■サーキットモードはある意味、ソフトウェアでクルマの価値を高める「SDV(Software Defined Vehcle)」だった?
モータースポーツで壊して鍛えてきた結果を色濃くフィードバックさせた「進化型GRヤリス」。
そのパワートレインを活用して開発された「LBX MORIZO RR」。
どちらのモデルも筆者(山本シンヤ)はくるまのニュースで詳細に報告済みですが、今回はこの2台に採用された「特別な場所」で楽しめる「特別な機能」についてお伝えしたいと思います。
この2台、開発責任者は「サーキットをはじめとする非日常領域でも、積極的に楽しんでほしい」と言う強い想いが随所に込められていますが、一般道とサーキットでは求められる性能が異なるのも事実です。
そこでこの2台にはサーキットをはじめとするクローズドコースを訪れた時にクルマのポテンシャルをより引き上げる機能として「サーキットモード」が用意されています。
この機能はGRヤリスはRCのDCM(専用通信機)レスオプションモデル以外のすべてのモデル、LBX MORIZO RRはすべてのモデルに内蔵されている機能ですが、そのままでは使えず。
GRヤリスはT-Connect、LBX MORIZO RRはG-Linkを契約、そしてスマートフォンにアプリをダウンロードし、そのアプリを通じてコントロールを行ないます。
このサーキットモードを選択すると、大きく4つの機能が使えるようになります。
1つ目は、アクセルOFF時もターボを強制的に回してラグを無くす「アンチラグ機能」です。
すでにスーパー耐久のマシンでも用いられており、まさにモータースポーツからのフィードバックとなります。
ちなみにアンチラグと言うとエキマニに生ガスを吹いて強制的に燃焼と思われがちですが、今回は別の方法で同等の機能を実現しています。
具体的には、アクセル開度40%超えた状態でアクセルOFF(約4000rpm以下)すると、点火タイミングを遅らせる(=遅角)→吸入量がアップ→タービン回転数を引き上げるです。
ちなみにこの状態でも排ガス規制はシッカリと適合すると言います。
2つ目は「スピードリミッターの上限速度引き上げ」です。
これはすでに日産「GT-R」やレクサス「RC F」、ホンダ「シビックタイプR」にも採用されている機能で、要するに180km/hでの“ガクっ”が無くなります。
3つ目は「クーリングファンの最大化」です。
サーキットではエンジンはいつも以上に熱を発生します。そのため停車中にファンの出力を最大化させ、エンジン水温冷却を促進させると言うわけです。
もしものために約70度でOFFとなりますが、水温は通常90度前後で安定している基本的には「常に作動」と言うわけです。
4つ目は「サーキットモード専用メーターとシフトタイミングインジケーター」です。
センターにギア段、その右にエンジン回転数(一桁まで表示、更新速度は0.05秒にアップ)、上部にシフトタイミングと、シンプルなレイアウトで直感的に情報を得ることができるようになっています。
シフトチェンジインジケーターはスーパーフォーミュラを参考に開発されたデザインで、表示方法は一般的なタコメーターと同じ「ギア比連動方式」とアクセル全開加速時で指定したシフトタイミングに到達する秒数(1.0、1.5、2.0、3.0秒から調整可能)に基いて表示させる「カウントダウン方式」の2つから選択可能です。
■実際にサーキットで「サーキットモード」を体感! どんな感じ?
では、実際に使ってみるとどうなのでしょうか。
今回はモビリティリゾートもてぎの南コースを用いた特設コースで体感してきました。
まずはスマートフォンを用いてサーキットモードに切り替えます。
アプリを起動させサーキットモードを起動させると、いくつかの承認(サーキットでの不具合は保証対象外、サーキットは自己責任ですよ)をタップすると、その情報がサーバーに送られ、サーバーからDCMを介してクルマ側に伝わり、サーキットモードに変更。
すると、メーター内に緑で「CIRCUIT Mode ON」と共に専用の表示メーター表示に切り替わるのに加えて、アイドル回転数が約1400rpmに上昇します。
機能的には全然問題ありませんが、個人的には「音」などを用いた演出があってもいいかなと。
「早速スタート!!」と言いたい所ですが、ここからセッティング作業です。
アンチラグ機能(なし/弱/中/強)、シフトタイミング(4000~7000rpmの範囲で100rpm刻み)、シフトチェンジインジケーター表示(ギア連動方式orカウントダウン方式)、更にはカウントダウン方式で表示させる秒数(1秒前、1.5秒前、2秒前、3秒前)などを調整することができます。
スマホでのセットアップは、まさに “実車版”グランツーリスモと言った感覚で、走らせる前からワクワクしてきます。
ここからは機能を分けて印象を語っていきます。
試乗車両はGRヤリス、LBX MORIZO RR共に6速MT/8速DATが用意されていました。
まずはアンチラグ機能です。
コーナーに向かいクルマを発進させますが、アイドル回転数が1400rpmアップした事でMT車はよりスムーズな発進ができるのは嬉しい誤算でした。
アンチラグ機能はアクセル開度40%を超えた状態でアクセルOFFもしくは開度を下げた場合(約4000rpm以下)で作動します。
アクセルOFFからブレーキングでコーナーに進入し、脱出に向けてアクセルを踏んでいくと、アクセルを踏んだ時のツキの良さと過給の“待ち”が無い事を実感。
感覚的にはターボが抵抗感なくスムーズに回っている印象で、その結果、よりシャッキリしたフィーリングになっています。
ちなみに作動中は競技車のようなバリバリ、パンパンと言った音は無く、強いて言えば耳を澄ますとノーマルよりもターボのブローオフの音が聞こえる程度。
更にメーター内にアンチラグ作動中を示す表示が点灯、ブーストメーターがゆっくりと上昇していくのが確認できますが、それを見ている余裕はありません。
ちなみにLBX MORIZO RRはASC(アクティブ・サウンド・コントロール)の中で擬似的なバブリング音を発生させますが、連携はしていないものの、盛り上がります。
走行の合間にアンチラグの強度レベルを調整してみます。
もちろん「強」が最もわかりやすいですが、その一方で制御上エンジンの回転落ちが悪くなってしまうので、より前荷重を意識したコーナリングでクルマの向きを変えないと、逆に脱出でアンダーっぽく感じて乗りにくくなってしまう事も。
そのため、ドライビングスタイルによっては「弱」のほうが走りやすいと感じる人もいると思いますが、そんなアジャストを誰でも簡単に気軽に試すことができる事も、このサーキットモードのいい所です。
更に驚いたのはアンチラグ機能の副次的効果なのかハンドリングも良くなっていた事です。
恐らく、より狙った所でアクセルONが可能→電子制御4WD制御に迷いがなくなくなりクラッチの締結ロスが減る→よりリアにトラクションが掛けられる→よりアクセルで曲がる(=駆動で曲がる)と言うわけです。
これはシッカリと証拠があり、カメラマンが撮影したコーナー脱出時の走行写真を見ると、リアタイヤに荷重が今まで以上にシッカリ乗っていることが確認できます。
今回はアンチラグ機能の効果を解りやすい体感するために、GRヤリスはあえてグラベルモード(53:47)で走らせましたが、従来型のスポーツモード(30:70)のようなフィーリングを再現。
一方LBX MORIZO RRも同様の理由から50:50固定で走らせましたが、「君はGRヤリスか」と思ってしまうくらいグイグイと曲がってくれました。
この印象を開発者の1人であるGRカンパニーの茶谷勝利氏に伝えると、ニンマリと「理論的にはそうなりますが、これはシッカリとクルマの向きを変えられる人の特権ですね」と教えてくれました。
■シフトミスが確実に減る!?
続いて、サーキットモード専用メーターとシフトタイミングインジケーターです。
ちなみに今回の表示はGRヤリスが同モデルの開発ドライバー・大嶋和也選手のお勧め「カウントダウン方式」、LBX MORIZO RRの表示は同モデルの開発ドライバー・佐々木雅弘選手のお勧め「ギア比連動方式」に設定、シフトタイミングは共に5500rpmです。
その印象は、ズバリ「シフトミスが確実に減ります」です。
どちらのモデルも丸形に加えてバー式のタコメーター表示が可能ですが、サーキットのようなシーンでは瞬時にレッドゾーンギリギリを見極めるのは難しく、オーバーレブさせないために早めのシフトアップになってしまいますが、サーキットモードだとどちらの表示も両側から中央に向かって緑→赤と変化し、指定されたシフトアップ回転数で青に変化。
それもメーターを凝視しなくてもシッカリと視野の中に入ってくる(視野角は下方向に約70度と言われている)ので、確実にシフトアップポイントが解ります。
慣れるにつれてシフトタイミングの回転数をどんどん上げたくなりましたが、ATはともかくMTだと「シフト操作の訓練をしなければ」と思ったのも事実です。
表示は完全に好みで選んでOKですが、個人的にはクルマと向き合って走る時はトルクバンドの確認もしやすい「ギア比連動方式」、タイムアタック時などは最小限の情報が貰える「カウントダウン方式(それも短めの秒数)」がいいかなと思いました。
欲を言えばLBX MORIZO RRはヘッドアップディスプレイが装着(GRヤリスは進化型で廃止)されているので、せっかくならばここにも何かしらの表示ができるといいなと。
※ ※ ※
サーキットモードはある意味、ソフトウェアでクルマの価値を高める「SDV(Software Defined Vehcle)」をGRらしい解釈で実現したモノだと思います。
世の中でもSDV、SDVと騒がれていますが、「実際に何ができるのか?」、「どんな価値が提供できるのか?」と問われると、正直試行錯誤なのも事実です。
そういう意味では、サーキットモードは「クルマ屋が作るSDV」の一つの答えと言えるかもしれません。
となると、更なる欲も出てきます。
例えば、従来型GRヤリスで実施された「パーソナライズ機能」や、サーキットに埋め込まれている磁気センサーを活用した「ラップタイム機能」、更には、走行後にプロドライバーと比較できる「ロガー機能」など、夢は広がります。
ちなみにサーキットモードの対象施設はインターナショナルサーキットだけでなくミニサーキットやダートコース、更にはクローズド施設(群馬サイクルスポーツセンターやMAGARIGAWA CLUBなど)など主要な所はほぼ網羅しています。
しかし、「これが全てではなくリクエストがあれば追加も検討します(開発者)」と語っているので、SNSやイベントの時、更にGRガレージ経由で伝えてあげてください。
アプリ提供時期は、進化型GRヤリスが8月21日、LBX モリゾウRRが2024年内となっています(アプリは無料)。
リアルを楽しむためのデジタルのフル活用、これこそが「最新のクルマの楽しみ方」と言えないでしょうか。
こんな面白い機能、オーナーだったら体感しないと勿体ないです。
筆者は進化型GRヤリスオーナーの1人ですが、今まで以上にサーキット通いをしそうな予感がしています。
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