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【試乗】987型ポルシェ ケイマンがマイナーチェンジで仕掛けた巧妙な変化【10年ひと昔の新車】

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【試乗】987型ポルシェ ケイマンがマイナーチェンジで仕掛けた巧妙な変化【10年ひと昔の新車】

2008年、911カレラシリーズに続き、987型ポルシェ ケイマンにも大幅改良が施された。その狙いは単なる進化ではなく、性格や立ち位置をより明確にするものだった。ここでは発表後まもなくスペイン・ヘレスで行われたケイマンSの国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年2月号より)

ボクスターとの差別化をこれまでよりも進めた
シェリー酒、あるいはサーキットで知られるスペイン・ヘレスで行われた新型ポルシェ ケイマンSのプレス試乗会で、まず印象的だったのは、試乗前のプレゼンテーション映像に於いて、356 001から550スパイダー、そしてカレラGTに至るミッドシップ・ポルシェの系譜が大々的にフィーチャーされていたことである。ケイマンシリーズが登場してから今までは、どちらかと言えば新しいカジュアルなポルシェの登場というイメージが強調されていたように思う。しかし、今回はどうも様子が違う。

●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか

2005年にポルシェ第4のモデルとして発表されたケイマンシリーズの登場3年目のマイナーチェンジは、先に行われた911のそれと基本的な内容を同じくする。すなわち目玉は新エンジンの採用とPDK=ポルシェ・ドッペル・クップルングの搭載である。

しかし、それらより先にまずは外観についても触れないわけにはいかない。ボディパネルにまで手を入れるような大掛かりな変更ではないが、見た目の第一印象は、これが結構違ったものになっているからだ。

象徴的なのはフロントマスクである。まずはそのヘッドライト。見ての通りカレラGTを彷彿とさせるデザインとされている。バンパーの造形もよりシャープになり、エアインテーク内にはLEDライトが備わる。リアビューも、やはりバンパー形状が変わり、LEDとされたテールランプの輪郭が整えられている。

同時にフェイスリフトされた新型ボクスターシリーズもヘッドライトなどは共通ではあるが、エアインテークの切り方などの細かい点が違うことで、2台の意匠はこれまでより差別化が進められた。さらに言えばケイマン/ボクスターの両車と911とのデザインの距離感も、拡大したという印象だ。思えばカイエンだってマイナーチェンジ後はその傾向にある。もはやポルシェ=911ではないということだとすれば、これはなかなか興味深い流れだ。

では今回の目玉、パワートレーンについてはどうか。まずエンジンはケイマン、ケイマンSともに911でデビューした新設計ユニットへと一新された。

これは水平対向6気筒DOHCという形式と118mmというボアピッチ以外、ほぼすべてが新しいと言っても過言ではないものである。たとえばシリンダーブロックは従来の4分割構造から2分割構造とされ、高剛性のクローズドデッキ構造を採用。タイミングチェーンが2本から1本にまとめられたことで、その駆動用の中間シャフトも廃止されている。当然それは軽量化に繋がり、シリンダーヘッドの部品点数削減なども合わせて全体で6kgの重量軽減を達成。オイルポンプに燃費に貢献するオンデマンド式が採用されるなど、補機類も最新のものにアップグレードされている。

エンジンはパワーアップと燃費向上を見事に両立してみせた。ケイマンSが積む排気量3.4LのDFI=直噴ユニットは、最高出力320ps/7200rpm、最大トルク370Nm/4750rpmと、従来モデルより25ps、30Nm向上している。一方、ケイマン用は直噴化は見送ったものの排気量を2.9Lとし、最高出力265ps/7200rpm、最大トルク300Nm/4400~6000rpmと、やはり20ps、27Nmアップを実現した。それでいて燃費はケイマンSのPDKで9.2L/100km(EU総合モード)と16%も改善されているのだ。

不思議なのは、なぜケイマンは直噴化されず排気量が大きくなったのかということだが、端的に言えばそれは効率の問題だろう。ボア×ストロークを見ると、ケイマンSの3.4Lが97.0×77.5mmなのに対して、ケイマンの2.9Lは89.0×77.5mmと、実はストロークは両方一緒。つまり2.7Lに留めるべく別のクランクシャフトを設計してさらに直噴化するより、排気量を上げてしまって、その余裕を性能と燃費の向上に回した方が効率的だろうという話である。もっともポルシェは、絶対にコストという言葉は使わないが。

ちなみに77.5mmのストロークは911カレラS用3.8Lも同じ。そしてケイマンS用3.4Lの97mmのボアはカレラ用3.6Lと同じで、この2機種はバルブ径も共通とされている。徹底的なモジュラーユニットなのだ。

911系とギア比を変えたケイマンS専用のPDK
排気系の取り回しも大きく変更した。これまでボディ後端にまとめられていた触媒コンバーターが、排気温度が下がらないまま導かれるエンジンのすぐそばに移設されたのは、エンジンや補機類の効率的な設計でスペースの余裕が生まれたおかげだ。なおその触媒コンバーターは容量自体も増大しており、排ガスはユーロ5対応のクリーンさを得た。

注目のPDKは、言うまでもなく基本設計を911用と同じくするものだ。ギアも同じ7速だが、エンジンの向きが逆でドライブシャフトの位置も異なることからケーシングは別物で、ギア比も専用とされている。重量は従来の5速ティプトロニックに較べて10kg軽い。もっとも、ケイマン/ボクスターシリーズの開発責任者であるH.J.ヴォーラー氏は「まだ重い!」と言っていたが・・・。

スポーツクロノパッケージ・プラスがオプションで用意されるのも、やはり同様。また、PDKの搭載によってケイマンシリーズはもうひとつの強力な武器を手に入れることが可能になったのだが、それについては後ほど改めて触れる。

細かい話が続いたので、メカニズムの続きは走りの印象を交えながら記していくことにする。そのフットワークについては、むしろその方がわかりやすいはずだ。なお、今回試乗したのは、すべてケイマンSのPDK、PASM付きだったということをあらかじめお伝えしておく。

まず触れたいのはシャシの話である。現行モデルのオーナーには忍びないところだが、何しろその走りは格段に洗練されていたからだ。

まずは乗り心地が良い。これまでもPASMなしで18インチ以上のタイヤでも履かせない限り、大きな不満があったわけではないが、進化はそれでも明らかだ。さすがに19インチ仕様では良くなっても快適性はそこそこという感じだが、18インチ仕様は姿勢はフラットなのにゴツゴ感とは無縁で、路面にひたーっと吸い付くように走る。全般にはとても上質な乗り味が演出されていた。

その一番の要因は、後輪の空気圧設定が下げられたことだ。たとえば18インチでは、従来は前2.0/後2.5barだったのが新型では前2.0/後2.1barとされている。タイヤ自体も転がり抵抗低減などを図った新開発のものとされているから、それも効いているに違いない。PASM付きは、減衰力設定も見直され、またPASMなしの場合はリアのスプリングレートも若干下げられているという。とくに日常領域での快適性向上が、リファインでは主眼とされていたようである。

それでも軽快感が損なわれていないのは、まずはパワーステアリングの操舵力が軽減されたおかげだろう。従来は同じユニットを使う911と共通の制御内容だったが、前後重量配分が前寄りのケイマンシリーズの場合、それでは操舵力が重くなる。そこを是正したのだという。正直、言われればそうかな? と思う程度の差しかないが、こうしたこだわりは、いかにもポルシェらしい。

しかし、より大きなウエイトを占めているのは、新たにオプション設定され、今回筆者がステアリングを握った試乗車すべてに装着されていたLSDである。

これまでケイマン/ボクスターの両シリーズにはLSDの設定はなく、ポルシェの見解は「これらのモデルのキャラクターには不要」というツレないものだった。それが覆ったのにはPDKの力も大きい。単純にティプトロニックにはLSDが入るスペースがなかったが、PDKのケーシングにはそれを組み込む余地が確保されており、晴れてLSDを手に入れることが可能になったというわけである。

機械式のそれは加速時22%、減速時27%のロック率を持ち、18インチ以上のホイールと組み合わされる。またLSD装着車はリアスタビライザー径が一段太くなるという。

そもそも911より明らかに身のこなしの軽いケイマンSのキャラクターには基本的に変化はない。しかし印象としては、まずブレーキングからターンインにかけての挙動がシャープ・・・というか輪郭がクッキリした印象を受ける。簡単に言えば、より正確性が高まり、キレが良くなったという感じだ。

当然、加速には大いに効いていて、アクセルオンとともにクルマを前にグッと押し出してくれる。従来のケイマンSは、ここでABD(オートマチック・ブレーキ・デファレンシャル)こそ付いているものの積極的なトラクションは稼げず、そのうちに自然に挙動が収束しているという、安全ではあるが、限界域ではやや物足りなさも覚える味つけだった。しかしLSDを得て、ケイマンSは立ち上がりで躊躇なく踏み込んでいけるリアルなスポーツカーになった。

とは言え、そのハンドリングは911系とは明らかに別物である。端的に言って、ケイマンSの方が軽快。ドライバーを中心とした旋回感はより強く、一方でトラクションは911ほどではない。よって911よりLSDの装着がシビアな動きを誘発することも多く、それを考えると効きがマイルドなビスカス式もアリだったかもしれないとは思う。しかし、ケイマンSの、この颯爽とした走りは、圧倒的な安定感を誇る911とは違った、明らかにポルシェらしいスポーツカーらしさを満喫させてくれるものだ。

走りの洗練という意味では、音環境の改善も効いている。これは遮音ではなく、新しい吸気系の効果。音のこもり感が一掃されて、抜けの良いスッキリとしたサウンドを聞かせてくれるようになったのだ。

嬉しいのは、911のとくにカレラ用3.6Lに感じた、常用域でのエンジンの存在感の薄さが、ケイマンSでは払拭されていたこと。そもそも搭載位置が近いせいもあるのかもしれないが、エンジンの音と吹け上がりは、新世代直噴ユニットの中でベストかもしれないと感じた。

爽快なエンジン特性も、そうした印象を後押しする要素だ。911に遠慮してか最高出力が295psに抑えられている現行モデルは、中低速域での力感からすると、上の伸びはもう少し・・・という感じだったが、現行型最後の限定車、ケイマンSスポーツに次いでついに300psを突破した新型は、最高出力の発生回転数が6250rpmから7200rpmまで高められていることから想像できる通り、トップエンドに向けて弾けるような吹け上がりとパワー感を獲得している。これは、まさに掛け値なしの快感。レブリミットも7500rpmに引き上げられているから、PDKをマニュアル操作すれば目一杯引っ張って楽しめる。

スポーツカーとしての資質にも磨きがかかった
PDKの印象は、911と変わるところはない。Dレンジでのマナーは完璧だが、ステアリングシフトスイッチの独創的な操作ロジックには大いに疑問あり。スポーティに走らせたいなら、スポーツクロノパッケージ・プラスは必須というところも含めて共通である。ちなみにヴォーラー氏の吐露するところによれば「それは上ですでに決まっていたことで、私が口出しできることではないんだ」ということであった。

パワートレーンは、ケイマンシリーズとボクスターシリーズでエンジンスペックに差がつけられているのも興味深いポイントだ。ケイマンシリーズが最高出力で10ps上回るのは、バリオカム・プラスと可変吸気システムのチューニングによるもので、「ボクスターはオープン走行を満喫できるように実用域のトルクを重視した」ということである。ここにも外観同様、ふたつのモデルをより差別化するという方向性が見てとれる。当然、価格差の理由付けという意味も、そこには込められているはずだ。

この新しいケイマンS、もちろん進化は期待していたものの、正直ここまでスポーツカー濃度を高めてくるとは予想していなかった。おかげでこの日は、何台もクルマを乗り換えて日が暮れるまで走り回ってしまった。この走りには、GT2用フルバケットシートにPCCB付きなんてハードな仕様も、まるで違和感なく感じられたほどだ。ちなみにバネ下重量が大幅に軽くなるPCCBとセットなら19インチも乗り心地含めまったく問題なし。

とくに911用と同じくフローフォーミング製法リムを採用した、同サイズの中でもとりわけ軽量なカレラSホイールとの組み合わせは、価格を度外視すればベストと思えたことも付記しておこう。先にも書いた通り、もちろん世界観は911とは違うが、それは上下関係ではなく、それぞれに違った個性、面白さがあったのである。

今回のモデルチェンジは、ポルシェの中でのケイマンシリーズの立ち位置をより明確にするものだと言えるだろう。これまではライフスタイル的側面が強調されていたが、新型は、そうした「らしさ」を損なうことなくスポーツカーとしての資質にも磨きをかけてきた。

ミッドシップの系譜を持ち出すなど、アピールも明快だ。方向転換? いや、当初から計算尽くだったに違いない。この3年でケイマンシリーズの存在感は世に十分に知れ渡り、911とは違うユーザー層が形成されつつある。ポルシェ本来のスポーツ性を前面に出すのはそれから。きっと、そういう計画だったのだろう。

すでに911と比較されることはなく、ましてやボクスターのクーペ版と言われることもなく、ケイマンはケイマンとして受け止められている。そんな中で行われたフェイスリフトは、市場やユーザーのマインドにピタリとはまる、まさに絶妙の内容だった。

これは卓越したマーケティングとテクノロジーの両輪が揃わなければ、実現できなかったことのはずだ。そう考えると新型ケイマンは、すでにブランドの確立している911やボクスター以上に、ポルシェの実力が発揮されたプロダクトと言ってもいいのかもしれない。まったく、いつもながら脱帽である。(文:島下泰久)

ポルシェ ケイマンS 主要諸元
●全長×全幅×全高:4347×1801×1306mm
●ホイールベース:2415mm
●車両重量:1350kg
●エンジン:対6DOHC
●排気量:3436cc
●最高出力:235kW(320ps)/7200rpm
●最大トルク:370Nm/4750rpm
●トランスミッション:7速DCT(PDK)
●駆動方式:MR
●燃料・タンク容量:プレミアム・65L
●EU総合燃費:10.9km/L
●タイヤサイズ:前235/40ZR18、後265/40ZR18
●最高速:275km/h
●0→100km/h加速:5.1秒
●車両価格:877万円
※欧州仕様

[ アルバム : ポルシェ ケイマンS はオリジナルサイトでご覧ください ]

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