大きな車ばかりの今だからこそ「小さな車」に注目したい
2019年11月20日発売のカーセンサー2020年1月号では、「ぶつけそう、擦りそう…という不安にサヨナラ 小さくすれば8割解決!」と題した特集を展開している。
現行型ゴルフは「デカい」のか?その答えはさておき、中古車だから楽しめる「小さなゴルフ」のすすめ
近年、車のサイズがどんどん大きくなっているという事実を背景に、主に運転がさほど得意ではない人々に向けて「でも“小さめな車”を選べば、いつもの道も広く感じられるし、運転が気楽になりますよね?」という旨を提案している特集だ。
そしてそれは、今回のカーセンサー本誌特集が主な対象とした「運転が得意ではない人」だけでなく、「どちらかと言えば運転が得意な人=車好き」に対しても刺さる話なのではないかと考えている。
受動安全性など様々な理由があるため仕方のない話ではあるのだが、ひたすら大ぶりなサイズになってきた最近の車。それに対して「大きくて重くて、なんかつまんないよね」などの文句をつけることも多い、いわゆる車好き。
かく言う筆者もそのひとりなのだが、しかし、その寸法がまだ比較的小ぶりだった頃の車=中古車に目を向けてみれば、車好き各位が現在抱いている不満の、それこそ8割は「解決!」となる可能性も大いにあるはずなのだ。
例えばの話、もしも今、コンディション良好な「プジョー 205」または「ルノー 5(サンク)」あたりを手頃な値段で入手できるのであれば、少なくとも筆者個人の不満の8割ほどは確実に解消されるだろう。
小ぶりで軽量だからこそ感じられた、ある種の魅力
プジョー 205とルノー 5については筆者以上にお詳しい人も多いかと思うが、まあいちおうごく簡単な車種説明を最初にさせていただきたい。
プジョー 205は、1983年から1998年まで製造販売されたフランス産のFF小型ハッチバック。本国では5ドアのディーゼル仕様を含む様々なグレードが存在していたが、日本でも最もメジャーだったのは人気ホットハッチとして名を馳せた「GTI」の後期モノ、1989年以降の1.9Lエンジンを搭載した世代だろう。
その他、GTIのカブリオレ版である「CTI」も、1990年頃のプチお金持ちな女子大学生やOLさんなどを中心に人気を博したものだ。 一方のルノー 5は同じくフランス産のFF小型ハッチバックだが、こちらはプジョーではなくルノー製。その第1世代は1972年から1985年まで製造販売され、1985年に第2世代へとフルモデルチェンジ。第2世代は1985年から1990年まで販売され、初代と区別する意味で「シュペールサンク(英語で言うスーパーサンク)」と呼ばれた。
今回取り上げるのはこちら、2代目であるシュペールサンクの方だ。 そして両者とも本当に本当に、素晴らしい素晴らしい小型車だった(※大事なことなので、それぞれ2回言いました)。
ボディサイズは両モデルともおおむね似たようなもので、それぞれの寸法は下記のとおり。参考のため、現在販売されているホンダ フィットの数値も参考にしていただきたい。 これはどちらが良いとか悪いとかの問題ではなく「そもそも時代が違う」ということであり、むしろ「受動安全性とかは断然優れているから、一般的にはフィットの方が好ましい」という話でもある。
だがそれはそれとして、この時代の欧州コンパクトカーは圧倒的に小ぶりかつ軽量で、小ぶりで軽量だからこそ感じられたある種の魅力があったのですよ――!ということだ。
メカ的にはしょぼいのに、なぜそんなによく走るのよ?
それはどんなニュアンスの魅力であったのか?以下、若干の「俺語り」になってしまうが、どうかご容赦願いたい。
筆者が個人的に乗っていたのはプジョー 205ではなくルノー 5の方だ。87年式のバカラ(5MT)というグレードで、レザー内装が投入された(5としては)なかなかの豪華グレードである。
だがエンジンや足回りの作りはしょぼいというか、ごくごく普通だった。エンジンはキャブレター仕様の1.7Lで、カタログ上の最高出力はぜんぜん大したことなし。サスペンションもごく普通で、前輪がストラット、後輪がトーレリングアーム+トーションバーという、当時としてはきわめてありがちなもの。ハイテクのハの字もなかった。
だが、すこぶるよく走る。高速道路での直進性は(小さいくせに)矢のごとし。
その上、山道を下りていくとようなところではホットハッチやスポーティカー並みのペースでスイスイと、鼻歌まじりで疾走することができた。
プジョー 205に関してもおおむね似たようなものだ。こちらはあいにく所有した経験はないが、初めて運転したのは人気のGTIではなく「XS AUTO」という、しょぼい1.6L SOHCエンジンを搭載した地味なAT車。
だがそれはきわめて「ホット」だった。当時の一般的な国産ハッチバック車の挙動が「スポーツが苦手な人の身体の動き」に似ているとしたら、プジョー 205 XS AUTOのそれは「プロスポーツ選手の動き」だった。すべてに無駄がなく、ひたすらにタイトなのだ。
その後に試乗する機会を得た最人気の1.9L GTIも、パワーの違いこそあれ、挙動の質はだいたい同じ。つまり素晴らしい。そしてさらに後に試乗した超レア物、1.6Lエンジン搭載の前期GTIはまさに“究極”だった。「乗って楽しい車のすべてが、ここにある!」というのが、通称テンロクGTIの真実である。
それゆえ、筆者は今でもルノー 5またはプジョー 205の中古車を買いたいと思っている。さすがに1.6Lの前期プジョー 205GTIはウルトラ希少なためほぼ無理だが、一般的なグレードであれば(ごく少数ではあるものの)流通はしている。その気がある人は、それら中古車を買ってみるのも吉であるはずだ。 ルノー 5を見てみる▼検索条件ルノー 5(1991年7月~1992年12月生産モデル)×全国プジョー 205を見てみる▼検索条件プジョー 205(1988年5月~1994年12月生産モデル)×全国
だが流通量的にはほぼ絶滅の今、「代替案」が必要かも
だが……さすがにプジョー 205とルノー 5は流通量が少なすぎる。2019年11月下旬現在、カーセンサーnetでの掲載台数はプジョー 205が3台で、シュペールサンクはわずか1台だ(初代サンクやターボ、GTターボも含めれば5台だが)。
さすがにこの台数ではやや厳しいものがあり、また筆者個人としては「もはや中高年であるため、手がかかりそうな旧車は正直ちょっとしんどい……」という気持ちも、率直に言って心のどこかにある。
……もっと何かこう、流通量がそれなりにあって、あんまり手間がかからなくて、それでいて「205っぽさ、またはサンクっぽさが堪能できる車」はないものだろうか?
そう考えたとき、人は一般的に「割と最近世代のヨーロピアンコンパクト」に注目するのだろう。プジョー 208とか近年のルノー ルーテシアとか、あるいはフィアット 500とか。
それらはそれらでもちろんステキなのだが、「小さくてシンプルな作りの何かが欲しい!」と考える際には「……ちょっと違うかな?」という気がしなくもない。
だが筆者は最近、ひとつの有力候補を見つけた。
それはフランス車でもイタリア車でもなんでもない、静岡県浜松市に本社を置く会社が2014年まで作っていたコンパクトカーだ。
スズキ スプラッシュである。 今、軽くずっこけた欧州車党がいらっしゃるかもしれないが、どうかずっこけないでほしい。
スズキ スプラッシュは素晴らしいコンパクトカーであり、細部においてはプジョー 205やルノー 5などと大きく違うかもしれないが、「派手なメカは特に使ってないのに、もっのすごくよく走る!」という本質においてはほとんど同じだからだ。
スプラッシュは「世界で通用するグローバルコンパクト」を目指した車で、その開発はスズキとオペル(GM)が共同で行った。オペル側のスズキに対する要求性能基準は、ひたすら厳しいものだったらしい。
ハンガリーのマジャールスズキで生産されたスプラッシュは、まずは2008年3月に欧州で発売。その後、同年10月からは日本でも「逆輸入車」として販売された。
日本やヨーロッパの各地で繰り返し走行テストが行われたというその走りは、まさに「欧州コンパクトそのもの」といったニュアンス。日本の都市部での常用速度域である30~40km/hあたりではけっこう硬く感じられるが、50km/hを超えた付近からは路面に吸い付いたかのような感触に変わる。
「低速域で硬い」というのはプジョー 205やルノー 5とはちょっと違う部分だが、「高速域ではやたら凄い」という部分については「ほぼそのまんま」と言えるだろう。 そんなスズキ スプラッシュは、国産コンパクトを好んで買うお茶の間層にとっては本格的すぎたのか、さっぱり売れずに2014年8月には販売終了。そしてそのまま廃番となってしまった。
だがそんなことは、中古車党であり、小さくてシンプルな本格派を好む筆者にとってはどうでもいいことだ。
正直、デザインの艶っぽさに関してはプジョー 205やルノー 5と比べるのもアレかと思うが、その走りと気概は超一級品であるスズキ スプラッシュ。筆者個人は、真剣な「購入検討対象」のひとつとして考えている。
……貴殿におかれてはどうだろうか? スズキ スプラッシュを見てみる▼検索条件スズキ スプラッシュ(2008年10月~2014年8月生産モデル)×全国文/伊達軍曹、写真/プジョー・シトロエン、ルノー、スズキ
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