メーカーが電動化へと舵を切り始めている中、各社PHEVやBEVが続々とラインアップに加わってきている。ここでは、価格もこなれた2台、ジープ レネゲード リミテッド4xe(フォーバイ イー)とプジョー e-2008 GTに試乗し、PHEVとBEVの各特徴や乗り心地、さらに実用度を確認した(Motor Magazine2021年5月号より)
前輪をエンジンで、後輪をモーターで駆動するレネゲード 4xe
ここでは、車両価格が500万円以下で楽しめる最新鋭のバッテリーEV(BEV)とプラグインハイブリッド(PHEV)の輸入車について研究してみたい。電動化が叫ばれている昨今、その実力と実用度はどこまであるのだろうか。アンダー500万円で選べる輸入車は結構数多くあるが、BEVとPHEVに絞ると、さすがに少なくなる。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
今回試乗に連れ出したBEVはプジョーe-2008、PHEVはジープレネゲード4xeである。ブランドが違うが、どちらもステランティスのグループになったメーカーだ。FCA(フィアット クライスラーオートモビルズ)にはジープのほかにアルファロメオ、フィアット、アバルト、クライスラーというブランドが、一方フランス勢はプジョー、シトロエン、DSの3ブランドがあるグループPSAで、その両方がステランティスというグループになったため、世界的な台数のシェアとしては一大勢力になった。
ジープレネゲード4xeは後輪をモーター駆動、前輪はエンジンによる駆動が基本だが、ときには小さなスタータージェネレーターで駆動することもあるPHEVである。充電は交流200Vの普通充電のみ可能となり、カタログ値では11.4kWhのリチウムイオンバッテリーの電気だけで48km走れる。
このEV走行時はドライブモードを「エレクトリック」に合わせる。通常はハイブリッドモードだが、これはクルマが停止するとエンジンが止まる。このほかにEセーブモードもあり、これはガソリンエンジンを主に使うモードで、バッテリーの充電レベルを維持したいときに使う。
また外部の充電器を使わずにエンジンのみで充電する方法は、4WDモードをオート、スポーツ、スノー、サンド・マッドの中から「サンド・マッド」を選べば、クルマが停止してPレンジに入れてもエンジンは止まらず1500rpm程度でアイドリングを続けるので充電が可能になる。
ジープレネゲード4xeは文字どおり4WDなのだが、走り始めは後輪の電気モーターによる駆動が先行するので、力強い発進ができる。アクセルペダルを深く踏み込んだときだけでなく、ごく普通に発進するときでも後ろから押される感じのしっかりとしたグリップ感を伴う加速感が気持ち良い。
滑りやすい路面で加速してもアンダーステアが出にくいのも特徴だ。電気モーターは立ち上がりから太いトルクが出る特性であることと後輪を駆動していることが大きなメリットになっている。後輪駆動といえばフィーリングの良さを感じるのがBMW i3である。後輪駆動だから純粋なリアドライブということだ。交差点でのダッシュでもハイパワー車に負けていない。そろそろ新モデルのi4が出るのでこちらも楽しみだ。
ジープレネゲード4xeはハイブリッドモードで走っていればエンジンと電気モーターの両方を使って、一番効率が良い方法を選んで走ってくれる。そうすると徐々にリチウムイオンバッテリーは減っていくが、もし充電が尽きたとしてもエンジンだけでも十分に走れる。レネゲード4xeには1.3L直列4気筒ターボエンジンが搭載されており、最高出力はリミテッドが131ps、トレイルホークが179ps、最大トルクは両者270Nmを絞り出すことができるから安心である。
通常は前輪モーターの最高出力45ps/最大トルク53Nmに加え、後輪モーターの128ps/250Nmが加わり、パワフルな走り方が可能だ。駆動力を前後に分けている点は4xeの大きなメリットだ。ジープレネゲードリミテッド4xeの価格は498万円で、上級車種のトレイルホークは500万円をちょっと超えてしまう503万円だ。
パワートレーンを選べるプジョー2008
一方、プジョーe-2008はSUVだが日本の多くの機械式駐車場に入る1550mmという車高からクロスオーバーというカテゴリーに分類した方がしっくりくる。つまりSUVとしては車高が低いのだが、実はシートのヒップポイントが高過ぎず低過ぎず乗り降りしやすい絶妙な高さなので実用性は高い。
ガソリンエンジンを選べば2008になり、BEV版を選択すればe-2008になる。これは兄弟車の208とe-208の関係と同じだ。どちらも新世代のクルマに相応しいCMP(コモン モジュラー プラットフォーム)という共通のプラットフォームを持ち、BEVはe-CMPというBEV専用のプラットフォームを使っている。
e-CMPの特徴はリチウムイオンバッテリーの搭載位置がフロア全体ではなく、前後のシート下に格納していることだ。これにより乗員の足元スペースがガソリン車と変わらないのが大きな特徴になっている。BEVで見るとコンパクトハッチバックがいいならe-208で、もう少し大きめのボディが欲しければe-2008という選択肢がある。
バッテリー容量や生産国で左右する車両価格
e-2008の価格はアリュールが431万円、GTは470万円で、上級グレードでも500万円を切る。行政の補助金も合わせればもっと有利に買える。しかしガソリンエンジンの全バリエーションは300万円台のプライスタグが付いているから、やはり同じボディを買うならBEVの価格は高いということだe-208の価格は389万9000円から426万円で、バッテリーとモーターは同じだがボディが小さいぶんだけe-2008より安い。またBEVでフランスのアヴァンギャルドを楽しみたいならDS3クロスバックE-テンス ソーシックもある。こちらは499万円で、今回の企画の条件に合う。
先述のリチウムイオンバッテリーが高価であることを証明する事例のひとつが、最近のテスラモデル3の価格改定だ。3グレードの中級グレードのロングレンジは約156万円安くなり499万円で、一番下のグレードのスタンダードレンジプラスは82万円安くなり429万円になった。これは製造工場が上海になったためで、リチウムイオンバッテリーも中国製に変わった可能性もある。最上級グレードのパフォーマンスが約717万円で変わらないのは、アメリカで製造してパナソニック製のリチウムイオンバッテリーを採用しているからである。
モデル3の大きな価格引き下げは生産国の違いもあるが、リチウムイオンバッテリーのコストが車両価格に大きく影響することは明白だ。レンジ(航続距離)を伸ばそうとしてバッテリー容量を増やせば、比例して価格が上昇する。そして重量も増えてしまうのがBEVのネックでもある。
今回のe-2008は50kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載している。これはレンジと価格とバッテリースペースを考えるとリーズナブルと感じる人は多いだろう。日産リーフのバリエーションで一番大きなバッテリーが60kWhということを考えてもe-2008の50kWhは実用上大きな不足はないだろう。
e-2008はCHAdeMO(チャデモ)の急速充電の場合には50分で80%まで充電できるという。チャデモでも充電時の電流によって充電時間は変わるケースもある。また公共の急速充電器の場合、通常は充電1回30分という制限があるので、50分間充電できるとあてにすることはできない。
家庭で充電する場合は、交流200Vだが50kWhをエンプティから満充電にするには18時間かかる。多くは充電量が半分以下になったら充電するケースが多いから、たいがい一晩の充電で満充電になるだろう。BEVに乗っている限り、どこで充電するか場所とタイミングはいつも頭に置いておくことが乗り方のスタンダードになる。またBEVのメリットはたまにしかクルマに乗らない場合でもバッテリー上がりで走れなくなる心配がないことだ。電源をつなげれば何カ月動かしていなくても問題ない。
寒い冬や暑い夏には事前予約で車内の空調を快適にしておけるのも大きなメリットだろう。止まったままの暖機運転が不要になることで雪国の朝のクルマの使い方、真夏のクルマの乗り方が変わってくるはずだ。(文:こもだきよし/写真:井上雅行)
ジープ レネゲード リミテッド4xe 主要諸元
●全長×全幅×全高:4255×1805×1695mm
●ホイールベース:2570mm
●車両重量:1790kg
●エンジン:直3 SOHCマルチエアターボ+モーター
●総排気量:1331cc
●最高出力:96kW(131ps)/5500rpm
●最大トルク:270Nm/1850rpm
●モーター最高出力:前33kW(45ps)/後94kW(128ps)/
●モーター最大トルク:前53Nm/後250Nm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・36L
●WLTCモード燃費:17.3km/L
●タイヤサイズ:235/55R17
●車両価格(税込):498万円
プジョー e-2008 GT 主要諸元
●全長×全幅×全高:4305×1770×1550mm
●ホイールベース:2610mm
●車両重量:1600kg
●モーター:交流同期電動機
●最高出力:100kW(136ps)/5500rpm
●最大トルク:260Nm/300-3674rpm
●バッテリー総電力量:50kWh
●JC08モード航続距離:385km
●駆動方式:FWD
●タイヤサイズ:215/55R18
●車両価格(税込):470万円
アンダー500万円で選べるBEV・・・BMW i3 Edition Joy+:499万円
BMW電気自動車「i」シリーズのエントリーモデルのBMW i3。リアモーター、リア駆動でスポーティな走りを実現している。充電は普通充電に加え、急速充電にも対応している。ピュアEVモデルに加えて発電用エンジンを搭載し、さらに長距離走行が可能なレンジエクステンダーもラインアップする。
アンダー500万円で選べるBEV・・・プジョーe-208アリュール:389万9000円 /e-208GT:426万円
兄弟車のプジョー e-2008と同じバッテリーと同じモーターを搭載するe-208。車重が100kgほど軽く、航続距離はe-2008よりも長い403kmを実現している。 e-2008と同じく急速充電にも対応する。ライフスタイルに合わせて、SUVのe-2008か、コンパクトハッチバックのe-208を選べるのがプジョーのBEVだ。
アンダー500万円で選べるBEV・・・DS3 クロスバックE-テンス ソーシック:499万円
DS3クロスバックE-テンスはコンパクトラグジュアリーSUVで、凝った内外装が特徴のモデル。曲線のランニングライト、リトラクタブルドアハンドル、内装にはひし形を重ねて配置されたタッチコントロールとセンターエアアウトレットなどエレガントな雰囲気をもつ。バッテリー容量や電気モーターなどBEVとしての基本的なシステム構成はe-2008と同じ。航続距離も398km(JC08モード)と同等だ。
アンダー500万円で選べるBEV・・・テスラ モデル3スタンダードレンジプラス:429万円/ ロングレンジ:499万円
テスラのミドルクラスセダンのモデル3。リア駆動の「スタンダードレンジプラス」、デュアルモーターで4WDの「ロングレンジ」がある。スタンダードレンジプラスは航続距離448km、ロングレンジは580kmとロングドライブも可能に。ともにオートパイロットを標準装備する。
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