MT-09の車体・エンジンは活用するのは変わらないが
初代MT-09をベースにカウリングを装備するなどし、2015年に登場したのが「MT-09トレーサー」である。
MT-09が2代目となると、2018年にトレーサーの方もモデルチェンジが行われ、「トレーサー900」と車名も変更。また、サスペンションのグレードアップやクルーズコントロールなどを装備した上級グレード「トレーサー900GT」も設定された。
【画像25点】ヤマハ トレーサー9 GTの進化ポイントや全車体色を写真で解説
2021年、MT-09のフルモデルチェンジが行われたわけだが「MT-09の旅仕様」と言えるトレーサー900も生まれ変わった。
車名も新たに「トレーサー9」となり、日本国内では快適装備が満載のハイスペック版「トレーサー9 GT」のみが販売される。
このトレーサー9 GTでは、新型=3代目MT-09同様の排気量拡大(845cc→888cc)と出力向上を果たした3気筒エンジンと新設計のアルミダイキャストフレームを使いつつ、長距離走行を考えた数々の装備が与えられている。
しかし、トレーサー9 GTの最も大きな特徴は6軸IMU=慣性計測装置によって制御されるKYB製セミアクティブサスペンション(電子制御サスペンション)の採用に尽きるだろう。
従来型の上級モデル・トレーサー900 GTと比べても、全くの別物になっている。
KYB製の電子制御サスペンション「KADS」がもたらす安定感
このサスペンションはヤマハとKYBの共同開発による「KADS」=KYB Actimatic Damper Systemと呼ばれるもので、IMUからの情報をSCU=サスペンションコントロールユニットにリアルタイムで反映し、最適な減衰レベルに自動調整するものだ(おおまかな作動の仕組みとしては、ホンダやカワサキが採用するSHOWAの電子制御サスペンション「EERA」と同様と言える)。
減衰力の調整にはヤマハでは初となるソレノイド駆動を用いており、極めて短時間で減衰力を調整し、ピッチング方向の姿勢制御、速度や負荷に応じたフレキシブルなサスペンションの作動を実現。
これによって、優れた車体の安定感や路面追従性を誇る。
試乗ではトップケースと左右パニアケースの「3点セット」を装着した車両に乗ったが、その存在を意識させないほどハンドリングはナチュラルで安定感がある。
従来のトレーサー900の前後17インチタイヤと車高のある車体の組み合わせでは、荷物満載時などではそのバランスの変化に少々戸惑うこともあったし、特に高荷重時はその車重に対してサスペンションの減衰特性が十全ではないように感じることもあった。
しかし、トレーサー9 GTのKADSはそんなネガティブな記憶を一掃してくれる。
たとえば「3点セット」(ステー類含む)は空荷の状態でも約20kgあるので、装着しただけでリヤ周りは確実に重くなるし(普通なら後ろ下がりになる)、重心位置も上がることだろう。
そうなればハンドリングは普通、不安定方向へ変化するわけだが、トレーサー9 GTではKADSのおかげでそういった変化は感じさせない。
また、サイドケースの上下ステーにはダンパーが内蔵されており、ケース装着時の走行安定性が高められているのも効果的に働いているのだろう。
おおよそどのような走行条件でも、適正な車体姿勢を言わば自動的にキープしてくれるので、車重が重い軽いといったフィーリングは別として、ハンドリングは常に安定している。
試乗コースがサーキットということもあったが、容易にフルバンクまで持っていけるし、最高速付近からのフルブレーキングもある意味楽に行え、そこに破綻を予感させるような動きはまったくない。
これは大きな進化だ。
ベース車両の新型MT-09で感じた、明らかなポテンシャルアップを上回るほどのインパクトがあった。
また、KADSの作動モードは2種類あり、ドライ路面のスポーティな走りをメインとしつつウエット路面にも対応するスポーツモード(A-1)と、荒れた路面での快適な乗り心地を重視したコンフォートモード(A-2)。
これを使い分けることで、ツーリング先での走行条件の変化により幅広く対応してくれることだろう。
6軸のIMUを搭載しているということは当然各種電子制御機構も充実しており、バンク角を制御に取りれたトラクションコントロールやABS、前輪の浮き上がりを抑制するリフトコントロール、リヤタイヤの横滑りを抑制するスライドコントロールの機能が搭載されている(電子制御の内容は新型MT-09と同様)。
トレーサー9 GTの充実した装備
そのほかにもグリップヒーター、クルーズコントロール、コーナーリングライト、アップ・ダウン両対応のクイックシフター、10段階に調節できる大型スクリーンを標準装備。
メーターもMT-09とは大幅に異なるポイントで、3.5インチフルカラー液晶を左右それぞれに設け、左側(こちらがメインメーターとされる)に速度計、回転計、ギヤポジション、燃料計、ライディングモード、サスペンションモードなど「走り」に関する情報を表示。
右側のメーターはトリップ、外気温、クルーズコントロールの設定速度、燃費、燃料計など、各種情報を選択して4つの窓に大きく表示する。
また、シートはトレーサー900シリーズ(840mm)よりシート高は低くなっているほか、ハイ(825mm)、ロー(810mm)二段階に調整可能だ。
かように至れり尽くせりの内容となっているから、旅バイク=ツアラーとしてのパッケージングの完成度はかなり高い。
フレームはトレーサー9 GT用にチューニングが施されている
さて、基本となる車体・エンジンのハード面は新型MT-09と同様だが、トレーサー9 GTの走行フィーリングはMT-09とは少々異なって、やや剛性感のある安定志向に感じさせる。
これはMT-09から30kgほど増加した220kgの車重と、トレーサー9 GT用に60mm延長されたスイングアーム、ストロークがアップしたサスペンションによるものだろう。
メインフレームもヘッドパイプ手前にステーを追加してエンジンの結合強度も変えており、MT-09よりも直進安定性を狙った設定だ。
一方、エンジンは最高出力120ps/1万rpm、最大トルク9.5kgm/7000rpmの性能となるが、これは新型MT-09とまったく同じ値だ。
エンジンの出力特性が切り替わる「D-MODE」も新型MT-09同様搭載されており、最もスポーティな「モード1」、さまざまな場面に合わせやすい中庸な「モード2」、レスポンスが穏やかになる「モード3」、さらに最高出力も抑えた最も穏やかな「モード4」(いわゆる「レインモード」的存在)の4種のモードが選択できる。
大柄な車体や、新たにモノフォーカス2眼LEDヘッドランプ(ハイ・ロー別体)を採用したアグレッシブなフロントデザインなどを見ると、いわゆるアドベンチャーモデルのイメージを抱きたくなるトレーサー9 GTだが、KADSによってロードスポーツの走行フィーリングと、ツアラーとしての安定性を両立しており、装備面では快適性と優れた使い勝手を実現している。
その内容を考えると、145万2000円の価格には十分なバリューがあるはずだ。
ヤマハ トレーサー9 GT主要諸元
[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列3気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:78.0mm×62.0mm 総排気量:888cc 最高出力:88kW<120ps>/1万rpm 最大トルク:93.0Nm<9.5kgm>/7000rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2170 全幅:885 全高:1430 ホイールベース:1500 シート高:ローポジション810/ハイポジション825(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R180/55ZR17 車両重量:220kg 燃料タンク容量:18L
[車体色]
ブルーイッシュホワイトメタリック2(シルバー)、ビビッドレッドソリッドK(レッド)、マットダークグレーメタリックA(マットグリーニッシュグレー)
[価格]
145万2000円
試乗レポート●関谷守正 写真●山内潤也/ヤマハ 編集●上野茂岐
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