ラリージャパンの興奮が冷めやらぬ2022年11月14日、愛知県蒲郡にあるトヨタグループの研修施設「KIZUNA」に、前日までGRヤリス ラリー1で激闘を続けたドライバーとコ・ドライバーが集結した。広いグラベルコースにGRヤリスと先代86、2台のラリー車が置かれていた。はたして何が始まるのか? モリゾウさんとその「家族」、“アキオファミリー“のサプライズ走行会を潜入レポートしよう。
TEXT&PHOTO/ベストカーWeb編集部
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■“アキオファミリー”の走行会は笑いの中にも真剣勝負
世界ラリー選手権(WRC)2022シーズン最終戦「フォーラムエイト・ラリージャパン」で3位表彰台をゲットした勝田貴元がいる、世界チャンピオンのロバンペラがいる、オジエもエバンスも、それぞれのコ・ドライバーも全員いる。さらにニコニコしながらラトバラチーム代表がやってきた。GRカローラH2コンセプトでスーパー耐久を走り、86でラリーチャレンジにも参戦する佐々木雅弘と最後にモリゾウさんが加わり、大きな笑い声が弾けた。
これはいったい何事か? 昨日までの張りつめた空気とは一変し、みんなリラックスして和やかな雰囲気となっている。特にオジエ選手はたくさんジョークを飛ばし、「タカ」こと勝田貴元選手がそのジョークを切り返して、みんなを和ませている。長いシーズンが終わったことからの解放感からだろうか? いやそれだけではないようだ。これはまるで、レーシングスーツを着てモリゾウさんのもとに集ったホームパーティのようだ。彼らはモリゾウさんのことを「アキオサン」と親しみをもって呼んでいる。そんなところもファミリーのようだ。
今回WRCを戦うメンバーが一堂に会したのは、ラトバラチーム代表とモリゾウさんの対決が行われるからだ。2022年5月に行われた富士スーパーテック24時間レースに水素エンジンカローラで2人は参戦し、予選タイムはモリゾウさんの勝ち、決勝はラトバラ代表の勝ち。1勝1敗の後を受けての3回戦というわけだ。ラトバラチーム代表が勝てばWRCを走ったGRヤリスがモリゾウさんからプレゼントされるという。
富士スーパーテック24時間レースで水素エンジンカローラに乗り、予選はモリゾウさん(豊田章男トヨタ自動車社長/写真右)、決勝ではラヤリ=マティ・トバラチーム代表(写真左)が勝って1勝1敗だった
実はラトバラ代表は、フィンランドに多数のラリー車をコレクションとして持ち、博物館にしているほど。その目玉としてGRヤリスは喉から手が出るほど欲しい。ラトバラチーム代表はいつものように明るく、ジョークでみんなを笑わせているが、どこか現役の時のような真剣な雰囲気が感じられ、闘志がみなぎっていることがわかる。
今回はモリゾウvsラトバラの戦いにほかのドライバーたちも参加して楽しい走行会となったわけだ。
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■ホームアドバンテージを最大限使うモリゾウさん
ここ「KIZUNA」のグラベルコースは、GRヤリスを開発したテストコースとでもあり、コロナが蔓延した昨年、一昨年モリゾウさんはここで走り込んで腕を上げたという。そして佐々木雅弘選手が監修したコースが興味深い。普段ここを走っているモリゾウさんに有利なようコースレイアウトがされたことは、想像に難くない。
モリゾウさんがラリーチャレンジで走るGRヤリスでタイムアタック。トップタイムは見事ラトバラチーム代表だった
今回のレギュレーションはモリゾウさんが普段ラリチャレを走るGRヤリスと以前ラリチャレを走っていた86のモリゾウ2号車に1度ずつ乗り、その合計タイムを競うというもの。モリゾウさんはトップドライバーたちが乗りなれていないFRで差を付けようという思惑のようだ。
トップドライバーが競うことになったコースマップ。「神に祈る時間」という製作者の祈り付き
特に「神に祈る時間」と名付けられたコーナーは難しそうだ。近頃は流行語大賞になりそうなくらい使われるようになった「神に祈る瞬間」は、もともとGRヤリスの厳冬期のテストで、クルマが限界を超えて、どうにもならなくなった状態をモリゾウさんが表現したもので、今回はクルマの限界を知るコーナーともいえそうだ。
「私のホームコースだから、好きなようにやらせてもらいます(笑)」とモリゾウさんが言うように、モリゾウさんと佐々木雅弘選手はコ・ドラなし。さらにこの日の朝モリゾウさんはコースをみっちり走り込んだのに対し、ラトバラチーム代表ほかドライバーたちは、コ・ドラ付きでウェイトハンデがあるうえ、ノアに乗ってコースを1周下見しただけ。これはかなりのハンデかもしれないが、「あなたたちはプロ、私はアマチュアドライバー」とモリゾウさんはハンデの正当性を主張し、みんなも笑って受け入れた。
左からロバンペラ選手、勝田貴元選手、エバンス選手。みんな冗談を言い合って楽しんでいた
しかし、そこは負けず嫌いのラトバラチーム代表と選手たちのこと。スマホで画像を撮り、選手同士で攻略を話し合い、外からコースを眺めていたコ・ドラたちもその輪に加わって、あっという間にコースのツボが頭に入ったようだ。最初はモリゾウvsラトバラ代表という戦いの構図だったが、ドライバーたちの気持ちにスイッチが入ったいま、「KIZUNA CUP」ともいえるナンバーワンドライバーを決定する戦いに姿を変えていた。
モリゾウさんは身を乗り出してライバルとほかの選手の走りを見守った
■ラトバラ代表がリードするも予測不能な展開が待っていた
1本目はGRヤリス。さすがにドライバーたちは、4WDの扱いに手慣れたもので、ミスなく華麗なテクニックを披露。特にラトバラ代表は疲れ知らずのダイナミックなドライビングを見せ、現役の選手たちも口をあんぐり! ロバンペラ選手のタイムがよくないのは、風邪気味とのこと。トイレで遭遇し「大丈夫ですか?」と聞くと、「大丈夫」というが、少し元気がないように見えた。
トップタイムはラトバラ代表で2位のエバンス選手に1秒以上リード。モリゾウさんは3位で、その差は1秒75。モリゾウさんも速いが、ラトバラ代表の勢いはそれを上回り、モリゾウさんピンチと誰もが思った。
ラトバラチーム代表(真ん中奥)は1回目を終えてトップタイムに上機嫌
まさかのGRヤリスがストップ。実はドライバーたちの踏む力が凄すぎてクラッチペダルが曲がってしまったためだという
しかし、86にクルマを代えた第2ラウンドに大波乱が起きた!
なんとラトバラチーム代表が2度のパイロンタッチのミスで4秒のペナルティを喫し、2本のタイムを合計した総合順位も最下位に沈んでしまった。
「なんてことをやらかしてしまったんだ! 自分のミスが信じられない!」
ラトバラ代表は身もだえして自分のミスを悔しがり、モリゾウさんにもう一度走らせてくれと懇願する。
FRの86をいきなりグラベルで乗りこなすのはトップドライバーでもたいへんなようで、ラトバラチーム代表はまさかのパイロンタッチ2回
「アキオサン、プリーズ!」
「家族」想いのモリゾウさんは、その願いをかなえ、コ・ドラとして86に乗り込み、ラトバラ代表にチャンスを与えた。ラトバラ代表は九死に一生を得た思いで、再びシートに乗り込んだ。皆がラトバラチーム代表を冷やかし盛り上げる。
ラトバラ代表はトラクションをいっぱいにかけスタート! 加速はいい! しかし、コーナーでは若干大回りとなり、タイムをロスする。結果はモリゾウさんのタイムを上回れず「負けました」と潔く敗戦を認めていた。
ラトバラチーム代表を慰めるモリゾウさんとモリゾウさんやほかの選手の健闘をたたえ合うドライバーたちの清々しいシーンがそこにあった。そして総合トップだった佐々木雅弘選手には大きな賞賛が送られた。その佐々木選手は「一生の思い出です」とほんとうにうれしそうだった。
86で圧倒的な速さを見せた佐々木雅弘選手が大逆転優勝。WRCのトップドライバーたちからも、そのタイムに驚きの声が上がった
世界一クルマが大好きなアキオファミリーのホームパーティは、このあとWRCの慰労を兼ねた食事会が行われ、そこでも大いに盛り上がった。ところで、驚いたのはその日の深夜便でオジエ選手たちはフランスに帰郷するという。移動も仕事のうちだというWRCのトップドライバーの一面を見た思いだった。
2023年シーズンも今回集まったアキオファミリーでWRCの大舞台を戦うことになった
■GRヤリスRally2のデモランではラトバラ代表の勝ち!?
モリゾウvsラトバラ対決には後日談がある。「ラリーチャレンジ豊田」でモリゾウさんとラトバラチーム代表はそれぞれをコ・ドラにしてGRヤリスRally2のデモンストレーション走行を披露した。午後の部で華麗にスピンターンを決めたラトバラ代表に対し、モリゾウさんも上手に回ったが、少し膨らんだ印象。モリゾウさんがGRヤリスRally2でグラベルを走るのが当日初めてだったのに対し、ラトバラ代表はフィンランドの開発で何度も乗っていたはず。
ラリーチャレンジ豊田でモリゾウさんとラトバラチーム代表はお互いをコ・ドライバーにしてGRヤリスRally2のデモランを披露した
モリゾウさんは3度もデモランを披露し、ファンを沸かせたが、このデモランを勝手に採点するとラトバラ代表の勝ちかな!?(モリゾウさんから「今回は競争じゃないぞ!」といわれるかもしれないが)
そのモリゾウさんは「こんなに楽しいクルマだから、何度も乗りたかった」とコメント。負けず嫌い同士の戦いは今後も続き、ファミリーのようなチームのきずながもっと深まっていくのだろう。
負けず嫌い2人の戦いは、ラトバラチーム代表の故郷フィンランドに舞台を移し、凍てついた湖面で行われるとか!?
■2023年の参戦体制
WRCの2023年参戦体制が発表され、ロバンペラとエバンスがレギュラードライバー、勝田貴元とオジエが3つ目のシートをシェアすることになった。勝田選手はトップチームのドライバーになったことになる。なお、オジエが出場する時も、マニュファクチャラーズポイントのつかないドライバーとしての参戦となり、全戦の出場が予定されている。
また全日本ラリー選手権に勝田範彦選手がGRヤリスRally2で参戦し、ラリー北海道にはラトバラチーム代表がGRヤリスRally2でスポット参戦ことが決まった。さらに市販車ではGRヤリスにロバンペラエディションが誕生することがアナウンスされた。今年のラリージャパン開催を契機にラリーがメジャーになってファンが増え、来年のラリージャパンがより大きな盛り上がりとなることを期待したい。
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