トップグレードは5万ポンド(715万円)
text:Matt Saunders(マット・ソーンダース)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
新しいボクソール(オペル)・グランドランドX ハイブリッド4は、現在の自動車を取り巻く混迷した現状を端的に表現しているように思う。
ボクソール(オペル)といえば、以前から価格価値に優れた自動車ブランドだった。そこから生まれたSUVとなれば、ハッチバックより広い車内空間を想像するかもしれないが、実はそうでもない。
もし価格が2万5000ポンド(357万円)程度なら、合理的に納得できる可能性はある。だが、今回試乗した最上級グレードの場合、ショールームで掲げられるプライスタグは、ほぼ5万ポンド(715万円)。なかなかな金額だ。
少なくとも、ボディの見た目はボクソール(オペル)っぽくはない。英国の場合、税制面での経済性も悪くはない。
新時代の到来とともに、会社からの貸与車両に選ばれる可能性は高いといえる。英国では日本の社宅のように、クルマが社員へ支給されるケースが少なくないのだ。
英国の場合、2020年以降は税制体型が変わり、電動化技術を搭載しない会社貸与車両の維持費は高額になる。ディーゼルエンジンを搭載した日産キャシュカイ(旧デュアリス)より、グランドランドX ハイブリッド4の方が、毎月かかる税金は安い計算。
ちゃんと会社の貸与車両用として、ビジネス・エディションという廉価グレードも用意されている。競合するプラグイン・ハイブリッドのSUV、三菱アウトランダーPHEVやBMW X1、ボルボXC40などよりも安価に設定されている。
システム総合での最高出力は300ps
個人で選ぶ人は少なくても、企業の貸与車両を管理する人間なら、グランドランドX ハイブリッド4を選びたくなるだろう。その場合、1.6Lのターボガソリンに2基の電気モーターが組み合わされたモデルとなる。中身的には、プジョー3008やDS7クロスバックの姉妹車だ。
システム総合での最高出力は300ps、最大トルクは52.8kg-mと充分にたくましい。プラグイン・ハイブリッドのSUVと比べた場合、相対的な動力性能でみればアドバンテージがあるほど。
13.2kWhのバッテリーが搭載され、EVモードで走行可能な距離はWLTP値で56km。それでいて0-100km/h加速は5.9秒。少なくともスペック上は、驚くほどの運動神経と経済性を持ち合わせている。
筆者のように、クルマを平日は仕事で長距離移動の手段として利用し、週末は離れた郊外で家族と過ごすための乗り物と考えているなら、グランドランドX ハイブリッド4は期待通りとは感じないかもしれない。ボクソール(オペル)は、筆者の考えを改める必要がある、と話すだろうけれど。
もっとも、英国が進める二酸化炭素排出量に応じた税制システムは、的を得ていない。会社の貸与車両をPHEV化させるべく税率を変更しているが、技術的には長距離走行には適したシステムではないためだ。
小さな家族が持つセカンドカーの方が、走行条件的にはPHEV化には適している。だが、今の税制内容は、その推進には不十分だ。
英国のように長距離を日常的に走る人にとって、PHEVよりもディーゼルエンジンの方が燃費では優れている。現状に合わない税制を施行していくことは、ややもすれば地球温暖化を抑制するのではなく、促進してしまう可能性もある。
ドライビングの第一印象は良好
英国や欧州政府の政策への批判となってしまったが、グランドランドX ハイブリッド4はこの新しいルールに合わせて設計されたクルマ。ボクソール(オペル)を批判することはできない。
全長4477mmとなる、グランドランドX ハイブリッド4のリアシートは広々ではないが、小柄な大人なら充分な空間が確保されている。定員分の週末旅行の荷物には狭いものの、荷室空間も必要充分な大きさがある。
ただし、価格価値で評価を得てきたボクソール(オペル)にとって、グランドランドXの価格は選択時に引っかかる部分となる。インテリアは暗く、値段の割に安っぽいプラスティック製の部分が目立つ。
インフォテイメント・システムも、プレミアム・ブランドに迫るトップグレードの価格を考えれば、物足りないといわざるを得ない。
ドライビング体験は、一般的なディーゼルエンジンを搭載したクロスオーバーに乗っていたドライバーなら、納得できるもの。グランドランドX ハイブリッド4の洗練された運転のしやすさは、誰にとっても良い第一印象を与えるはず。
ドライブモードでハイブリッド・モードを選択していても、バッテリーが空でない限り、リアの電気モーターの力だけで発進する。EVのように、街なかで走らせている範囲ではレスポンスに優れ、スムーズでパワフル。
右足で踏むペダルに直結しているかのように、推進力の活発さには満足感がある。電気モーターだけで出せるスピードも不満はなく、意図した走りをしない限り、エンジンは基本的に目覚めることがない。
不満もあるが、路面を問わず快適な走り
都市部を離れて速度域が上がってくると、滑らかさはわずかに削がれていく。もう少し、電気モーターとエンジンとのハーモニーが取れていれば、と感じる。
エンジンは電気モーターではまかなえないニーズに、渋々応答するように回転。アクセルペダルの踏み込み量に対し、リニア性に欠ける不自然な反応を得ることになる。電気モーターの回転上昇に対して、エンジンは1、2秒遅れているようだ。
速めの走りはどこかぎこちない。シフトパドルで変速できるトランスミッションが、少し改善はしてくれるけれど。
フルスロットル時は活発に加速し、低速トルクもかなり太い。だが、運転が楽しいと感じられるパワートレインではない。エンジンは高回転域まで回りたがるユニットでもなく、スポーツ・モードを選んでも、惹きつけられるほどの変化はない。
グランドランドX ハイブリッド4の乗り心地と操縦性は、1.8tの車重と高い全高を反映している。日常的な速度域では十分にまとまりのある乗り心地だが、垂直方向の動きには弱い様子。不規則な横方向の動きも感取された。
速度を上げてコーナリングすると、ロールしたボディを戻すように外側が素早く持ち上がるような挙動を示す。ステアリングは、重み付けやレシオは中程度の設定。正確性やフィーリングが特段良いわけではない。
全般的に路面を問わず、グランドランドX ハイブリッド4は十分快適に走れる。ドライバーズカーではなく、パワートレインの構成に合わせるように、動的性能も自然な位置に限界が設定されているようだ。
条件が合えば30km/Lの燃費も
燃費は運転スタイルにもよるが、優れている場面もある。EVモードでの航続距離は、実際には40km程度。英国の場合、平均的な通勤距離は往復で96km程度だから、自宅と仕事場で充電すれば、28.3km/L~31.8km/Lという燃費も不可能ではない。
反面、バッテリーの充電がなくなるとガソリンエンジンだけで走ることになり、燃費は12.3km/Lへと落ちる。ディーゼルエンジンを積んだクロスオーバーなら、14.1km/L~17.7km/Lは走れるから、この条件では劣ってしまう。
グランドランドX ハイブリッド4が、ライバルのPHEVと比較して、目立った訴求力を備えているとはいいにくい。だが英国の場合、このサイズとカテゴリーとしてみれば、初めてのPHEVではある。また予想外にも、最速の1台でもある。
ブランド的に強いBMWやボルボと比べると、秀でた洗練性や上質なドライビング体験では及ばない。車内は目立って広いわけでもないし、プレミアムさを感じる仕立てでもない。
しかし成長の続く、プラグイン・ハイブリッドというシステムを搭載したことに意味がある。ボクソール(オペル)なら、さらに上の提案もできるだろう。少なくとも、求められるニーズを充分にカバーしたモデルだ。
ボクソール(オペル)・グランドランドX ハイブリッド4のスペック
価格:4万6650ポンド(667万円)
全長:4477mm
全幅:1856mm
全高:1609mm
最高速度:234km/h
0-100km/h加速:5.9秒
燃費:72.2km/L(WLTP複合)
CO2排出量:-
乾燥重量:1800kg
パワートレイン:直列4気筒1598ccターボチャージャー +ツインモーター
使用燃料:ガソリン
最高出力:300ps/6000rpm(システム総合)
最大トルク:52.8kg-m/3000rpm(システム総合)
ギアボックス:8速オートマティック
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