フォルクスワーゲンの「アルテオン」は、日本市場において「パサート」の販売台数をうわまわっている。その理由を今尾直樹が考えた。
アルテオンはインプレッシヴである
マツダ3にターボモデル追加へ! スピードアクセラの復活か!?
最近、フォルクスワーゲンの、アルテオンを都内でよく見かけるんですよ。と、編集部のイナガキ氏が某日、筆者に言った。
そういえば、筆者にもこんな記憶があった。それはまだ日の暮れるのが早い冬の黄昏時だった。西麻布の交差点で、左折だったか右折だったかしてきた、角度によってはミドシップにも見えるロー&ワイドなプロポーションのスタイリッシュなクーペが、たまたま歩道を歩いていた筆者の目に止まった。
暗くなっていたから、なんのクルマか判然としない。「こは誰そ」とつぶやきしが、やがてアウディ「R8」 にもちょっと似たLEDのデイライトと、クロームのバーの積み重ねが特徴的なグリルがはっきりとわかり、アルテオンだ、と、わかった。そこには、「なあんだ、ミドシップのスーパーカーではないのか」という子供じみた、ちょっぴり残念な心持ちがあった。そして、そのあと、「やっぱりアルテオンはかっこいいなぁ」という感嘆が湧き上がってきた。
おなじようなことを読者諸兄も思ったりはされていないだろうか。アルテオンはインプレッシヴである。だから、「よく見かける」と、錯覚するのだろう。そんなことをイナガキ氏に私は言ったのではなかったか。
Volkswagen Arteon R-Lineパサートより2倍以上多い販売台数
イナガキ氏は早速、フォルクスワーゲン・グループ・ジャパン(VGJ)広報に問い合わせた。それによって、アルテオンの2018~2019の登録台数は約3400台であることがわかった。同時期のパサートの登録台数が、セダン約1200台だということも※。つまり、441万4000円から始まるパサートよりも、625万円のアルテオンのほうが売れているのだ。
これを「売れている」と表現してよいのか、それとも、どんぐりの背比べで、どちらも「あまり売れていない」と解すべきなのか?
ちなみに、2019年にフォルクスワーゲンがグローバルで生産したモデルの第1位は「ティグアン」で、およそ91万台だった。2位が「ポロ」で71万台弱。モデルチェンジということもあって、「ゴルフ」は3位で68万台。4位が「ジェッタ」で61万台。5位「パサート」の54万台と続く。アルテオンはたったの5万台で、その下には「フォックス」だの「シャラン」だの「ビートル」だの「フィデオン」だのと続く。
ここ日本では、文字通りケタ違いに生産台数の少ないアルテオンが、パサート以上に売れているのだ。これをして、「売れている」と表現しないでどうする。
で、アルテオンをどんなひとが買っているのかというと、購入者の年齢比率は、50代が約40%、40代と60代が約25%ずつを占めるという。これは、日本の資産分布から言っても、ま、そういうもので、驚くには当たらない。
参考までに、購入地域比率は次のようになる。
関東 38.8%
中部 21.3%
近畿 15.5%
中四国 8.8%
九州 8.6%
東北 5.7%
北海道 4.2%
関東が多いのは東京と横浜という大都市があるから当然で、これまた驚くには当たらない。中部が近畿より多いのは意外かもしれない。あくまで推測ながら、VGJの本拠地が愛知県豊橋市にあることや、降雪地帯が含まれていることなどが考えられる。東北と北海道、足して10%近くに達するのも、4WDという強みがあるからではあるまいか。アルテオンの購入理由TOP3が、(1)外観デザイン、(2)動力性能、(3)4WDという調査結果からも、降雪地帯で人気があるということは言えるだろう。
※パサートは2019年3月におこなれたジュネーブ・ショーで、マイナーチェンジモデルが発表されている。
Volkswagen Arteon R-LineVolkswagen Arteon Shooting Brake R250ps~300ps間の空白
「VGJは、なぜ日本にアルテオンを導入したのか?」というイナガキ氏の直球の質問に対するVGJ広報の回答は次のごとくである。
「スポーティで流麗なデザイン、280psの2.0TSIエンジンと4WDがもたらす高い動力性能、クーペスタイルでありながら居住性と積載性に優れたパッケージングを兼ね備えたアルテオンは、競合する輸入プレミアムブランドのミドルクラスセダンやクーペをご検討のお客様を取り込めるポテンシャルがあると判断したため」
どうでしょう。アルテオンに対する興味がグッとわいてこられたでしょうか?
アルテオンは2017年春のジュネーブ・ショウで発表され、日本市場では同じ年の秋に発売となった。この4ドア+リア・ゲートのファストバック・クーペは、ゴルフ、パサートとおなじく、エンジン横置きプラットフォームの“MQB”の上に構築されている。
全長×全幅×全高=4865×1875×1435mmのボディは、パサート・セダンよりも80mm長くて45mm幅広く、30~35mm低く、それに合わせて、ホイールベースはパサートのそれより45mm長い2835mmに延ばされている。おかげで、パサートよりロー&ワイドな外観なのに、居住空間はゆとりがあって、ラゲッジ・スペースも563リッター確保している。これはパサート・セダンの独立したトランクの586リッターにちょっと足りないけれど、後席を倒せば1557リッターにまで広がる。パサート・セダンはセダンなので、トランクスルー機構を備えているとはいえ、もしももっと広い荷室を望むのであれば、ヴァリアントを選ぶしかない。VGJ広報の導入理由にもあるように、アルテオンはスタイリッシュな外観と実用性を両立させている。
volkswagen-arteon-14エンジンは、ヨーロッパでは1.5リッターと2.0リッターのガソリンに加えて、2.0リッターのディーゼルがあり、駆動方式もFWDと4WDの設定がある。日本ではキャラクターを明確にするためだろう、280psの2.0リッター・ガソリン+4WDのみ。グレードは当初、スポーティな外観のR-Lineと、装備をさらに充実させたR-Lineアドバンスの2種類だったけれど、2018年秋に内装が3色から選べるエレガンスが追加されている。
アルテオンの価格は、R-Lineアドバンス、エレガンスともに625万円である。この625万円問題について、少々考察してみたい。いくら280psでフルタイム4WDといっても、おなじフォルクスワーゲンのパサートのセダンが441万4000円、メルセデス・ベンツ「Cクラス」の1番安いモデル、「C180」(受注生産)が489万円、BMW「320iSE」が461万円で購入できる。
4WDは絶対必要、ということなら、BMW「320d xDrive」が573万円、「C200 4MATIC」が641万円、アウディ「A4 TFSIクワトロ」が658万円で手に入る。BMWだったらディーゼルで、しかも、50万円もお求めやすいのだ。
ただし、C200と320dは100psほど、A4 45TFSIは30psほど最高出力で劣っている。アルテオンの購入理由TOP3の(2)動力性能が示しているように、アルテオンの280psというのは大いに魅力なのだ。
Volkswagen Arteon Rもしも280ps以上のパワーが、ドイツ・プレミアムで欲しいと思ったら、A4の場合はイッキに354psの「S4」862万円、3シリーズは387psの「M340i xDrive」985万円、「Cクラス」だと、390psのC43 4MATIC987万円にジャンプアップしなければならない。
ちなみに280psの4WDというと、アルファ・ロメオの「ジュリア 2.0ターボQ4ヴェローチェ」、609万円というイタリアの名品があるけれど、居住空間も荷室容量も、そしてインフォテインメントや安全関係の先進システムといった機能を重視するとなると……、そもそもアルテオンを選ぶようなタイプのひとにはデザイン、あるいはブランドの趣味が合わない可能性もある。ということで、あくまで「ちなみに」ご紹介したわけです。ただ、アルテオンはイタリアの名門のセダンよりも高い値付けであることに要注目である。
こうした羅列でわかったのは、ドイツ・プレミアム御三家のラインナップには、250psと300psの間に空白がある、ということである。その空白を、ピープルズ・カーのフォルクスワーゲンが突いて生まれたのがアルテオンなのである。
さてそこで、この国民車のフラッグシップを選ぶべきか否か? 悩ましい選択である。少なくとも私はそう思う。というのも、私のような、お金持ちでもないくせに、権威主義者でもある人間は、既存の価値を壊すようなふるまいを嫌うからだ。かつてハルク・ホーガンが、日本では蝶野正洋がつくった「nWo(New World Order)」とか、冷ややかな目で見ていたものでした。そういう筆者から見ても、アルテオンはよくできたカッコイイ実用車だと思う。繰り返しになるけれど、問題はそこからである。
パサート以上の価値とは
せっかく試乗したので、簡単にその印象を記しておく。試乗車はエレガンスというオシャレ仕様のほうで、R-Lineとは異なるフロント・バンパー、シルバーのドア・ミラーなど、地味派手な専用アイテムを装備している。前述したように、最大の特徴は内装で、6色の外装色に合わせてラック、グレー、ブラウンの3色から自由に選ぶことができる。試乗車は「バレンシアブラウン」と呼ばれる茶色で、地味派手といいますか、ピカピカのウッド・パネルも奢ってあって、伝統的な高級車といった雰囲気を醸し出している。
走り始めた瞬間、乗り心地がやや硬めなことと、ステアリングのクイックなことに驚いた。しばらく走ると、すぐに慣れたのは、実は「慣れた」のではない。乗り心地は可変ダンピングの“DCC”なる「アダプティブシャシーコントロール」が、ステアリングには「プログレッシブステアリング」なる仕掛けがあって、低速時や駐車時には少ない操作で楽チンに操作できるという可変ギア比が採用されているので、走り始めの低速域では、硬い乗り心地を招来し、ゲインの高いステアリング特性が発揮されたのであった。
なので、フツーの速度になると、乗り心地もステアリングも中庸を得た、不満のないものに切り替わる。
「ドライビングプロファイル機能」、いわゆるドライブ・モードも付いており、エコ、コンフォート、ノーマル、スポーツ、と4つのモードを選ぶことができる。コンフォート、ノーマルを選べば、しなやかさが感じられる。悪路でややタイヤからの入力が大きく感じられるのは、スタイル優先で20インチを標準にしているからだろう。
最高出力280psの2リッター直列4気筒DOHCターボは、350Nmという分厚い最大トルクを1700~5600rpmの広い範囲で生み出し、7速DSGとの組み合わせでもって、車重1700kgのボディを余裕しゃくしゃくで走らせる。4WDだから、雨の日も安心。たぶん雪の日にはもっと活躍してくれるに違いない。
Volkswagen Arteon Shooting Brake eHYBRID R-Lineアルテオンがパサート以上に売れている、ということは、ここ極東において、その価値がパサート以上に認められている、ということである。それはこう考えると手っ取り早い。
フォルクスワーゲンのイメージが、単に質実剛健な実用車、というのではなくて、そこにカッコイイ、という価値観がくわわり始めているのだ、と。いや、ここ極東においては、ビートル以来、フォルクスワーゲンにはもともと単に質実剛健な実用車ではなくて、カッコイイ、という価値観が含まれていたのだ、とも言える。なんせ、ちょっと前まで、輸入車は国産車よりグッと価格が高かったから……。てことは、もっとカッコよくてもいいのかもしれない、フォルクスワーゲンは。
Volkswagen Arteon R-Line文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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