現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 伊藤かずえさんのレストアでも大絶賛! 「シーマ現象」の真実と知られざる秘話

ここから本文です

伊藤かずえさんのレストアでも大絶賛! 「シーマ現象」の真実と知られざる秘話

掲載 76
伊藤かずえさんのレストアでも大絶賛! 「シーマ現象」の真実と知られざる秘話

 「伝説の名車」と呼ばれるクルマがある。時の流れとともに、その真の姿は徐々に曖昧になり、靄(もや)がかかって実像が見えにくくなる。ゆえに伝説は、より伝説と化していく。

 そんな伝説の名車の真実と、現在のありようを明らかにしていくのが、この連載の目的だ。ベテラン自動車評論家の清水草一が、往時の体験を振り返りながら、その魅力を語る。

【車名当てクイズ】この名車、迷車、珍車、ご存じですか? 第40回

文/清水草一
写真/日産

[gallink]

■再び注目を集める33年前の高級サルーン

 女優の伊藤かずえさんが、30年以上大切に乗ってきた初代シーマ。そのレストアの完成が、大きな話題になっている。事の次第を簡単に振り返ると、2020年10月、伊藤さんが愛車・シーマの1年点検を、SNSに投稿したところから始まった。

 新車で購入後、30年以上も大事に乗り続けているという事実に大変な反響があり、日産社内でも「何かできることはないか」という声が盛り上がって、有志によるレストアチームが結成された。こうして伊藤さんのシーマは、オーテック・ジャパンに引き取られ、約8か月をかけて徹底的なレストアを受けることに。走行26万kmを超えていたシーマは、まるで新車のように蘇った。

完全に近い姿にレストアされた愛車のシーマに、女優の伊藤かずえさんもご満悦の様子

 このニュースに、SNSは絶賛の嵐となった。美談に対する絶賛もさることながら、初代シーマというクルマについても、「ボディラインが美しい」「風格がある」など、絶賛に次ぐ絶賛である。

 が、実際のシーマは、どんなクルマだったのか。当時を知る者のドライビング・インプレッションはあまり目にしない。そこで、1988年の発表当時に試乗した者として、初代シーマについて回想してみたい。

■ものすごい加速力とオラオラ感出しまくりのスタイル

 初代シーマが発売されたのは、1988年1月。前年に発表された7代目セドリック/グロリア(Y31系)をベースに、3ナンバー専用ボディを与えられた4ドアハードトップだ。

 当時の国産乗用車は、センチュリーとプレジデントを除き、すべて基本は5ナンバーサイズ。クラウンやセド/グロなど大型車の一部に、加飾によって3ナンバー化したモデルが存在するだけだったが、シーマは最初からワイドボディを与えられ、全幅が1770mmに拡大されていたのである。今でこそ、1770mmなんてまったくアタリマエだが、当時は衝撃的だった。そのグラマラスなサイドのふくらみを見て、私は大仏を連想し、わざわざ大仏(板橋区の東京大仏)の前で雑誌の撮影させてもらったくらいである。

1988年に誕生したFY31型シーマはワイドボディで注目を集めた(写真はタイプII リミテッド)

 エンジンは、最高出力255ps、最大トルク35.0kg-mを誇る、3.0L V6DOHCターボ。200psの自然吸気モデルもあったが、当時はひたすらこの255馬力エンジンが話題を独占し、私もそちらしか試乗したことがない。ミッションはすべて4速ATだった。

 その後まもなく、日本は「280馬力自主規制時代」に突入するのだが、当時はまだ280馬力の国産車は存在しておらず、シーマの255馬力が最強。「暴力的な加速」と持てはやされた。

 実際のフィーリングは、当時の感覚では間違いなくものすごい加速だった。当時のターボは3000rpmくらいまで回転を上げないとフルブーストにならず、明確なターボラグがあったが、ターボが効いてからのトルクの盛り上がりは、ラグがあるだけにより暴力的。リアサスペンションがセミトレーリングアーム(フロントはストラット)だったため、フル加速時には車体後方が大きく沈んでしまうのがまた、暴力的なイメージを増幅した。

当時としては最強クラスの加速性能を誇った3.0Lターボエンジンを搭載

 この、大仏のようなゴージャスな見た目と、255馬力の大加速により、初代シーマは大ヒット。「シーマ現象」と呼ばれる社会現象を巻き起こし、3ナンバーのクラウンを販売台数で抜くという快挙を成し遂げた。

 とまあ、こう書き連ねるとひたすら絶賛調になるわけだが、当時はそれほど絶賛ばかりではなかった。まず、3ナンバー専用のスタイリングは、超オラオラに感じられた。イメージ的には現在のアルファードである。

 当時、メルセデスSクラスは、「乗っているのは全員ヤクザ」くらいの超コワいイメージだったが、シーマはそれに次ぐオラオラカーで、後ろにシーマがつくと「うわっ、シーマだ!」と、それだけで道を譲られるくらいコワモテな印象だった。あの頃の日本は、バブル景気に沸いていて、それまでの常識を打ち破るゼイタクが許される時代になったという解放感に満ちていたが、その象徴であるシーマは、「下品な成金ニッポン」の象徴でもあり、良識ある人は眉をひそめたのである。

■筆者の心に刻まれた足まわりの“シーマ現象”

インテリアは落ち着いた雰囲気で、当時のクルマとしてはかなりハイソな雰囲気を漂わせていた

 もうひとつ私が忘れられないのは、初代シーマの直進安定性の低さだ。シーマで鈴鹿サーキットまで往復したが、とにかく真っすぐ走ってくれない。ステアリングのセンター付近が非常に曖昧で、常に修正を続ける必要があり、本当に疲れた。ベースになったY31型セド/グロはそんなことはなく、この直進性の低さは、シーマだけの現象だった。

 サスペンションは基本的にY31セドリック/グロリアと共通だが、当時の記述によれば、「車両全幅の拡大に合わせたトレッド拡大と、バネ定数・ダンパー減衰特性のチューニング、ターボ仕様へのビスカスLSD標準装着などで、走行安定性を一段と向上させている」となっている。このトレッド拡大で、サスペンションジオメトリーが狂ったのだろうか? 当時、誰も文句を言う人はいなかったが……。

 255馬力エンジンを積むグレードには、「ソフト/ミディアム/ハードに切り替え可能な電子制御エアサスペンションを搭載し、高級車にふさわしいしなやかな乗り心地を実現した」ともされていたが、基本的にサスペンションはかなりブワンブワンだったので、それが悪影響を及ぼした可能性もある。

 この直後に日産は、「90年までに世界一のクルマを作る」という901運動が実現しはじめ、89年に発売された新型スカイライン(R32型)は、4輪マルチリンクサスペンションを採用。その効果は絶大で、操縦性も直進性も劇的に向上したが、初代シーマは、高速道路で真っすぐ走るのも難しいクルマだった。

 もちろん、そんなのは今となってはどうでもいいことだ。初代シーマはそれまでの国産車の常識をブッ壊した傑作であり、欠点も含め、歴史的な名車と言えるだろう。

[gallink]

こんな記事も読まれています

リカルド予選18番手「感触は良くなったが、タイムが向上しない。新パーツへの理解を深める必要がある」/F1第10戦
リカルド予選18番手「感触は良くなったが、タイムが向上しない。新パーツへの理解を深める必要がある」/F1第10戦
AUTOSPORT web
【正式結果】2024スーパーフォーミュラ第3戦SUGO 決勝
【正式結果】2024スーパーフォーミュラ第3戦SUGO 決勝
AUTOSPORT web
940万円のホンダ「プレリュード」出現!? 5速MT搭載の「スペシャリティモデル」がスゴい! 23年落ちなのになぜ「新車価格」超えた? “極上車”が米で高額落札
940万円のホンダ「プレリュード」出現!? 5速MT搭載の「スペシャリティモデル」がスゴい! 23年落ちなのになぜ「新車価格」超えた? “極上車”が米で高額落札
くるまのニュース
HKSファンなら愛車にペタリ…HKSがロゴステッカー4種類を発売
HKSファンなら愛車にペタリ…HKSがロゴステッカー4種類を発売
レスポンス
乗用車じゃ当たり前の技術ハイブリッド! 大型トラックはいまだ「プロフィア」だけなのはナゼ?
乗用車じゃ当たり前の技術ハイブリッド! 大型トラックはいまだ「プロフィア」だけなのはナゼ?
WEB CARTOP
江戸は「坂」の多い町 物資を運ぶ苦労は並大抵ではなかった!
江戸は「坂」の多い町 物資を運ぶ苦労は並大抵ではなかった!
Merkmal
雨の第3戦SUGOは安全面を考慮し赤旗終了。近藤真彦会長「最後までレースができなかったことをお詫びします」
雨の第3戦SUGOは安全面を考慮し赤旗終了。近藤真彦会長「最後までレースができなかったことをお詫びします」
AUTOSPORT web
高速道路上に「なかったはずのトンネル」が出現!? 風景がめちゃくちゃ変わる大工事 これからスゴイことに!?
高速道路上に「なかったはずのトンネル」が出現!? 風景がめちゃくちゃ変わる大工事 これからスゴイことに!?
乗りものニュース
トヨタが手がけたホンキのアソビグルマ──新型クラウン・クロスオーバーRS“ランドスケープ”試乗記
トヨタが手がけたホンキのアソビグルマ──新型クラウン・クロスオーバーRS“ランドスケープ”試乗記
GQ JAPAN
野尻智紀&岩佐歩夢のコンビでSF王座争いリードするTEAM MUGEN。しかし現状には満足せず「安定感が足らない」
野尻智紀&岩佐歩夢のコンビでSF王座争いリードするTEAM MUGEN。しかし現状には満足せず「安定感が足らない」
motorsport.com 日本版
ハミルトンが予選3番手、PPと0.3秒差「実際にはそれほど差はないはず。優勝争いに加わりたい」メルセデス/F1第10戦
ハミルトンが予選3番手、PPと0.3秒差「実際にはそれほど差はないはず。優勝争いに加わりたい」メルセデス/F1第10戦
AUTOSPORT web
アルピーヌF1、カルロス・サインツJr.争奪戦に名乗り! 新加入ブリアトーレが早速動いた!?
アルピーヌF1、カルロス・サインツJr.争奪戦に名乗り! 新加入ブリアトーレが早速動いた!?
motorsport.com 日本版
「5ナンバー車」かと思ったら「7ナンバー」だったのですが… 分類番号700番台はレア? どんな車につくのか
「5ナンバー車」かと思ったら「7ナンバー」だったのですが… 分類番号700番台はレア? どんな車につくのか
乗りものニュース
F1分析|ラッセルに抑えられなければ勝機はあった……悔やむノリス。F1スペインGPの上位ふたりのレースペースを検証する
F1分析|ラッセルに抑えられなければ勝機はあった……悔やむノリス。F1スペインGPの上位ふたりのレースペースを検証する
motorsport.com 日本版
「あなたはやってる?」 乗車前の「推奨行為」ってナニ? 教習所で教わるもやってる人は少ない安全確認とは
「あなたはやってる?」 乗車前の「推奨行為」ってナニ? 教習所で教わるもやってる人は少ない安全確認とは
くるまのニュース
「英国最大のバイクブランド」がスイスの高級時計メーカーと再コラボ! 世界270台限定!! 「特別なスポーツバイク」は何が魅力?
「英国最大のバイクブランド」がスイスの高級時計メーカーと再コラボ! 世界270台限定!! 「特別なスポーツバイク」は何が魅力?
VAGUE
[サウンド制御術・実践講座]タイムアライメントでは正確な距離測定と音量バランス設定が成功の鍵!
[サウンド制御術・実践講座]タイムアライメントでは正確な距離測定と音量バランス設定が成功の鍵!
レスポンス
ハースVSマゼピン後援ウラルカリ、20億円規模のF1スポンサー契約めぐる法廷闘争がついに終了……? どちらも勝訴を主張
ハースVSマゼピン後援ウラルカリ、20億円規模のF1スポンサー契約めぐる法廷闘争がついに終了……? どちらも勝訴を主張
motorsport.com 日本版

みんなのコメント

76件
  • 当時を知らない若造バイト記者、もしくは物忘れと思い込み激しい老害記者がテキトーに書いているシーマ記事が溢れているなかで、事実や往時の状況が比較的正しく書かれている。

    しかし、「オラオラ車で、今で言うとアルファード」というのは余りに短絡的、かつミスリードだと思う。

    当時のシーマ、いま販売ランキングで上位が定席になっているアルファードとは比べものにならないほど、良くも悪くも敷居は高かったし、全国津々浦々でファミリーカーとして通勤・買い物・帰省や家族旅行に使われてるようなモデルではなかったですよ。
    基本的には、相当金満なバブル紳士専用、もしくは相当成功している開業医クラスくらいがオーナーで、若者や庶民が新車購入して乗っているなんて、絶対有り得なかった。

    そういう意味では伊藤かずえさん、当時20代の女性でコレのオーナードライバーだったこと自体が、例外中の例外的。
    シーマ乗り始めたこと自体、何かワケありかとw
  • シーマは全車アライメントがおかしいような書き方は
    名誉棄損になると思う

    筆者さんが乗った個体が
    事故車だったのでは?
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

630.0787.5万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

16.1550.0万円

中古車を検索
シーマの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

630.0787.5万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

16.1550.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村