今でも強く印象に残る”マイ・ベスト・ポルシェ”に挙げたいのは、1989年に登場したポルシェ初の量産4WDモデル「964型911 カレラ4」だ。
“5ナンバー”枠に収まるコンパクトなボディに、3.6リッターの水平対向6気筒ツインプラグ式エンジンを搭載し、電子制御式のディファレンシャル・ロック機構を備えたフルタイム4WDシステムでもあり、さらにパワーステアリングやエアコンなど、それまでのポルシェでは考えられない”ハイテク”な装備が話題を呼んだ。
第13回:718で行く池波正太郎的ロング・ドライブの巻(後編)
このモデル、かつてボクも所有していた。走行距離約2万km、1年落ちの中古であったが、長期ローンを組んでなんとか手に入れたのだ。
「クラッチやトランスミッションにクセがあり、ナーバスで扱いづらい」という前評判とは異なり、大排気量ゆえのトルクでスタートは楽々。そしてひとたび走り始めれば、リアエンジンの”奇異”なレイアウトとは思えぬ高い安定感に満ちた重厚な走りに、一瞬にして恋に落ちてしまったのである。
この911は僕にとっては2台目のポルシェで、約5万kmをともに過ごした。「金庫のようだ」といわれたボディの例外的な堅牢感は、ドアを閉めたときに発する「カンッ」という音を聞くたびに実感できたし、洗車すると手のひらに伝わって来たフロントフェンダーの丸みを帯びた稜線の感触なども、いまでも鮮明に思い起こすことができる。
そして、この964型の911カレラ4に乗って、僕はポルシェに畏敬の念を持つようになった。このカレラ4とその前に保有していたフロント・エンジンの944Sの2台のポルシェを通して、「ポルシェというブランドが、確固たる信念に基づいて、1本筋の通ったクルマづくりのフィロソフィをもっている」ことがわかったからだ。
911を手に入れる前に乗っていた、”マイ・ファースト・ポルシェ”である944Sは、エンジンはフロント搭載だったが、トランスミッションをリアアクスル側に置いた「トランスアクスル方式」の後輪駆動車だった。エンジンは水冷の直列4気筒である。空冷の水平対向エンジンをボディのリアエンドにマウントし、かつ4WDシステムを採用したカレラ4とは、「何もかもが違う」成り立ちだ。
ところが、911の走りには、明らかに944と共通する香りが漂っていた! 「走りのテイストは、この2台ではまったく異なるはず」と、思っていたのに、両車に共通する”ポルシェらしい走り”を感じた。これには心底驚き、やがて畏敬の念を抱くにいたったのである。
ポルシェと名のつくクルマは、エンジンをどこに搭載してあっても、トランスミッションをどこに置いていても、駆動方式が異なりさえしても、走りのテイストについては一貫したものを実現しているのである。
「どのポルシェに乗ってもポルシェらしさが味わえる」のは、現在の911シリーズや718ボクスター/ケイマンなど、最新モデルでも変わらない。テイストは脈々と受け継がれている。
ただ、今振り返ると、964型911 カレラ4は“ポルシェらしさ”があったとはいえ、独自色が強かった。昨今追求される”効率”とは無縁だった当時のクルマづくりは、その分ことさらに色濃い個性を与えていたのだと思う。そんな個性も、ぼくのお気に入りのポイントだった。
“条件”さえクリア出来れば買い戻したい911
やっとの思いで手に入れた911であったが、約3年乗ったあと泣く泣く手放したのは、高くついたメインテナンス費用にくわえ、先々のトラブルに対する不安からだった。
整備費用は、1万kmの指定距離毎に約15万円だった。ただし、この金額はトラブリフリーで過ごせた場合の純粋な”点検代”。しかも、当時は年間約2万km走行していたので、ベースの点検費用だけで年に約30万円必要だった。しかも、交換部品や修繕箇所があれば、プラスアルファの出費が嵩む。
ぼくの911はトラブルフリーとはいかず、油圧パワーステアリングのフルード漏れ、エンジンオイルの滲み、ブレーキローターの摩耗……と、”点検”だけでは済みそうにない修理や交換作業が次々発生した。
しかも、それらを解決しても「その先トラブルが起きない保証はない」と、言われ続けたため、ついに音を上げてしまったのだ。
くわえて、整備性も良くなかった。たとえば、旧いデザインゆえの低い空力性能を補うため、床下を覆っていた樹脂パネルは、メインテナンスの度にそれを脱着する手間が発生した。また、エンジンのバルブクリアランスの調整には、まずエンジン本体を”9”の字型に取り巻く排気系を取り外す必要があった。これらの特異な構造がメインテナンス費用の高騰を招いていたのは言うまでもない。
「点検だけなら、ほんの数万円」しかかからなかった日本車のライバル、すなわちホンダの初代NSXやらニッサンZ32型フェアレディZなどが現れると、とくに北米市場において、その信頼性の低さはセールスに大打撃を与えた。実際、北米市場をはじめ、世界各国での販売実績は急降下した。経営悪化によって”ポルシェ身売り説”まで出たほどだ。ちょうど、964型 911が販売されていた頃のエピソードだ。
だから、今でこそ”クラシック・ポルシェ”として高い人気を誇る964型911や続く993型911は、実のところ「不遇時代を象徴するポルシェ」といった見方すら出来る。
それでも、964型911 カレラ4は“条件”がクリア出来れば、今でも真っ先に買い戻したい1台である。“効率”や“エコ”といった言葉とはまだ無縁の古き良き時代を教えてくれるマイ・ナンバーワン・ポルシェだ。
では、その“条件”とはなにか? 「きちんと整備すれば、この先10年間は手間要らずで、乗り続けられること」だ。もっとも、高騰する空冷ポルシェの中古車市場で、予算に見合う個体はないかもしれないが。
<著者プロフィール>
河村 康彦(かわむら やすひこ):1960年生まれ。工学院大学機械工学科卒業後、『モーターファン』(三栄書房)編集部を経て、1985年よりフリーランスのモータージャーナリストとして活動。現在に至るまで多くの自動車専門誌、Web媒体などで健筆を振う。
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