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“マツダ”ではなく“ユーノス”に意味がある──初代ロードスターにいま乗ってみれば……感涙!

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“マツダ”ではなく“ユーノス”に意味がある──初代ロードスターにいま乗ってみれば……感涙!

およそ30年前のデビュー当時を知っている者にとって、このクルマは断じて“マツダ・ロードスター”ではない。おそらく、誰に問われることがなくても “ユーノス・ロードスター”の名が自然と出てくることだろう。

私は数年のインターバルを挟んで初代ロードスター(いわゆるNA系)を2度所有したことがある。だからといって自分が熱烈なNAファンという気もないし、そんなことを言ったら本物のNAファンにこっぴどく叱られるはずだ。

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ちなみに、私が最初に所有したのは当時所属していた自動車雑誌の長期テスト車を、退役後に買い取った個体で、“マツダ・スピード”製のサスペンション・キットやLSDが組み込まれたスパルタンな仕様だった。

2台目は「知人の知人」から「不要だから引き取って欲しい」と頼まれて手に入れたもの。その際、いくばくかのお礼をお支払いしたが、これが実はレカロのフルバケットシートが組み込まれた500台限定の“RSリミテッド”で、数年後に中古車買い取り店に持ち込んだところ、数十万円の値がついて驚いた記憶がある。前オーナーにはいまでも申し訳ない気持ちでいっぱいではあるが、車検をとったり、あちこち手を入れたりしたのも事実なので、代金はそのまま自分の懐に収めさせていただいた。本当に、ゴメンナサイ。

2台のロードスターを購入した動機ははっきりしている。私は運転がヘタで仕方がなかったので、ロードスターを乗りこなせるようになって腕を磨きたいと思っていたのだ。

そんな期待を抱く若者や中年(私はどちらかといえば、すでに後者の部類だった)にとって、NAロードスターは絶好の1台だった。

1トンを切る軽量級で、エンジンをフロントミッドシップするなど重量物をボディ中央に集中させたほか、2名乗車時の前後重量バランスは50:50を誇った。しかも、前後のサスペンション形式はぜいたくにもダブルウィッシュボーン式で、ギアボックスは手首の動きだけで“コク、コク”と決まる小気味のいい5MT。つまり、軽快な走りと優れたコントロール性を実現するためにクルマの基本から見つめ直した、理想的なライトウェイトスポーツカーがユーノス・ロードスターだったのである。

おまけに、まなじりを決してコーナーを攻めなくとも、ロードスターは実に楽しい乗り物だった。

なにより、ロードスターは私が所有する初のオープンカーだった。しかも、フロントウィンドー以外は自分の周囲がぐるりとむき出しになっているのだから、サンルーフやクーペベースの“なんちゃってオープンカー”とは別次元の開放感を味わえた。

シートから少し腰を浮かすだけでリアバンパーが見えるんじゃないかと思えるくらい四方がよく視認できたクルマもロードスターが初めてだったし、コンパクトなボディは文字どおりその四隅まで神経がよく行き届いた。そしてドアを開いて足を外に出したとき、シートのすぐ下くらいの高さでスニーカーのソールが地面とぶつかる感触もとびきり新鮮だった。つまり、コンパクトなオープンカーが持つ特徴を、私はすべてユーノス・ロードスターで体験し、学んだのである。

小さくて軽いが嬉しい

そんな私が久しぶりに出会ったNAロードスターは、このモデルの開発で主査を務めたマツダの平井敏彦さんが個人で所有していたものを、マツダが買い取って広報車として活用しているという1台。

年式はNA最初期の1990年製で、グレードは“Vスペシャル”。そう、ブリティッシュ・ライトウェイトスポーツを強く意識してグリーンのボディーにタン色の内装を組み合わせ、本革シートやナルディ製ウッドステアリングやシフトノブを採用した当時、人気のモデルである。

目の当たりにすると、NAの小ささは圧倒的だ。クラッシュテストなどが厳格化される以前の、クルマが軽さと小ささを謳歌できた時代の最後の1台といっても過言ではない。その後、規制の強化に伴ってロードスター自身も大型化、重量化していったことはご存じのとおり。

そうしたなか、2015年に発表された4代目ロードスター(ND系)は、一部モデルが久しぶりに1000kgを切るほど軽量に仕上げられた。この話をすると長くなるけれど、スポーツカーの“軽さ”にこだわるマツダ技術陣の執念には脱帽するしかない。

さて、天地に浅くて驚くほど軽いドアを開き、ほとんど地面にしゃがみ込むような姿勢でドライバーズシートに身体を沈める。そうそう、この感覚である。まるで、素肌に薄手のシャツを羽織っただけのような軽快感と開放感を味わいながら、私はイグニッションキーを捻った。

この日は新しいマツダCX-3の試乗会当日で、最新のディーゼル・エンジンがいかに静かになったかを体感したばかりだったが、NAロードスターの1.6リッター直列4気筒「B6」エンジンは、現代のディーゼル・エンジンよりも大きな“ガラガラ”という音を立てる。振動だって、決して小さくない。このエンジンはデビュー当時から評判がよくなくて風当たりが強かったけれど、いまとなってみればそれも思い出のひとつに過ぎない。

ネオクラシックカーの魅力をも持ちあわす初代

例によって軽く、でもゲート感がびっくりするくらい明確なシフトレバーを1速に送り込んで、横浜の道を走り始める。

正直、エンジンの反応は鈍い。また、ステアリングギアレシオがスローな点も隠しきれない。エンジンともども、最新モデル並みのレスポンスを期待するとがっかりするだろう。

でも、だからどうしたというのだ。クルマには、そのクルマが本来持っているテンポ感というものがある。それをうまく引き出してあげながら走れば、NAロードスターの軽快感は存分に味わえるし、クルマのダイレクトな感触は実に心地いい。これは、もはやクラシックカーを走らせているときの感触といってもいいくらいだ。

そのいっぽうで、ボディ剛性は私の記憶のなかにあるロードスターよりもはるかに良好で、段差を乗り越えたときにフロントウィンドウが左右に揺れるスカットルシェイクなんていう現象はほとんど認められなかったし、ステアリングの取り付け剛性だって実にしっかりとしている。

聞けば、中期型以降のNAに取り付けられたリアクロスメンバーがこの個体にも装着されているというが、その効果だけではないはず。ただし、特別な改造はおこなわれていないようだから、ていねいなメンテナンスとちょっとした気遣いさえ怠らなければ、初期型NAでもこのくらいのしっかり感を味わえるのだろう。

ロードスターとの久々のランデブーは30分ほどで幕を閉じたが、いま振り返っても楽しい印象しか残っていない。前述のとおり、ひっちゃきになってコーナリングを追求するようなクルマではないけれど、ネオクラシックカーとして往年の走りを楽しむには格好のモデルだ。

それ以上に、一時は消えかかったライトウェイトスポーツカーという灯火を守り続けたという意味において、ロードスターの果たした役割は極めて大きい。ロードスターがなかったら、ホンダS2000やS660、BMW Z3やフィアット バルケッタなど内外のオープンスポーツカーが登場したかどうかは怪しい。少なくとも各社の経営陣が新しいオープンスポーツの製品化を議論する際に、ロードスターの成功が触媒の役割を果たしたことだけは間違いないだろう。

ところで、私のドライビングの技量は2台のロードスターの力をもってしても大して向上しなかった。あわせて4~5年は所有していたが、そのあいだに数えるほどしかワインディングロードに連れ出せなかったのだから、それも当然だ。

「じゃあ、もう一度NAと暮らしてみるか?」 この日、そんな思いが私の心をよぎったのは紛れもない事実である。

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