スバルは2018年11月1日、2012年~2013年に生産されたFB20型、FA20型エンジンを搭載したインプレッサ(GJ6、GJ7、GP6、GP7型)、フォレスター(SHJ、SJ5型)、BRZ(ZC6型)、トヨタ86(ZN6型)の計10万台のエンジンのバルブスプリングに不具合があるとして国交省にリコールを届け出た。
マツダは11月8日に、2012年から2018年にかけて生産されたアクセラ(BM2AP、BM2AS、BM2FP、BM2FS型)、アテンザ(GJ2AP、GJ2AW、GJ2FP、GJ2FW型)、CX-5(KE2AW、KE2FW、KF2P型)、CX-8(KG2P型)の吸気側バルブスプリングの不具合と、一部車種では排気圧センサーの異常判定プログラムが不適切なため、リコールとした。このセンサーは、内部への水分の浸入により、センサー出力値がずれ、排出ガスが基準値を満たさなくなる可能性があり、また、その状態のままで使用を続けると、排気圧センサー内の電子回路が腐食し、断線する可能性がある。すると、エンジン警告灯が点灯するなどの不具合が出るとして国交省にリコールを届け出た。
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マツダのディーゼルの吸気側スプリングの不具合とは、「吸気側バルブスプリングの荷重の設定が不適切なため、吸気バルブの閉じ力が弱く、吸気バルブとバルブシート間に挟まる煤を押し潰すことができず、圧縮不良となることがある」ということで該当車両の吸気側バルブスプリングを対策品と交換するとしている。なお日本国内で4車種合計23万5293台(2012年2月~18年7月生産)となる。グローバルではリコール台数は64万台になるといわれている。
スバルの場合
スバルはすでに2017年11月から5回にわたり、完成車検査での無資格検査員の検査問題、完成検査工程における合否判定が不明確との理由でリコールを行なっているが、これらはいずれも出荷前の完成車検査の不適切行為によるもので、リコールの対策としては通常の12ヶ月点検、車検とほぼ同等の検査を改めて行なうというものだった。このリコール対象車は約53万台で、リコール費用は累計319億円とされる。
しかし11月1日のバルブスプリング不具合に関するリコール届出は、また次元が違う話になる。日本ではリコール対象は10万台だが、アメリカへの輸出車両、現地生産車両を含めると合計41万台となり、作業工数のかかるバルブスプリング交換作業を考慮すると費用は550億円に達し、これによってスバルの2019年度の営業利益が42%減となる。
一般的に起こるリコールの多くは、取付部品の不具合、部品の取り付け方法の問題が大半で、エンジン内部の部品のリコールの例は多くない。近年では2009年にレクサスのV型エンジンが「バルブスプリングの材料に微小異物があり、スプリングの強度が低下して折損する恐れがある」としてリコールを行なっているくらいだ。
今回のスバルのバルブスプリングのリコールは2012年~2013年に生産されたエンジンで、スプリングの折損があるということでリコールして交換することになったが、生産時点からリコール届け出まで5年を経過している。
スバルによれば、販売店からの情報は2012年頃からメーカー側に届いていたが、バルブスプリングのトラブルが生産工程での組付け精度の問題なのか、バルブスプリングそのものの材質的な問題か、あるいは設計上の問題かをそれぞれ実験しながら検証し、結論を得るのに時間を要したという。
結論的には設計上の問題でバルブスプリングに設計条件よりも過大な荷重がかかることと、レクサスのケースと似たように、バルブスプリングの材質に微小な異物の混入ということが重なって、折損の可能性が出たということだ。
折損が発生する場合、バルブスプリングの材質と、スプリングにかかる荷重がどのように関連するのかの検証が難しかったという。このスプリング材料に混入する異物とは、シリコンやジルコニアの微粒子だったという。またなぜ設計的に過大な荷重になったのか、バルブリフト量、カムの形状など様々な要素が考えられる。さらに、そもそもフリクションを低減するためにバルブスプリングのスプリングレートの低下傾向にあったことも考えられるだろう。
いずれにしても、リコールを行ないバルブ交換を行なうということは、通常のリコール対策に比べ多くの工数を要する。エンジン本体の脱着、カムカバー、カム、ロッカーアームの脱着を行なう必要があり、エンジン1基あたり12時間程度、つまり2日間を要するのだ。ただ、スバルの水平対向エンジンの場合、メーカーのマニュアルでは点火プラグ交換でもエンジンを脱着することになっているので、本体脱着作業はそれほど非日常の作業ではないが、左右のシリンダーヘッドを半分分解するのには当然ながら工数を要する。
このため、スバルはこの作業は通常のリコールのように販売店では作業は行なわず、全国にリコール作業拠点のサービスファクトリーを8ヶ所(群馬県2ヶ所、東京、岩手、栃木、愛知、滋賀、愛媛)設置し、リコール対象車は販売店からこのサービスファクトリーに輸送して作業を行なうことにしている。このため1台あたり約1週間を要するという。
いずれにしてもスバルにとって近年では、空前絶後のリコールであるが、このリコール対策は国交省の規定通り1年間で完了させるとしている。
マツダの場合
マツダの技術の象徴ともなっているSKYACTIVディーゼルのでリコールは、イメージ的にもダメージが大きい。しかし、従来からディーゼルエンジンはサービスキャンペーンやリコールを繰り返している。
SKYACTIVディーゼルは、これまでに排気圧センサー、ECUのサービスキャンペーン(修理呼びかけ)、2018年2月には「ディーゼルエンジンで、低車速の加減速をする走行を繰り返すと、燃焼時に発生する煤の量が増えてインジェクター噴孔部に堆積し、燃料の噴霧状態が悪化し、さらに煤の量が増え、排気側バルブガイド周辺に堆積することがあった。そのため排気バルブが動きにくくなり、圧縮低下による加速不良や車体振動が発生し、エンジン警告灯が点灯あるいはグローランプが点滅し、最悪の場合エンジンが停止するおそれがある」という予見性リコールを行なっている。
予見性リコールとは、ユーザーが予見現象を容易に認知でき、この予見現象が発生した以降も相当な期間、安全な運行を確保できる場合には、この予見現象を認知した後に、速やかに改善を実施することができるリコール制度を意味する。
エンジン警告灯が点灯あるいはグローランプが点滅した場合は、販売店に入庫するよう呼びかけ、その場合はエンジン制御コンピューターを点検し、排気バルブのバルブスプリング、インジェクターを交換するとともに、エンジンおよびDPF(黒煙除去フィルター)に堆積した煤を清掃するとしている。
また、同時にデミオ、CX-3、アクセラのディーゼルエンジンについて、エンジンの保護制御が不適切なため、無負荷状態でアクセルを全開にした際に、燃焼異常が発生しても、エンジン保護機能が作動せず燃焼圧力が上昇し、最悪の場合はエンジン破損する恐れがあるとしてエンジン制御プログラムを対策プログラムに修正した上で、エンジンおよびDPF(黒煙除去フィルター)に堆積した煤を清掃するというリコールも行なっている。
SKYACTIVディーゼルが煤による問題を発生している背景にはEGR(排気ガス再循環)を多用しているからと思われる。EGRにより燃焼温度を下げNOx低減を図ることにより、NOxの後処理システムを不要としているが、低負荷の運転ではEGRガスとオイル微粒子が混じり合って通常のディーゼルより煤の発生量が多いと思われる。特にゴー・ストップや低速走行が多いと煤が堆積しやすいのだ。この煤がEGR配管&EGRバルブ、吸気系、排気系、DPFに堆積することで問題が発生する。
2018年4月にはサービスキャンペーンとして、「ディーゼルエンジンの制御プログラムを最新化し、アクセルの踏込む速度に対するエンジントルクの応答性とエンジンノック音の低減、および後退時のアクセル操作に対するエンジントルクの応答性を向上。また、駐車時のi-stop作動によるエンジン停止と再始動の繰り返しを抑制する制御を採用」している。
このように、SKYACTIVディーゼルに関しては、以前からエンジン制御と煤がエンジン各部に堆積する問題に取り組んでいることがわかるが、今回の新たなリコールは、排気側のバルブスプリングではなく、吸気側スプリングがリコール対象になっている。つまりこれまでの予見性リコールと合わせると吸排気バルブスプリングの交換となるわけだ。
吸気側のバルブスプリング荷重の設定が不適切なため、吸気バルブの閉じ力が弱く、吸気バルブとバルブシート間に挟まる煤を押し潰すことができず、圧縮不良となるということは、低フリクション化のためにバルブスプリングのセット荷重を低めていたことも推測できる。
いずれにしても、このリコール対策作業は、エンジンは脱着する必要がないとはいえ、シリンダーヘッドの半分の分解の作業となり、慎重さが求められる作業でもあるので、1台あたり1日は要すると見られる。
またリコールの対象台数が日本だけで23万台超え、グローバルで64万台と多いため、マツダもこのリコールでは500億円以上というレベルの費用が必要と見込まれ、収益的にも大きなダメージを受けることになるはずだ。
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