車を知らない人に見せる手品
ここはユーザーレビューなので、実際に購入し所有した経験から書かせてもらう。
モーターショーや写真でオロチをかっこいいと思っ
2009.5.16
- 総評
- 車を知らない人に見せる手品
ここはユーザーレビューなので、実際に購入し所有した経験から書かせてもらう。
モーターショーや写真でオロチをかっこいいと思った人は、少なくともこれが本物の車、もっといえばそれなりに真正のスポーツカーであることを前提とし、その特異なデザイン性を褒めていた。
つまり、車体の曲線はただ絵に描いた餅でなく、高い計算に基づく空力特性に裏打ちされ、もちろんその速さに比する剛性と安全設計、動力性能があって2ドアクーペスポーツカーとして成り立ち、さらにそのうえでデザイン良ければなお良し、という至極真っ当な見方での評価だった。
しかしオロチはこの大前提を放棄してしまっている。アルミの板金なら凄いと思えるボディの曲線もFRPにすぎず、動力はトヨタの3・3、AT。ステアリングやペダルも他社からの寄せ集めで、一見してファミリーカー仕様の部品とわかる。よりその事実を端的に示すのはボンネット上部にいくつも開いたエアインテイク?に見せかけた窪みである。写真や展示では、これらはエアインテイクそのものに見え、穴に金網がかかっているように思えるが、実際には単なる窪みを黒く塗り、金網に見えるシールを貼ってあるだけである。従って雨の日にはここに水が溜まり、穴ではなくただの窪みであることが露呈してしまう。何よりエンジン音がスポーツカーではない。メルセデスSLなどにも3・5lはあるが、だからといってトヨタのSUVエンジンを流用した3・3lがそれに近いわけではない。スポーツカーにおいて排気量の数値がすべてであるはずもない。FRPのわりには車重のあるオロチには十分なトルクではなく、かといってこれ以上馬力があったのではそもそも車体の安全性に疑問が生じる。
FRPで作ったカッコだけのボディがトヨタのエンジンでなんとか動く、つまりこれは「パレードの山車」である。あるいは、この車の情報をまったく持ち合わせていない人の前に現れ、驚かせることのみが目的の、手品かびっくりグッズのようなものかもしれない。それ以外には、なんの用途もない。
- 満足している点
- 何も知らない人の前ではとりあえず存在感を放つことができる。
AT免許でも乗れる。
日本車なので当然右ハンドル。ランボルギーニなどは200万の追い銭を払わねば右ハンドル仕様が選べないし、AMGなども最高ランクは左仕様しか輸入しなかったりするが、右で運転したい人にとってはそういう煩わしさはない。
見切りの悪さも考慮すると、レクサスSC430(旧ソアラ)の屋根をクローズして雨の日に走っているぐらいの感じ。逆にいえば、運転のしにくさはその程度であり、ATであることも相まって普通に運転できる。トヨタのエンジンであることもあり低速の乗り味もSCのようである。高速ではそこまで速度は出ない。
純正…と言いながら市販のナビが付いているだけなので、カー用品店で好みのナビと交換し放題。このあたり、ディーラー車が頑固なまでにクソナビを車体に合体させてきてどうにもならないメルセデス、BMWに比べれば交換の楽しみがあると言える。必需品のバックカメラ、モニターもあるのが良い。
受注生産品として、オプションとして多彩な車体色を選べる。フェラーリのようなレッド、ランボルギーニのようなオレンジも発注可能である。見た目がすべての車としては重要なポイントである。
リアのMITSUOKAというエンブレムは簡単に剥がせる。その下に穴なども空いていない。
- 不満な点
- じつはスポーツカーではなくパレード用山車でしかないこと。リセールバリューもびっくりするほど低い。
FRPのボディは一体形成で継ぎ目がなく、従ってどこかをぶつけたりして割れた場合、部分補修できなければ全体を総とっかえになる。むろん部分補修もアルミのボディほど綺麗に確実にできるわけではない。
これが見られてナンボの車である以上、人々の反応だけが重要な点になるわけだが、それについては以下のとおり。
乗っていればこちらに視線を向けてくる人々も多く、駐車車両に若者が遠巻きに眺めたりもするが、彼らがどんな思いなのかは聞き耳を立てねばわからない。それなりに車好きな若者であれば、オロチが張り子の虎で中身が伴っていないことは知っていて、「すげえな」と言いつつもニヤついていたり、野次馬気分の見物である。フェラーリなどと違い、オロチのオーナーはこうした若者たち、あるいは青年・中年たちに気軽に声をかけられてしまう。もしオロチをガソリンスタンドに滑りこませたときに、外車のスーパースポーツやラグジュアリーカーと同様の畏敬の念を受けることを期待しているのなら、それはおおいに見当違いであると言える。むしろ、リアに倖田來未の絵をペイントしているような派手な色彩のワンボックスに対する人々の反応に近いと言えよう。
200万円を納めなければ試乗をさせない、そして申し込みから納車まで半年あるいは1年もかかるという強気な態度はさしずめ海外の最高級車だが、たとえオロチの見た目に魅せられ、FRPでもいいやと思う人がいたとしても、1千万では買わないというのは申し込みの少なさによって証明されている。速いかどうか以前に、車は人の命を乗せて走っている。メルセデスはレースでの経験に基づいた安全設計が世界的評価を受けていて、値段はオロチと変わらない。
かつてのスーパーカーブームにおいて人気の車は実は性能面において張子の虎であり、最高馬力も速度も出鱈目だった…からと言って、21世紀に新たに作る車が同じ方向性で良いはずもない。あの当時よりラグジュアリースポーツカーは人々にとって身近になり、だからこそ本物の性能をユーザーは求めるのである。一千万円の車となればなおさらである。
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