているのさ」
言われてみればそのとおりだ。
70年代の赤貧期も、80年代以降の商業的全盛期も、忌野は首尾一貫して「優秀なミュージシャン」でありつづけた。だが忌野風に言うなら「時代の野郎」が勝手に循環することで、ときに褒めたたえられ、ときに謗られただけのことなのだ。
これはW126こと4世代前のメルセデスSクラスについても言える。
「最善か無か」の精神を地で行っていた時代のメルセデスが作った(当時の)最上級モデルだけあって、W126型Sクラスが「悪いクルマ」であるはずがない。
ボディは戦車あるいは大銀行の金庫のごとき硬質な感触。しかしゴム製の緩衝材などを適切すぎるほど適切に配することで、ただ硬質なだけではない滑らかさというか柔らかさというか、簡単に言ってしまえば「すげえしっとりしてる乗り味」を、ドライバーはその指先やお尻から常に感じることになる。
そしてその「すげえしっとりしてる乗り味」の実現には、90年代半ば以降のメルセデス各車では採用されなくなった「リサーキュレーティングボール式」という凝ったステアリング機構も大きく寄与している。
まあそういったこまごました話はさておき、排気量5リッター前後のV型8気筒自然吸気エンジンを中心に搭載したW126型メルセデス・ベンツSクラスは、大変素晴らしいクルマでした──ということだ。
だが、日本では少々タイミングが悪かった。
W126型Sクラスの販売は1979年から始まったが、当時はまだまだ日本もけっして豊かではなかっただけに、初期の購入者は「お上品な昔からのお金持ち」におおむね限定されていた。
だが1985年9月のプラザ合意をきっかけに国内のマネーがジャブジャブになってくると、状況は大きく変わった。
昔ながらのお上品系ではない「闇の紳士」やいわゆるチンピラ風などがこぞってW126を買い、下品なカスタマイズを施し、街で傍若無人な運転を繰り返すようになったのだ。
奇しくも1986年と1989年にはW126のマイナーチェンジが行われたため、その商品力はいっそう増してしまった。
そのため、より多数の闇の紳士等がW126を買い求めるようになり、W126の(一般人から見た)評価は地に落ちた。そして実際、機械製品としてのコンディションも地に落ちてしまった個体が多数となった。
だがそういった不幸なめぐり合わせと、W126型メルセデス・ベンツSクラスというクルマの本質に直接の関係はない。いいクルマなのだ。
それは、忌野清志郎が赤貧の1970年代前半に作詞・作曲した名曲『スローバラード』のようなものである。
1976年にやっとこさ発売されたスローバラードはあっという間に廃盤になったが(まったく売れなかったのだ)、今日では「日本のロックを代表する名曲のひとつ」「一大ロングセラーのひとつ」と評しても、たぶん誰からも否定はされまい。
当然ながら、歳月を経ることで曲のクオリティが突然上がったわけではない。「時代の野郎」が回ったことで「評価」が変わっただけのことだ。曲自体は昔も今も、何ら変わりはないのだ。
そしてW126型メルセデス・ベンツSクラスがバブル期に抱えた負のイメージが完全に払拭され(というか忘れ去られ)、そして当時の荒れた個体の多くが土に還り、比較的マトモな個体のみが残った現状のなかでW126を見てみると……そこにあるのは「素晴らしさ」だけだ。
今のせわしない時代では考えられないほど丁寧な作り込み。鷹揚なデザインと、鷹揚な乗り味(でもやっぱり硬質ではあるという、往時のメルセデスならではの不思議な乗り味)。
そんな絶版名車に「あえて今乗る」というのは、ありがちな選択と比べて実にシブい行為だ。
当然ながら下品なカスタマイズなどはいっさいせず「究極のドノーマルスタイル」をつらぬき、休日のたびにピカピカに洗車をし、そしてのんびり走らせる(ときには少々飛ばしても良いと思うが)。……最高である。
現在の中古車相場は「下が100万円で上が400万円」といったイメージ。100万円クラスの個体はさすがに「ベース車両」といった感じであるため、レストレーション費用はそれなりにかかると思ったほうがいい。
というか年式が年式なので、最初から「高くても構わないので、とにかく状態がいいやつ」を選ぶべきではあるのだが。
W126は、ドイツ車も英国車もフランス車も、そして日本車も、「高級車」はどれもだいたい似たような方向性ばかりになってしまった今だからこそ注目したい、ある意味「異端の選択」である。
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