軽自動車はその規格上、どうしてもボディサイズなどに制約を受ける。そのパッケージングのなかで各社が安全性を確保しているのが現状だ。もちろん登録車に比べると不利な点が多いとも言えるのだが、そうは言っても生活に根ざした軽自動車は必需品である。そこで軽自動車のなかで、安全性の高いモデルをユーザー目線のクルマのインプレを得意とする渡辺陽一郎さんに選出してもらった。日常生活で使う軽自動車だからこそ、その安全性で選びたい!!
文:渡辺陽一郎/写真:ベストカー編集部
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■「軽が危ない」は昔のハナシ!? 年々進化する軽自動車の安全性
かつての軽自動車は安全装備が乏しかった。価格を安く抑えるために、安全装備を装着できないという単純な理由であった。これは軽自動車にとって重大な問題点だった。軽自動車はボディが小さいから、特に側面から衝突を受けた時のダメージが大きい。また軽自動車と小型/普通車を併用するユーザーが前者を運転した時は、感覚にズレが生じて、意図した通りの加速が得られない場合もある。そのために大きな交差点の右折では、対向車線を直進してくる車両との接近を招きやすい。動力性能の問題だが、ボディと排気量が極端に小さい軽自動車は、安全面で不利な要素を多く抱える。
この安全装備の乏しい軽自動車が、緊急自動ブレーキを作動可能な安全装備が登場して大きく変わった。女性ドライバーには軽自動車のユーザーが多く、なおかつ運転が苦手と感じている人が見受けられ(もちろん運転が上手な女性も多い)、緊急自動ブレーキの装着を望む声が高まった。そして軽自動車は薄利多売の商品で、ライバル同士の競争が激しい。この優劣を決める重要な柱が関心の高まった緊急自動ブレーキだから、軽自動車では安全装備の開発競争に発展した。
これはとてもよいことで、今の軽自動車では安全装備が小型/普通車以上に進化している。例えばトヨタのエスティマやヴォクシーに装着されるトヨタセーフティセンスCは、今のところ歩行者の検知ができない。しかし売れ筋の軽自動車が装着するタイプは、その大半が歩行者と衝突する危険が生じると警報を発して、回避操作が行われない時には緊急自動ブレーキを作動させる。今では小型車よりも軽自動車の方が緊急自動ブレーキは充実している。
そのためにN-BOXは、先代型は低速用で歩行者も検知しない赤外線レーザー方式を採用するだけだったが、現行型はミリ波レーダーと単眼カメラを併用する高機能な仕様に進化した。他メーカーを含めて、緊急自動ブレーキの進化は凄まじい。ただし軽自動車の安全性が万全とはいえない。背の高い軽自動車も安定性を進化させたが、幅が狭く背が高いから小型/普通車に比べると危険回避性能では不利になる。
前述の動力性能も足りず、過密な交通環境の中で使うならターボを検討したい。N-BOXであれば、実用域におけるターボの駆動力(最大トルク)は、自然吸気によるノーマルエンジンの161%に達する。その半面、JC08モード燃費は95%だから、動力性能の増加率が大きい割に燃費の悪化率は小さい。しかもターボの価格は量産効果によって4~7万円ときわめて安くなった。車両重量が850kgを超える場合、ターボが動力性能を効果的に支援して安全性も向上する。そこで安全性の高まった軽自動車の中でも、特に優れた車種を挙げてみたい。
■安全性の高さで選ぶならこの3車種
【ホンダN‐BOX】
安全装備が最も充実した車種はホンダN-BOXだ。小型/普通車に多く採用されるホンダセンシングを幅広いグレードに装着した。ホンダセンシングが注目されるのは、ミリ波レーダーと単眼カメラのセンサーを使い、歩行者と車両を検知することだ。衝突の危険が生じると警報が作動して、状況が一層悪化すると緊急自動ブレーキが働く。
しかも路側帯を歩く歩行者と衝突しそうになった時は、ハンドルに操舵力を加えて衝突の回避をうながす歩行者事故低減ステアリングも採用した。これはシビックなどには装着されていない機能だ。サイド&カーテンエアバッグも大半のグレードに標準装着され(一部はオプション)、安心感を高めている。
このほか運転支援の機能としては、まずミリ波レーダーを使ったクルーズコントロールがある。高速道路などでは、車間距離を自動制御しながら追従走行が行える。車線の中央を走れるように、電動パワーステアリングの操舵支援機能も設けた。これらの運転支援が可能な軽自動車は、今のところN-BOXだけだ。作動中はドライバーの疲労が抑えられるから、運転支援の機能も安全性を高める。なおホンダセンシングの価格は7万200円(レスオプション価格)だから、割安な設定になっている。
安全装備がもっとも充実している1台。登録車のホンダセンシングと同じ機能を持ち、歩行者認識も行う
【スズキワゴンR】
全高が1700mm以下の軽自動車で安全装備を充実させたいなら、スズキワゴンRを選びたい。緊急自動ブレーキを作動できる安全装備は、赤外線レーザーとミリ波レーダーを併用する。センサーの精度を高め、緊急自動ブレーキは、車両に対しては時速100kmを上限に作動する。歩行者に対しては時速60kmだ。
車線逸脱警報、ペダルの踏み間違いに基づく誤発進抑制機能なども備わるから、安心感を一層高めた。ただしサイド&カーテンエアバッグには注意したい。ターボを装着したスティングレーTには標準装着されるが、ほかのグレードではオプションでも装着できないからだ。エアバッグの充実は今後の課題となる。
ワゴンRでは車両本体の走行安定性も優れた部類に入る。全高が1650mmに達する背の高いボディだが、車両重量は前輪駆動の2WDなら大半のグレードが800kg以下に抑えた。そのために危険を回避する時でも挙動を乱しにくい。総合的に安全性を高めており、このバランスの良いクルマ造りは、安全面に限らずスズキ車の特徴となっている。
安全装備の面でもポイントは高いが、車重800kg以下の軽い車体は回避行動もとりやすい
【ダイハツミライース】
ミライースは全高を1500mmに抑えた軽自動車で、立体駐車場も使いやすい。「低燃費と低価格」をテーマに開発されたので、燃料の消費量を抑える目的で軽量化を徹底的に行った。車両重量は大半のグレードで700kg以下となる。そのためにのJC08モード燃費は、前輪駆動の2WD車で見ると34.2~35.2km/Lと優れている。
このほか実用燃費の向上ねらった軽量化は、危険回避性能も高めている。全高が1500mmだから重心も下がって危険を回避しやすい。エンジンは自然吸気のノーマルタイプのみだが、ボディが軽いために動力性能には比較的余裕がある。従って峠道などの追い越しも素早く安全に行える。
安全装備ではスマートアシストIIIが用意され、2個のカメラがドライバーと同様に前方をチェックして、歩行者や車両と衝突する危険が生じると警報を発する。ドライバーが回避操作をしない時には緊急自動ブレーキも作動する。走行安定性と装備の両面から安全性を高めた。しかも価格は売れ筋の安全装備を充実させたX・SA IIIが108万円と安い。
燃費のよさも特徴のミライース。その軽量ボディから生まれる燃費は圧倒的だ。動力性能の余裕も回避行動には役立つ
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