2012年頃から衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)が搭載されたクルマの普及はうなぎ登りで、2016年に発売された新車の66.2%に衝突被害軽減ブレーキが搭載されている、とのこと。
衝突被害軽減ブレーキによって追突事故が7~8割減少したというデータも公表され、国も「サポカー・サポカーS」などと愛称をつけ、衝突被害軽減ブレーキ搭載車の購入を促している。
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しかし2018年4月、当の国土交通省(以下国交省)から、自動ブレーキに関して「シチュエーションによっては、作動しない恐れがある」との注意喚起が出されたから驚いた。
しかも、そのシチュエーションを再現して、実際にテストした啓発ビデオまで公開されたのである。
国交省によると、2017年にユーザーから寄せられた「衝突被害軽減ブレーキに関する不具合」で、事故に至ったケースが82件発生していたという。
※本稿は2018年5月のものです
文:国沢光宏、松田秀士、ベストカー編集部/映像・写真:国土交通省、Adobe Stock、ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2018年6月26日号
■自動ブレーキの動作条件
(TEXT/ベストカー編集部)
今回国交省が公開した動画では、事故に至った82件のうち「ブレーキが作動しなかったシチュエーション」72件の一部を再現している。条件としては『スピード』『路面』『周囲』の3つだ。
衝突被害軽減ブレーキは、レーダーやカメラからの情報をコンピュータが自動で認識しブレーキを作動させクルマを減速させるが、再現ビデオではその情報を正しく認識できない、もしくは正しく認識はしているが、外的要因によって本来の性能が発揮できないケースがあることを検証している。
JNCAP(自動車アセスメント)のテストで高評価を獲得しているセレナ(インテリジェント エマージェンシーブレーキ)やレヴォーグ(アイサイトVer3)でも、条件によってはダミーに衝突している。
●シチュエーション1『スピード』…規定の速度を超えて走行
●シチュエーション2『路面』…その1・雪道のように滑りやすい路面で走行
●シチュエーション2『路面』…その2・急な下り坂を走行
●シチュエーション3『周囲』…その1・街灯のある夜道で走行
●シチュエーション3『周囲』…その2・夕立ちの道路で走行
●シチュエーション3『周囲』…その3・逆光の太陽が眩しい道路を走行
※国土交通省より……本テストは衝突被害軽減ブレーキが補助機能であることを理解してもらうために任意の車両を用いて撮影。検証した撮影車両の現象は撮影のために発生させたものであり、撮影車両に特定して発生するものではありません。
実際には、今回検証されている条件以外にも、歩行者の服の色や、前走車のボディカラーなどによっては判別が間に合わず衝突する可能性があるという。担当も、最新の自動ブレーキ搭載車で夜走っていて、鹿とあわや衝突! という特殊なシーンで、センサーが検知しなかったという体験をしたことがある。
自動車メーカーもテストを行っているが、最新のシステムであっても回避できない、または想定されていないというシーンは数多くある。
衝突被害軽減ブレーキは、あくまでも補助機能であり万能ではないことを知り、過信しないことが重要。自動ブレーキ=自動運転と同じで、自動で勝手に止まるという考えも改めるべきだ。
■松田秀士が自らの実体験から説く 自動ブレーキでも事故は起きる!
(TEXT/松田秀士)
4月のある日、高速道路で追突事故に遭ってしまい治療中です。いわゆるむち打ち。まぁそれはいいとして、状況を説明したい。車両は、写真でご覧のとおりBMW X1。1.5L 3気筒モデルです。
私は3車線の一番右側の追い越し車線で、オートクルーズコントロールをONにして、クルマの流れに沿うために110km/hにセット。なおかつエコモードで走行していました。
前方で渋滞が発生し、オートクルーズコントロールは減速を開始。しかし前方でかなり急に停車したのでメーターパネルにアラートが表示され、一層ブレーキが強くなったので、自分でブレーキペダルを強く踏んで減速。充分に停止できると判断したので一度緩め、後続車の状況をバックミラーで確認しました。
私の後続車はレクサスで、ISかGSか? ちょっとそのへんの判別がつきかねましたが、そのクルマは私と充分な車間距離をとっていてくれたものの、まったく減速する様子がなかったのです。ポンピングブレーキを3度行い注意喚起したのですが、私の背後まで迫った時「これは危ない」と思い、左側(中央車線)に車両がいなかったので、前方で停車したクルマの直前で左側に進路を変えレクサスの追突から逃げました。
その直後、私の後ろにいたレクサスは前方に停車していたクルマに激しく追突! 助かった! と思った瞬間、今度はそのレクサスのさらに後ろにいたレガシィが私の右後部に追突してきました。ものすごい衝撃で、約20m近く前方にX1は飛ばされました。レガシィはレクサスを避けて、私と同じく車線変更したものと思われます。
この時、私の足は両足ともシートの調整用レールに当たるほど。つまり追突されるとペダルから足が離れてしまう、ということを初めて実体験したのです。
さてこれまでの話で何が言いたいかというと、自動ブレーキはまだまだ信用できないということ。レクサスに装備がされていたかどうか? はわからないが、レガシィにはアイサイトがありました(バージョン2を搭載)。
つまり、道路上での追突事故にはさまざまなシチュエーションがあり、イレギュラーなシーンでは必ず自動で減速を行ってくれるとは言えません。今回の事故もかなりの衝撃だったことを考えれば、自動ブレーキが作動していなかった可能性はあります。
最近のクルマを知らないマスコミによる自動運転ブームで、付いているだけで絶対に安全と一般ドライバーが解釈するトレンドに不安を再認識させられる今回の事故でした。
しかしX1は頑丈だった! 病院から出て、もう一度ステアリングを握り、自走して帰宅することができました。皆さん、高速走行はくれぐれも気をつけましょう!
■半自動運転を謳っていてもダメ 自動ブレーキを過信するな!
(TEXT/国沢光宏)
「自動ブレーキが100%作動する保証はない」なんて当たり前のことである。筑波サーキットのラップタイムや、JC08モード燃費とまったく同じこと。そもそも舗装路とジャリ道、雪道じゃブレーキの効きがまったく違う。いつも走っている舗装路ですら、雨量によりまったく状況変わってくるのだった。そもそも自動ブレーキというシステム自体、自動運転と狙いも効能も異なる。
自動運転はシステムが100%安全を確保しなければならないため、機械のミス=事故になってしまう。けれど自動ブレーキの場合「運転補助」。あくまでドライバーのサポートなのだった。ABSや横滑り防止装置、トラクションコントロールの仲間です。60km/hで曲がれるコーナーに100km/hで進入したら、横滑り防止装置はカバーできないのと同じ。すなわちドライバーの「うっかりミス」をサポートしてくれるシステムなのである。
けれど、自動車メーカーのなかには理想的なコンディションであっても20km/h以上になったら追突するような簡易式のシステムを「自動ブレーキで安心!」とアピールするところもあるから、軽自動車に軽油を入れちゃうような人たちは条件付きで止まれる装置であることを認識してない。
さらに酷いのがテスラのように「半自動運転」というワケワカラン宣伝をするメーカーである。実際、高速道路などではボタン押すだけでハンドルもアクセルもブレーキも、けっこう上手に操作してくれ、快適だ。けれど100%確実というレベルに達しておらず、ミスしたら即時にドライバーがカバーしなければならない。高速走行中だと、瞬時に対応したって間に合わないです。
そもそも国交省が自動ブレーキの性能表記を義務づけないことからしてデタラメだと思う。安全に関する重要な案件なのに、カタログ見たってまったくわからない。こうやって書くと「JNCAPの数字などが出ているでしょ」と突っ込む原理主義者もいるだろうけれど、国交省は基準を定めていないため、数字がどういった意味を持つのか専門家の私ですらサッパリわからないのが現状です。
■国沢光宏が伝授する自動ブレーキ車の心得3カ条
(TEXT/国沢光宏)
個人的には、国交省が動画作ったのだけれども、これまた認識不足のシロウトさんが作ったらしく残念に思う。アイサイトの逆光状況を作って「効かない」と主張してるのだけれど、そもそもドライバーだって見えないほどの悪条件、あれで普通の速度出す人なんかいない。雪道や超下り坂での試験なども、突っ込みどころが多かった。
とはいえ、自動ブレーキが100%作動する保証がないのも事実。そこで、国交省ならぬ私の自動ブレーキの心得3カ条を、皆さんに教えたいと思う!これを心得て、安全運転に励んでもらいたい。
❶乗るクルマの性能を知る!
自動ブレーキといっても性能差が極めて大きい! 50km/hオーバーの速度から見事に止まれるクルマから20km/h以上出てたらドカンのクルマまである。自分がハンドル握るクルマの性能を確認しておきたい。ダメなクルマだとわかれば緊張感増す。
❷誤作動に注意!
前を行くクルマが交錯するような時や、トヨタの古いシステムだと金網の前を通る際、誤作動する可能性出てくる。そういった状況になったら、自動ブレーキがかかってもすぐアクセル踏んでキャンセルできるようにしておくこと。最悪、追突されます。
❸センサー性能に頼るな!
今のところセンサーは人間の性能に限りなく近い。豪雨や霧などで前方が見えにくくなっている時は、センサーも厳しい。速度ダウンを!
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