この記事をまとめると
■夏は積乱雲が発生しやすく、雹が降ることも多い
掴むと悲惨! 素人には判別の難しい水没被害&雹害の中古車に注意
■大きさによってはクルマに当たると凹みが発生する場合がある
■板金に出すとデントリペアによってパネルを切断することなく修理することも可能だ
雹害恐るべし!!
クルマのボディが凹むほどの雹が降ることなんて一生のうちに、あるかないか、なのかもしれない。とはいえ、実際に雹害に遭っているクルマはあって、悲惨な姿に言葉を失う。異常気象の続く昨今、その危険度は急速に増している。時代は変わった。もはや、「まさか!?」は通用しない。
氷塊の急降下爆撃 カミナリ雲がヤバい!
異常気象のせいなのだろう。ここ数年、初夏から秋にかけて連日のようにニュースを騒がせているゲリラ豪雨。冠水による水没などクルマへの影響も小さくない。とりわけ、豪雨に伴う雹(ひょう)は深刻で、屋外にクルマがある以上、被害と無縁ではない。
なにせ、ピンポン玉、もっと大きいものになるとソフトボール大の氷の塊が大量に空から猛スピードで降ってくるのだ。直撃を喰らえばひとたまりもない。ボディは広範囲にわたって点々と大きく凹み、最悪、ウインドウが砕け散ることもある。
雹が降る仕組みを簡単に説明すると、カミナリ雲とも呼ばれる積乱雲のなかは、地面から空に向かって強い風が吹いている。この風で上昇した空気が急激に冷やされると氷の粒になって、雲のなかで徐々に成長。それが、溶けないまま地表に降ってくるのが雹。つまり、日差しの強い季節は、上昇気流が強まり、雹が降りやすくサイズも大きくなる傾向だ。
降雹は、気温の高い地域に限った話ではなく、全国規模で発生。九州・四国に上陸した台風の影響で、静岡県や、遠く離れた北日本の大気が非常に不安定になるなどの事例もあった。青森県や宮城県にも豪雨や落雷とともに雹が降ったのは記憶に新しい。
雹による被害は人や家屋、農作物などにも及ぶ。降雹時は強風を伴うことがほとんどで、時に竜巻によってクルマがひっくり返ることも。状況によっては車外への避難も必要だ。
雹は氷の塊。硬いうえ、それなりに重い。直径約5センチの雹の落下速度はおよそ100km/hと言われており、クルマのボディ(鉄板)などたやすく凹ませてしまう。
雹は積乱雲(入道雲)のなかで生まれ、成長する。ほとんどの場合、地表に落下してくる途中で溶けて大粒の雨になるが、大きく成長した雹は溶けきらず地面に降ってくる。
車両保険の加入は必須修理するなら即断即決
実際に雹害に遭ったクルマを見たことはあるだろうか?
ボンネット、ルーフ、トランク(リヤハッチ)といったボディ上部はもちろん、両サイドまで、直径数センチ・深さ数ミリ程度の無数の凹みに覆われているサマは「無残」としか言いようがない。
もちろん、そんな状態で乗り続けるわけにもいかないので、大半の人は修理を考える。が、仮に、ほぼボディ全体にわたって凹んでいる場合の修理費用はそれ相応。今回取材した、関東で雹害を受けたというスバルBRZは、ボディ全周にわたって約300個の凹みがあり、全修理費用の見積もりは、およそ120万円だという(ボンネットパネルは新品に交換)。
このBRZの場合、幸い雹害もカバーする車両保険に入っていたからよかったが、そうでなければ全額自腹だ。
もっとも、ここ最近のコロナ禍による部品供給遅延の影響は、こうした修理にも及んでいて、パネルやモールなどの交換部品が届くまで数カ月を要することも。当然、部品が届くまで、部分的に未修理のまま乗らなくてはならない。
雹害に遭ったからといって、すぐに修理してもらえるとは限らないのもツラい。局地的な降雹だとしても、同じように被害に遭ったクルマは数百、数千台にのぼる。ということは、ディーラーや板金塗装業者には修理依頼が殺到。現場はパンク状態で、見積もりすらしてもらえないケースも珍しくないのだという。
修理するなら即断即決。初動が肝心だ。依頼が遅れるほど着工は後回し。修理現場の規模にもよるが、「受注から作業に取りかかるまで1年以上かかることもある」という。
実際に雹害にあった悲惨なBRZ
今回、取材で訪れたデントリペア専門店に入庫されていたBRZの雹害は(ボンネットを除いて)約150箇所。修理期間は、1日中かかりっきりで1週間を要するという。
クルマが受ける雹害は、ウインドウも同様。被害箇所が多く、ダメージが大きい場合は新品交換になるが、状態に応じて部分的に補修も可能。放置しておくとダメージは広がるいっぽうだ。
過去にはカボチャ大の巨大雹も……!
雹は強い上昇気流を持つ積乱雲内で発生するため、豪雨や雷を伴って降ってくる。
積乱雲の上空の低温部で冷やされ、形成された小さな氷の粒は、落下途中で融解するが、上昇気流に乗って再び雲の上部に吹き上げられて再び表面が凍結。それを何度か繰り返すうち、氷の表面に、ほかの氷の結晶が付着するなどしてどんどん成長。つまり大きく重くなる。やがて重力が勝り、上昇気流がその重さを支えきれなくなったり、逆に強い下降気流が発生すると「雹」として地上に落下する。雹の発生は積乱雲が多く発生する夏季に多いが、地表付近の気温が高すぎると、完全に溶けて大粒の雨になることがあり、降雹は8月前後の盛夏より、初夏や初秋のほうが多いとも言われている。
どちらも成因は同じだが、積乱雲から落下する直径5mm未満の氷の粒は霰(アラレ)と呼ばれ、雹は直径5mm以上のものをいう。ほとんどの場合、直径1cm以下だが、大正時代、日本一暑い町としても知られる埼玉県熊谷市で降った最大級の雹として、直径約30cm、重さ3.4kgというカボチャ大の雹が記録されている。
塗らなくても凹みは直る! デントリペアも選択肢のひとつ
なにはともあれまず避難! 降雹の兆候を見逃すな
では、雹害を避ける手立てはあるのか? といえば、「ほとんどない」というのが正直なところだ。
たとえば、クルマの保管場所。当然、野天の月極駐車では降雹は防ぎようがなく、天井と四方が壁で仕切られた駐車場、戸建ならビルトインガレージ(雹は樹脂製のカーポートを突き破ることもある)が最善だが、こうした恵まれた環境はきわめてまれ。
マメに天気予報をチェックして、ゲリラ豪雨や降雹の可能性の高そうな日は、前もってクルマを地下駐車場などの安全な場所に移動しておくのが理想だが、あまり現実的とは言えない。
出先なら、(見つかるかどうかは運次第だが)商業施設や有料の立体/地下駐車場などにいち早く避難するのが望ましい。巨大な積乱雲が発生していて、空が急に暗くなったり、冷たい風が吹く、あるいは遠くの稲妻・雷鳴などは、豪雨の前兆。見逃さないようにしたい。「ボディに毛布でもかけておけばいいじゃないか」と考える人もいるが、残念ながらこれは無力に等しい。というのも、豪雨・雷雨では同時に猛烈な風が吹く。毛布など一瞬で吹き飛ばされてしまうからだ。ボディカバーを持っているなら、吹き飛ばされないよう、しっかり被せておけば、いくらかマシかもしれない。
少しでも雹害に遭わないようにするには、事前に気象情報を得ることも大事。天気予報はもちろん、雨雲の動きをリアルタイムで知ることができる、雨雲レーダーもぜひ活用したい。
降雹を避ける際、もっとも確実で安全なのが、天候の影響を受けない地下/立体駐車場。有料駐車場以外に、大型商業施設などに設けられていることが多く、無料で利用できるのもありがたい。
湿気がこもったり、生地がボディと擦れてキズが付く可能性も否めないが、ボディカバーも降雹には有効。ただし、吹き飛ばされないよう、紐などで確実に被せておくことが大事だ。
凹んだ部分を、専用器具を使って裏側から押し出すのがデントリペアの基本。ちなみに、スチール製よりもデリケートな作業が求められるが、状態に応じてアルミ製のパネルも修復可能だという。
オリジナル塗装のまま凹みを直す技術もある
前述したとおり、降雹によるボディのダメージは広範囲に及ぶ。修理は、ボンネットやフェンダー、ドアなどのボディパネルを新品に交換したり、凹んだ部分にパテを盛って、塗装し直す「板金塗装」が一般的だ。
たしかに、ほぼ元どおりには戻るが、こだわる人にとって悩ましいのは塗装をし直すという点。新車時の塗装ではなくなるということだ。加えて、後々、退色や、パテ痩せ(パテを盛った部分が凹むこと)などが起こる可能性も否定できず、状態よっては、下取り/買取り査定で減額になるなど、価値を落とすことも。そこで注目したいのが、オリジナル塗装のまま凹みを元に戻す 〝デントリペア〞。もともと、ドアパンチなど、少数の凹みを修復する技術だが、雹害にも適応する。「凹んだ部分を裏側から専用器具で押し出して整形します」と、説明してくれたのは取材にうかがった千葉県柏市の専門店、〝デントリペアワークス〞代表の金枝弘尚(かねえだ ひろひさ)さん。
今回、ルーフの凹みの修復を見せていただいたが、まず、車内の天井の内張を剥がし、凹みを器具で押し出しながら整形を進めていく。わずかに凸状になった時点で、今度は先端部が樹脂製のポンチを当ててハンマーで叩き、少しずつならしていく。この「押し出す」、「叩く」をひたすら繰り返して元のパネルラインに戻していくのだ。1カ所あたり、約15分の早ワザ。もちろん経験と技術がモノをいう職人芸。どこに凹みがあったかわからないほどの仕上がりに驚かされる。
ちなみに、今回、雹害で持ち込まれたBRZの場合、上部、両側面合わせて、修復箇所は約150カ所。
見積もりは板金塗装した場合とほぼ同額のおよそ90万円。安くはないが、塗装をしないメリットを考えれば、むしろ格安に思える。
異常気象が続く昨今、明日は我が身かもしれない。もしもケチって雹害までカバーする車両保険に入っていなかったら……と思うとゾッとする。
【リペアのスゴ技】凹みは裏から叩いて元に戻すのが基本
デントリペアではオーソドックスな作業。凹んだ箇所を裏側から専用器具を使って押し出し、微妙に凸状になった時点で、先端が樹脂製のポンチを当ててハンマーで叩き、少しずつ元のパネルラインに合わせてならしていく。簡単そうに見えるが、繊細なチカラ加減が求められるデリケートな作業。なにより、オリジナルの塗装と同じ肌合いに合わせるのが難しく、技術が伴わないと、その部分だけまったく違う肌合いになって見栄えが悪くなってしまうという。
【リペアのスゴ技】裏から叩けない凹みは引っ張って戻す
袋状になっているルーフサイドパネルなどは、凹みを裏から押し出す器具を内部に入れることが不可能。そのため、凹みの表面に“タブ”と呼ぶ樹脂製のピンを溶着。それを“リフター”という工具で引っ張り上げながら整形を進めていく。引っ張って、少し凸状になったところで、先端部が樹脂のポンチを当ててハンマーで叩き、少しずつならしていく。この「引っ張る」「叩く」をひたすら繰り返しながら、元のパネルラインに戻していくのだ。
マジか!? ルーフパネルを交換すると事故車扱い
板金塗装では損傷したパネルは、作業効率や仕上がりを考えて、凹みを叩き出したり、パテを盛るなどの修正は行わず、新品交換が一般的となっている。
ボンネットやドア、フロントフェンダーなど、ボルトで組み付けてる部位ならまだいい。問題はルーフパネルで、交換作業では一度ピラーから切り離して溶接で再びつなぎ合わせる必要があるのだ。パネルを結合するCピラー部にはパテを用いる必要があり、パテは次第に痩せて接合部がはっきりわかってしまう。もちろん、強度面への影響も小さくない。
中古車市場ではルーフを交換したクルマは大半の場合、「事故車」扱いとなり、2~3割の査定額のダウンは避けられない。こうした点でも、ルーフパネルを交換せず、凹みを元どおりに直せるデントリペアは、ありがたいリペア方法だと言えるのだ。
※本記事は雑誌CARトップの記事を再構成して掲載しております
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