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フェラーリ330 GT 2+2(1) ヒビ割れ塗装に刻むサーティースの記憶 2輪と4輪で世界一

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フェラーリ330 GT 2+2(1) ヒビ割れ塗装に刻むサーティースの記憶 2輪と4輪で世界一

サーティースに理想的だったBMW 507

伝説的レーサーの1人、ジョン・サーティース氏。バイク乗りだった彼にとって、BMW 507は理想的なクルマだった。

【画像】重層サウンドが最高のBGM フェラーリ330 GT 2+2 同時代の跳ね馬たち 全132枚

ロードレース世界選手権のライダーとして名声を勝ち取り、アストン マーティンDB2/4からメルセデス・ベンツ300SLまで、数多くのスポーツカーを嗜んだ。中でも、ドイツ・ミュンヘン生まれのロードスターは、特別だったようだ。

そんなサーティースは、1960年代に二輪から四輪へ転向。レーシングドライバーが乗るクルマは、ライダーのそれ以上に大きな意味を持った。エンツォ・フェラーリと面会した彼は「ドイツ車は駄目だ。フェラーリに乗ることが絶対だ」。と告げられたらしい。

今回ご紹介するヤレた見た目のフェラーリ330 GT 2+2 は、スクーデリア・フェラーリ
と契約したサーティースへ届けられた、2台目のグランドツアラー。数年でイタリアの名門を去るという、重要な決断に関わったクルマでもある。

興味深いことに、歴代オーナーの判断によって、現在までレストアされることはなかった。深みのあるワインレッド、アマラント・レッドの塗装は、1965年の春からボディを保護し続けてきた。

現在のオーナーは、クラシック・フェラーリとして、クラシケによる認定を取得。歴史を物語る風合いを保ちつつ、快調に走れる状態へ仕上がっている。

330 GT 2+2のスタイリングはトム・ジャーダ

サーティースが最初に手にしたフェラーリも330 GT 2+2で、1964年1月のベルギー・ブリュッセル・モーターショー直後に届けられている。自ら172psへチューニングした、BMWとの別れには消極的だったらしい。

「騎士長(エンツォ)は、ドイツ車を軽蔑するような発言をしました。フェラーリを買うべきだと」。1996年8月のAUTOCARの姉妹誌で、彼はそう話している。だが、新しいチームとの関係性を良好に保つため、その意向へ従った。

「間違いなく、会社からの貸与車両といったものではありませんでした。差額を支払うことになりましたからね」。最初は250 GTルッソを検討したものの、結婚したばかりで、実用性を求めて330 GT 2+2を選んだようだ。

スタイリングを手掛けたのは、ピニンファリーナ社に在籍していたトム・ジャーダ氏。ワイド&ロングなボディに、3.0Lから4.0Lへ排気量が増やされた、V型12気筒のシングルカム「コロンボ・ユニット」が載っている。最高出力は、304psへ上昇していた。

サーティースの1台目は初期型で、4灯のヘッドライトが特徴。トランスミッションはオーバードライブ付きの4速マニュアルで、ボラーニ社製のワイヤーホイールが標準装備だった。

507と同じように、彼はチューニングを施した。コニ社製ダンパーへ手が加えられ、アンチロールバーを変更。サスペンション・スプリングは引き締められ、タイヤはワイドなピレリ・チントゥラートへ交換している。

二輪と四輪の両方で世界一の王座を獲得

1963年にフェラーリのF1ドライバーの座を掴んだサーティースは、1964年に最高潮を迎えた。ドイツ・ニュルブルクリンクとイタリア・モンツァでは優勝。オランダと英国、アメリカ、メキシコでも表彰台に登っている。

果たして、グラハム・ヒル氏を1ポイントで凌駕し、世界チャンピオンへ。二輪と四輪の両方で世界一の王座を掴んだ、唯一無二のレーサーになった。

F1の優勝記念として、エンツォは新車のフェラーリを彼へプレゼントしたのだろうか。これは古くから推測されてきたことだが、アマラント・レッドのクーペが、2台目の330 GT 2+2になったことは間違いない。

前期と後期型の狭間に作られた仕様で、生産数は125台と少ない。5速MTと吊り下げ式のペダルは後期型へ準じているが、4灯のヘッドライトは前期型のまま。凄腕のレーシングドライバーは、理にかなったアップグレードだと受け止めたはず。

1965年に乗り換える前に、1台目の330 GT 2+2には1年半乗っていたとサーティースは語っている。シャシー番号6981GTが届けられたのは、1964年シーズンが終わってから半年後になり、プレゼントのタイミングとしては遅すぎるだろう。

ただし彼は、性能には納得していなかったようだ。「設定を何度確かめても、そこまで速くなかったんです。操縦性も良いとはいえませんでした」。そんな不満をエンツォが聞き、275 GTBを提案されたが、サーティースは断ったという。

滑らかに突き進む巨大な電気機関車

「今まで運転したクルマの中で、(275 GTBは)1番酷いといっても良かったですね」。彼は新しい330 GT 2+2へ乗り続け、欧州各地で開かれるレースへ自走で向かった。フェラーリのV12エンジンが放つサウンドとパワーを、堪能したはずだ。

そんな折、モナコ・グランプリとベルギー・グランプリの間に、カナダでの予定が入る。サーティースは自動車ジャーナリストのヘンリー・マニー氏へ、ベルギー・スパ・フランコルシャンまで、330 GT 2+2の移動を頼んだ。記事の執筆と引き換えに。

マニーは、5500rpmを超えないよう監視するコ・ドライバーを助手席に載せ、北を目指した。この時点での走行距離は、4000kmほど。回転数の制限を守りながら、0-97km/h加速を10.1秒、0-161km/hは27.0秒で処理することを確認している。

フェラーリの公称値は、6400rpmへ引っ張って0-97km/h加速が7.5秒で、最高速度は252km/h。5000rpmで183km/hの巡航を余裕でこなすことも、マニーは確かめた。「ガラスのように滑らかに突き進む、巨大な電気機関車のよう」。と印象を残している。

乗り心地は、あまり良くなかったようだ。コニ社製のショックアブソーバーを、アームストロング社製の調整式にし、タイヤはドイツ製造のダンロップへ交換すれば、改善するだろうとまとめてもいる。

サーティースは、この意見に共感した。翌年までに、ボラーニ社製のワイヤーホイールはアルミホイールへ交換され、タイヤはダンロップR6が組まれた。

この続きは、フェラーリ330 GT 2+2(2)にて。

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