ベルリネッタと共通点がほぼないGTSのボディ
フェラーリ275 GTBを相応のペースで走らせるには、275 GTB/4以上の労力は必要ながら、特別なアルミ製ボディは音響が良い。クラッチペダルは、1960年代の高性能モデルとしては重すぎない。後方へリンクが伸びるシフトレバーは、動きが渋い。
【画像】エンジン界のベスト「ボーカリスト」 275 GTB/GTS デイトナとモダンFRフェラーリも 全129枚
この個体の車重は、通常の275 GTBより117kgも軽く、今回の3台では身のこなしが1番機敏。ドーナツのように膨らんだミシュランXWXタイヤが、優しい乗り心地を生み出す。ダンパーは最近新調されたらしく、高速域での姿勢制御にも締まりがある。
カーブへ突っ込むとアンダーステア傾向だが、パワーを掛けていくとリアタイヤが押し出し、ニュートラルに転じる。ブレーキは強力に効き、漸進的。ペダルを深く踏み込む必要があるとはいえ。
対して、1964年のパリ・モーターショーで発表されたスパイダー、275 GTSの印象はだいぶ異なる。250 GTカリフォルニアの後継モデルに当たるが、そもそもクーペのベルリネッタとボディ上の共通点はほぼない。
デザインを担当したのは、ピニンファリーナ社。だが、GTBのボディはカロッツエリアのスカリエッティ社が製造を請け負ったのに対し、GTSはピニンファリーナ自ら提供している。
ムッチリとしたGTBの隣に停めたGTSは、スリムな妖精のよう。ヘッドライトにカバーはなく、フロントガラスは傾斜が少なく、ウエストラインは細身だ。
基本的な運動神経は275 GTBと遜色なし
275 GTSのパワートレインは、ベルリネッタのGTBと共通。ただし、オープンドライブに合わせて、シングルカムのV型12気筒は263psへ馬力が落とされている。
1965年にフェイスリフトを受け、このレッドの1台のように、330GT 2+2へ似たフロントサイドのエアベントを得た。ソフトトップは、トノカバーの下へ綺麗に畳まれる。
嬉しいことに、今日のグレートブリテン島は晴天。ドルチェ・ヴィータよろしく、オープンドライブを楽しめる。
主要な操作系の配置はGTBと共通するが、ダッシュボードのデザインが僅かに異なる。スイッチなどが、ドライバーの正面側へ移動している。
今回の275 GTSのマフラーには、充分なタイコが備わらないらしい。クルージングしていても、V12エンジンの心地良いサウンドがドライバーを魅惑的に包み込む。
足まわりはソフトで、カーブではボディが外側へ傾く。加減速時は、フロントノーズが上下する。それでも、275 GTBと比べれば、という程度。基本的な運動神経に、大きな違いはないようだ。
乗り心地はしなやかで、路面の凹凸による粗野な振動は最小限。1960年代のイタリアン・コンバーチブルとしては、優秀といえる。
デイトナの実証実験 最高出力は304ps
他方、275 GTBから2年後、1966年に発表されたのが後期の275 GTB/4だ。1968年に365 GTB/4、通称「デイトナ」へ交代するまで、ハイエンドなフェラーリ・ロードカーとしての役目を果たした。
ボディは275 GTBとほぼ同じ。ボンネット中央が一段高くなっているのが、唯一の識別点といえる。だが、その内側へ施されたアップデートは大々的なものだった。
既に計画が決まっていた、デイトナの実証実験的な意味が込められていたことは間違いないだろう。最大の違いはエンジン。バンク毎にカムが1本追加され、ユニットのコード番号は226へ改められている。バルブの角度が変更され、急排気効率も改善した。
潤滑はドライサンプ化され、クランクケースはコンパクトに。約8Lのリザーバータンクから、2基のポンプがオイルを供給する。キャブレターは、275 GTBではオプションだった、6連ウェーバーが標準へ格上げされた。
その結果、最高出力は20ps増しの304psを獲得。最大トルクは、25.9kg-mから29.9kg-mへ強化された。ランボルギーニが、スイス・ジュネーブ・モーターショーで350psのミウラを発表しており、パワーアップは必至でもあった。
駆動系も強化され、プロペラシャフトには直径75mmのトルクチューブが追加された。エンジンとトランスアクスルが強固に結ばれ、シャシーへゴムマウントで固定。操縦性を改めている。
ご登場願ったシルバーの275 GTB/4は、GTBからの進化を実感させる。この車両は1967年に製造され、英国で1969年にナンバーを取得。残りの2台と同様に、新車時から1つの家族が所有している。
光が当てられるべき技術的ブレークスルー
オプションの、ボラーニ社製ワイヤーホイールが美しい。レザーシートの座面は高めだが、シートベルト以外、キャビンの様子には275 GTBと大きな違いはない。それでも、V12エンジンは扱いやすい。パワーを絞り出すほど、違いは明確になっていく。
低い回転域から、確実にパワフルでリニア。サウンドは、スチール製ボディのためか、やや抑えめ。エンジンとトランスアクスルが一体になったことで、シフトチェンジは滑らか。スロットルの反応は、今日の3台では1番鮮明だ。
ダンパーとスプリングは劣化気味で、交換を控えているとか。路面の荒れたカーブでは、安定性が若干乱れるものの、275 GTBより落ち着きも高い。丸みを帯びた挙動で、動的能力の限界がどの辺りなのか探りたくなってしまう。
オーナーの好みによるポジティブ・キャンバーも、走りの特長に影響しているはず。保存状態は極めて素晴らしく、操る自信を強く与える。オーナーが飛ばす275 GTSの後ろを追走し、これが人生最高のドライブの1つだな、と考えた。
歴代のフェラーリでは短い、4年というモデルライフに終わった275シリーズ。その前後のモデルは更に魅力的だったかもしれないが、技術的なブレークスルーとして、もっと光が当てられるべき存在だと思う。
運転しやすいだけでなく、スタイリングだって決して悪くない。しかも275 GTB/4は、ピニンファリーナ社のレオナルド・フィオラヴァンティ氏のスタイリングをまとう、デイトナの布石となったのだから。
協力:ウィル・ストーン氏
フェラーリ275シリーズ 3台のスペック
フェラーリ275 GTB(1964~1966年/欧州仕様)
英国価格:5973ポンド(新車時)/250万ポンド(約4億8000万円/現在)以下
生産数:450台
全長:4325mm
全幅:1725mm
全高:1245mm
最高速度:257km/h
0-97km/h加速:6.6秒
燃費:−km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1100kg
パワートレイン:V型12気筒3286cc 自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:284ps/7600rpm
最大トルク:25.9kg-m/5500rpm
ギアボックス:5速マニュアル(後輪駆動)
フェラーリ275 GTS (1964~1966年/欧州仕様)
英国価格:5973ポンド(1965年)/150万ポンド(約2億8800万円/現在)以下
生産数:200台
最高速度:241km/h
0-97km/h加速:7.1秒
車両重量:1120kg
最高出力:263ps/7000rpm
最大トルク:−kg-m
※275 GTBとの相違点のみ
フェラーリ275 GTB/4 (1966~1968年/欧州仕様)
英国価格:6515ポンド(1967年)/300万ポンド(約5億7600万円/現在)以下
生産数:330台
最高速度:267km/h
0-97km/h加速:6.1秒
パワートレイン:V型12気筒3286cc 自然吸気DOHC
最高出力:304ps/8000rpm
最大トルク:29.9kg-m/6000rpm
※275 GTBとの相違点のみ
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