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Sクラスならではの“凄み”とは?──新型メルセデス・ベンツS500 4マティック・ロング試乗記

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Sクラスならではの“凄み”とは?──新型メルセデス・ベンツS500 4マティック・ロング試乗記

メルセデス・ベンツのフラグシップ・セダン「Sクラス」の新型に田中誠司が試乗した。ライバルに対するアドバンテージとは?

室内のデザインで新しさを主張

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集合場所である都心の高級ホテルにある地下駐車場には、偶然というべきか場所柄ゆえ必然というべきか、従来型のSクラス・ロングが停められていたので、すぐ隣のロットに新型を並べて比較して眺めてみることにした。

外観からは大きな差異が感じられないことに、むしろ、すご味を感じた。もちろん、ホイールベースを50mm延長した分、前は出っ張っているし、よく観察すればどちらが新型かはわかるのだが、それにしたって10人にひとりくらいは新旧を取り違えるのではないだろうか?

コンサバティブなモデルチェンジともいえるが、外から見て旧型が古く見えないのは、既存顧客の資産価値が損なわれにくいということで、歓迎すべきことでもある。

いっぽうで、車内に入ってみると、新旧の違いは一目瞭然。正方形に近い縦横比が特徴的な12.8インチ有機ELタッチパネル・ディスプレーをダッシュボードの中央に据え、ステアリングホイールの隙間から3D表示の12.3インチ・メーターパネルが覗く風景は、従来型とはまったく別世界である。

自動運転がさらに活気づくこれからの自動車界において、室内の居心地がとりわけ重要になることは、デザイナーをはじめ多くの自動車人が認めるところだ。そんな時代、できるだけ外見を変えず、室内で新しさを主張するモデルチェンジは、外観の変化に頼って客を取り込まなくてもいいモデルやブランドにとって、さらに顕著な傾向になっていくのではないだろうか。

“6気筒”であることをどのように評価するか?

小川フミオさんが2篇にわたる試乗記で記しているように、新型S500ロングは乗用車界の帝王にふさわしく、実用の道具としてこれ以上は考えられないほど洗練されていて、高級車はかくあるべき、という主張もそこかしこに感じられる、傑作であると思う。

さらにいうと、Sクラスの新車価格は、世代を経ても変化が少ないことを明らかにしておこう。S500LもしくはS550Lのスタート価格(税別)は、4世代前(1991年10月)が1523万円、3世代前(1998年11月)が1330万円、2世代前(2005年10月)が1330万円、1世代前(2013年10月)が1471万4000円、現行(2021年1月)が1567万3000円といった具合である。

しかも新型は、4WDが標準装備だ。最近は自動運転支援設備など、装備の充実にともないとくに国産高級セダンの価格がじりじりと上がって、手に入りにくいという巷の不満も耳にする。Sクラスの場合は、そもそも世界最先端の装備を常に盛り込んでいるので、買う人の財力に合わせた設定を続けた結果なのだろう。

そんな新型S500の物足りない部分をあえていうなら、エンジンが6気筒である点だ。48ボルト・システムを利用したISG(インテグレーテッド スターター ジェネレーター)の導入によって、立ち上がりのパワーや滑らかさは十分だけれども、車速が上がって高回転になると伝わってくる“パルス”は、やはりV型8気筒エンジンほどなめらかではない。

メルセデスの車名にある3桁の数字は、エンジン出力を反映した格式を示している。1980年代の登場以来、Sクラスで“500”とか“550”というモデルは、V8ユニットを搭載しているのが常識だった。ぼくはSクラスの開発者インタビューや新型車紹介の記事をGQ Carsに書いていたにもかかわらず、S500が6気筒であることをすっかり忘れて試乗車に飛び乗って、しばらくその事実に気づかなかったが、道が開けて右足に力を込めた段階で「あ、そうか!」と思い出す、くらいの違いはある。

回転感覚が密なメルセデスのV型8気筒エンジンは、鞭を入れてもエンジンの中で爆発が起きていることを知らせる粒子の粗さがなく、燃焼にともない呼吸をしているゆとりを感じさせたものだ。

アウディの「A8」とBMWの「7シリーズ」には、V型8気筒ガソリン・エンジン搭載のロングボディ車(A8 L 60 TFSIクワトロ/1685万円、750Li xドライブ エクセレンス/1871万円)がすでに用意されている。新型Sクラスにも、V型8気筒搭載モデルの追加は予告されているものの、価格的には一歩抜きん出たものになりそうだ。

7シリーズには6気筒をロングボディに搭載した「745Le」があって、むしろこちらのほうがS500ロングと燃費(JC08モード)の値が近い(745Le:11.8km/L、S500ロング:12.4km/L)。A8にはショートボディにしか6気筒モデル(55 TFSIクワトロ、340ps/500Nm、10.5km/L)がない。745Leはプラグ・イン・ハイブリッド車なので、外部充電によって一充電あたり最大58km走れる反面、エンジン出力は抑えめで286ps/450Nmに留まり、システム総合でも最高出力394ps、最大トルク600Nmと、エンジンだけで435ps/520Nmに16kW(21.7ps)/250Nmのモーターが加わるS500に比べると非力は否めないだろう。

燃費と快適性の両立

というわけで、ドイツのライバルと比べてS500ロングは燃費と出力のバランスに優れている。最高級車のオーナーが燃費なんて気にするものかというかもしれないが、燃費の違いは航続距離の違いに直結し、企業が最高級車を導入する際にそれはROI(費用対効果)にかかわる。

移動通信網も発達して、オンライン会議も一般的になったいま、ロングボディ車はエグゼクティブの休憩所ではなく、移動式執務室としての役割を強めている。お抱え運転手を雇うとなると容易なことではないが、一般平均の何人分かの付加価値を稼ぎ出すエグゼクティブにとっては限られた時間を有効に使うのに効果的である。

ぼく自身、独立して会社を持ってみて思うのは、銀行や公的機関が開いていて、電話すれば大手企業につながる平日昼間の時間はとくに貴重という点だ。合間の移動を有効に使うことができれば、ビジネス拡大の機会は大きく増えるだろう。本当は、自動運転がレベル5に到達して、運転しながらなにもかもできればいいのだが、技術がそこまで進化するのにはまだ当分かかりそうだ。

ロングボディの最高級ビジネス・エクスプレスにとって、時給の高いエグゼクティブの業務効率を高めることが主要な目的であれば、航続距離が長く給油に時間を奪われないことは大きなアドバンテージである。V型8気筒エンジンへの憧憬はあるものの、直列6気筒エンジンを強化して優れた燃費と快適性を両立し、そこに豪華装備をふんだんに盛り込むというS500の戦略には、現実味を見出すことができる。

全長5m超を意識させない俊敏さ

走らせての印象はすでに小川フミオさんの記事にほとんどカバーされているが、筆者なりにとくに注目した点を上げるなら、まずは後輪操舵機能だ。街中での緊急回避を想定して、一般道の制限速度内でステアリングを意図的にぐいっと切ると、想像以上に舵が効いてびっくりさせられるほどだ。このときAIRMATICサスペンションは瞬時にロールを抑える動きをするので、身のこなしはまるでコンパクトなスポーツカーのようである。

後輪操舵機能はパーキングでも有効で、最小回転半径はこのボディサイズとしては驚異的な5.5mに抑えられている。

AIRMATICサスペンションはコンフォート、スポーツ、スポーツプラスの3モードから選べるようになっている。コンフォートモードのまま高速ワインディングロードでスピードを上げていくと、負荷が高まってくれば後輪操舵を統合したサスペンションが安定を確保してくれるのは間違いないものの、そこそこ速度が上がってもステアリングの手応えはあくまで軽くふんわりした身のこなしのままで、運転手としては若干心許なく感じることは否定しない。

巨大なセンターモニター左下にあるDYNAMICと書かれたボタンを押せばAIRMATICサスペンションは即座に戦闘態勢に入る。最初はどうやってスポーツモードを選べばいいのかわからず右往左往してしまった。試しにMBUXに、「スポーツモードにしたい」と喋りかけてみたものの、「申し訳ありません、ただいまサポートすることができません」と、言って断られてしまった。

いざ高速ワインディングロードにおけるペースを速めてみると、全長5mを超える大柄とはとても思えない俊敏さであり、かつ安定的なフットワークを披露してくれる。反面、路面の起伏はそれ相応にボディの動きに反映され、乗員は揺すられやすくなるが、それとて開発者が「説明が難しいくらい快適性が向上しています」と、語ったソフトな表皮とクッションを備えるシートが受け止めてくれるから、不快には感じない。スポーツモードは、コンフォートとスポーツプラスのちょうど中間くらいの味付けである。

こうして調子よく走らせているときに目的地を入力してあると、交差点や分岐点のたびに派手な矢印のアニメーションがヘッドアップ・ディスプレー上に舞う。注意して見ていれば絶対に目的地を見失うのがありえないほど派手なこの案内は、オーナードライバーよりも、仕事で絶対に行き先を間違えてはならないショファーに歓迎されるかもしれない。

つねに世界最高

昨年9月、新型Sクラスの発表間際に実施された開発やマーケティングの本社責任者に対するインタビューでは、日・独の何人かの広報担当者に囲まれ、出席者は「間違っても余計なことは言ってはならない」というプレッシャーを受けていたことが明らかだった。

ふたりがしゃべる言葉はまるでロボットが話す言語のように、感興が排除され練り込まれたアルゴリズムの産物だった。

新型Sクラスが傑作レベルの出来栄えを示すことと、開発責任者たちがロボットのようになってしまうような強いプレッシャーを与えられていたことは、結果と原因として表裏一体である。Sクラスの開発や企画にかかわる人々は、世界の消費者、ディーラー、本社エグゼクティブ、マーケター、営業責任者といったあらゆるレベルの人々から、つねに世界で最高の仕事を求められているのだ。

いまぼくは新型S500の著しい完成度に感服しつつも、タイヤとボディの動きを4輪で個別に制御する「eアクティブ ボディ コントロール」の登場や、導入予定のV型8気筒搭載車や開発進行中であることを認めているV型12気筒エンジン搭載車、ピュアEVの「EQS」といった、上級ヴァリエーションの登場が楽しみでならない。

文・田中誠司 写真・田村翔

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