この記事をまとめると
■トヨタのモノづくりワークショップ2023の2日目午前中に明知工場を訪れた
「ハイテク」も「人のワザ」も全部載せ! トヨタの工場を見学したら「工場の中身の開発」まで圧倒的な内容だった
■明知工場は次世代BEVに導入されるいま話題のギガキャストの試作用設備を備えている
■モータースポーツでの活躍を支える技術もここ明知工場から生まれている
部品数と工程数を大幅に削減するギガキャスト製法
2日間に渡ってメディア向けに開催されたトヨタのモノづくりワークショップ2023は、『人中心のモノづくりで、工場の景色を変え、モノづくりの未来を変える』をテーマとしたもので、トヨタのモノづくりの継承と進化の過程、トヨタの誇る現場力と最新のモノづくりの技術がつまびらかにされる、凄まじく内容の濃いものとなっている。
2日目の午前に訪ねたのは明知工場。操業開始から50年という歴史あるこの工場、かつてはいわゆる3Kで、暗くて空気も悪かったという。しかしながらいまではLED照明が灯り、集塵機も入って、快適に働ける工場に進化している。ここで見たのは話題のギガキャストの試作用設備、そしてモータースポーツのノウハウである。
ギガキャストとは、ダイキャスト製法のうち6500トン以上の高圧でプレスするものを言い、車体構造のモジュール化に貢献する。従来は鉄で作られた数多くのプレス部品で構成されていた車体を一体成型することで、部品点数減と工程削減を実現するのだが、そのレベルは半端じゃない。例とされたbZ4Xのリヤセクションは、従来は86の部品を33の工程で組み合わせていたという。それがギガキャストでは、部品数1、工程数1を実現できるのだ。
トヨタの次世代BEVはこのギガキャストを大胆に導入。車体をフロント、センター、リヤの3セクションに分け、フロントとリヤはギガキャストを採用。センター部分はバッテリーを敷き詰めるかたちとする。それぞれのセクションを複数用意し、組み合わせることでさまざまな車両形態、サイズ、バッテリー搭載量に対応するのである。
金型に溶けたアルミニウムをコンマ数秒という高速、高圧で射出し流し込んだら、今度は700度から250度まで冷却水によって十数秒で一気に冷やす。サイクルタイムは従来の低圧(重力)鋳造の4~10分に対して1~2分と速くなる。その分、中子(なかご)が使えず形状自由度が低いこと、そして当然ながら生産の難易度が増すことが難点で、それ故にこれまで採用されてこなかったと言える。実際、試作初期には金型内にアルミがうまく行き渡っていなかったり、皺が寄ったりという事例が多く見られたという。
その解決には、トヨタの誇る匠の技術が活かされた。溶けたアルミがきれいに流れるような金型形状への改善である。しかも、それを効果的に活用するべく トヨタは解析ソフトを自前で開発。匠の技術、秘伝のタレと言うべきものをソフトにきめ細かく、そして速いサイクルで反映させ、日々育てている。
設計と製品形状を一体で作っていけるのもギガキャストのメリット。クルマの求める機能と設計の要件を早い段階から一緒に作り込んでいければ、開発期間の短縮に繋がるわけで、実際に説明してくださった担当者氏は、BEVファクトリー兼務なのだという。
結果としてトヨタのギガキャストは生産性が他社比20%向上しているという。他社というと、まぁあの会社だろう。実際、不良品による無駄は独自の解析技術で5%減になっているという。
さらに、トヨタには分割式の金型という大きな財産がある。分割型の金型はトヨタの特許。3トンの専用型が16トンの汎用型に差し込まれていて、必要なときに必要な部分だけを交換できる。通常の金型交換は、これだけの重く大きなものだけに、ほぼ24時間を要するというが、交換型は約20分で済むというから驚く。当然、稼働停止時間は少ないほどいいのは言うまでもない。
金型には冷却用配管があり、分割ということは接続部のクリアランスも重要。熱や自重による変形が起これば水漏れしたり、交換部分が抜けなくなるといったことも起こり得る。それぞれの部品で変形解析しないと製品の寸法にも影響が出てくるが、トヨタにはエンジン製造などで培ってきた鋳造技術、金型への知見を蓄えているという強みがあり、それが活かされているかたちだ。
トヨタはよく「手の内化」という言葉を使う。何でもサプライヤーに任せるのではなく、自分たちで設計、開発、そして生産してみなければ、大事なことが理解できないというわけである。明知工場のギガキャスト試作工場では、その意味あるいは威力をまざまざと見せつけられたという印象である。
世界のモータースポーツシーンで活躍するトヨタを支える明知工場
続いてはモータースポーツでの活躍を支える技術について。ここでもやはり匠の技、つまりは人の力に圧倒されることになった。
WEC、スーパーGT、WRC等々、さまざまなモータースポーツに参戦しているトヨタ。ここでパーツに求められるのは、究極の性能を引き出すこと、これに尽きる。生産の際に求められるのは高強度で高精度、複雑な形状への対応である。
たとえばエンジン部品で言えば、理想の温度分布を求めてシリンダーヘッドの鋳造には通常の2~3倍、NASCAR用エンジンを例に取れば、じつに30個もの中子が使われる。しかもそれは細さも7割減で、種類は沢山。髪の毛の半分ほどのクリアランスで攻め込むため、すべてを機械加工では賄えないという。想像を超える物凄い世界なのだ。
その中子は金型ではなく砂型を使う。何しろ設計変更の際、金型の修正なら40~50日要するところを、手加工の木型をベースにする砂型では5~10日で済むという。聞けばデジタルの時代でも匠の技がそれを上まわることは多々あり、型を変更することなく、匠が直接、中子砂を削ることもあるのだという!
生産性に直結する入れやすさ、持ちやすさといった部分も、量産では重要だが少量で、かつ性能が最優先のモータースポーツ用ではほとんど考慮されないという。実際、中子の組入れを体験してみたが、固めた砂だけに非常に脆く、形状も結合も複雑なものを、知恵の輪のようにして組み入れていくのは、とても神経を使うものだった。
もっとも、こうした手加工はいまや特殊領域で、量的には全盛期の4分の1程度とのこと。しかしながら、絶対に必要な、継承すべき技術であることは間違いない。それはモータースポーツで頂点を極めるためでもあるし、何よりこうした技術が将来の生産車に活かされるからである。
たとえばトヨタ、レクサスの数多くのモデルに使われているTNGAのダイナミックフォース2.5リッターエンジン。「世界一高性能の2.5リッターエンジンに」というオーダーに応えて低燃費かつレスポンスに優れたユニットとするべく開発された。
ここで採用されたのが、モータースポーツ用エンジンでは常識の2段冷却ジャケット。形状が複雑で鋳造には多くの中子を複雑に収める必要があるだけに、従来なら量産エンジンにはとても採用不可能と言われた技術だ。1日に200~300基が生産され、しかも作業者は体型も色々ということから、設計の段階から、まさに手をどこに置いて作業するのかというところまで織り込むことで、大規模の量産を実現したという。
自動車メーカーがモータースポーツ活動を行なうのは、マーケティング的な要素だけが理由ではない。まさに技術の実験室だということを、ここでは改めて実感させられることとなった。そして、それを支えているのはやはり匠の技、「人」なのである。
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みんなのコメント
やはりトヨタの言う2028年はこの技術で生産するまでには年数がいる。
後5年したら全車EVにしないと、ついて行けなくなる。
ここまでEV生産を伸ばして会社が持ちこたえられるだろうか?
下請けや従業員の存続は?
先ず重要な課題は成功するか?何年かかるか?、耐久試験は?バッテリー開発も未知の話。
EV専用モーター製作も未知の話だけに怖い。