走行距離は1万kmにも満たないローマイレージ
ヨーロッパでもっとも格式が高いとされるクラシックカー・コンクール「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」に付随して開催される、RMサザビーズの「Villa Erba」オークションは、近年ではコンコルソ・ヴィラ・デステの公式オークションの地位を占めている。今年は「The M Power Collection」と銘打ち、このイベントの主催社でもあるBMWの名車たち、ことに近現代の「M」モデルたちが多数出品されることになった。今回はその中から、M3史上唯一のV8搭載モデル(限定車を除く)であるE92系M3に用意されたハードコア版「M3 GTS」のあらましと、その競売結果についてふりかえってみよう。
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V8搭載のM3クーペに設定された、伝説のハードコアバージョンとは?
2009年に世界初公開されたM3 GTSは、量産型M3史上唯一のV8搭載モデル、E92系M3クーペをベースに、モータースポーツ参戦のノウハウを応用したハードコアな高性能バージョン。E46系M3時代の「M3 CSL」と同じく、ナンバープレートを付けたまま、主にサーキットを舞台にポテンシャルを発揮できることを開発の主眼に置いたという。
「ファイアオレンジ(Fire Orange)」をデフォルトのカラーとするボディには、カーボンファイバー製ルーフ、ポリカーボネート製リアウインドウ、チタン製エグゾーストサイレンサーなどM3 CSLと同様の軽量化デバイスを施したパーツが導入される。
また、E92系標準型M3の豪奢な革張り電動シートは、アルカンターラ張りの軽量バケットシートに換装。後席は内張りごと潔く取り去り、代わりに強固なロールケージが設けられる。6点式シートベルト、消火器、キルスイッチと、レーシングカーさながらのアイテムを装備した結果、ベース車両と比較して140kgのウェイトダウンにあたる1530kgの車重(ほかに1490kgとする表記もあり)を実現した。
この軽量ボディに搭載されたのは、標準型M3から排気量を400cc引き上げた「M」謹製の4.4L V8自然吸気ユニット。最高出力は450ps、つまり30ps上乗せされたうえに、最大トルクも400Nmから440Nmに向上していた。
トランスミッションは7速シーケンシャルDCTの「Mデュアルクラッチ」のみが組み合わされ、最高速度305km/h、また0-100km/h発進加速では4.4秒という素晴らしいパフォーマンスを獲得した。
またエアロダイナミクスにも配慮し、フロントにはリップスポイラー、リアには大型ウイングを追加し、どちらもサーキットの特性に合わせて角度調整が可能とされた。
さらに、サーキット走行のための専用装備が奢られたのも、E46系M3 CSLとならぶ、E92系M3 GTSの特徴といえよう。
鮮やかな黄色にペイントされたスプリングが印象的な専用サスペンションシステムは、減衰力や車高の調整を可能としたもの。ブレーキキャリパーは前6ピストン/後4ピストンで、フロント225/35ZR19、リア285/30ZR19の専用タイヤも奢られていたという。
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世界で138台の限定モデルは、2700万円超えで落札!
当時の記録によると、BMW M3 GTSは2009年秋に発表されたのち、2010年5月から正式なデリバリーが開始されたといわれている。
今回RMサザビーズ「Villa Erba」オークションに出品された個体は、原則的に唯一のボディカラー選択肢だった「ファイアオレンジ」にペイントされ、2010年10月1日にラインオフ。2011年4月15日に、母国ドイツで登録されたものとの由である。そして2021年4月に「The M Power Collection」に加わるまでのちょうど10年間、最初のオーナーのもとに置かれていたことが判っている。
このオークション出品にあたってはエチケットラベルに「M」の名を冠したシャンパーニュボトルにDVDユーザーガイド、特製スケールモデルなどの貴重な付属品も添付。同じく付属される整備記録簿には7つのスタンプが押されており、最新のスタンプはオドメーターが9936kmを記録した2023年3月27日に押されたものという。
BMW M3 GTSは、当初150台の限定生産が予定されていたものの、最終的に生産されたのはわずか138台といわれている。それゆえ、現存するMカーの中で最も貴重なモデルの一つとなったが、その事実が現在のコレクターズカー・マーケットにおける市場相場にも大きく反映していることは、誰しも認めざるを得ないだろう。
今をさかのぼること13年前の新車当時、ドイツ国内での販売価格は11万5000ユーロ(当時のレートによる邦貨換算では約1500万円に相当)とされていた。しかし近年の欧州マーケットでは、新車価格を大きく超える14万~16万ユーロあたりで流通している事例が多いようだ。
そんな市況のもと、5月20日に行われた競売では17万2500ユーロ、現在の為替レートで換算すれば約2720万円でハンマーが落とされることになった。
この高評価は、今回の出品車両の来歴の確かさやオリジナル性の高さにくわえて、1万kmにも満たないローマイレージ(低走行)ゆえのコンディションの良さも大きく影響しているのも、間違いのないところである。
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