1980年代に登場したクルマのCMには、印象的な出演者が多い。そこで、モータージャーナリストの小川フミオがセレクトした5台のクルマと、そのCMを振り返る。
自動車広告は時代と結びついてきた。自分が昔をなつかしむ気分になっているせいか、いや、それだけでなく、そもそも往年の広告全般が興味ぶかい。
とりわけ1980年代のクルマは、俳優や歌手のコマーシャルと結びついているものが多い。
『日本のコピーベスト500』(宣伝会議)をひもとくと、クルマの宣伝用コピーでトップにきているのはトヨタ自動車の「白いクラウン」だ(順位はついていないけれど)。
中島啓雄氏が考えたもので、1969年に日本デザインセンターによって制作されている。当時は新聞がおもな媒体だった。このコピーが「大きいことはいいことだ」(森永エールチョコレート)と「ハッパふみふみ」(パイロット萬年筆)のあいだに入っている。
クルマの広告がテレビの”主役”になってからは、映像との組み合わせで、思い出ぶかいものが多く残っている。1980年代からはとくに、バブル経済を控えて、自動車企業が数おおくのテレビコマーシャルを作成した。
「1」CMは注目されてなんぼの世界もあるので、有名人を出して、注目度を高める。2)有名人の良いイメージ(メジャー、知性、爽やかさ、美しさ、鮮度等)を商品に付与できる。3)話題を作ることができる(あの有名人を起用するの?! なぜこの有名人を起用するの?等)。4)ターゲットと同世代の有名人を活用することで、ターゲットを明確にして共感性を高める」
上記は、多くの自動車メーカーをクライアントに持つ、大手広告代理店に勤務する知人が挙げてくれた有名人を起用する理由である。ただしネガティブな側面は当然ついてまわる。おなじひとは言う。
「ギャランティが高い(費用対効果)、ターゲットがアンチファンだった場合は逆効果、タレントが不祥事を起こす可能性がある(そうなると打ち切り)、起用した有名人が多くのCMに出すぎるとそのCMが印象に残らない、などがあります」
とはいえこの“型”にはまらないCMもあった。井上陽水氏が出演した初代日産「セフィーロ」のテレビコマーシャル(1988年)である。セフィーロのサイドウィンドウがするするっと開いて、笑顔の陽水氏が顔を出し、「みなさんお元気ですかぁ~?」と、いきなり呼びかけるものだ。
あまり深い意味は感じられないセリフである。しかもそれが、昭和天皇容態悪化による自粛のときとかさなったために、途中から音声がカットされ、いわゆる“口パク”になった。
ふつうに考えれば、キメの言葉が流れないのだから、広告効果が半減するわけだ。でも、この自粛が雑誌などでとりあげられた結果、かえって話題になり、そして、記憶に残る自動車コマーシャルとなったのである。
新型コロナウィルス感染拡大を経て、自動車業界は変化を余儀なくされるだろう。世界的な販売の落ち込みを経験したあと、販売店に頼った従来の売り方でなく、より効率よく、そしてコストカットできる販売法を編み出さないと生き残りが難しくなるかもしれない。
「車の販売システムが大きく変わるかもしれません。外部のイーコマースとの連動なども出てくるかもしれません」
IT企業でプランナーを務める友人の意見だ。2020年3月、オンライン販売への全面移行を報じられたテスラも例にあがった。
販売店対策であった有名人起用のコマーシャルが今後どうなるか……は、さておき、ここではひとつの節目を記録する意味もこめて、印象的なコマーシャルがあった1980年代のクルマを振り返ってみたい。
日産・セフィーロ(初代)と井上陽水
「セフィーロ」が登場したのは1988年9月。この年の日産自動車のラインナップは充実していた。「くうねるあそぶ」がキャッチ・コピーだったが、かなりマジメな内容のセダンだ。
特徴は、日産のもてる技術をほぼすべて注ぎ込んであること。トップモデルは、直列6気筒ガソリン・エンジン「RB20」にインタークーラー付きセラミックターボを装着。さらに、電子制御サスペンションに、後輪を電子制御で操舵するHICAS(ハイキャス)IIなど、そのテクノロジーには感心しきりだった。
実際に、走りはすばらしく楽しかった。おもしろいように、コーナーを曲がれるのだ。RBユニットは205psの最高出力を6400rpmでしぼりだすという高回転型。「この時代のモデルは日産の頂点を示していた」と、本コラムを書いていて、思い出した。
気持よく上の回転域までまわるエンジンは、当時の日産の真骨頂。しかも、シャシーも優秀で、ハンドリングは安定していた。かつ後輪操舵角が最大1度もあるHICAS-IIによって、コーナーに入っていくとき、小さな舵角でスムーズにまわっていけるのだ。
なにしろ、このエンジンはツインターボ化されて、1989年登場の「スカイラインGT-R」に搭載されたもの。かつ、HICAS-IIのコンセプトは、さらに高度な制御を取り入れてSUPER HICASへと”進化”。やはりエポックメーキングなGT--Rに採用されたのだ。
難をいえば、デザインの思い切りの悪さである。パーソナル・サルーンなるコンセプトとは裏腹に、ボディスタイルは後席の存在を強く感じさせるものだった。「6ライト(リアクオーターピラーにもウィンドウがある)はないな」と、当時は残念に思った。
ちなみにセフィーロが登場した1988年は、日産のクルマが多くの場面で話題になった。1月に3ナンバーボディにハイパワーのV型6気筒エンジンを搭載した「シーマ」と、スタイリッシュな2代目にフルモデルチェンジしたミニバンの「プレーリー」を発表している。
つづく5月に凝ったメカニズムでスポーティクーペとしての本領を発揮した5代目「シルビア(S13)」、10月には「ブルーバード」の上を行く高級セダン「マキシマ」を送り出したのだ。
日産は「お元気」でした。
スズキ・アルト(2代目)と小林麻美
1980年代の特徴といえば、多品種少量生産が始まったこと。ターゲットを細かく設定しても、ちゃんと元がとれるほど販売は好調だった。好例が1984年発売の2代目スズキ「アルト」だ。
このクルマの特徴は、女性をターゲットに据えたところ。「アルトは47万円」のキャッチフレーズで大ヒットした初代は1979年の発売だから、モデルライフが尽きる時期だった。くわえて、ダイハツ「クオーレ」のように販売力のある競合他車も追い上げてきていた。
そこで、2代目アルトは、都会的なものを好む若い女性をターゲットにしたところがあたらしかった。フランスのパリを連想させるナンバープレートをつけたアルトが走るテレビコマーシャルに登場したのは、『雨音はショパンの調べ』が大ヒットした女優の小林麻美だった。
イタリアのガゼボが歌うオリジナル曲をベースに、松任谷由実の日本語詞をのせた小林麻美の楽曲は1984年4月に発売され、たちまちヒットチャートをかけのぼった。2代目アルトは9月の発売だったので、”麻実効果”の恩恵にあずかれたのだった。
かの有名な“女性仕様”は、スカートでの乗降性のよさをアピールするための回転ドライバーズシートなどを備えていた。あいにく私がよくおぼえているのは、1986年に追加設定されたツインカムエンジン搭載の「RS」や、さらに”ホット”な「アルト・ワークス・RS-R」であるけれど。
アルト・ワークスは驚くほど速かった。初代アルトの2ストロークエンジン仕様も速いといえば速かったが、こちらは“四角いスポーツカー”といったおもむきだった。サスペンションストロークが足りなかったせいか、ちょっとドキドキする場面もあったが、ふりかえれば1990年代のBMW・Mモデルだって、首都高の継ぎ目で跳ねたものだ。
2代目アルトは、麻実効果による女性ユーザーを獲得しつつ、スポーティな軽自動車を支持する層の顧客も集めた。1988年、1994年……と続くモデルチェンジを経ながら、アルトは強力なスポーツモデルとしての基盤もしっかり築いたのである。
最新のハスラーをはじめ、「スズキって企画力のあるメーカーだなぁ」と、いまでも新車が出るたびに思う。この頃からそこは変わっていない。
トヨタ・セリカ(5代目)とエディ・マーフィー
ハリウッド・スターも、気合いの入った新車発表のときに起用された。『ビバリーヒルズコップ』(1984年)や『星の王子ニューヨークへ行く』(1988年)などに出演した、当時、超がつく人気のエディ・マーフィが、1989年登場の5代目トヨタ「セリカ」の広告に登場した。
外国人俳優でも、ひとこと日本語でキャッチフレーズを喋る(たとえばアンディ・ウォーホルが「アカ、アオ、ミドリ、グンジョイロ、キレイ」と言う1983年のTDKビデオテープ)のがTVCFの主流だったが、セリカではあえて映画の字幕ふう。
コマーシャルは、おちゃらけていたものの、5代目セリカは内容が濃かった。シャシーは1985年発表の先代から継承であるいっぽう、走りのための技術が多く採用された。
トヨタ初の4WS(四輪操舵)システム、電子制御油圧アクティブ・サスペンション、さらにもっともスポーティな「GT-FOUR」にはツインカムターボエンジンも、といったぐあい。
本領が発揮されるのは1991年のマイナーチェンジにおいてだ。ハンドリング向上をねらってトレッドが拡げられ、ワイドボディ化した。
当初はそれなりに楽しいスポーティ・クーペという印象だった。しかし、1991年のマイナーチェンジによって“それなり”から本当に楽しいスポーティ・クーペに変わった。
改良されたGT-FOURは、225psの2.0リッターエンジンによるパワフルさと、センターにビスカス式、リアにトーセン式LSDを採用した4WDシステムによる、安定して、かつ速い速度でのコーナリングを楽しめた。
室内の作りも、4代目に較べるとうんとクオリティが向上した。同時期に、たとえばフルタイム4WDをセリングポイントにしていたアウディは「クーペクワトロ」を発表している。でもセリカはけっして負けていない、と、思わされたものだ。
世界ラリー選手権のホモロゲーションモデルとして開発された「GT-FOUR RC」も迫力満点だった。235psのパワーもさることながら、じっさい、1993年の同選手権ではランチア「デルタ・インテグラーレ」を破って、メイクスおよびドライバーズ選手権を獲得するという快挙を成し遂げたのだった。
ホンダ・インテグラ(2代目)とマイケル・J・フォックス
1980年代、ホンダは数多くの印象的なTVCFを流している。そのうちのひとつが、2代目「インテグラ」だ。特徴はスポーティ性をより高めたところ。
最大の特徴は、2ドアと4ドアで、ホイールベースの長さをわざわざ変えてあるという凝りかた(お金のかけかた)だ。従来モデルより2ドアでは100mm、4ドアでは80mmも延長されていた。
もうひとつは「VTEC」システムの採用だ。エンジンの吸排気バルブを駆動するカムシャフトのいわゆるプロファイルを切り替え、バルブのリフト量とタイミングを同時に変化させる、画期的なアイディアである。
TVCFでは、傑作ハリウッド映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主演を務め、日本でもスターになったマイケル・J・フォックスを起用した。「VTEC DOHC」をさかんにアピールしていた。でもまぁ、「カッコインテグラ」のひとことのほうが、世間のひとには”刺さった”のだった。
前後にダブルウィッシュボーン・サスペンションを採用し、とくにボンネットをうんと低くしたのも、画期的だった(ホンダ車はいまもここにこだわっている)。
ホンダはモーターサイクル・メーカーのイメージが色濃く、じっさいにエンジンはとにかくよくまわるという印象だった。「1600RSi」のユニットは、160psの最高出力をなんと7600rpmで発生したのは”伝統”に忠実であるものの、いっぽうで低回転域からしっかりと実用的なトルクが出た(最大トルクの発生回転数はレースカーのように7000rpmだったが)。
私(たち)の関心はどうしてもスポーティな「RSi」モデルに向きがちで、その印象が強く残っている。足まわりはけっこう硬めのセッティングで、スタイルはエレガントだったものの、運転するとちょっと乱暴だった。
室内のデザインは、スポーティなイメージに合わせてあって、統一性の高さが魅力である。ようはBMWとおなじような路線を目指していたともいえる。このインテグラは全長4390mmしかなく、いま乗ったら、扱いやすそうだ。
ローバー・スターリングと浅野ゆう子
英国の「ローバー」は1960年代まで、ロールス・ロイスの下に位置する高級車だった。たとえば「P5」と呼ぶサルーンには、チャーチルやヒースといった歴代英国首相も乗った。
英国の自動車博物館では、チャーチルが乗っていたというローバーが展示してある。ドアポケットに設けられた灰皿は、葉巻を好んだチャーチルのために特別サイズだと説明されていた。
1980年代、ローバーは自社開発をほぼ諦め、ホンダ車にローバーのバッジをつけて売るようになる。「デザインなどは両社の話し合いで決めていった」と、当時ローバーに在籍し、今はフェラーリにいるデザイナーが、かつてマラネロで、思い出を述べた。
日本では、浅野ゆう子をTVCFに起用したローバー「スターリング」は、ローバーとホンダの共同開発モデルのローバー「800シリーズ」の最高級仕様。全長4698mmの4ドアボディに、初代ホンダ「レジェンド」の2675ccV型6気筒ガソリン・エンジンを搭載した前輪駆動モデルだ。
エンジンはホンダの常でとにかくスムーズ。177psの最高出力を6000rpm で発生する、けっこうスポーティな性格だった。がんがん上の回転域を使うと、じつに気持いいのだ。
ただし、乗り心地は”高級車”に期待するものと少し異なっていた。たとえば、かつてはローバーよりも下のクラスだったジャガーの「XJシリーズ」のほうが、しなやかに足が動き、ボディの重さをうまく使った、気持いい乗り味を提供してくれていた。
当時、スターリングとおなじ価格帯(500万円前後)ではBMW「525i」(E34)やアウディ「90クワトロ20V」が買えた。メルセデス・ベンツのミディアム・クラスはもっと高かった。しかも内装がややシンプルになるものの、中身でみれば「レジェンド」ははるかに安かった。
結局、操縦性ではドイツ車にかなわないし、価格優位性もさほどない。キツいことを書くと、モダンなテイストのスタイリングがかえってあだになって、狙いがあいまいなプロダクトになってしまっていたのだ。
そんななか、浅野ゆう子が出演したスターリングのTVCF(1989年)は、クルマ好きには「えっ」と驚くほど意外な組み合わせだったのは事実。
「キャスティングは広告代理店が持ってきてくれたもので、決めたのは日本法人の責任者でしょう」と、当時、ローバーの日本法人でマーケティングを務めた人が教えてくれた。
ちなみに起用期間は短かった。当時、昼帯に放送されていた人気バラエティ番組に出演した本人が、ホストから、「最近外車のCMもやっているよね」と、話題を向けられたとき、車名を言えなかったというハプニングがあったのだ。それでTVCFは予定より早く終了になったという。
車名を言えなかったのは、クルマの存在感が希薄だったせいかもしれない。
文・小川フミオ
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