■「レガシィ・アウトバック」の誕生30周年を記念したモデル発売
スバルのフラッグシップであり、SUVシリーズの長男坊である「レガシィ・アウトバック」の誕生30周年を記念した特別仕様車「Black Selection」に続く第2弾「30th Anniversary」が公開されました。
光物を抑えたブラック加飾のエクステリア、アイボリー×ブラックのナッパレザーを用いたインテリア、そしてSTIチューニングのダンパー採用のフットワークなど、特別仕様車にしてはかなり手の込んだ専用装備が特徴となっています。
ただ、その一方で日本向けレガシィ・アウトバックを2025年3月末までの受注を持って終了する予定であると発表。
つまり、1989年から続くレガシィブランドの終焉と言うわけです。
【画像】カッコいい! これが「最後のレガシィ」です! 画像を見る
と言っても、今回の発表は日本向けの話でメインマーケットの北米は継続、次世代モデル(8代目)も鋭意開発中だと言います。
スバルのビックネームの終焉に色々な意見があるかもしれませんが、今回はそんなレガシィの歴史を振り返ってみたいと思います。
排ガス規制を乗り越えた日本車は1980年代に大きく成長を遂げていきますが、スバルだけはそのブームに全く乗れずにいました。
いや、それどころか他社による買収や倒産の危機まで報道されるほど厳しい局面に立たされていました。
当時のスバルの主力モデルは「レオーネ」でしたが、シャシの基本設計は「スバル1000」の時代からほとんど変わっておらず、4WDシステムを持っても悪路走破性以外はライバルに対して全く歯が立たず。
当時の関係者に話を聞くと、「シャシに余裕が無いので、水平対向エンジンの出力アップをしたくてもできない状態だった」と聞きます。
かつては「スバル360」やスバル1000のような“技術”で自慢できるモデルがあったスバルですが、レオーネはと言うと、当時の関係者は「今思うと、言葉は悪いですが何となく作っていたような気がします。『問題なく動くよね』、『雪道で使えればOKでしょ』と言った感じで、明確な目標は無かったと思います」と。
経営陣も「このままでは技術のスバルとは言えない」と言う危機感が高まり、「クルマで勝負する」、「本気でいいクルマを作りたい」という想いが強まったそうです。
それは会社全体に一気に広まり、「クルマで勝負」、「本気でいいクルマを造る」と言う流れになったそうです。
そんな経緯で開発されたモデルが、レオーネに代わる新モデル、開発コード「44B」と呼ばれた初代の「レガシィ」でした。
開発コンセプトは単純明快で「日本一で一番いいセダン/ワゴンを作る」で、その実現のために全てをイチから開発が行なわれました。
プラットフォームはスバル1000以来となる新設計、サスペンションも4輪ストラット式が奢られました。
エンジンも同じ水平対向ですが、完全新設計のEJ型を開発。トップモデル「RS」に搭載の2Lターボは220psと一気にクラストップレベルに。
■レガシィ開発がスバルにもたらしたものとは
変わったのはメカニズムだけでなく開発手法もです。
これまでの「縦割り&技術主導」から「プロジェクトチーム制」に変更され、関わるエンジニア全てが同じ志、同じ目標に向かって“ワンチーム”で開発が進められました。
そして、走りの味付けは1人の実験担当者に委ねられました。その担当者とは辰己英治氏です。
氏はベンチマークとしてメルセデス・ベンツ「190E」を徹底的に解析。更にプライベートで参戦していたダートトライアルでの経験を活かし、舗装路でも通用する「曲がる4WD」を作り上げました。
このようにして生まれた初代レガシィの走りは高く評価、スバルのイメージは「積雪地域で乗るクルマ」から「走りにこだわりのあるメーカー」と大きく変わりました。
その後、1993年に2代目、1998年に3代目、2003年に4代目、2008年に5代目と進化。
ただし、2014年に登場の6代目はツーリングワゴンがモデル落ち、7代目の日本向けはセダンがモデル落ちしアウトバックのみの設定に。ただ、スバルのフラッグシップとしてのポジションは変わりませんでした。
そんなレガシィシリーズの歴史を紐解いていくと、「グランドツーリング(GT)性能」の進化である事が解ります。では、スバルの考えるGT性能とは何なのでしょうか。
その解釈は人それぞれですが、筆者は「より速く」、「より遠くに」、「より安全に」、「より快適的に」、そして「より愉しく」だと考えています。
要するに一つの性能に特化せず、“総合性能”が大事だと。その実現のために歴代モデルは、その時代におけるスバルが持つ最先端の技術が惜しげもなく投入されてきました。
水平対向エンジンの進化はパフォーマンスと燃費/環境性能の両立だろう。
EJ型の弛まぬ改良はもちろん、FA/FB型、更にはCB型への刷新により大きくステップアップ。これまで「水平対向は燃費が悪い」と言われ続けてきましたが、現在はライバルに勝るとはいきませんが、それに近い燃費性能を実現しています。
シャシの進化は「走り」と「快適性」、そして「安全」のバランスを高いレベルに引き上げられてきました。
そのためにプラットフォームや車体の進化、サスペンションの改良(4輪ストラット→リア:マルチリンク→リア:ダブルウィッシュボーン)、ビルシュタイン製ダンパー(2~5代目)、クレードルマウント(5~6代目)、フルインナーフレーム構造(7代目)など様々な手法・手段が用いられてきました。
また、現在では当たり前となった先進安全支援システムは1999年にADA(アクティブ・ドライビング・アシスト)の名で3代目がベースのレガシィ・アウトバックに初搭載。
その後SIクルーズやアイサイト(バージョンI)を経て、2010年に5代目(B型)に搭載されたアイサイト・バージョンIIで一気に花開くことになります。
技術や信頼性、ノウハウの蓄積、戦略的な価格設定などは、長年に渡る地道な開発の賜物です。
また、スバル車ではおなじみとなっている「年次改良」や「ビックマイナーチェンジ」は、実はレガシィから生まれた取り組みの一つです。
■さよならレガシィ…。最後には粋な計らいも!
日本で生まれたレガシィは世界へと広がり、5代目以降はメインマーケットである北米の意向を盛り込んだ商品企画へシフトしてきました。
中には「レガシィは日本を捨てた」、「我々が求めるレガシィ」と言った厳しい意見もありましたが、ビジネスの面ではこれにより業績は右肩上がり、スバル好調の礎を築いた功労者であることは間違いありません。
ただ、スバルは日本を見捨てたわけではありません。1車種だけでは全ての仕向け地のユーザーを満足させられない、と言う判断で日本向けの新ブランドとして開発されたのが2014年に登場した「レヴォーグ」です。車名の意味は「レガシィ・レヴォリューション・ツーリング」。
4代目レガシィ並みの扱いやすいボディサイズ、2種類のターボエンジン、WRXと共用したフットワーク系、進化したアイサイトの採用などにより、歴代レガシィが目指した「GT性能」が色濃く継承。
商品キーワードの「25年目のフルモデルチェンジ」からも解るように、「日本人のためのレガシィ」でした。
2020年には2代目が登場。その進化の内容を見ると、エンジン/シャシ、安全支援システムも含め全方位で刷新されました。
更に2023年に都市型クロスオーバーSUVとなる「レヴォーグ・レイバック」も追加されています。
これにより日本ではレガシィ→レヴォーグの世代交代が完了と判断、日本市場におけるレガシィの役目に一区切りがついたのです。
普通のクルマならば「生産終了でおしまい」ですが、スバルは長きに渡り日本市場を支えてきたレガシィに敬意を称してファイナルモデルを設定。つまり、幕を閉じるための“花道”が用意されたのです。
ちなみに30th Anniversaryの専用カタログの表紙は2代目レガシィのオマージュとなっています。
更にメディア用に配られた公式写真の背景も同様です。古いカタログを持っている人は、是非見比べてください。
残念ながらレガシィの名は日本から無くなってしまいますが、そのDNAはレヴォーグに色濃く継承。つまり、レガシィの歴史は形を変えながらまだまだ続きます。
筆者は左脳では「スモールプレイヤーであるスバルの選択と集中の判断としては間違いない」と思う一方、右脳では「レヴォーグでは物足りないレガシィ独自のファンがいるのに」と思う部分も。
とは言え、まずはレガシィとしては36年、アウトバックとしては30年、本当にお疲れさまでした、そしてありがとう。
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だんだんとずんぐりむっくりとなって不細工になってしまった。